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【魔道士視点】「ありゃダメだ、諦めろ?」
しおりを挟む魔王を討つべく独立したばかりのハルフォード国に入った。リアムが生まれ育った町は自然が豊かと言えば聞こえはいいが少々野暮ったく、はっきり言うと田舎町だ。優しい町人の人柄に、ああこの純朴な町がリアムを育てたのだと実感する。
リアム…!待っていてくれ!今助ける…!!
ああ、今頃は牢に入れられたり不当な強制労働をさせられたりしているのかもしれない。拷問などはないと信じたいが、相手は魔王国。一刻も早くリアムを救い出さねば。
「やめといたほうが良いんだがのー」
船を用意してくれた老婆が言う。案ずるな、リアムは必ず連れて帰ると言うと、何故か老婆は呆れたように首を振った。
さあ船に乗り込………
『ピンポンパンポーーーーーン!』
……………は!?
『世界中の虫けらどもぉ…と・く・にぃ!メンドゥサの虫けらどもに慶事をお知らせ致しますわぁ!その空っぽの脳みそに刻みなさぁい!この度ぃ、我が主人、海の魔王碧海様がご成婚致しましたわぁ!お相手はリアム・ハルフォード!ハルフォード国の王子ですわあ!!喜びなさい!寿ぎなさい!讃えなさい!恩赦としてもう生け贄は要りませんわあ!!わたくしってばなぁんて優しい!!碧海様とリアムに感謝なさぁい!その身に余る海の魔女の加護も今から引っぺがしますわよー!そして今から数秒だけ!もったいないからぁ、数秒だけリアムと碧海様の幸せらぶらぶな御姿を見せてあげますわぁ!以上!!』
リアム!?リアムに一体何が!?成婚……け…結婚、だと!?
空一面に浮かび上がる《投影》の魔法。馬鹿な……こんな…どれだけの魔力を使うと思っているんだ!?
『(ガサゴソ)……碧海さん、ダメだって…!…ひぅ!そ…そんなとこ触っ…!?』
リアム!!リアムの声だ!砂地の足元から腰を抱かれ密着する映像。縺れ合う足。ま……まさか………!?
『…しー!リアムくん良いの!このくらいしないと……あ、ティティス、もういい?映ってる?喋っていい?』
『ばっちりでございますわあ!』
視界が上にぶれ、全体像が ーーー リアムと魔王と思しき男の姿が映し出される。冷たいほどに整った顔の男だった。リアムの腰……というより尻を掴み、抱き寄せている。な…な……俺のリアムになにをしているんだ!!??リアムが顔を耳まで赤くして嫌がっているじゃないか!!
『メンドゥサ王国ならびに世界中の人間たち。リアム・ハルフォードは私の妻だ。異議のあるものは直訴するがよい。私は逃げも隠れもせぬ』
『ちょ…碧海さん…!碧海さん!!まずいって!!』
『もー…リアムくん?可愛くないことを言う可愛いお口は塞いじゃうよ…?』
2人の唇が触れ合う直前に映像は四散した。どういう事なんだ!?何が起こっているんだ!?
「…………あー…」
勇者が脱力したように呟いて、俺の肩に手を置いた。
「ありゃダメだ、諦めろ?」
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