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一章
3.絶対認めない
しおりを挟む俺も上着を脱いで白のワイシャツの上に黒のベストを着て、腰にはベストと同じ色のエプロンを巻き店に出る。先ほど買ったグラスも紙袋から出してそれも持って行く。せっかく楽しい気分だったのに、最悪だな。グラスを見ながら憂鬱になりながらも気を引き締めてあの男の元へ行くと、男は先に出て行った光ちゃんと楽しそうに会話を楽しんでいた。
後から来た俺に気付くと、パッと振り向いて優しい笑顔を向けた。
「雪さん♪」
「よし、改めて紹介しますか~。うちの副店長の早川雪だ。そんでこっちは……」
「冴木さん、だろ。さっき聞いたよ。名前よりもここで何してるのか教えてよ。光ちゃんの友達なの?」
俺はさっきより落ち着いて二人に対応しようと思った。光ちゃんの友達だったならぞんざいに扱うのは良くないからね。
すると、ホスト男は嬉しそうに答えた。
「名前、覚えてくれたんですね。嬉しいです」
「そんなの聞いてないよ。何してるのか聞いてるの」
冷たく言うと、ホスト男は光ちゃんを見て困っていた。それを見た光ちゃんはタバコを取り出してライターを探していた。
すると、ホスト男が自分のポケットからジッポを取り出してサッと光ちゃんに手を差し出していた。光ちゃんに火が見えないように左手まで添えて、その仕草があまりにも自然な出来事で、俺をイラつかせた。
火を貰った光ちゃんは機嫌良くしていた。
「お♪気が利くね~♪サンキュー」
「いえ、こんな事ぐらいしか出来ませんが」
「だからっ!何なんだよあんた!いい加減説明してくれ!」
二人ののほほんとしたやり取りについカッとなって強く言うと、ホスト男は申し訳なさそうにシュンとした。そしてタバコの煙を吐きながら光ちゃんが話し始めた。
「落ち着けって。冬真は今日来たら店の前で寝てたんだ。そんで俺が中に入れて飯食わしてやったの」
「そうなんです。光児さんのご飯美味しかったです♪」
「そりゃ良かった♪」
「それで?もう食べ終わったみたいだし帰るの?こっちもそろそろ開店準備しなきゃなんでそうしてもらえると助かるけど」
「いや、冬真にはうちで働いてもらう事にしたんだ」
「はぁ!?」
これには驚いた。今まで従業員を募集した事は無かったけど、うちで働きたいって言う人は何人かいた。それでもずっと光ちゃんと俺の二人でやって来たし、これからもそうだと思ってたんだ。
やっぱり二人だけだと、団体の予約が入った時や、週末の忙しい時間帯は回らなくなるからその時は俺の弟を呼んで手伝って貰ってたんだ。弟はまだ高校生だから遅くまでは働かせてられないけど、ピークの時だけでもいてくれると助かってたんだ。
それでもバイトなどを雇わない理由は俺が全部断っていたから。別に俺と光ちゃんだけでも何とかやっていけてるし、今更人が増えても人件費とかが発生して来て逆に効率が悪くなる。それなら臨時でも弟に手伝ってもらう方が気が楽だ。
俺が驚いた後にホスト男を睨むと、ニコッと笑って立ち上がりペコッと頭を下げた。
「雪さん、俺一生懸命頑張ります!よろしくお願いします!」
「いや、うちに人を雇う余裕なんてないし、そもそもあんた本業あるだろ?」
「それが失業中なんだと~。あと住んでた寮も追い出されて家無しなんだよな?可哀想だからうちの寮で暮らしながら働いて貰おうと思ってよ♪」
「うちの寮って……まさか俺んち!?ちょっと何勝手に決めてんだ!確かにあそこは光ちゃんが借りてくれてるけど!絶対反対だ!」
「光児さん~、雪さん怒らせちゃいましたぁ」
「雪はこういう性格なんだよ。ちょっとうるせぇけど悪い奴じゃねぇから、慣れるまで我慢してくれや」
サラサラと俺が怒るような事ばかり言う二人に、しまいには俺が心狭いかのような扱いを受け始めた。
冗談じゃないっ!店に新しい従業員なんていらないし、俺のマンションにも入れさせたくない!
失業中とか信じられないし、名前だって嘘かもしれない。ホスト感覚で接客なんてされたらたまったもんじゃ無いよ。
とにかく俺はこの冴木と言う男を認める気は無かった。
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