恋に臆病なままではいられない

pino

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六章

69.封印していた気持ち

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 俺は部屋の中に入ってワタルの肩を掴んですぐ横で大きな声を出すと、ワタルはさも嫌そうな顔をして振り向いた。


「おい!ワタル!返事ぐらいしろよ!」

「ああもう!一人にしてくれよ!どうせ僕の事は愛せない癖に!僕が出て行っても何とも思わない癖に!」

「っ……」

「せっかく出て行くって言ってるのに、喜ぶのが普通だろ?」


 皮肉な笑顔を浮かべているワタルは、いつものワタルじゃなかった。
 いつも明るくて人懐っこいあのワタルがこんな笑い方をするなんて……

 俺がさせてるのか……


「ワタル……待って」

「なんならこのまま戻らない方がいい?それならそうするけど」

「違うっ待てって!」

はいつもそうだ。いつも僕を追い出したがるっ……僕だって、僕なりに考えてるのにっ……いつも自分の気持ちばかりを上から言ってっ……」

「ワタルっ」


 今度は悔しそうに唇を噛みながら、怒ったような顔で睨んで来た。
 また知らないワタルだ。
 そして今言ったのはワタルの本心か?
 まさかあの時もそう思っていたのか?

 それなら、あの時そう言ってくれてれば……もっと、俺も言い返せて変わっていたかも知れないのにっ。


「もううんざりだっ!何もかも消えてなくなればいい!雪なんかっ……雪なんか……き、らい、だ……」


 ワタルは大きな声で言った後、最後は弱々しく消えそうな声で言って泣いた。
 ポロポロと流す涙を一生懸命に拭うワタルを見て俺は胸が張り裂けそうになった。

 自然と体が動いてワタルに手を伸ばしてギュッと強く抱き締めた。
 

「ごめんねワタル、ごめん。俺が悪かったから」

「きらいっもう……きら……」

「ワタルっ」

「雪なんか……雪なんか……」

「ワタル」


 抱き締めながら顔だけ離して、覗き込むと、長いまつ毛を伏せて項垂れていた。
 そんなワタルの瞼にチュッとキスをすると、一瞬キュッと目を閉じて、そして目を開けて俺を見る。
 やっといつものワタルになった事に俺はホッとしていた。

 残った涙を拭ってやり、おでことおでこをくっ付けて俺は極力優しく話し掛けた。


「ワタルの気持ち良く分かったよ。いつも一方的に上から物を言ってごめんね?」

「……本当に分かったのか?」

「うん。いつもワタルにばかり我慢させてたね。これからはちゃんと聞くから」

「ゆっきー……」


 いつものように俺の事を呼んで、また瞳を潤ませるもんだから泣かせまいと俺は唇にキスをした。
 ワタルにはもうあんな顔をさせたくない。いつもみたいに「ゆっきー」って呼んで欲しい。

 ワタルとこうして再び触れ合って思ったけど、やっぱり俺はワタルの事が好きだ。
 勿論冬真の事も好き。どちらかを選べなんて今は出来ない。

 少なくとも今は不安定な心をしているワタルの側にいてやりたいんだ。


「もう泣くなよ。ワタルは笑ってなきゃダメだろ」

「笑顔でばっかいるの疲れたんだよ」

「はは、お前でもそう思う時あるんだ?」

「ううん。今だけ」

「俺がそう思わせたんだよな、ごめんね?」

「ゆっきー……僕もごめん。本当は大好き」

「知ってる♡俺も好きだよ♡」

「ゆっきぃ……」


 抱き合いながらまたキスをした。
 まるであの頃のように、夢中でキスをした。
 
 ふとドアの所に気配を感じて我にかえる。
 俺、部屋のドア閉めたっけ?

 ワタルを抱き締めたまま、顔だけドアの方へ向けると、そこには無表情の冬真がいた。
 
 絶対見られたよね、俺がワタルの事を好きって言ったの聞かれたよね。

 恋人に浮気現場を見られたと言うのに、何故だか俺は落ち着いていられた。


「ごめん冬真、俺やっぱり……」

「コンビニ行って来る。すぐに戻るから……」

「冬真?」


 怒られると思ったのに、冬真は表情を変えずにスッといなくなった。
 
 バタンと玄関のドアが閉まる音がして、俺は冬真を裏切る事をしたんだと実感した。
 どうしよう……俺、冬真を傷付けた。

 
「ゆっきー?大丈夫?」

「ワタル……俺……」

「うん、きっと冬真くんはちゃんと帰って来るよ。そしたら二人で謝ろう」

「うん……」

「でも僕は悪い事をしたと思ってないよ。だってゆっきーも僕の事が好きで、キスもしたかったんだろ?好き同士キスするのが悪い事だとは僕は思わない」

「俺はダメだと思う。もし冬真が俺の他に好きな人がいて、その人とキスしてるのを見たら許せないもん」

「それはゆっきーだからだろ?僕は許せるよ。現にゆっきーと冬真くんがキスしてるのを何度も見てるけど、変わらずゆっきーの事は好きだし、冬真くんの事も良い人だと思ってるよ。後は冬真くん次第だね」

「ワタル、お前って心広過ぎないか?」

「そう?僕はゆっきーに好きでいて貰えてれば何もいらないよ。欲を言えば愛して欲しいけど」


 優しく笑ってそう言うワタルに、俺は吸い込まれるようにまたキスをする。
 もうダメだ。どうしようもなくワタルの事が好きだ。
 ずっと蓋をして鍵を掛けて閉じ込めていたものが爆発して暴れてるように、ワタルへの想いが止まらなかった。
 
 もうワタルを手離したくない。
 出て行って欲しくない。
 あの時は出来なかったけど、今なら出来る。
 いや、やるよ。ワタルの話をちゃんと聞いて、絶対に出て行けなんて言わないんだ。

 もうこの部屋が空になって一人で泣くような事はしないんだ。

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