恋に臆病なままではいられない

pino

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一章 

9.光ちゃんの作る賄い

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 仕事中、俺はミニパフェを作りながら昨日の出来事を思い出していた。
 まさか俺が初対面の男に酔って誘うなんて……記憶は曖昧だから、ハッキリ俺が誘った事を証明するものなんて無かった。だけど、何となく冬真の言う事が本当なんじゃないかって思うんだ。
 だって俺、冬真とそう言う事をしたって知って嫌じゃなかったんだ。引っ掛かっていたのは酔っ払って自分から誘ったって事。冬真の立場的にそんな俺に誘われたら断る事も出来ないのは当たり前だろう。
 冬真には悪い事をしたな。昨日の俺はあんなに態度が悪かったのに、挙句に酔って性行為を強要するとかパワハラじゃんか。こんな事が光ちゃんに知れたら気まず過ぎるよ。


「雪さん、フード入りました。カウンター席に焼きそばです」

「うわっ!」

「!」


 急に冬真がホールから顔を出したから驚いて持ってた生クリームを絞る袋を思い切り握ってしまった。それによって大量に溢れる生クリームに、グラスどころか作業台の上が生クリームまみれになってしまった。


「だ、大丈夫ですか?いきなり声掛けてすみませんでした!」

「い、いや、考え事してた俺が悪いから。えっと、カウンター席に焼きうどんだっけ?了解~」

「……焼きそばです」

「!!」


 ヤバい!俺とした事がミスを連発するなんて!
 なんとか集中しないと!
 俺は頭の中をリセットして、仕事の事だけを考えるようにしてその後をやり過ごした。

 終わる頃には平日だと言うのにいつもの倍以上は疲れていた。


「あー、疲れた……光ちゃん、俺今日賄いいらなーい」

「お前今日変だったな。調子悪いんなら明日休みだしちゃんと休んで治せよ?」

「そうするー」

「光児さん、店内の掃除終わりましたー」

「おう、サンキュー。冬真は賄い食ってくか?」

「食べたいです♪」


 光ちゃんにキラキラした笑顔で嬉しそうに言う冬真。何で冬真はこんなに元気なの。
 椅子に座ってぐったりしてる俺を見て、隣に椅子を出して座り覗き込んで来た。


「雪さん、二日酔い大丈夫ですか?」

「え、ああそれは大丈夫だけど」

「なら良かった。今日調子悪そうだったんで心配してたんですよ」


 冬真の事を考えていたらミスを連発した。なんて言ったらどう思うのかな?
 安心したように優しく笑ってる冬真を見ながらそんな事を考える。
 冬真なら「俺のせいでごめんなさい」とか言いそうだな。すぐ謝る癖があるからな。


「心配掛けて悪かったよ。今日もお疲れ様♪明日は休みだから冬真が使う物揃えようか」

「それって、一緒に買い物行ってくれるんですか?」

「付き合うよ。でも服とかは持ってるんだろ?前住んでた寮から持って来なよ」

「……いえ、新しく新調します」

「えー、勿体無い。お金は無限じゃないんだぞ~」

「あったとしても仕事で使っていたスーツとかなんで。もう必要ありませんから」

「まぁ冬真が言うならいいけどさ」


 寮を追い出されたとか言ってたけど、自分の物を取りに行くのも出来ないぐらいの事をしたのか?あまりしつこくしても嫌な思いさせるだけだし、俺はそれ以上は何も言わなかった。
 誰にでも言いたくない過去はある。
 勿論俺にもある。
 だから無理に聞き出そうとはしないつもりだ。
 冬真が何でホストをやって、何で辞めたのか、何故寮を追い出されたのか、何故うちの店の前で寝ていたのか。
 正直気になるけど、今は聞かないでおこう。


「はい唐揚げ丼お待ち~♪」

「美味しそう♪いただきます♪」


 光ちゃんが半熟卵の乗った甘辛ダレの唐揚げ丼を俺と冬真がいるテーブルにドンっと置いた。
 冬真が嬉しそうに笑って両手を合わせていた。
 あ、なんかお腹空いて来たな。


「光ちゃーん、やっぱり俺も食べたい!」

「はいはい。食う元気あるなら大丈夫だな。ちょっと待ってろよ~」


 俺が後から言うと、光ちゃんはニカっと笑って再び厨房へ消えた。
 時間は3時を回ろうとしていたけど、俺は光ちゃんの作った賄いを食べて帰ろうと思った。


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