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六章
70.離れていたものが全て引き寄せられる時
しおりを挟むしばらくしてから俺もワタルも落ち着いて、離れようとすると、ワタルに「もうちょっとだけ」と抱き締められた。
俺も嫌じゃなかったからそのままでいるけど、さすがに冬真が帰って来てこのままじゃマズいだろ。
ワタルとのあんな場面を見られても、まだ冬真が帰って来ると思っている自分は少し自信過剰か。もしかしたら嫌気が差してもう戻って来ないかも知れないのに。
それでも俺はワタルから離れられなかった。
「ワタル、そろそろ冬真が帰って来るかもだから」
「んー、玄関が開くまでこのままでいよ?僕ずっと我慢してたからまだまだ足りないよ」
「ワタル……」
ギュゥッと強く抱き締められて、俺も心が揺らいでついまた腕を回してしまった。
あの頃より逞しくなってるワタルの体、温もりを感じながらワタルの肩ら辺に顔を埋める。
ワタルの匂いがして、胸がくすぐったくなった。
香水とかじゃない、ワタル自身の匂い。これは変わらなくて安心出来た。
「ねぇ、本当にワタルは俺が冬真の事も好きって言っても平気なのか?」
「うん。ゆっきーが僕の事も好きでいてくれるなら平気。たとえ冬真くんの方が少しぐらい上でも、それでも平気だよ」
「それって本当に俺の事好きなのか?」
「好きだよ!だから家も学校も捨ててゆっきーの前に現れたんじゃないか!本気なんだよ!」
「捨ててって……まだ分からないだろ」
「ねぇ、ゆっきーは僕が家や学校を捨てたら喜んでくれる?もっと好きになってくれる?」
「それは……」
あの頃望んでいた事だった。
でも今それをやるって言われても何か違う気がする。
「今だから言えるけど、あの頃だったら家を捨ててでも俺を選んで欲しかったよ。でも今は、ちゃんと向き合って欲しいと思ってる」
「でも、家を継いだらglowにはいられない……」
「だとしても俺とワタルは一緒にいられるだろ。あー、体は離れても心は一緒って事。実際別れてからもずっとお互い好きだった訳だし」
「ゆっきー!」
「そりゃ一緒に暮らせたらいいけど、もう俺達は大人だ。あれしたいこれしたいってワガママが言えるのにも限界があるからな。俺はワタルがどんな選択肢をしても変わらずここで待ってるよ。もう出て行けなんて言わないから」
「嬉しいっ僕、ゆっきーといたいっ!だから父さんとちゃんと話してくるよ。僕、ずっと一人で悩んでたんだ。父さんから戻って来いって言われてて、でもゆっきーといたいって気持ちがあって、でもでもゆっきーには冬真くんがいて、幸せそうだから……はは、まるであの頃と同じだ。僕もゆっきーにちゃんと気持ちを言えてれば怒らせなくて良かったのにね」
「うん。行って来な♪本当にワタルがしたい事を伝えるんだよ。今度は応援出来るようにするからね」
照れたように笑うワタルが可愛いくて、そのワタルの気持ちが嬉しくて、俺はワタルを優しく抱き締めた。
ワタルにはずっと笑顔でいてもらいたい。
そして、側で俺が暴走しそうになったらおどけて助けてもらいたい。
やっぱり俺にとってワタルはとても大切な人だったんだね。
どんなに嫌な事をされてムカついても、悲しい思いをしても、こうして受け入れてしまうのは俺がワタルを求めているからだ。
ワタルも同じなんだろうな。
だから俺がどんなに突き離しても、ちょくちょく顔を見せては気を引いていたんじゃないかな。
あーあ、俺もこんな恋愛してたら、もう弟に強く言えないじゃん。
悔しいけど、弟の方がまだ大人だったのかな。空はちゃんと自分の気持ちに素直にいられたから、本当に好きな人と結ばれた訳だし。
そう言えば弟はあの生意気な彼氏と上手くやってるのか?今年に入ってからまた寄りを戻したとか聞いたけど、それから音沙汰無しだったな。
まぁこんな事弟には言えないけどな!
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