恋に臆病なままではいられない

pino

文字の大きさ
11 / 76
一章 

10.似合う色

しおりを挟む

 次の日の木曜日、予定通り冬真が使う物を買い物に来ていた。家具家電は揃ってるから主に服だ。普段着と仕事用のワイシャツとパンツぐらいはある程度揃えて欲しかった。
 俺がいつも見てるスーツ屋でワイシャツとパンツを見ていた時だった。俺がこの際だから新しくベストも買おうかと迷っていると、冬真が鏡で自分を見て髪を気にしているのが目に入った。今日は髪を下ろしていて軽くセットしている程度。身に付けているアクセサリーも少なめだった。それでも俺が貸した服を着ているんだけど、冬真が着てるとチャラく見えるのが不思議だ。


「何、髪でも切るの?」

「あ、雪さん。髪色なんですけど、黒に戻そうかなって」

「何で?」

「……気分転換、ですかね?」


 少し考えるようにした後に照れながらそう言う冬真。俺は改めて冬真を上から下まで見て昨日見た冬真の運転免許証の写真を思い出す。あんな感じになるのか……
 悪くないな。


「いいね♪冬真、黒にして来い♪光ちゃんの知り合いで良い美容師いるから連絡してみるよ」

「本当ですか?ありがとうございます♪雪さんがそう言うなら黒くして来ます♪」


 迷っている所に俺が背中を押すと嬉しそうに返事をする冬真。そんな輝くような笑顔で従順な事を言われたら俺の兄心が疼くじゃないか。俺の弟の幼い頃を思い出した。あいつも俺に対してこうだった時もあったんだよなぁ。冬真は同い年なのに、敬語を使って来るし、俺の言う事を良く聞くからか年下だと錯覚してしまう時がある。悪い気はしないけどな。
 ホスト時代の行きつけの美容室があるだろうけど、寮に行きたくないぐらいだから俺も世話になっている美容師を紹介しようと光ちゃんにメッセージを入れておく事にした。俺の弟がずっと伸ばしてた長い髪を突然切りたいと言った時に急だったにも関わらず当日に対応してくれた事があったから、運が良ければ早い内にやってもらえるだろう。


「ワイシャツだけど、グレーなんかどうだ?黒髪にしても重くなり過ぎないし、ちょっと大人っぽくてお洒落じゃない?」

「かっこいいですね。雪さんが言うならグレーにします♪」

「よし決まり♪3着ぐらい買って置けば大丈夫でしょ。あとはベストとパンツと靴下とかかな。靴も履きやすいの選ぼうか」

「はい♪あの、この後お昼ご飯食べますよね?ご馳走させて下さい。付き合ってくれたお礼がしたいです」

「そう?じゃあ甘えちゃおうかな♪」


 俺が快く答えると、冬真は嬉しそうに笑った。
 てか冬真ってお金持ってるのかな。昨日財布を渡された時に長財布を手に持ったけど、そんなに厚みが無かったように見えるけど。さすがに中までは見なかったから冬真のお金事情は分からない。ホストだったならそれなりに持っているんじゃないかな?いや、収入は人にもよるのかな。もしかしたら冬真は全然お金持ってない可能性もある。今回のワイシャツとかは就職祝いとして俺が払おうと思っているけど、給料日までは俺が面倒見てやらなきゃだな。


「冬真、いくらかお金持ってる?」

「はい。さっきコンビニで下ろして来ました」

「あ、ATMね。いつの間にそんな事したの」

「雪さんがトイレ入ってる間です」

「さすがホスト!無駄な瞬間を見せないとか気配り上手~」

「もうホストじゃないです」


 ここで冬真が少し不機嫌そうになった。ふーん、前職の事を言われてそんな風になるなんて、ただホストって言われるのが嫌なのか、今の仕事に対してちゃんと向き合っているからか、どちらにせよもう冬真の事をホストって言うのは辞めようか。
 もし後者だったなら俺は嬉しいかも♪

 結局ここでの支払いは冬真が自分で済ませた。
 まぁ就職祝いは正式に社員になってからでも遅くはないしね。なるべく甘えさせないようにしなくちゃいけないから自分で出来る範囲はしてもらおう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

処理中です...