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二章
21.やきもち
しおりを挟む店の奥のカウンター席に座る一人の男は、俺の元彼のワタルだった。光ちゃんに話を振られたワタルは俺達の方を気まずそうに見て、会話に入って来た。
「もー、光ちゃんは相変わらずだな~。確かにゆっきーが甘酸っぱいのは面白いけど♪」
困ったように笑いながら言って、最後には俺を見てニヤニヤしていた。
俺はあり得ない奴がこの場にいる事に怒りで我を忘れそうになった。
「はぁ!?余計なお世話だし!てかお前なんでここにいるんだよ!どの面下げて来てんだ!」
「怖~、え、何お前ら気付いてなかったの?」
「雪さん、他のお客様もいますので大きな声は……」
冬真に注意されて、俺は一度口を閉じる。
ワタルと会うのは弟の文化祭の時で半年振りぐらいか。でもあの時は本当に挨拶程度で顔を合わせたのは数秒ぐらいだった。ワタルとこうして顔を合わせるのは空の高校入試前ぐらいだからもう1年以上も前、それ以来になる。大学に通っていて、家も立派な家系で、綺麗な女性の婚約者までいる見た目からして人生勝ち組って感じの男だ。
一丁前にパーマなんかかけて、俺を見てクスクス笑う姿があの頃のままで俺は少しだけ懐かしく感じていた。
「あは♪ゆっきーってば怒られてる~♪」
「黙れ。てか話し掛けるなよ」
俺が冷たくするとワタルは立ち上がって隣の席に移動して来た。光ちゃんと冬真はニコニコ笑っていた。
「ゆっきー久しぶり、少し話さない?」
「これ飲んだら帰るし」
「飲み終わる間でいいから」
俺は困って光ちゃんを見るとやれやれと言った顔で見てきた。
「話してやれよ。ワタルはずっとここへ来たがってたんだけどお前がつんけんするから遠慮してたんだからよ」
次に冬真を見る。すると既に新しいカクテルを作り始めていた。正直言って冬真の前でワタルと話すのは気まずいんだ。二人は普通に話してるみたいだけど、お互い俺との事をどこまで知ってるのか分からない。もし冬真にワタルが元彼だって知られたらどんな風に思うのか、遠慮してしまうんじゃないか。その事が気がかりだった。
俺の答えを待たずに光ちゃんは店の奥へ消えて行った。残された俺とワタルはそのまま座っていた。
「ゆっきーが話したくないなら聞いてくれてるだけでもいいよ。俺はゆっきーの顔が見れただけでも嬉しいから♪」
「……今日俺が休みだって知ってて来たのか?」
「うん。光ちゃんから連絡もらって来たの。まさかゆっきーが来ると思わなかったよ~」
「そっか」
「あのね、この前俺といた子いるでしょ?あの子とは結婚する予定なんだけど」
「知ってるよ。美人で良かったな」
「美人だけど、性格はキツいよ~。ふふ、ゆっきーみたいなんだ」
楽しそうに笑うワタルにイラッとしてしまう。俺と婚約者を比べて何がそんなに楽しいんだよ。そんな元彼の惚気話なんて引きずってる俺には苦痛でしかない。やっぱり帰ろうと残ったカクテルを飲み干した所で冬真が新しいカクテルを目の前に出した。
俺の前には赤い色の液体。一口飲んでみてキティだと分かった。赤ワインとジンジャーエールを混ぜて作るカクテルで、名前のキティには子猫ちゃんって意味があるとかないとか。冬真め、どこまでも俺の事を舐めてるな。少し面白く感じてニヤッと笑って冬真を見ると、ドンっとワタルの前にもお酒を出した。
それはショートグラスに入った無色透明のカクテルで、中にオリーブがピックに刺さって入っていた。俺はまさかと思った。
「キティとマティーニです。こちらはお二人の再会を祝しまして、俺からの一杯となっております。是非残さずに飲み切って下さいね♪」
つらつらと喋る冬真はニッコリ笑顔だったけど、目が笑ってなかった。俺とワタルの関係を察してワザとワタルに強いカクテルを出したな。面白いけど、残念ながらワタルは酒に弱い。いつもココアとかクリームソーダとか子供が喜びそうな飲み物を飲んでいたのを良く覚えている。マティーニなんて度数の強い酒なんて飲んだらぶっ倒れちゃうだろ。俺も今日はそんなに飲むつもりは無かったし、これは勿体無いから光ちゃんに飲んでもらう事になりそうだな。
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