恋に臆病なままではいられない

pino

文字の大きさ
26 / 76
二章

25.元ホストの真実

しおりを挟む

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出してその場でグビグビと飲む。俺は性格上、嘘とか許せないんだよね。今冬真の事が信じられない気持ちで怒りの感情さえ込み上げている。
 さて、どうしたものか。
 かと言って冬真に怒るのは違う気もするんだよな。そりゃ誰にでも言えない事はあるでしょ。それぐらい理解してるよ。今回冬真は俺に言うタイミングが無くてやむを得ず嘘をついたのかもしれない。でも寮に住んでたってのは光ちゃんも知ってたし、光ちゃんにも嘘をついてるって事になるよな。その嘘をついていた理由にもよるけど、光ちゃんなら俺程は細かく気にしないだろうけど、理由によっては逆鱗に触れかねないぞ。

 
「雪さん、俺全部話します。聞いてもらえますか?」


 俺が冷蔵庫の前でうーん、と頭を捻らせて悩んでいると、後ろから冬真の声がして暗い顔して立っていた。


「俺もそのつもり。まずは怒るの我慢して話聞くから座って。水でいい?」

「はい。ありがとうございます……」


 リビングのテーブルの椅子に座らせて新しいミネラルウォーターを出してあげると、一口飲んでた。俺も対面して座って、ジッと冬真を見る。


「ねぇ、ホストだったのは本当なの?」

「はい。本当です。寮に住んでいたっていうのだけ嘘でした。他は全部本当です」

「寮じゃなくてどこに住んでたの?実家は遠いんだろ?」

「知り合いの家です」

「普通じゃん。何で嘘なんてついたの?」

「その知り合いって言うのはこっちに来てから知り合った人なんですけど……その、俺はその人から逃げて来ました」

「逃げて来たぁ?」


 ここで冬真は唇を噛み締めて辛そうな表情をした。これでまた嘘でしたなんて言われたら俺は何も信じられなくなるよ。それぐらい冬真は小さく震えていて、すぐにでも優しく抱き締めてあげたい気持ちになった。
 でも俺は心を鬼にして話の続きを聞く事にした。


「俺が雪さんに肌を見せたくない理由はこれです……」

「……!」


 冬真は立ち上がって自分の服を捲り上げて腹部を見せて来た。そこには驚く程の大きな痣が2、3個あった。俺は立ち上がって思わず駆け寄ってしまった。それぐらいビックリしたんだ。


「どうしたのこれ!」

「その人に殴られたり蹴られたりして出来ました。これでも小さいのは消えたんですけど、まだこんなに濃く残っていて……背中にもあります。だから雪さんに見られたくなくて、服を脱げなかったんです」

「それって、虐待されてたって事!?」

「はい。初めはとても優しかったんです。都会の事を何も知らない俺にいろいろ教えてくれたり、でも段々お金を要求されるようになって……それですぐに稼げそうなホストを始めました」

「信じられない!どうしてそんな奴に従ったんだよ?」

「それは……初めてだったからです。男を好きだと言っても受け入れてくれのが」


 ボソッと言って薄く笑う冬真がこの時嘘を言ってるようには聞こえなかった。服を元に戻して落ち込んでるけど、俺の怒りはいつの間にか冬真じゃなくてそいつに向けられていた。
 背中にもあるとか俺の冬真にどんなけ非人道的な事してくれてんだよ。


「冬真、その話って光ちゃんは知ってるの?」

「いえ、俺からは話してません。でも、俺にglowを紹介してくれた人がいて、その人からなら聞いてるかも知れません」

「うちの店を紹介って誰?」

「俺の事を面倒見てくれてたホストの先輩です。源氏名はアヤトです」

「うーん、源氏名じゃ分からないなぁ~。光ちゃんてホストの知り合い多いからな~」


 心当たりを探すけど、なんせ光ちゃんは顔が広い。知り合いのホストなんてわんさかいるよ。俺はホストが嫌いだから全く関わらないようにしてるけど、こうなるなら少しでも知っておくべきだったな。はぁ、光ちゃんも知ってるなら明日光ちゃんに聞いてみようかな。
 とにかく今は冬真だ。今話してくれた事を完全に信じた訳じゃないけど、少なくとも俺は冬真を嫌いにはなっていない。変わらず側にいて欲しいし、側にいたいと思う。


「雪さん、俺の事追い出しますか?」


 俺が隣で腕を組んでいろいろ考えていると、不安そうに顔を覗き込んで来た。そんな冬真を見たら俺は意地悪をしたくなった。


「そうだな。追い出してみようかな?行く当てなんてあるのー?」

「……ないです」


 おい!マジで返すなよ!俺すげぇ性格悪い奴みたいじゃん!いや、性格悪いのは良く言われるし、自覚もあるけどさ~。ちょっとからかっただけじゃん。


「冗談だよ。嘘つかれてたのは許せないけど、それよりも許せないのはその暴力クズ野郎だ。冬真の事は変わらずに好きだよ」

「本当ですか!?」


 冬真はグイッと近付いて嬉しそうに目を潤ませて聞いて来た。俺はそんな冬真を優しく抱き締めてあげる。


「本当だよ。だから俺の前からいなくなるなよ」

「いなくなりませんっ!ずっと雪さんの側にいたいですっ」

「俺も冬真とずっと一緒にいたい♪」


 俺がニッコリ笑うと冬真もニッコリ笑った。
 そしてキスをして二人で仲良く手を繋ぎながら俺の寝室へ戻る。今日のところはここまで!エッチはまた今度にする事にした。冬真が気にせずに服を脱げるようにまるまでの辛抱だ。
 体の痣は時間が経てば消えるだろう。
 だけど心の傷を簡単に消すのは難しい。
 せめて少しでも和らぐまではこのままでいた方が良いと思っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

処理中です...