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一章
2.兄であり親であり友である男
しおりを挟むカウンターの横を真っ直ぐに行くと店の裏に行けるドアがあってそこから裏へ行くと、ノートパソコンがある椅子に座って作業していた光ちゃんがクスクス笑いながら出迎えた。
さっきのホスト男とのやり取りを聞いて笑ってる!それと、こうなるって分かってて楽しんでるんだ!
「よう雪。今日も元気そうだな」
いつもの声のトーンで楽しそうに笑って立ち上がる光ちゃんは、俺の5歳年上で、一応まだ二十代だ。一応と言うのは良く老けて見られてるからだ。一言で言うとワイルドな見た目の光ちゃんは、よくサングラスを掛けて顎髭を生やし、髪型も剃り込みや刈り上げなど、イカつめの奇抜なのが多く初対面だと怖い印象を受けるような容姿をしている。
だけど中身はとても暖かい男だ。シングルマザーの母親に放ったらかしで育った俺と俺の弟の面倒を見てくれたとても優しい人。光ちゃんの両親もまたとても優しい人で、俺もそれに縋るように実の母親から離れて生きて来た。
今俺が住んでるマンションも光ちゃんが俺の為に借りてくれたもので、最近まで弟も一緒に暮らしていたけど、いろいろあって弟は実家へ帰って行った。だから今は俺一人で住んでいる。
そんな俺や弟の事を親身に見てくれる光ちゃんは優しくておおらかな性格で、怒る事はあまり無かった。俺とは正反対だ。
俺は見た目は良く綺麗だとか育ちが良さそうだとか言われるけど、性格は酷いと思う。自分でも自覚しているぐらい他人に冷たい。自分の生い立ちのせいでこうなったとは言いたくないけど、少なからず母親から受けたネグレクトがずっと心に引っ掛かってるんだと思う。
だから弟が実家に戻る事も反対だった。俺にとって弟の事を守って生きていく事が使命だと思っていたから、自分の意思でそう決めた時はショックを受けたな。でも今回は弟の意思を尊重しようと思って陰で見守る事にした。
それから数ヶ月が経ってやっと落ち着いたと思った矢先にこれだ。寒さの厳しい冬も終わりこれから春が来ると言うのに、何なんだよあのチャラチャラした男は。春先で光ちゃんも頭おかしくなったのか?それとも光ちゃんの大切な人だって言うのか?それはそれで俺が見定めてやらなきゃだから問題だけどな!
「あの男誰?」
「怖~。まるで俺の女みてぇだな」
言葉とは裏腹に光ちゃんはサングラスを取って一重の切れ長の目を細めて笑った。
先に言っておくけど俺と光ちゃんはそう言う仲では無い。本当に兄弟のような関係だ。
光ちゃんはこんな見た目だから万人受けする訳じゃないけど、それでも光ちゃんの周りには人が絶えなかった。それは家族、友達、客、いろいろいたけど、誰もが光ちゃんを頼り、苦楽を共にし、喜びや悲しみを分かち合う為に足を運んでいた。
俺はそんな光ちゃんの事を心から尊敬している。自分にも弟がいて守らなきゃという気持ちがあるから、光ちゃんのように誰からも慕われる男になりたいとずっと思っていたんだ。
「冗談はいらないから説明して」
「あー、はいはい。とりあえずあっち行きますか」
ノートパソコンの画面をそのままにして店の方へ行く光ちゃん、俺はふぅとため息をついてパソコンの電源を落としてパタンと蓋を閉じて、金庫や大事な書類系がある棚も確認する。
昨日から無くなっている物も無いし、変な物が増えてる形跡も無い、異常なしか。あとはあの男が勝手にウロチョロしないように見張ればいいだろう。
光ちゃんは行動力や統率力はあるけど、経営に関しては結構ズボラだからこう言うのは気にしないんだ。店自体そんなに大きくないし、セキュリティもしっかりしてない。それを俺がカバーする。ずっと光ちゃんと俺二人で切り盛りして来た。そんな感じでダイニングバーglowは成り立っていた。
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