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 ずっとずっと、昔のこと……。
 世界は魔神王に支配され、一片の光も失われた世の中。
 闇が蔓延はびこり、魔神王に作られた悪しき者達が跋扈ばっこし、人々は怯えながら密かに暮らしていくしかありませんでした。
 そんな時、この世界を変えようと立ち上がった者達がいました。
 彼らは、純白の翼というギルドに所属している者達。
 だが、そのギルドはさほど有名ではないのです。
 しかしそれでも一縷いちるの希望として、人々は縋りました。
 どうか、世界を救ってくれと。
 けれど、魔神王に普通の人間が太刀打ちするなんて到底適わないことだ。
 ……そう、普通の人間ならば。
 純白の翼というギルドにはたった一人、黙示録という神器が扱える少年がいた。
 天使様と呼ばれた少年が持つ神器の力は凄まじく、一瞬にして悪しき者達を浄化してしまうほどであった。
 彼らはその少年と共に、世界を平和に導く旅に出た。
 度々困難に見舞われながらも、遂に魔神王と対峙する。
 世界を平和に導く旅の終点に位置する、世界規模の戦の終わりの刻……黙示録を扱える少年は絶命した。
 それは、仲間を庇ったことによって。
 意識が遠のいていく最中、最期に願ったことは……「どうか、世界が救われますように……」と、そう……こいねがう。
 そうして、世界は宿願を果たし、闇は消え去り、光が戻ったのであった。
 ……そして、その戦いから約千年後の世界で、再び物語が紡がれようとしていた。



 ……夢を見ていたような気がする。
 魔導師ギルドで出会った仲間達と、日々を楽しく過ごしていた時のこと。
 バカ騒ぎして、街の住人に怒られたこと。
 親友と一緒に語り合ったことを……。
 とても懐かしい日々の記憶が脳内に駆け巡り、少年はゆっくり目を開けた。
 視界に映るのは、薄暗い天井。
 体を起き上がらせ窓の外を一瞥するとまだ陽は昇ってなく、部屋の中へ視線を戻すと本や紙束が無造作に置かれていた。
 ……あれ、俺はこんなに散らかしていたか?
 そんな疑問を抱きながら窓へ足を進め、外を眺める。

「……ここは、何処だ」

 窓の先の景色は、少年の知らない光景が広がっていた。
 庭園に、整備された道。
 その奥の方へ視線を移すと、まるで王都ではないかと思われる家々が窺える。
 ……どういうこと、だ。
 少年は戸惑いを隠せなかった。
 思い返しても、自分がこんな整備された地区で寝泊まり出来るほどの身分ではない。
 そんな時、自身の異変にも気が付いた。
 身にまとっている衣服ももので、身長も低くなっていた。
 顔や体をあちらこちらと確かめるかのように触っている時、窓に写った姿を見て絶句した。
 少年は速る心臓を押さえるかのように、今の姿をしっかり確認しようと部屋を飛び出した。

「何かっ、水鏡でもっ!」

 明らかに自分がいた場所とは違う。
 こんな貴族が寝泊まりしているような場所に足を踏み入れることなんて、そう簡単に出来ないというのに。
 一先ず少年は、すぐ隣の扉を開け放つ。

「ここは水場……湯殿か?」

 見たことの無い四角い機械のような物体に、右側の扉の向こう側は湯殿のようだ。
 そして横を向いていた顔を正面へ向けると……。

「…………っ!!」

 鏡に映っていた……今現在の自身の姿に、瞠目する。

「…………誰だ……こいつ」

 映った姿は、目まで届きそうな無造作に乱れた黒い髪の毛に、丸眼鏡から覗く黄金に輝く瞳。
 明らかに見慣れていた姿とは違っていた。
 知らない顔……しかしそれは紛れもなく自分自身であった。
 驚きで頬を両の手で押さえたその姿が、鏡に映っていた。
 その後も様々な動きをするが、どれも同じものが鏡に映る。
 紛れもない、これは自分自身だと、その証明になった。
 だとしても、そう簡単に受け入れることなんて出来ない。
 けれど、受け入れるしかないのだ。
 少年は気持ちを落ち着かせると、最初に目覚めた部屋へ戻り、無造作に置かれていた紙束に手を伸ばした。

「……まさか、目覚めたら全く知らない人の体になっていたとはな……。一先ず情報を集めるしかないか」

 紙束を手に取ると、それを正視する。
 それには数式などの、難解なものが書き綴られていた。
 以前の自分ならば吐き気がしてしまうが、今の自分にはこれがどういう答えを導いているのか理解出来る。

「これは、魔力操作の術式か……」

 しかしこの様なものを勉強せずとも、俺ならLv4までは扱えるだろう。
 Lv1は初級中の初級。
 せいぜい、指先に火を灯す程度で、この程度しか発動しない場合は魔法は一切使えないと言っても過言ではない。
 Lv2は初級。
 小さな火球等を発動することが出来、人口の八割くらいは意図も簡単に発動することが出来るだろう。
 Lv3は中級。
 発動出来るようになれば、様々な応用が出来るようになる。
 例えば小さな土人形を動かしたりとか、普通の魔法とは違う、応用した魔法が扱えるようになる。
 Lv4は上級。
 上級くらいになると、中級で扱った土人形よりも大きなものが動かせるようになるのと他に、地を穿つことさえもたわいない。
 また、複数の属性が扱えるのであれば、それを組み合わせた魔法も意図も簡単に発動することが出来るだろう。
 Lv5は最上級。
 これが扱えるとなれば、大魔導師として名を残せるだろう。
 また、災厄レベルの魔法が発動することも可能だ。
 大規模な災害を起こせるその威力は、扱えるといっても体に大きく負荷が掛かる。
 なので、扱える者には魔法が発動出来ないようにと枷を嵌められている場合が殆どである。
 しかし、それほどの魔法を扱う者は見たことが無かったような気がするが。
 紙束を置くと、次は本へ手を伸ばす。
 パラパラと捲るが、中身は紙束と殆ど内容は変わらず、大した情報は得られなかった。
 そんな時、一冊の小さな本に目が止まる。
 手に取り、本を開く。

「……日記か?」

 ページを捲ると、この体の持ち主と思われる子が日々を綴った文章が書かれていた。
 一番最初のページには、親元を離れ学園へ入学することに対して不安だということが綴られていた。
 出発の日、父親が泣きながら見送ったことを思い出して、笑いが零れ落ちる。
 次のページには、学園へ到着し、入学式を済ませ、デュオを決めた時のことが綴られいる。
 しかし、次のページからの内容は一転、無視をされる、暴力を振るわれる、授業中だろうが何処にいようが逃げ道は無く、教師は貴族の生徒にそう安易に手を出すことが出来ず、現状の回復は見込めないと。
 様々なことが綴られていたこの日記の内容は、暴行についてが殆どを占めていた。
 そしてこの日記を見たことにより、次々と記憶が蘇ってくる。
 今まで過ごした日々の記憶に、家族の顔や数少ない友達の顔が頭の中に刷り込まれていく。

「……そうか。こいつ……は、エリオット・オズヴェルグ」

 自覚する、自分は誰なのかを……少年は自覚した。
 こうして、少年は強制的にエリオット・オズヴェルグとなった。
 しかし何故、目を覚ましたらエリオットになっていた理由が分からない。
 けれど、なってしまったものは仕方ないと、自分のことやこの場所関して思い出し、整理を始める。
 先ず、名前はエリオット・オズヴェルグ。
 歳は16で、身長は168センチほど。
 体力がこれでもかというほど無く、運動や、剣を振るうことは苦手……というか不可。
 魔法に関しても、剣術とまではいかないがあまり得意ではなさそうだ。
 その代わり、一番秀でているのは学力。
 この学園では、学力部門一位という特待で入学しているほどの頭脳の持ち主だ。

 「……ステータスの全てを、頭脳につぎ込んだような偏りようだな」

 特待という立場だからか寮は一人部屋で、尚且つこの階はエリオットの部屋のみとされている。
 それは生徒会や風紀委員に所属している人達と同じ待遇ではあるが、どうやら俺は所属してないようだ。
 ……それに対しては、何か理由でもあるのか?
 疑問を持ちながら、パンフレットを開く。
 この学園の所在地は、豊かな自然に治安が良い王国ティル・ナ・ノーグの王都にある、レーヴァリウス学園。
 この学園は剣術、学力、魔法……それらがどれかでも秀でていると学費が免除されるため、他の大陸からの入学希望者もティル・ナ・ノーグに訪れている。
 そんな毎年倍率が高いレーヴァリウス学園の、第150期生が4月に誕生した。
 剣術、学力、魔法……それらの大体上位二、三名の特待が生徒会と風紀委員に入ることとなる。
 今回は三年と二年が四名、一年が六名所属している。
 しかし、俺は所属してはいない。
 例外として、所属は免除されたのだろうか。
 いや、上位に入ったからといって全員生徒会や風紀委員に所属しているわけではなく、他の委員会に所属しているようだ。
 それに、生徒会と風紀委員は才色兼備。
 特に見た目が秀でている者達の集まりだった。
 俺はお世辞でも顔が良い訳ではない。
 無造作に乱れた髪に、似合わない丸眼鏡。
 もしあの集団に入ったとしても、浮くことは間違いなしだ。
 確か……と記憶を遡る。
 生徒会には、親衛隊というものが存在している。
 男女様々な学年の人が、生徒会を崇め信仰する集団だったはずで、生徒会に逆らう者は、この親衛隊が報復として……俗にいじめをする。
 弱い者を、集団で袋叩きする悪質集団と考えればいいだろう。
 また、抜け駆けをした者も報復するようだ。

「……ん~」

 エリオットは学園のパンフレットをパラパラと捲りながら、一人懊悩していた。
 頭では理解できる。
 しかし、現状についていけない。
 思い返しても、つい昨日まではギルドにいたはずだ。
 いや、違う。
 ……死んだのだ。
 仲間を庇って、命を落とした。
 だが、運良く生きていたというわけでもなさそうだ。
 この部屋の様子も景色も、俺がかつていた時代とは違う。
 エリオットとしての記憶は日記を見たことにより、順調に思い出してきている。
 まあ、暴力のことを思い出し痛憤するが、その中で庇ってくれている人がいた。

「フレディ……こいつは俺のパートナーか」

 この学園内では一年生のみ、デュオ……つまりパートナーが決められている。
 フレディという少年は、このエリオットのパートナーだ。
 エリオット自体はフレディのことを、フレと呼んでいたようだ。
 ある程度整理を終えると、さて、と息を吐く。

「学園に行くまでは、まだたっぷり時間がある。今のうちに色々と……」

 そこから先は言葉が出なかった。
 それは、このエリオットはただいま体調不良と称して絶賛休学中だからだ。

「まあ、流石に精神的ダメージで引きこもり状態ということだな。……なら、まだ時間はある。フレディはよく顔を出しに来ているようだが、それさえ軽くあしらえば変に思われないはずだな」

 うんうんと自分に言い聞かせると、まずは身の回りの整頓を始める。
 本は本棚へ、紙束は纏め棚に押し込む。
 重要そうなものは机に置くと、衣服を洗濯するために脱衣所へ向かった。
 脱衣所に入ると、真っ先に鏡が目に入る。
 自分の現在の姿に眉を顰めたが、洗濯機というものに衣服を放り投げた。

「あ、ついでにこれも洗うか」

 身に纏っていた衣服を脱ぎ、洗濯機に放り投げる。
 操作を意図も簡単にこなし、起動させた。

「たく、本当髪黒いな……これ地毛なのか?」

 鏡をまじまじと眺める。
 もさもさした黒い髪。
 しっかり手入れすれば見栄えも少しは良くなると思うが、先ずは前髪を切りたいところだ。

「……ん? あれ?」

 丸眼鏡を外すと、裸眼との景色の差がないことに不思議がる。
 再度丸眼鏡を掛け、そして外す。

「……これ、度が入ってない?」

 俗に伊達メガネとされるものだろうが、何故そのようなものを掛けているのか。
 だが伊達ならば掛けていなくても問題ないだろうと、丸眼鏡を置く。
 部屋に戻り衣服をタンスから取り出すと、服も元にいた時代とは雰囲気が違うことに驚きつつ衣服に手を通す。
 そして、思いっきりベッドへ身を沈める。

「……やることないな。学園は休学中。流石に今は外に出ることは難しそうだし、この体だと冒険者ギルドで魔物討伐とかは無理そうだしなぁ」

 はぁ……と、ため息をつく。

「あっ、そうだっ!! どうせ暇だし、俺の武器召喚できるか試してみよう。あの時代だと天使様だとか色々言われてたなぁ」

 フフフッと、笑いながら意識を集中させた。
 手を前にかざし、息を整える。
 武器を自分の魔力……魂で創造させるように、少しずつ思い浮かべる。
 次第に自分の中で、何かが翠色に輝きながら生成されていくのが分かる。
 そしてまた、息を整えた。

「ーーこいっ黙示録(アポカリプス)っ!!」

 シャリンッと鈴の音と共に顕現された翠色のロッド
 その杖は自ら輝き、発動する魔法によって色を変えることが出来る代物だ。
 まさか本当に召喚されるとは思わず、エリオットは呆然と黙示録を眺めていた。
 その時、何かに罅が入る音が耳に届く。

「……なんだ?」

 エリオットは、黙示録を自分の体内の魔力へ融合させると辺りを見回す。
 しかし、窓には異常はなく、家具にも何の変化は無い。
 不思議に思っていた、そんな時ーー

「なっ!!」

 勢いよく、何かに弾かれる音。
 その音と共に黙示録が体の外に飛び出ると、耳許で罅が入る音が鳴り響き、爆発したかのように硝子は砕け散った。

「ーーっ!! 痛った……」

 耳を抑え、片手で黙示録を手に取る。

「……何かの魔法が解けたようだが、黙示録には変化ないよな」

 確認するが、黙示録には傷一つもついてはいなかった。
 再度自分の魔力と融合させ、翠色の光が空気中に溶けていく。
 黙示録を仕舞うと、これからの事を考え始める。
 今の季節は春で、ギリギリ4月。
 学園に入学して一ヶ月も経っていないので、復学しても勉強自体にはついていけるだろう。
 だが、先ずは色々と整えたい。
 出来れば一ヶ月以内に復学したいところだが、その間何をやるのか考えるところから始めよう。
 先ずは体力作りだ。
 この時代ではない、前の俺は身体能力も高い方だった。
 体力作りをすれば、もし学園内でいじめられそうになっても返り討ちが出来るだろう。
 出来れば再起不能まで痛めつけたいが、流石に今の時代では犯罪だろうか。
 次は黙示録についてだ。
 今の時代はどんな扱いになっているのか知らないが、昔の時代では自分しか扱えない神器という位置付けだった。
 もし、今の時代でもそうだとすれば……黙示録を人前で使う訳にはいかない。
 別の武器……杖でも用意しなくてはならない。
 部屋には代わりとなるものはなかったので、買いに行くしかないだろう。
 あまりたくさんのことを一ヶ月以内に出来るとは思えないため、この二つを重点的にやるべきだ。
 後は服を買いに行ったり、食料を買いに行くくらいだろう。
 よしっとベッドから立ち上がる。
 その時、機械的な音が耳に届いた。

「ん? 洗濯が終わったのか?」

 脱衣所へ向い、選択機から洗濯物を取ると、ハンガーというものに洗濯物を掛け、乾燥機の電源をつける。

「ふう、さて次は……」

 その途端、思考が急停止する。
 エリオットはあの時と同じように鏡に釘付けだった。
 鏡に映ったのは、先程と同じ黒髪……ではなく紅髪。
 先程とは印象が全く違う髪型は、黄金のような色の瞳と合っていた。
 お世辞でも顔が整っていると言えなかったものは、前言撤回。
 きっとこの容姿ならば、周りの対応が一転するだろう。

「て……これ、誰だよっ!!」

 エリオットは大声を出した。
 掴みかかるように鏡を掴むと髪の毛を上げ、本当に地毛なのかと確認する。

「……どう見ても地毛だ。もしかして、何かの魔法が解けたというのは……あのボサボサの髪は魔法によってああなったのか?」

 エリオットとしての記憶を遡るが、昔からあの髪型だった。
 産まれながらなのか、記憶がないだけで昔魔法を掛けたのかどうなのか分からないが……面倒臭いので放置だ。

「まあ、どうせ会う人なんていないだろう。ここは俺一人の部屋なんだし」

 うんうんと頷いた時、玄関のチャイムが鳴る。
 エリオットの体は、一瞬にして膠着こうちゃくする。

「エル、起きてる?」

 ノックと共に聞こえる声……フレディだ。
 そうだっと思い出す。
 フレディは、一週間のうちの水曜日。この日の朝……或いは夕方に、エリオットの様子を見に来ているのだ。
 このまま放置してもいいのだが応答がない日、寮長を呼び鍵を開けようとした一件がある。
 なら今すぐにでも鍵を開けたいのだが、生憎この姿。
 確実に驚かれることは間違いないが、今まで魔法が掛けてあったというのは隠しておきたいことだったのだろう。
 なら、どうにかしてもこの髪を隠さなくてはっ。

「エル、大丈夫? まだ寝てるの?」
「だっ、大丈夫!! ちょっと待って!! 少し待ってっ!!」

 急いで部屋へ戻る。
 どうにかして髪を隠せるものを……最悪顔全体隠せるものでもいい。
 ガサガサとクローゼットを漁ると、謎の黒い物体。
 その物体はモサモサとしている、髪のようなものだ。
 「これだっ!!」と、エリオットは被ると玄関のドアを開ける。

「やあ、エル。どうしたの? 慌ててたけど」
「い、いや。大丈夫。気にしないで」

 フレディを部屋へ招き入れる。

「今日はいつもより早いな」
「え? いや、いつもこの時間だよ。学校に行く一時間前だし」

 ハッとして時計を見ると、時刻は7時を指していた。
 起きたのはまだ日が見えない夜中だったが、気付かないうちに三時間は経っていたのだろう。
 リビングのソファーへフレディを座らせ、飲み物を取り差し出す。
 フレディの真正面へ座り、飲み物を口に含む。

「あれ? エル、眼鏡は?」

 突然の言葉に、盛大に飲み物を吹き出す。

「え!? だ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫。ちょ、ちょっと外してるだけなんだ」
「そうなんだ」

 あまりに髪のことしか考えておらず、眼鏡の存在を忘れていた。
 これからは忘れないようにしなくては、ボロが出てしまう。
 そして学園の話へと話題が変わった。
 最初はどんな授業をしているのかという話題だったが、フレディは目を伏せた。

「……ごめんね、僕が力になってあげれたら……エルは今も普通に通えてたかもしれないのに」
「……フレ」

 フレディは自身のことを責めているようだ。
 エリオットはいじめを受けていた。
 その度にフレディは助けてくれたが、フレディは剣術の授業を選択している。
 流石に全ての授業が同じではなく、フレディと一日中共にいる訳ではない。
 フレディの目の届かないところで、いじめは起こっていた。
 そんなエリオットはフレディに心配を掛けまいと、内緒にしていたのだ。

「……いや、フレディのせいじゃない。それに、復学した時にはあいつらのことを返り討ちにしてやるつもりなんだ」

 そう言うと、フレディは驚いた様子を見せ、その後微笑んだ。

「なんか、エル変わったね」
「え、そ、そうか?」
「うん。この短期間で何があったのか分からないけど……また、エルと一緒に通える日を楽しみにしてるよ」

 フレディは微笑する。
 エリオットも同じ様に笑うと、フレディにとあることを訊く。

「そういえばフレ、学園の外って普通に出てもいいんだっけ?」
「学園の外? 許可を取ればいいけれど、今のエルは休学中で、尚且つ自宅にも自由に帰ってもいいってことになってるから出ても平気だよ?」

 「それがどうかしたの?」と言うフレディに、いやちょっと確認したかっただけと言う。
 次第に時間は過ぎ、学園へ行く時間になる。
 フレディを見送ると、部屋に戻ったエリオットはカツラを投げ捨てガッツポーズをする。

「よっしゃー!! 外に出ていいのなら後で行こう!! 服を買ったり、武器を買ったりしなくちゃなっ!」

 お金を確認すると、充分な額が入っていた。
 これならいくら買ったとしても足りるだろう。
 私服を着てお金を持ち、そしてあの時代と同じく荷物をほぼ無限に入れられる魔法袋を見つけると、ズボンのポケットへ入れる。

「まだ学園に行く人で溢れかえっていそうだから、一時間後に行こう。流石にこのモジャ頭じゃ行きたくないよな……」

 カツラをまじまじと見ながらそう呟く。
 だが、この学園内の敷地にいる間は被っていないと不審者扱いされる可能性もある。
 それなら、敷地内を出た後に外せばいいことだ。

「うん、そうだな。敷地内を出たら外そう。早く時間経たないかな」

 そして、一時間経つとエリオットはカツラを被り、丸眼鏡を掛け、荷物を持つと部屋を後にした。
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