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第二章 魔塔の魔法使い
断罪
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今までずっと無表情で話を聞いているだけだった国王が、初めて大きな反応を見せた。
目を見開き、動けなくなったかのように固まって、男を凝視した。
「……毒、だと? アイシャは、王妃に殺されたというのか……!?」
「陛下、惑わされてはなりません! 散々目をかけてやったという恩も忘れて、この男はわたくしを巻き添えにしようと、ありもしないことを口走っているだけですわ!!」
「よ、よくもそのようなことを……」
側近の男が怒りで顔を真っ赤にして、王妃を睨みつける。
王妃は必死に弁明しているが、国王は彼女に見向きもせず、側近の男に続きを促した。
「どういうことだ。詳しく説明せよ!」
「王妃様は、陛下の寵愛を一身に受ける側妃様に嫉妬し、恐れ多くも配下の侍女に毒を盛るよう命じられたのです。白い花の毒は長期間服用することによって身体を衰弱させるという特殊なものですので、その毒の存在を知らぬこの国の医師たちでは、手も足も出なかったでしょう」
「し、知りませんわ! わたくしはそのようなこと……」
「王妃!!」
国王が怒りもあらわに立ち上がり、王妃に詰め寄った。
「正直に話すのだ。この男は『公爵家にしか咲かない白い花の毒』と言ったな。調べればすぐにわかることだ。それに、そこの男はずいぶんと用心深い性格のようだ。この件についても、王妃の関わりを示す何らかの証拠を残してあるのではないか?」
「……その通りでございます、陛下」
男の肯定に、国王は深いため息を吐いた。
「……連れていけ」
「陛下!!」
戸惑いながらも、騎士たちが王妃を拘束しようと手を伸ばす。
「無礼者! わたくしに触れないでちょうだい!!」
王妃がものすごい剣幕で叫んだと思うと、騎士たちの手から逃れ、国王へ縋りついた。
「陛下、陛下! なぜですの? わたくしはあなたの唯一の妻ですわ。それなのに、なぜこのような仕打ちをなさるのです!?」
「唯一の妻だと? あぁ、そうだろうな。そなたが、私の愛する妻アイシャを殺したのだから!」
汚らわしいとばかりに、自身の服を掴む王妃の手を国王が荒々しく振り払った。
王妃は、己に向けられた蔑みや嫌悪の籠った夫の眼差しと明確な拒絶に、体を震わせながら静かに涙をこぼした。
「……どうして? なぜ陛下は、あの女のことばかり……。なぜ、わたくしを愛してくださらないのですか? わたくしの方が、先に陛下と婚約をしたではありませんか。婚約をしたのは、わたくしを愛してくださっていたからでしょう? それなのに後から現れたあの女が、陛下の寵愛を奪ったから、だからわたくしは……」
王妃の弁に、国王は頭痛を堪えるように額を押さえた。
「何を言う。実家である公爵家の力を全面的に使い、無理矢理私との婚約をまとめさせたのはそなたであろう。当時の私には、それを断れるほどの力がなかった。ただそれだけだ。それに後から現れたとそなたは言うが、私とアイシャは、幼い頃からずっと愛し合う仲だった。後から現れてその関係を台無しにしたのはそなただ。なぜ、そんなそなたを愛せるというのか」
「……そん、な……」
王妃が絶望した表情で、ガクリと膝から崩れ落ちた。
そんな彼女に冷たい眼差しを一瞬だけ向けた国王が、騎士たちに目配せする。
騎士たちが、大人しくなった王妃を支えるようにして立たせ、連れ出していった。
「へ、陛下! 私は王妃様に命じられ、仕方なく従っていただけなのです! どうかご温情を……!」
「正確な沙汰は追って下す。今は大人しくしておけ」
「陛下……!」
王妃の手足となって動いていた側近の男や、ずっと項垂れながら話を聞いていたウードも、騎士たちによって連れ出されていった。
苛烈な態度から一変して、静かに涙を流し続ける王妃の姿は、とても哀れで惨めに見えた。
目を見開き、動けなくなったかのように固まって、男を凝視した。
「……毒、だと? アイシャは、王妃に殺されたというのか……!?」
「陛下、惑わされてはなりません! 散々目をかけてやったという恩も忘れて、この男はわたくしを巻き添えにしようと、ありもしないことを口走っているだけですわ!!」
「よ、よくもそのようなことを……」
側近の男が怒りで顔を真っ赤にして、王妃を睨みつける。
王妃は必死に弁明しているが、国王は彼女に見向きもせず、側近の男に続きを促した。
「どういうことだ。詳しく説明せよ!」
「王妃様は、陛下の寵愛を一身に受ける側妃様に嫉妬し、恐れ多くも配下の侍女に毒を盛るよう命じられたのです。白い花の毒は長期間服用することによって身体を衰弱させるという特殊なものですので、その毒の存在を知らぬこの国の医師たちでは、手も足も出なかったでしょう」
「し、知りませんわ! わたくしはそのようなこと……」
「王妃!!」
国王が怒りもあらわに立ち上がり、王妃に詰め寄った。
「正直に話すのだ。この男は『公爵家にしか咲かない白い花の毒』と言ったな。調べればすぐにわかることだ。それに、そこの男はずいぶんと用心深い性格のようだ。この件についても、王妃の関わりを示す何らかの証拠を残してあるのではないか?」
「……その通りでございます、陛下」
男の肯定に、国王は深いため息を吐いた。
「……連れていけ」
「陛下!!」
戸惑いながらも、騎士たちが王妃を拘束しようと手を伸ばす。
「無礼者! わたくしに触れないでちょうだい!!」
王妃がものすごい剣幕で叫んだと思うと、騎士たちの手から逃れ、国王へ縋りついた。
「陛下、陛下! なぜですの? わたくしはあなたの唯一の妻ですわ。それなのに、なぜこのような仕打ちをなさるのです!?」
「唯一の妻だと? あぁ、そうだろうな。そなたが、私の愛する妻アイシャを殺したのだから!」
汚らわしいとばかりに、自身の服を掴む王妃の手を国王が荒々しく振り払った。
王妃は、己に向けられた蔑みや嫌悪の籠った夫の眼差しと明確な拒絶に、体を震わせながら静かに涙をこぼした。
「……どうして? なぜ陛下は、あの女のことばかり……。なぜ、わたくしを愛してくださらないのですか? わたくしの方が、先に陛下と婚約をしたではありませんか。婚約をしたのは、わたくしを愛してくださっていたからでしょう? それなのに後から現れたあの女が、陛下の寵愛を奪ったから、だからわたくしは……」
王妃の弁に、国王は頭痛を堪えるように額を押さえた。
「何を言う。実家である公爵家の力を全面的に使い、無理矢理私との婚約をまとめさせたのはそなたであろう。当時の私には、それを断れるほどの力がなかった。ただそれだけだ。それに後から現れたとそなたは言うが、私とアイシャは、幼い頃からずっと愛し合う仲だった。後から現れてその関係を台無しにしたのはそなただ。なぜ、そんなそなたを愛せるというのか」
「……そん、な……」
王妃が絶望した表情で、ガクリと膝から崩れ落ちた。
そんな彼女に冷たい眼差しを一瞬だけ向けた国王が、騎士たちに目配せする。
騎士たちが、大人しくなった王妃を支えるようにして立たせ、連れ出していった。
「へ、陛下! 私は王妃様に命じられ、仕方なく従っていただけなのです! どうかご温情を……!」
「正確な沙汰は追って下す。今は大人しくしておけ」
「陛下……!」
王妃の手足となって動いていた側近の男や、ずっと項垂れながら話を聞いていたウードも、騎士たちによって連れ出されていった。
苛烈な態度から一変して、静かに涙を流し続ける王妃の姿は、とても哀れで惨めに見えた。
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