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第13章 受け継ぐもの
第140話 神への反抗2
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「聞いたわよ。あのマイヤドベガが教国を蹂躙してるんだって」
「そうなんだよ。人の多い都市を狙って破壊の限りを尽くしてるんだ。こちらも早く手を打たないと」
「ヒアリス様と大将軍も来ているわ。そこで話をしましょう」
ウィッチアに案内されて入った部屋は、大将軍の他に副将軍が二人、巫女様とお付きの巫女が二人いる小さな部屋。部屋の外に護衛はいたけど、人払いされているのか室内に護衛の姿はない。
今回リビティナは魔王としての豪華な服でなく、賢者の格好で仮面を付けず素顔のままである。部屋に入って来たリビティナに大将軍達が目を見張る。
「魔王殿なのか……」
「すまないね。ボクはいつも賢者のリビティナとして過ごしていてね。今後はざっくばらんに話をさせてもらうよ」
そう前置きして、用意された右に大将軍、左に巫女様を見る中央の席に着く。
大将軍も魔国の賢者の事は知っているようだけど、魔王と同一人物であることは伝えていない。目の前に座る宮廷側の三人は無言のまま落ち着き払っているのを見、釈然としない思いもあるのだろうけど緊急時だからね、何も言わず流すことにしたようだ。
リビティナはいつもの話しやすい言葉で、現在の状況を掻い摘んで説明し軍の派遣を依頼する。
「余の軍勢全てを王国に送れだと」
「治安に必要な最低限は残しておいても構わないけど、それぐらいしないと勝てないからね」
「宮廷からも、全ての宮廷魔導士を出さねばならぬという事でしょうか」
巫女様のお付きの先輩巫女も疑問を投げかける。
「君達はマイヤドベガの兵器を目にしていないから分からないだろうけど、あれに対抗するには大陸中の宮廷魔導士が必要なんだよ」
「ワタシは実際の戦闘を見たから分かるわ。あの破壊力と防御力はこの世のものではないわよ」
ウィッチアが、空の神との戦いの様子を語る。
「私が神託を受けた空の女神様は、地上に居るその男の神様に敗れたのですね」
「今、この世界中で最強の人物は、そのマイヤドベガだ。しかも狂っている。この世界の全てを壊滅させようとしているからね」
生きとし生けるものを消し去ると言っている男だ。狂っているとしか思えないよ。皆が考え込む中、巫女様がきっぱりとした口調で決断を下す。
「ならば、四人全ての宮廷魔導士を王国に派遣いたしましょう」
「巫女様! そうなればこの国を守るどころか、この宮廷を守る事すら叶いませんぞ」
「大将軍。アルメイヤ王国が敗れれば、次はキノノサト国です。あの王国の戦力に打ち勝った者を相手に戦えますか」
国ではなく大陸全土における戦力の逐次投入、それは愚策ではないかとヒアリスが大将軍に問う。軍事の専門家である大将軍が言葉に詰まった。
「大将軍様。我らの軍事力の全てを王国に派遣いたしましょう」
「総力戦を行なえるのは一度限り。それに賭ける他ありますまい」
二人の副将軍が進言する。
「魔王殿。地上の神が王国ではなく、先にこのキノノサト国に攻め入る事があるのではないのか」
「奴は自分の戦闘力に自信を持っているからね。兵力が集中し人が集まっているのならば、そちらを攻撃するさ」
あの男の教国での無双ぶりを聞いていた大将軍はリビティナの言葉を吟味し、提案通り全兵力を王国に送る事を決定した。その輸送には魔国の爆撃機を使う。
「あらかた教国の住民を殺害したら、王国へと向かって来るからね。それほど時間はないよ」
主戦力となる宮廷魔道士を含む部隊編成を急ぎ、編成が済み次第順次王国に送り込むことになった。
「巫女様。協力に感謝するよ」
「いいえ、私にできる事はこれぐらいですから。魔王殿のご武運をお祈りしています」
巫女様は宮廷に残り人心を落ち着かせることに専念する。大将軍と副将軍は準備でき次第王国に向かい、戦場に立つそうだ。
リビティナも里に帰り、できる限りの準備を行なった。
◇
◇
「お初にお目にかかる、大将軍殿。参戦かたじけない」
「国王よ。此度の戦、大陸中に関する事ゆえ、負ける訳にはゆかぬぞ」
リビティナを交えて、三国の王が一堂に会した。
「今回は戦闘経験豊かな魔王殿に、全軍の指揮を執ってもらおうと思っておる」
国王が大将軍に提案する。
「神を知る魔王殿であれば、余も賛成ではあるが連携はできぬであろうな」
「それは分かっているよ。中央が魔国軍、右翼に王国軍、左翼にキノノサト軍を配置して独自に攻撃してもらう」
作戦の開始合図などはリビティナがするけど、現地の戦闘指揮はそれぞれの国で行なってもらう事になる。
「肝心なのが宮廷魔導士の連携なんだ。一人二人の力で倒せる奴じゃないからね」
各部隊には、通信機器を渡して連絡を取る事になる。でもこの通信機はマイヤドベガが作った物だ。盗聴されるのが前提となる。重要な通信は暗号によって伝える事になっている。
「敵の移動速度は速く、空も飛ぶ。長距離からの攻撃と防御が重要だよ」
それと攻撃の際は、多方向からの同時攻撃をするように注意しておく。
「このお城に魔国のミサイルを持ってきている。その攻撃に合わせて各部隊から攻撃してくれると助かるよ」
連携はできずとも、戦場の様子から各国で判断する形になる。戦況がどう動くか分からないからね、臨機応変に対処するしかないだろう。
「人が生身で立ち向かえば、確実に殺されるよ。基本、土豪内に籠もって防御しつつ魔法攻撃をしてくれるかい」
腰の周りにある対人用レーザーで狙われたら、逃れようがないからね。教皇や集まった信者達もそれで殺されている。
「教国の事は聞き及んでおる。魔法の防御壁は三枚で防げるか」
「五枚は欲しいところだね。敵の砲門は強力だからね。でも二門しかないから、そこが狙い目になるよ」
攻撃の手数としては少ない。レーザーやビームを横に流すように撃ってくる場合もあるけど、それなら防御壁が少なくても防ぐことができる。反対に集中されれば五枚でも防御は難しい。重い鎧は全く無意味だと付け加えた。
「金属の板に乗り空高くを飛んだり、地面から飛び上がったりもする。その時はこちらのミサイルで撃ち落とすつもりさ。地上に落ちれば、総攻撃を仕掛けてほしい」
「何とも面妖な敵じゃな」
「そうですな。まるでドラゴンとでも戦うような感じですな」
大将軍と国王はリビティナの話を聞いて思案する。通常の戦い方では全く歯が立たない事を理解してくれたようだね。
でもこれで戦いの方針は決まった。後はあの男を迎え撃つだけだ。
「そうなんだよ。人の多い都市を狙って破壊の限りを尽くしてるんだ。こちらも早く手を打たないと」
「ヒアリス様と大将軍も来ているわ。そこで話をしましょう」
ウィッチアに案内されて入った部屋は、大将軍の他に副将軍が二人、巫女様とお付きの巫女が二人いる小さな部屋。部屋の外に護衛はいたけど、人払いされているのか室内に護衛の姿はない。
今回リビティナは魔王としての豪華な服でなく、賢者の格好で仮面を付けず素顔のままである。部屋に入って来たリビティナに大将軍達が目を見張る。
「魔王殿なのか……」
「すまないね。ボクはいつも賢者のリビティナとして過ごしていてね。今後はざっくばらんに話をさせてもらうよ」
そう前置きして、用意された右に大将軍、左に巫女様を見る中央の席に着く。
大将軍も魔国の賢者の事は知っているようだけど、魔王と同一人物であることは伝えていない。目の前に座る宮廷側の三人は無言のまま落ち着き払っているのを見、釈然としない思いもあるのだろうけど緊急時だからね、何も言わず流すことにしたようだ。
リビティナはいつもの話しやすい言葉で、現在の状況を掻い摘んで説明し軍の派遣を依頼する。
「余の軍勢全てを王国に送れだと」
「治安に必要な最低限は残しておいても構わないけど、それぐらいしないと勝てないからね」
「宮廷からも、全ての宮廷魔導士を出さねばならぬという事でしょうか」
巫女様のお付きの先輩巫女も疑問を投げかける。
「君達はマイヤドベガの兵器を目にしていないから分からないだろうけど、あれに対抗するには大陸中の宮廷魔導士が必要なんだよ」
「ワタシは実際の戦闘を見たから分かるわ。あの破壊力と防御力はこの世のものではないわよ」
ウィッチアが、空の神との戦いの様子を語る。
「私が神託を受けた空の女神様は、地上に居るその男の神様に敗れたのですね」
「今、この世界中で最強の人物は、そのマイヤドベガだ。しかも狂っている。この世界の全てを壊滅させようとしているからね」
生きとし生けるものを消し去ると言っている男だ。狂っているとしか思えないよ。皆が考え込む中、巫女様がきっぱりとした口調で決断を下す。
「ならば、四人全ての宮廷魔導士を王国に派遣いたしましょう」
「巫女様! そうなればこの国を守るどころか、この宮廷を守る事すら叶いませんぞ」
「大将軍。アルメイヤ王国が敗れれば、次はキノノサト国です。あの王国の戦力に打ち勝った者を相手に戦えますか」
国ではなく大陸全土における戦力の逐次投入、それは愚策ではないかとヒアリスが大将軍に問う。軍事の専門家である大将軍が言葉に詰まった。
「大将軍様。我らの軍事力の全てを王国に派遣いたしましょう」
「総力戦を行なえるのは一度限り。それに賭ける他ありますまい」
二人の副将軍が進言する。
「魔王殿。地上の神が王国ではなく、先にこのキノノサト国に攻め入る事があるのではないのか」
「奴は自分の戦闘力に自信を持っているからね。兵力が集中し人が集まっているのならば、そちらを攻撃するさ」
あの男の教国での無双ぶりを聞いていた大将軍はリビティナの言葉を吟味し、提案通り全兵力を王国に送る事を決定した。その輸送には魔国の爆撃機を使う。
「あらかた教国の住民を殺害したら、王国へと向かって来るからね。それほど時間はないよ」
主戦力となる宮廷魔道士を含む部隊編成を急ぎ、編成が済み次第順次王国に送り込むことになった。
「巫女様。協力に感謝するよ」
「いいえ、私にできる事はこれぐらいですから。魔王殿のご武運をお祈りしています」
巫女様は宮廷に残り人心を落ち着かせることに専念する。大将軍と副将軍は準備でき次第王国に向かい、戦場に立つそうだ。
リビティナも里に帰り、できる限りの準備を行なった。
◇
◇
「お初にお目にかかる、大将軍殿。参戦かたじけない」
「国王よ。此度の戦、大陸中に関する事ゆえ、負ける訳にはゆかぬぞ」
リビティナを交えて、三国の王が一堂に会した。
「今回は戦闘経験豊かな魔王殿に、全軍の指揮を執ってもらおうと思っておる」
国王が大将軍に提案する。
「神を知る魔王殿であれば、余も賛成ではあるが連携はできぬであろうな」
「それは分かっているよ。中央が魔国軍、右翼に王国軍、左翼にキノノサト軍を配置して独自に攻撃してもらう」
作戦の開始合図などはリビティナがするけど、現地の戦闘指揮はそれぞれの国で行なってもらう事になる。
「肝心なのが宮廷魔導士の連携なんだ。一人二人の力で倒せる奴じゃないからね」
各部隊には、通信機器を渡して連絡を取る事になる。でもこの通信機はマイヤドベガが作った物だ。盗聴されるのが前提となる。重要な通信は暗号によって伝える事になっている。
「敵の移動速度は速く、空も飛ぶ。長距離からの攻撃と防御が重要だよ」
それと攻撃の際は、多方向からの同時攻撃をするように注意しておく。
「このお城に魔国のミサイルを持ってきている。その攻撃に合わせて各部隊から攻撃してくれると助かるよ」
連携はできずとも、戦場の様子から各国で判断する形になる。戦況がどう動くか分からないからね、臨機応変に対処するしかないだろう。
「人が生身で立ち向かえば、確実に殺されるよ。基本、土豪内に籠もって防御しつつ魔法攻撃をしてくれるかい」
腰の周りにある対人用レーザーで狙われたら、逃れようがないからね。教皇や集まった信者達もそれで殺されている。
「教国の事は聞き及んでおる。魔法の防御壁は三枚で防げるか」
「五枚は欲しいところだね。敵の砲門は強力だからね。でも二門しかないから、そこが狙い目になるよ」
攻撃の手数としては少ない。レーザーやビームを横に流すように撃ってくる場合もあるけど、それなら防御壁が少なくても防ぐことができる。反対に集中されれば五枚でも防御は難しい。重い鎧は全く無意味だと付け加えた。
「金属の板に乗り空高くを飛んだり、地面から飛び上がったりもする。その時はこちらのミサイルで撃ち落とすつもりさ。地上に落ちれば、総攻撃を仕掛けてほしい」
「何とも面妖な敵じゃな」
「そうですな。まるでドラゴンとでも戦うような感じですな」
大将軍と国王はリビティナの話を聞いて思案する。通常の戦い方では全く歯が立たない事を理解してくれたようだね。
でもこれで戦いの方針は決まった。後はあの男を迎え撃つだけだ。
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