48 / 76
四章
47.光ちゃんの部屋
しおりを挟む俺は光ちゃんに支えられながら店を出て最近では来る事の無かった光ちゃんの住むマンションに来ていた。
俺と冬真が住むマンションよりも高いであろうその部屋の中は、綺麗な外装とは裏腹に色々な物で溢れかえっていて光ちゃんらしい男って感じの部屋だった。
「先にシャワーいいぞ。あ、浴槽はしばらく洗ってないから浸かりたいなら洗ってからな」
「……シャワーでいい」
光ちゃんに言われて廊下からそのまま浴室へ向かう。脱衣所のカゴにも選択前であろう服がこんもり溜まっていた。
光ちゃんに女がいないのが良く分かる部屋だった。きっとリビングやキッチンも似たような感じだろうな。
でも俺は、遊びに来ていた頃と変わらないその光ちゃんの部屋にホッとしていた。
シャワーを使った後、洗濯機の蓋の上に用意されていた光ちゃんのスウェットを借りてドライヤーした後、リビングへ向かう。
何も言ってないけど、状況的に話終わったら光ちゃんの家で寝ていいって事だ。
正直、体調は良く無かった。前日にろくに眠れてないのと、ちゃんとご飯を食べていない事と、光ちゃんの話を聞いたので一気に悪化した。
軽く目眩がする中、光ちゃんがいるであろうリビングへ行くと、フワッと甘いココアの匂いがした。
「サッパリしたかー?酒飲みながらって言ったけど、今のお前にはこっちのがいいだろ。これ飲んで暖まりな?」
「ホットココアって、ワタルじゃん」
「お前も好きな癖に~♪んじゃ俺も軽くシャワーしてくるからよ、適当に休んどけ」
「ん。光ちゃん、ありがと」
「おう」
何に対してのありがとうかは告げずに言うと、光ちゃんはいつものようにニカッと笑ってリビングから出て行った。
やっぱりリビングも廊下や脱衣所と同じように物で溢れかえっていた。前に来た時よりも酷くなってる気がする。俺はココアを飲みながら部屋の中を見渡してあの頃と変わった所がないか、自然と探していた。
人の部屋をチェックするとかメンヘラ彼女かよ。きっと第三者がここにいたらそんなツッコミをされてただろうな。
俺が抱く光ちゃんへの感情は完全に兄や親に対する尊敬と信頼だけだ。恋愛感情は一切無い。だから周りから夫婦だのなんだの言われても平気でいられたんだ。
だって、周りからそんな風に思われて茶化される、それが俺と光ちゃんだから。
あー、いろいろ思い出したらまた泣きたくなって来たな。
光ちゃんもいきなりあんな事言い出すなんてあんまりだよ。それに一緒にやる人って誰?俺以外にそんな相手がいたのかよ……
「うう……光ちゃん……置いてかないで……」
黒い革のソファに座って膝を抱えるように座って静かに泣いた。
頭が痛くてもう何も考えたくないのに次々と光ちゃんに対する疑問や不満が過ぎる。今のglowから光ちゃんがいなくなるなんて、俺から生きる希望が無くなるのと一緒だよ。
俺はこれからどうしたらいいの。
もう冬真達にもどんな顔して会えばいいのか分からないよ。いや、会いたくない。今は誰にも会いたくないんだ。
今はただ、光ちゃんの側にいて何とか説得して考え直してもらいたかった。
「お、起きてたか」
「光ちゃん……」
まだ濡れてる髪を拭きながらシャワーから戻って来た光ちゃんは冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出してプシュッと音を立ててそのままグビグビ飲み始めた。
そんな光ちゃんもあの頃と何も変わらないように感じる。
そして俺の所まで来て隣にドカッと、男らしく大股開いて座る。髪は濡れてて、いつもあげてる部分が刈り上げてる部分を隠すように降りていて何だか若く見えた。
サングラスをしていない光ちゃんの目は切れ長の一重で、パッと見怖い印象だけど男っぽくて俺は好き。
そんな光ちゃんの目が俺を見て細い眉毛を下げて困ったような顔をした。
「また泣いたのかぁ?お前は本当に俺の前だと甘えん坊になるな~」
「そうだよっ俺は光ちゃんがいないとダメなんだよっだからお願い、どこにも行かないでよ。このまま俺とglowをやろう?」
光ちゃんに縋るように腕を掴みながら頼み込むと、優しく笑ってくれた。
「雪さ、勘違いしてね?俺はglowを辞める訳じゃねぇんだよ。店に顔出すのは減るけど、変わらずglowは俺の店だ。ただちと忙しくなるからその間お前に任せたいってだけだよ。何かあれば飛んでくし、思ったより時間出来てお前が来なくていいって言うぐらい顔出すかもしれねぇしな」
「じゃあ誰と2号店をやるの?二人でって事はよほど信頼出来る人なんだろ?俺よりも?」
「お前はちょいちょい俺の女みてぇな事言うよな。まぁそこも可愛いとこだけどよ。正直信頼できるかどうかは分からねぇ。でも、お前と同じぐらい大切な人だよ」
「誰!!俺と同じぐらいなんている訳ない!!」
「雪~、本当可愛いなぁお前~」
光ちゃんはヘラ~と笑って俺の頭を撫でて来た。
俺はふざけてなんかないのに、光ちゃんはいつも俺を子供にするみたいに反応する。
俺もそれが居心地が良くて、好きなんだけど、今はそんな誤魔化しさえもどかしく感じた。
0
あなたにおすすめの小説
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる