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【獣王国某視点】
しおりを挟む冬が来る。その前に覚悟を決めなければならなかった。
昨年に続き、今年も異変が続いた。
まず雨が降らない。大地は見る間に乾涸びて、緑なす大地は赤茶色の荒野になった。ならば、と王家が放出した『水を必要としない作物』は植えてすぐに真っ黒く変色した。あの ーーー 去年の麦のように。川が干上がり、地下水も見る間に枯れていき、井戸の水を奪い合う争いが頻発した。雨乞いをする聖女様は帰らない。「娘のように可愛がっていた聖女候補を見捨てた王家を恨んで国外に出奔した」と、嘘か誠かわからない噂がたった。
食べ物がない。
国庫から支給される食料では、とてもではないが足りない。それに水がない。朝露を、夜露を舐めて凌ぐ。
始まりは兎の獣人の住む家だった。
一家が丸ごと失踪した。そして毎日、村の至る所に残骸が捨てられた。血を啜り、内臓を喰われた無残な姿で。犯人はすぐに捕まった。虎の獣人だった。
肉食の獣人が、力のない弱い草食の獣人を食らった。
それが始まりだった。
強い危機感を覚えた草食の獣人たちは村を脱出しようとした。けれど全員捕らえられた。仕方がない。そう言いながら、俺たちは彼らで喉を潤した。
仕方がない。そう、仕方がないんだ。だって君はもういない。
最初の犠牲者の兎獣人の娘は、俺の恋人だった。君が喰われたのなら。ではもう俺は我慢などしない。草食獣人も肉食獣人も、全てが餌だ。
獣の本能のままに喰らう俺たちの元に召集令状がくる。
冬が来る前に、決めなくてはならない。
魔王討伐軍に加わるか、このまま獣となるか。
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