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六章
71.そこにいた二人
しおりを挟むどれぐらいワタルと抱き合っていただろう?
窓の外はすっかり暗くなっていて、もう夜になったんだと分かった。
それでも俺とワタルは抱き合ってそのままで過ごしていた。
「ねぇゆっきー?キス以上の事したぁい♡」
「はぁ?さすがにそれはダメだ。それに冬真も帰って来るだろ」
「冬真くん遅くない?お家帰っちゃったかなぁ?」
「それはマズい!ちょっと連絡してみる!」
俺は慌ててワタルから離れてリビングに置いて来たスマホを取りに行こうとした時、部屋のドアの所に立ってる男と目が合った。
ん?あれ?冬真?買い物袋を持って不機嫌そうな顔して俺達を睨んでた……って冬真!?
「おわっ!ビックリしたぁ!お前いつからいたんだ!?」
「さっきだよ。てかまだそのままだったんだ、引くわー」
「冬真くんお帰り!お土産買って来てくれたー?」
ワタルは何もなかったかのように冬真に駆け寄って袋の中身を確認しているけど、いつの間に帰ってたんだよ!?
玄関のドアの音聞こえなかったぞ!
「うわー、お酒ばっかり。あ、僕のジュースも買って来てくれたんだ♪冬真くん優しい~」
「今日は飲むよ。四人でね」
「四人??」
ずっと機嫌の悪そうな冬真が四人と言うと、冬真の横に俺の弟の空がひょこっと現れた。
空ぁ!?何で冬真といるんだよ!!
「よう兄貴、久しぶり~」
「久しぶりじゃねぇよ!何で冬真といるんだ!?」
「たまたまマンションの入口から一緒だったんだよ。エレベーターも一緒で、兄貴の部屋の鍵を開けようとしてたから声掛けたんだ」
「空くんもお酒飲むよね?雪に美味しいおつまみ作ってもらって楽しく過ごそう♪」
「はい、じゃあお言葉に甘えて……」
「コラ!お前は未成年だろ!って、どこ見てるんだ?」
冬真に言われてコクンと頷く弟は、チラッとワタルを見たような気がした。
あ、もしかしてさっきワタルと抱き合ってたの見られたか?それなら冬真と付き合ってる事もあるし余計に言いにくいなぁ。
空の視線に気付いたワタルはニコッと笑い掛けて「こんばんは」と挨拶していた。
「やぁ空くん、久しぶりだね」
「ワタルさん……お久しぶりです」
「ちょっと待ったー!!何それ!?何で二人が久しぶりとか言ってんだ!?」
冬真がいつの間に帰っていた事よりも、空が突然家に来た事よりも、どんな事よりも二人のやり取りに驚いてつい立ち上がって叫んでいた。
どう言う事だよ?二人を会わせた事なんかないぞ?どうして二人はそんな親しげな挨拶を交わしてるんだ?
二人に挟まれた冬真は訳が分からないと言った感じだった。
「実は~♪僕と空くんてメル友だったんだぁ♪」
「はは、やり取りしたのは数回ですけどね」
「メル友って何だよっ!何で俺に黙ってそんな事してたんだよ!」
ああ、俺の怒りメーターが上がっていく!
さっきまで想いを確かめ合っていた男と、可愛い我が弟が、俺の知らない所で繋がっていたなんて!
二人を問い詰める俺に、冬真が近付いて来て腕を押さえられた。
「雪、落ち着いて。とりあえず何か食べて飲みながら話そう?俺も雪に話あるから」
「冬真……分かったよ!言っておくけど俺は何も作らないからな!今日はデリバリーだ!ワタル!適当に頼んで用意しろ!」
「はーい♪空くん何食べたい?向こうで一緒に選ぼ~♪」
「わーい♪ご馳走様でーす♪」
ワタルは空を連れて部屋から出て行った。
残された俺と冬真は少し間があったけど、俺は自分でした事に気まずさを感じたけど、開き直る事にした。
「とりあえずおかえり」
「ただいま。まさかまだ抱き合ってるとは思わなかったよ」
「うっ……ごめん」
「雪、俺の事好き?」
「うん。好き」
ここで冬真は俺の手をギュッと握った。
そして俺に向き直ってニコッと笑った。
あ、怒ってないのか?
「それならいい。俺は雪がワタルくんを選んだとしても諦めないから。どんな雪でも好きだから」
「冬真っ」
「だからお願い。俺もここにいさせて?ワガママ言わないから、雪の側にいたい」
「あ、当たり前だろ!てか帰って来なかったら探しに行くつもりだったし!」
「本当に?それなら探しに来て貰えば良かったかな」
あははと笑う冬真。普通に笑ってるけど、ワタルとの事を良く思ってないだろうな。だって、あんなの浮気じゃん。
冬真はどこまで本気で言ってるのか分からないな。
はぁ、どうしたらいいんだろう。
空も来てるのに困ったなぁ。
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