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六章
65.ワタルの事
しおりを挟むそれから数日が経った木曜日、今日は店の定休日で光ちゃんの恋人に会う日だ。
早めに起きて朝から出掛ける準備をしてると、後から起きて来たワタルに声を掛けられた。
「ねぇゆっきー、僕も行きたいな」
「ワタルもぉ?」
「うん。俺だって光ちゃんとは古い付き合いだし、いいだろ?」
「うーん、俺に聞かれてもなー。光ちゃんに聞いてみなよ」
「ゆっきーから言ってよ」
「やだよ。ワタルを連れてくなら冬真も連れて行かなきゃになるだろ」
「冬真くんは良い子でお留守番してるって」
「適当な事言ってんなよ。とにかく俺は時間には出るぞー」
「もう!光ちゃんに聞いていいって言ったら付いてくからね!」
「好きにしなよ」
光ちゃん達との約束の時間は11時だった。まだ9時前だし時間はある。
正直俺は二人に付いて来て欲しい気もしていた。やっぱりちゃんと会えるか不安だったからだ。でも冬真とワタルがいればいつもの俺でいられるかなって思うんだ。
それだけ二人は俺にとって大切な存在になっていた。特に冬真がな。
ワタルがソファに寝転がりながら光ちゃんに電話を掛け始めたから、俺はキッチンで片付けをしていた冬真の所へ行った。
「冬真も一緒に来る?」
「会話、聞こえてたよ。行ってもいいなら行きたいな」
ニッコリ笑って答える冬真。
やっぱり落ち着くなぁ♪
俺は冬真が拭いた食器を棚に戻しながら続けた。
「ワタルには言いたくないけど、二人には来て欲しいと思ってるよ。特に冬真、俺が性格ブスになりそうになったら止めて欲しいんだ」
「分かった♪行けたらいいなぁ」
「はぁ、緊張する……」
「珍しいね。雪はいつでも誰に対しても緊張とかしなそうなのに」
「俺だって緊張はするよ。特に大切な人の信頼する人にはね」
「雪可愛い♡」
「馬鹿にしてるだろ?」
「してないって。俺は雪の味方だよ、たとえ雪が悪者だったとしても、俺は雪から離れないから」
「冬真♡大好き♡でもマナトの話は無しになった訳じゃないからな?今日帰って来たら話し合おう」
なんだかんだ仲直りしてからまだキチンと話せてなかった、冬真の元彼の話。俺は忘れてはいなかった。でも、今は光ちゃんの彼氏との事に集中したいんだ。だから一度は胸にしまっていたけど、思い出すだけでも冬真に八つ当たりしたくなるんだ。
俺が少し意地悪そうに笑って言うと、冬真は眉毛を下げて困ったように笑って頷いた。
「うん。ちゃんと話し合おうね」
「……なぁ冬真」
「何?」
俺は思った。最近冬真とイチャイチャしてないと。したくても家にはもう一人の住人のワタルがいるから思うように出来ないんだ。
もし今日ちゃんと話し合えたら冬真としたいなぁとか思っていたりもする。
「冬真は俺不足じゃない?」
「雪不足?」
「俺は冬真不足~。そろそろ甘えたいな~」
「!!俺も雪不足だよ!あ、今日どこか泊まりに行く?休憩でも!えっとー、二人きりでゆっくり出来るホテルとか……どうかな?」
俺が冬真の腰に手を回してくっ付いて耳元で囁くと、一生懸命誘ってくれた。
本当冬真好きー♡
「うん♡いいね♡楽しみにしてる♡」
「俺も♡雪大好き♡」
そしてゆっくり顔を近付けてお互い目を閉じてキス……
「ゆっきー♪光ちゃんいいって~♪冬真くんも準備して行くよー!」
なんか出来る訳ないよな。
ここでもやっぱりワタルに邪魔をされて、俺と冬真はやれやれと思いながら離れた。
「良かったじゃん。冬真、あとはやるから準備して来なよ」
「うん♪ありがとう」
冬真とバトンタッチして俺は残りの食器類を全て指定の場所に戻す。
そしてニコニコ機嫌の良さそうなワタルに声を掛ける。もちろんワタルの事も忘れてはいない。
「お出掛け出来る事になって浮かれてるとこ悪いけど、お前も家と学校の事ちゃんとしとけよな~。そっちがハッキリするまではただのバイト。それ次第では社員とかの話も考えるから」
「あー、そうだね~。実は父さんに一度帰って来いって言われてるんだ。土曜日に帰ろうと思ってたんだけど、その時に話してくるよ」
「そうだったんだ、また中途半端なまま出て来るなよ?それと、大事な事なんだからちゃんと考えて決めろよ」
「分かってるよ。ここではゆっきーと冬真くんはラブラブだから俺の居場所ないしね~」
「……?」
落ち着いた様子で珍しい事を言うもんだから、思わずワタルの方を見ると、どこかを見ていつになく真剣な顔をしていた。
ふーん、ちゃんと考えてたのか。
でも、そんなワタルが少しだけ可哀想に思えてしまった。
はぁ、少し多くの時間を過ごし過ぎたな。
「ワタル」
「んー?」
「お前の居場所が無い訳じゃないよ。俺と冬真はラブラブだけど、お前がいてくれると……なんて言うか、冬真と上手くやれる気がするんだ。冬真もワタルの事気に入ってるみたいだし、二人が仲良いの見てるの好きだよ」
「僕も冬真くん好きだよ。いろいろ教えてくれるからね~。でも、ライバルである事に代わりはないから居づらいなとは思うよ」
「お前も気にするんだな」
「そりゃするよ~。僕だって人間だよ」
俺を見るワタルの目が何だか悲しそうに見えた。
だけど、俺からは何も言えなかった。
俺が冬真を好きな限り、何を言っても気休めにしかならないだろう。俺はこれから先冬真と離れるなんて事や、勿論別れるつもりも無い。
たとえ過去に愛し合った仲であるワタルに好きと言われても、俺は冬真を裏切りたくはないんだ。
冬真が元彼の所に戻らない限りはな。
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