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20巻
20-2
(それにしても、一〇階の宝箱から手に入れたこの片眼鏡はいい仕事するな。今までより罠の機構を見やすくなったから、解除作業がやりやすい)
このダンジョンでもどこのダンジョンでも、罠はいろんな場所に仕掛けられている。床に仕掛けてあって目に見えにくい小さなスイッチを踏む事で発動するベーシックなタイプに始まり、壁と壁の間に細い糸が張ってあって引っ掛かると起動するタイプ、一定時間で動く地面や壁、あるいは天井から降ってくる長槍……とまあ、目に入る場所全てに目を向けなきゃならない。盗賊系のスキルレベルが高いほど発見しやすくはなるけど、それでも常に目を向けるという癖をつけておかないと見落とすのが、罠というやつの厄介さだ。
踏んだり通過したりしようとすると発動する罠を止めるには、罠の一部を解体しなければならない。その際、片眼鏡で手を使わずに視界の確保ができるようになったため、左右の手を道具の使用に回せるようになった。おかげで、細い所に突っ込む極細のピンセットもどきや、ワイヤーのような固い紐を切るはさみの同時使用ができるようになった。これによって、解除に掛かる時間が短くなるだけじゃなく、作業の疲労感も軽減されている。
また、上位の厄介な罠はどうしても二か所同時に処理を進めなければならず、今までは鏡越しに罠を見て形を記憶して、その記憶に頼って解除したりしてきた。そんな不安要素が今後は消えたのにはホッとする。
片眼鏡の性能はそれだけではなく、今まで小さな鏡を差し込まなければ見えなかった角度にある仕掛けも見られるようになっていた。自由自在に動かせる小さな鏡が三枚ほどあって、それを自分が望んだように動かせるという感じだ。最初はちょっと混乱したが、扱い方が分かれば実に便利だった。もちろんこの小さな鏡にも罠の機構部分だけを拡大してくれる効果があるので、のぞき込まなくてもよくなったのも大きい。
鍵穴をのぞき込んだり罠の機構を見たりするために体勢を崩さなければいけない事など、今までは当たり前だったのだが……その常識も過去の事となった。
そしてしっかりとした姿勢で作業できれば、解除速度は上がるし失敗率は下がる。片眼鏡自体に成功率アップの能力が付与されているが、それ以外の部分でも効果を発揮してくれる良品だった。罠解除の役目を担当している者なら誰もが欲しがるだろう。後で掲示板に情報を上げておこうか。
それからもポチポチとマッピングをしながら進んでいくものの、なかなか下層への階段が見つからなかった。
まあ無理もない。どうもマッピングから察するに、この地下一一階からは、地下一階から九階までよりはるかにサイズが大きくなっているのだから。
多分四倍ぐらいかな? 今ようやくダンジョンの端と思われる壁を見つけ、マッピングの内容からしてその辺だと思う。
地下二〇階を目指すためには、一階層ごとにマッピングを済ませ、最短距離を割り出してから再チャレンジして進まなきゃいけないか。そうしないと、時間が掛かりすぎて自分のログイン可能時間内では突破できそうにない。
(今の時刻は……二二時三七分か。今日はそろそろ帰らないとダメだな。階段発見は明日に持ち越しだ)
十分な睡眠時間を設けないと、次の日に響く。徹夜なんてもってのほか。体調がガタガタになるからなぁ……学生時代はそうでもなかったんだが。それに過去に事故で負った傷の事もある。体に無理をさせれば、古傷は容赦なく再び痛みと共に襲い掛かってくる。そんな事態に陥らないように、休むときはしっかりと休まなければならない。サービス残業なんてものはお断りだが、基本的な労働ができないようでは社会人として話にならん。
帰りはマップを見ながら戻ればよいし、罠もまだ復活していない。さすがにモンスターはうろついているが、突如真横や後ろに湧かれない限りは戦闘を回避できる。
結局一回真横に湧かれたけど、その湧いたオーガさんは魔スネークソードの【円花】で拘束して蹴りで吹き飛ばし、トドメに〈風迅狩弓〉のアーツ《二矢の競演》で射貫いて瀕死に追い込んだ。
その後、覚えてから今まで一回も使った事のない〈義賊〉のアーツ《奪い取る》を試してみた。オーガ辺りなら何か良い物持ってるんじゃないかなーと。
だが、奪い取った物はレア等級の解毒ポーション。まあ自分で使えるからいいかな……
さっさと【円花】でトドメを刺して、戦闘終了。
しかし、先日来トラウマ解除を二回行ったおかげか、【円花】の動きが良い。それに展開コストも減っていて、以前より気軽に使えるのも嬉しいところだ。
あといくつトラウマがあるのかは分からないが、全部解除させるぐらいの勢いで頑張ろう。
その後は特にトラブルもなく、地下一〇階に戻る階段に到着。あと数分で二三時になってしまうな、急いで宿屋へ戻ってログアウトしよう。
ログアウトしたら、盗賊関連の掲示板に片眼鏡の情報を上げておくか。入手確率はちょっと分からないが、一定以上の腕がある盗賊系の人ならばソロでやれる難易度だったから、大した事はないだろう。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
地下一〇階に上がると、店員さんがそんな言葉と共に出迎えてくれた。
「地下九階までとは全く違いますね。広さもそうですが、棲息しているモンスターのレベルや罠の難易度などが段違いでした。ここからが本番である、というダンジョンマスターさんからのメッセージとも受け取れました」
そんな感想を伝えると、店員さんは満足そうに頷く。
「そうですね、我がマスターが、一〇階までは半分観光気分で来られるように設定していると仰っていたのを聞いた事がありますので」
あ、やっぱり地下一〇階までは小手調べなのね。それにしては宝箱の中身が良かったが、そうでもないと人は集まってこないか。
どんなに立派なダンジョンを作っても、人が来なきゃ意味がない。経験を稼ぎやすいとかお宝が手に入りやすいとか、そういう人の欲を掻き立てるエサが必要だ。
「道理で。ここからは一階ごとにコツコツとやっていく必要がありますね……では、今日は失礼しますね」
店員さんに別れを告げて街まで帰還し、宿屋でログアウト。
その後、PCに向かって盗賊掲示板で『片眼鏡 罠 解除成功率アップ』と検索をかけてみる。すると、アイテムの情報自体はあったが、かなり品質にばらつきがあった。
最高品質は今のところレジェンド等級で、最低品質はコモン。当然性能も差があって、レジェンド等級は罠の解除成功率アップや防御アップだけでなく、MP回復効果などの追加オプションがあるらしい。一方コモンは、成功率アップの数値も1%止まりで罠の機構を拡大する能力もなく、更に攻撃を受けると割れて目を傷つけてしまうというマイナス効果まで付いているそうだ。
どうやら片眼鏡は盗賊系の皆さんにとってはもはやメジャーな一品であったようで、先に調べずに書き込まなくてよかったとひと安心。しかしドロップ情報は募集されていたので、『ミミック姉妹のダンジョン地下一〇階にてハイレア等級の片眼鏡を発見』と書いておく。レジェンド等級ならともかく、ハイレアぐらいそんなにヤバイ情報ではないはずだ。もちろん欲しい人がそれなりに来るだろうが、それはダンジョンマスターにとっても都合がいいだろう。
さて、今日はこれぐらいで休んでおこう、明日もしっかり仕事をこなさないとな。
3
あれからダンジョンの攻略を進めて、地下一一階クリアには二日、一二階と一三階はそれぞれ三日も掛かった。そしてやっと本日、地下一四階へと歩を進める事ができた。
スキルレベルも〈技量の指〉が1、〈義賊頭〉が2上がっている。解除する罠の数が減ったので、上がり方が鈍いのは致し方ない。また、あんまり同じ階層にばっかり拘っていてもレベルアップが止まってしまうだろうから、そこまで気にしないでおく。全く上がっていないわけではないってだけで十分だ。
さて、一四階もダンジョンの外見に変更は見られない。一二階や一三階も変化がなかったから、ガラッと大きく変わるとしたら二一階以降になるんだろう。
ま、今は黙々とマッピングを重ねて前に進むだけ……なのだが、頭の上にいるアクアがちょっと退屈そうだ。出番がほぼないからか、ダンジョン内では大半の時間を寝て過ごすようになった。何で寝ているのに頭の上からずり落ちてこないのか不思議だが、それを言ったらそもそも体の大きさや体重まで自由自在という理不尽な存在だ。突っ込むだけ無駄というものか。
そんなアクアを頭に乗せたまま一四階の探索を行っていると、《危険察知》に突如反応が。モンスターでもないし、他のプレイヤーでもない。おそらくこっちの世界の住人と思われるものの、行動がおかしい。移動速度から察するに走っているらしいが、この罠だらけのダンジョンでそんな事をして大丈夫なのか?
そう思っていると、数秒後に理由が分かった。
その反応の後方に、多数のモンスター反応が確認できたのだ。つまり、大量のモンスターに追いかけられるトレイン状態。
それじゃ走るしかないよねー……なんて考えていたら、反応がこっちに向かってくる。ちょ、冗談じゃない!?
巻き込まれないよう、一三階への階段に通じるルートから少し外れた場所まで戻る。そこで〈隠蔽・改〉を使いながら、追いかけているモンスターの反応がこの階層から消えるまでやり過ごそう。
そう考えていたのに――
「あとよろしくってな!」
モンスターに追われていた奴は、そんな言葉と共に、横道にいた自分に向かって何かを投げつけてきた。
予想もしていなかった行動で、回避する事ができず、右手の盾でとっさにガードする。その投げつけられた物は盾に当たって、ぽとりと目の前に落ちた。
それは小さな袋。硬貨を数枚入れたらいっぱいになってしまう程度の大きさしかない。何でこんな物を、アイツ――声からして男だった――は自分に投げつけてきたのだ?
その疑問の答えはすぐに出た。モンスターの反応が一瞬止まり、その後、自分に向かって走ってきたからだ。
(これ、モンスターを引き寄せる匂いか何かを出す道具か! まさかこっちの世界の住人からMPK行為を受けるなんて!)
MPK、モンスタープレイヤーキラー。大量のモンスターを引き連れてきて、それを擦り付けて間接的に他人を殺す行為の事だ。方法は色々で、今回のようにモンスターの行動をコントロールできるアイテムを使うとか、タイミングを見計らって隠れる事でモンスターのターゲットを他人に切り替えさせる、などが代表的か。更に、モンスターに囲まれたターゲットに麻痺毒などを打ち込んで動きを止め、より確実にモンスターに殺させる、なんてやり口もある。
これ、殺すのがあくまでモンスターなのでシステム上はPK判定がされず、「ワンモア」のようにPKが禁止されているゲームでも使えるのだ。
今回のモンスターの数は……ざっと見ても三〇以上! まともにやったら間違いなくやられる。仕方がない、今回は非常事態だ。
「アクア、起きてくれ! ちょっとマズい事になった!」
アクアを起こし、更に自分も〈偶像の魔王〉を発動。接近されると厄介なので、その前にアクアと魔王モードの火力で遠距離から叩き潰す。芸も何もないが、とにかく今は目の前に迫りつつあるモンスター集団を全力で処理するしかない。
しかし、モンスターを擦り付けてきたアホは、何を考えてこんな巨大なモンスタートレインを作り上げたんだよ……
「ぴゅい!」
アクアが『来るよ!』と言わんばかりにひと鳴きする。こちらもモンスターの動きは《危険察知》で把握している。魔王モード特有の魂弓に矢を三本同時に番え、矢に魔法を流し込む。今回は火の爆発系魔法だ。複数を一気にブッ飛ばすにはこれが一番手っ取り早い。ダンジョンという閉所なので、より効果的だな。
そうして待ち構えていたところに、モンスターの団体さんが角を曲がって姿を現した。
直後、無数の氷の槍が頭上のアクアから放たれる。そこにワンテンポ遅れて、爆発魔法が込められた三本の矢を発射。氷の槍で先頭集団が串刺しになったモンスター達のところで、大爆発が引き起こされる。
「次々行くぞ!」
「ぴゅい!」
この最初の一手で相手の突進力は大きく削れた。あとは近寄られないように連射するだけでいい。その戦い方はさながらシューティングゲームのように見えるかもしれない。
魔王モードで魂弓を運用すると、本当に容赦ないダメージがぽこすか出るので、一体一体の撃破が早い。そこにアクアからの支援攻撃もあるので、詰め寄られる心配はない。そしてそれらは冷静さを保つ事に繋がり、ミスなくモンスターを次々と屠れる。逆に、そうしないと、こちらがモンスターの波に呑み込まれる事になるのだが……
あの袋を投げつけてきた奴はチラッとしか見えなかったし、声だけじゃさすがに捜しようがない。もし見つけたら一発ぐらい殴ってやりたいが、それは諦めるしかないか。
そんな事を考えている間も、モンスターのお代わりが次々とやってくる。今は目の前の敵を倒す事だけに集中しよう。
「よし、数がだいぶ減ってきた! あと少しだ!」
「ぴゅい!」
アクアの氷魔法、自分の魔王モードに加え、指輪に宿るルエットも自分だけ何もしないのは嫌だとばかりに途中から【円花】を操って参戦した結果、二〇分弱かけて何とかモンスターの殲滅を完了した。
この階層をうろついていたモンスターが全部やってきたんじゃなかろうか。そんな感想が浮かぶぐらいの数であったが、魔王モードが終わってしまう前に片が付いてよかったよ。原因となった匂い袋(?)は、放置しておくのは危険すぎるので回収しておく。
『まったくもう、こんな危害を意図的にマスターに押し付けたアイツは何なのですか! できる事なら首を飛ばしてやりたいです』
「ぴゅぴゅ!!」
魔王モードを解除してひと息つく。そこへちびモードで指輪から出てきたルエットと頭上のアクアは怒り心頭だ。
まあ、首を飛ばしてやりたいとまではいかなくても、それなりに自分も頭に来ている。トレインが出来上がったのが偶然の事故なのか意図的なのか分からんが、それでもそのケツ拭きを一方的に他人に押し付けて自分は逃げるなんてのは許しがたい。
とにかく、無事殲滅できたとはいえどっと疲れた。今日はもう引き揚げて、マッピングの続きは明日とするしかない……今日はあんまり進まなかったなぁ。
なんて思いながら帰り道を歩いていると、面白いものを見た。
「お、おい、これを外してくれ!!」
さて、そいつは足をとらばさみに挟まれ、両腕を天井から下がっている手枷で固められていた。その声からして、さっき自分に匂い袋を投げつけてくれちゃった当人だろう。
こんな罠もあるのか。そんな隙だらけな姿を曝していれば、当然モンスターに見つかった時点でお終いだろう。
(マスター、やっちゃいましょう。このダンジョンでは死人は出ないんです。ええ、どんな事をしても死人は出ないんです。だからどんな事をしてもいいんです)
「ぴゅ~~……」
あ、ルエットの声の雰囲気がちょっとよろしくない。本気でキレてるな。アクアがここまで威嚇する姿も滅多に見ないぞ。
助けるって選択肢は最初からないが、どうするかな……と、ここで有名な言葉を思い出した。目には目を、歯には歯を、だ。
仕返しの方法を決めた自分は、さっき回収しておいた匂い袋をアイテムボックスから丁寧に取り出す。
【魔物寄せ袋】
ほとんどのモンスターが反応する匂いをばら撒く袋。
そのままだとものすごい数のモンスターを呼び寄せてしまうので、
板などに軽く押し付けて匂いを移してから使う必要がある。
製作評価:4
こんな取り扱いに注意が必要な物をぶつけてくれたんだ。因果応報、ブーメラン、言い方は色々だが、やっぱり同じ方法を使わないとね。
拘束されたMPK男も、こちらが何をするつもりなのかを察した様子だ。手足が震えている。
「ちょ、ちょっと待て。それを、まさか、や、冗談だよな? お前だって無事だったんだし、問題なかったよな?」
声まで震えているな。
無事だったから問題がない? いやー、実に面白いご意見ですね。それで許してもらえると思っているんでしょうか? 実に頭の中がお花畑ですね。
「そうですね、問題はありませんでした。だからあなたに同じ事をやっても問題ありませんよね?」
と答えて、男の体全体に【魔物寄せ袋】の匂いを移してあげました。これで彼も十分すぎるほどに楽しむ事ができるでしょう。いや、実にいい事をした。
「では、私はこれで」
「おい、待てよ、これはシャレにならねーよ!? 罠から解放しろよ! 聞いてんのか! おい!」
おやおや、これは十分に楽しんでもらえているようで何よりです。
《危険察知》がぽつぽつとモンスターの反応を感知し始めた。次々とリポップしてるんだろうな。さて、長居は無用、と。
大声で感謝の言葉を叫んでくれている男をその場に放置して、地下一〇階に帰還。こんな物騒なアイテムを持ち続ける理由もないので、手に入れた経緯を話した上で一〇階の店員さんに渡しておいた。
やれやれ、今日はゆっくり休みますか。もし今回の件でこちらが有罪となれば、このダンジョンから素直に出ていく事にしよう。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 〈百里眼〉Lv40
〈技量の指〉Lv77 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18
〈ダーク・スラッシャー〉Lv9 〈義賊頭〉Lv65 〈隠蔽・改〉Lv7
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈上級薬剤〉Lv49 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP30
4
「本日もご来場ありがとうございまーす!」
ご来場て。
地下一〇階に入るなり、もうおなじみとなってしまった店員さんにそんな言葉を掛けられた。一瞬、ここがダンジョンの一部であると忘れそうになるなぁ、緊迫感の欠片もないよ。
「あ、まずはこちらをご確認ください。数日前より、地下一一階以降に向かわれる冒険者の皆様方全員に、必ず一度目を通していただいているものですので」
脱力しているところに、店員さんから一枚の紙を手渡された。
えーっと、いくつかの変更点? ダンジョンマスターからのお知らせ? なんじゃこれは。
『いつも我がダンジョンにおいでいただきありがとうございます。
このたび、当ダンジョンにおいていくつか追加された罠などがございますので、必ずご一読いただきますようお願いいたします。
一、罠の種類の追加
罠が一種類増えております。内容は、周囲の魔物を引き寄せる匂いがばら撒かれるものとなっており、魔物との戦いをお望みの方は、意図的に発動させる事で連戦をお楽しみいただけます。
二、魔物の追加
地下二五階以降に、デミ・ドラゴンが歩き回るようになりました。
数はそう多くありませんが、その代わり強力な個体となっており、是非一度、挑戦していただければ幸いです。なお、治療代は自己負担という点は変更されません。ご理解のほど、よろしくお願いします。
三、魔物を使った意図的な他者への妨害行為について
他の場所ではどのようになっているか興味もありませんが、このダンジョンにおいては、標題にあるようなつまらない行為をした者には、今後面白い罠が発動するようになりました。自分の力量を見極めた上で、ダンジョンの攻略をお楽しみください。
先日も一件発生し、その間抜けな姿っぷりに姉妹一同で大爆笑させていただきました。記録も取ってありますので、見てみたいという方はぜひ一階のカフェにいる店員にお申し出ください。
以上
ダンジョンマスターより』
──いや、本当になんなんだこれは。
ここダンジョンですよね? これじゃMMO運営からのインフォメーションみたいじゃないですか。いや、ダンジョンマスターはダンジョンの運営がお仕事なのだから、これはこれでそう間違ってはいないのか? ダンジョンをどう扱うのかはダンジョンマスター次第なんだし、こちらがあれこれ言う事ではないか……
「お読みいただけましたか? そこにあるように、数日前から多少ダンジョンの内容が変わっておりますので、お気をつけください」
読み終わったダンジョンマスターからのお知らせを、店員さんにお返ししておく。追加された罠は、昨日店員さんに渡した【魔物寄せ袋】を媒体として新しく生み出したんだろうな。
手に入った未知の物品をダンジョンの罠に取り入れる、というやり方は、別におかしくない。もし自分がダンジョンマスターとして活動していたら、同じ事をやるだろう。
時間が流れている以上、どんな場所であっても常に同じ姿のままであり続ける事はまずない。特に侵入者を退けるために用いられる罠なんてものは、常に新しくしていかないといけない部類だし。
ま、今日のところは、昨日のMPKのせいで中断させられた地下一四階の攻略を再開しよう。罠は相変わらず大盛りなので、進行速度が全く上がらないのが困りどころだが……地下一三階辺りから罠がコンボを組み始めているので、遅くても仕方がない。
今のところで確認できた罠コンボの内容は、足止め系罠と突き飛ばし罠の組み合わせぐらいだが、たまにそこに天井落としが加わった即死系コンボが混ざるので、引っ掛かるわけにはいかない。ほんと性格悪い。
(えー、罠のコンボで相手を一瞬で戦闘不能にするのって楽しくないかしら?)
幻聴が聞こえたような気がする。だがあえて無視する。
それにやるほうは楽しいだろうが、やられる側としてはたまったもんじゃないんです。「ワンモア」には痛みもきちんとあるんだから、なおさら食らいたくないよ。もちろん即死級のダメージは痛覚カットされるけど、HP半減ダメージとかはむしろ痛さがきっついんだよなぁ。こんな世界でタンカーをやってるレイジとか、素直にすごいと思うよ。
このダンジョンでもどこのダンジョンでも、罠はいろんな場所に仕掛けられている。床に仕掛けてあって目に見えにくい小さなスイッチを踏む事で発動するベーシックなタイプに始まり、壁と壁の間に細い糸が張ってあって引っ掛かると起動するタイプ、一定時間で動く地面や壁、あるいは天井から降ってくる長槍……とまあ、目に入る場所全てに目を向けなきゃならない。盗賊系のスキルレベルが高いほど発見しやすくはなるけど、それでも常に目を向けるという癖をつけておかないと見落とすのが、罠というやつの厄介さだ。
踏んだり通過したりしようとすると発動する罠を止めるには、罠の一部を解体しなければならない。その際、片眼鏡で手を使わずに視界の確保ができるようになったため、左右の手を道具の使用に回せるようになった。おかげで、細い所に突っ込む極細のピンセットもどきや、ワイヤーのような固い紐を切るはさみの同時使用ができるようになった。これによって、解除に掛かる時間が短くなるだけじゃなく、作業の疲労感も軽減されている。
また、上位の厄介な罠はどうしても二か所同時に処理を進めなければならず、今までは鏡越しに罠を見て形を記憶して、その記憶に頼って解除したりしてきた。そんな不安要素が今後は消えたのにはホッとする。
片眼鏡の性能はそれだけではなく、今まで小さな鏡を差し込まなければ見えなかった角度にある仕掛けも見られるようになっていた。自由自在に動かせる小さな鏡が三枚ほどあって、それを自分が望んだように動かせるという感じだ。最初はちょっと混乱したが、扱い方が分かれば実に便利だった。もちろんこの小さな鏡にも罠の機構部分だけを拡大してくれる効果があるので、のぞき込まなくてもよくなったのも大きい。
鍵穴をのぞき込んだり罠の機構を見たりするために体勢を崩さなければいけない事など、今までは当たり前だったのだが……その常識も過去の事となった。
そしてしっかりとした姿勢で作業できれば、解除速度は上がるし失敗率は下がる。片眼鏡自体に成功率アップの能力が付与されているが、それ以外の部分でも効果を発揮してくれる良品だった。罠解除の役目を担当している者なら誰もが欲しがるだろう。後で掲示板に情報を上げておこうか。
それからもポチポチとマッピングをしながら進んでいくものの、なかなか下層への階段が見つからなかった。
まあ無理もない。どうもマッピングから察するに、この地下一一階からは、地下一階から九階までよりはるかにサイズが大きくなっているのだから。
多分四倍ぐらいかな? 今ようやくダンジョンの端と思われる壁を見つけ、マッピングの内容からしてその辺だと思う。
地下二〇階を目指すためには、一階層ごとにマッピングを済ませ、最短距離を割り出してから再チャレンジして進まなきゃいけないか。そうしないと、時間が掛かりすぎて自分のログイン可能時間内では突破できそうにない。
(今の時刻は……二二時三七分か。今日はそろそろ帰らないとダメだな。階段発見は明日に持ち越しだ)
十分な睡眠時間を設けないと、次の日に響く。徹夜なんてもってのほか。体調がガタガタになるからなぁ……学生時代はそうでもなかったんだが。それに過去に事故で負った傷の事もある。体に無理をさせれば、古傷は容赦なく再び痛みと共に襲い掛かってくる。そんな事態に陥らないように、休むときはしっかりと休まなければならない。サービス残業なんてものはお断りだが、基本的な労働ができないようでは社会人として話にならん。
帰りはマップを見ながら戻ればよいし、罠もまだ復活していない。さすがにモンスターはうろついているが、突如真横や後ろに湧かれない限りは戦闘を回避できる。
結局一回真横に湧かれたけど、その湧いたオーガさんは魔スネークソードの【円花】で拘束して蹴りで吹き飛ばし、トドメに〈風迅狩弓〉のアーツ《二矢の競演》で射貫いて瀕死に追い込んだ。
その後、覚えてから今まで一回も使った事のない〈義賊〉のアーツ《奪い取る》を試してみた。オーガ辺りなら何か良い物持ってるんじゃないかなーと。
だが、奪い取った物はレア等級の解毒ポーション。まあ自分で使えるからいいかな……
さっさと【円花】でトドメを刺して、戦闘終了。
しかし、先日来トラウマ解除を二回行ったおかげか、【円花】の動きが良い。それに展開コストも減っていて、以前より気軽に使えるのも嬉しいところだ。
あといくつトラウマがあるのかは分からないが、全部解除させるぐらいの勢いで頑張ろう。
その後は特にトラブルもなく、地下一〇階に戻る階段に到着。あと数分で二三時になってしまうな、急いで宿屋へ戻ってログアウトしよう。
ログアウトしたら、盗賊関連の掲示板に片眼鏡の情報を上げておくか。入手確率はちょっと分からないが、一定以上の腕がある盗賊系の人ならばソロでやれる難易度だったから、大した事はないだろう。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
地下一〇階に上がると、店員さんがそんな言葉と共に出迎えてくれた。
「地下九階までとは全く違いますね。広さもそうですが、棲息しているモンスターのレベルや罠の難易度などが段違いでした。ここからが本番である、というダンジョンマスターさんからのメッセージとも受け取れました」
そんな感想を伝えると、店員さんは満足そうに頷く。
「そうですね、我がマスターが、一〇階までは半分観光気分で来られるように設定していると仰っていたのを聞いた事がありますので」
あ、やっぱり地下一〇階までは小手調べなのね。それにしては宝箱の中身が良かったが、そうでもないと人は集まってこないか。
どんなに立派なダンジョンを作っても、人が来なきゃ意味がない。経験を稼ぎやすいとかお宝が手に入りやすいとか、そういう人の欲を掻き立てるエサが必要だ。
「道理で。ここからは一階ごとにコツコツとやっていく必要がありますね……では、今日は失礼しますね」
店員さんに別れを告げて街まで帰還し、宿屋でログアウト。
その後、PCに向かって盗賊掲示板で『片眼鏡 罠 解除成功率アップ』と検索をかけてみる。すると、アイテムの情報自体はあったが、かなり品質にばらつきがあった。
最高品質は今のところレジェンド等級で、最低品質はコモン。当然性能も差があって、レジェンド等級は罠の解除成功率アップや防御アップだけでなく、MP回復効果などの追加オプションがあるらしい。一方コモンは、成功率アップの数値も1%止まりで罠の機構を拡大する能力もなく、更に攻撃を受けると割れて目を傷つけてしまうというマイナス効果まで付いているそうだ。
どうやら片眼鏡は盗賊系の皆さんにとってはもはやメジャーな一品であったようで、先に調べずに書き込まなくてよかったとひと安心。しかしドロップ情報は募集されていたので、『ミミック姉妹のダンジョン地下一〇階にてハイレア等級の片眼鏡を発見』と書いておく。レジェンド等級ならともかく、ハイレアぐらいそんなにヤバイ情報ではないはずだ。もちろん欲しい人がそれなりに来るだろうが、それはダンジョンマスターにとっても都合がいいだろう。
さて、今日はこれぐらいで休んでおこう、明日もしっかり仕事をこなさないとな。
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あれからダンジョンの攻略を進めて、地下一一階クリアには二日、一二階と一三階はそれぞれ三日も掛かった。そしてやっと本日、地下一四階へと歩を進める事ができた。
スキルレベルも〈技量の指〉が1、〈義賊頭〉が2上がっている。解除する罠の数が減ったので、上がり方が鈍いのは致し方ない。また、あんまり同じ階層にばっかり拘っていてもレベルアップが止まってしまうだろうから、そこまで気にしないでおく。全く上がっていないわけではないってだけで十分だ。
さて、一四階もダンジョンの外見に変更は見られない。一二階や一三階も変化がなかったから、ガラッと大きく変わるとしたら二一階以降になるんだろう。
ま、今は黙々とマッピングを重ねて前に進むだけ……なのだが、頭の上にいるアクアがちょっと退屈そうだ。出番がほぼないからか、ダンジョン内では大半の時間を寝て過ごすようになった。何で寝ているのに頭の上からずり落ちてこないのか不思議だが、それを言ったらそもそも体の大きさや体重まで自由自在という理不尽な存在だ。突っ込むだけ無駄というものか。
そんなアクアを頭に乗せたまま一四階の探索を行っていると、《危険察知》に突如反応が。モンスターでもないし、他のプレイヤーでもない。おそらくこっちの世界の住人と思われるものの、行動がおかしい。移動速度から察するに走っているらしいが、この罠だらけのダンジョンでそんな事をして大丈夫なのか?
そう思っていると、数秒後に理由が分かった。
その反応の後方に、多数のモンスター反応が確認できたのだ。つまり、大量のモンスターに追いかけられるトレイン状態。
それじゃ走るしかないよねー……なんて考えていたら、反応がこっちに向かってくる。ちょ、冗談じゃない!?
巻き込まれないよう、一三階への階段に通じるルートから少し外れた場所まで戻る。そこで〈隠蔽・改〉を使いながら、追いかけているモンスターの反応がこの階層から消えるまでやり過ごそう。
そう考えていたのに――
「あとよろしくってな!」
モンスターに追われていた奴は、そんな言葉と共に、横道にいた自分に向かって何かを投げつけてきた。
予想もしていなかった行動で、回避する事ができず、右手の盾でとっさにガードする。その投げつけられた物は盾に当たって、ぽとりと目の前に落ちた。
それは小さな袋。硬貨を数枚入れたらいっぱいになってしまう程度の大きさしかない。何でこんな物を、アイツ――声からして男だった――は自分に投げつけてきたのだ?
その疑問の答えはすぐに出た。モンスターの反応が一瞬止まり、その後、自分に向かって走ってきたからだ。
(これ、モンスターを引き寄せる匂いか何かを出す道具か! まさかこっちの世界の住人からMPK行為を受けるなんて!)
MPK、モンスタープレイヤーキラー。大量のモンスターを引き連れてきて、それを擦り付けて間接的に他人を殺す行為の事だ。方法は色々で、今回のようにモンスターの行動をコントロールできるアイテムを使うとか、タイミングを見計らって隠れる事でモンスターのターゲットを他人に切り替えさせる、などが代表的か。更に、モンスターに囲まれたターゲットに麻痺毒などを打ち込んで動きを止め、より確実にモンスターに殺させる、なんてやり口もある。
これ、殺すのがあくまでモンスターなのでシステム上はPK判定がされず、「ワンモア」のようにPKが禁止されているゲームでも使えるのだ。
今回のモンスターの数は……ざっと見ても三〇以上! まともにやったら間違いなくやられる。仕方がない、今回は非常事態だ。
「アクア、起きてくれ! ちょっとマズい事になった!」
アクアを起こし、更に自分も〈偶像の魔王〉を発動。接近されると厄介なので、その前にアクアと魔王モードの火力で遠距離から叩き潰す。芸も何もないが、とにかく今は目の前に迫りつつあるモンスター集団を全力で処理するしかない。
しかし、モンスターを擦り付けてきたアホは、何を考えてこんな巨大なモンスタートレインを作り上げたんだよ……
「ぴゅい!」
アクアが『来るよ!』と言わんばかりにひと鳴きする。こちらもモンスターの動きは《危険察知》で把握している。魔王モード特有の魂弓に矢を三本同時に番え、矢に魔法を流し込む。今回は火の爆発系魔法だ。複数を一気にブッ飛ばすにはこれが一番手っ取り早い。ダンジョンという閉所なので、より効果的だな。
そうして待ち構えていたところに、モンスターの団体さんが角を曲がって姿を現した。
直後、無数の氷の槍が頭上のアクアから放たれる。そこにワンテンポ遅れて、爆発魔法が込められた三本の矢を発射。氷の槍で先頭集団が串刺しになったモンスター達のところで、大爆発が引き起こされる。
「次々行くぞ!」
「ぴゅい!」
この最初の一手で相手の突進力は大きく削れた。あとは近寄られないように連射するだけでいい。その戦い方はさながらシューティングゲームのように見えるかもしれない。
魔王モードで魂弓を運用すると、本当に容赦ないダメージがぽこすか出るので、一体一体の撃破が早い。そこにアクアからの支援攻撃もあるので、詰め寄られる心配はない。そしてそれらは冷静さを保つ事に繋がり、ミスなくモンスターを次々と屠れる。逆に、そうしないと、こちらがモンスターの波に呑み込まれる事になるのだが……
あの袋を投げつけてきた奴はチラッとしか見えなかったし、声だけじゃさすがに捜しようがない。もし見つけたら一発ぐらい殴ってやりたいが、それは諦めるしかないか。
そんな事を考えている間も、モンスターのお代わりが次々とやってくる。今は目の前の敵を倒す事だけに集中しよう。
「よし、数がだいぶ減ってきた! あと少しだ!」
「ぴゅい!」
アクアの氷魔法、自分の魔王モードに加え、指輪に宿るルエットも自分だけ何もしないのは嫌だとばかりに途中から【円花】を操って参戦した結果、二〇分弱かけて何とかモンスターの殲滅を完了した。
この階層をうろついていたモンスターが全部やってきたんじゃなかろうか。そんな感想が浮かぶぐらいの数であったが、魔王モードが終わってしまう前に片が付いてよかったよ。原因となった匂い袋(?)は、放置しておくのは危険すぎるので回収しておく。
『まったくもう、こんな危害を意図的にマスターに押し付けたアイツは何なのですか! できる事なら首を飛ばしてやりたいです』
「ぴゅぴゅ!!」
魔王モードを解除してひと息つく。そこへちびモードで指輪から出てきたルエットと頭上のアクアは怒り心頭だ。
まあ、首を飛ばしてやりたいとまではいかなくても、それなりに自分も頭に来ている。トレインが出来上がったのが偶然の事故なのか意図的なのか分からんが、それでもそのケツ拭きを一方的に他人に押し付けて自分は逃げるなんてのは許しがたい。
とにかく、無事殲滅できたとはいえどっと疲れた。今日はもう引き揚げて、マッピングの続きは明日とするしかない……今日はあんまり進まなかったなぁ。
なんて思いながら帰り道を歩いていると、面白いものを見た。
「お、おい、これを外してくれ!!」
さて、そいつは足をとらばさみに挟まれ、両腕を天井から下がっている手枷で固められていた。その声からして、さっき自分に匂い袋を投げつけてくれちゃった当人だろう。
こんな罠もあるのか。そんな隙だらけな姿を曝していれば、当然モンスターに見つかった時点でお終いだろう。
(マスター、やっちゃいましょう。このダンジョンでは死人は出ないんです。ええ、どんな事をしても死人は出ないんです。だからどんな事をしてもいいんです)
「ぴゅ~~……」
あ、ルエットの声の雰囲気がちょっとよろしくない。本気でキレてるな。アクアがここまで威嚇する姿も滅多に見ないぞ。
助けるって選択肢は最初からないが、どうするかな……と、ここで有名な言葉を思い出した。目には目を、歯には歯を、だ。
仕返しの方法を決めた自分は、さっき回収しておいた匂い袋をアイテムボックスから丁寧に取り出す。
【魔物寄せ袋】
ほとんどのモンスターが反応する匂いをばら撒く袋。
そのままだとものすごい数のモンスターを呼び寄せてしまうので、
板などに軽く押し付けて匂いを移してから使う必要がある。
製作評価:4
こんな取り扱いに注意が必要な物をぶつけてくれたんだ。因果応報、ブーメラン、言い方は色々だが、やっぱり同じ方法を使わないとね。
拘束されたMPK男も、こちらが何をするつもりなのかを察した様子だ。手足が震えている。
「ちょ、ちょっと待て。それを、まさか、や、冗談だよな? お前だって無事だったんだし、問題なかったよな?」
声まで震えているな。
無事だったから問題がない? いやー、実に面白いご意見ですね。それで許してもらえると思っているんでしょうか? 実に頭の中がお花畑ですね。
「そうですね、問題はありませんでした。だからあなたに同じ事をやっても問題ありませんよね?」
と答えて、男の体全体に【魔物寄せ袋】の匂いを移してあげました。これで彼も十分すぎるほどに楽しむ事ができるでしょう。いや、実にいい事をした。
「では、私はこれで」
「おい、待てよ、これはシャレにならねーよ!? 罠から解放しろよ! 聞いてんのか! おい!」
おやおや、これは十分に楽しんでもらえているようで何よりです。
《危険察知》がぽつぽつとモンスターの反応を感知し始めた。次々とリポップしてるんだろうな。さて、長居は無用、と。
大声で感謝の言葉を叫んでくれている男をその場に放置して、地下一〇階に帰還。こんな物騒なアイテムを持ち続ける理由もないので、手に入れた経緯を話した上で一〇階の店員さんに渡しておいた。
やれやれ、今日はゆっくり休みますか。もし今回の件でこちらが有罪となれば、このダンジョンから素直に出ていく事にしよう。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 〈百里眼〉Lv40
〈技量の指〉Lv77 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18
〈ダーク・スラッシャー〉Lv9 〈義賊頭〉Lv65 〈隠蔽・改〉Lv7
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈上級薬剤〉Lv49 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP30
4
「本日もご来場ありがとうございまーす!」
ご来場て。
地下一〇階に入るなり、もうおなじみとなってしまった店員さんにそんな言葉を掛けられた。一瞬、ここがダンジョンの一部であると忘れそうになるなぁ、緊迫感の欠片もないよ。
「あ、まずはこちらをご確認ください。数日前より、地下一一階以降に向かわれる冒険者の皆様方全員に、必ず一度目を通していただいているものですので」
脱力しているところに、店員さんから一枚の紙を手渡された。
えーっと、いくつかの変更点? ダンジョンマスターからのお知らせ? なんじゃこれは。
『いつも我がダンジョンにおいでいただきありがとうございます。
このたび、当ダンジョンにおいていくつか追加された罠などがございますので、必ずご一読いただきますようお願いいたします。
一、罠の種類の追加
罠が一種類増えております。内容は、周囲の魔物を引き寄せる匂いがばら撒かれるものとなっており、魔物との戦いをお望みの方は、意図的に発動させる事で連戦をお楽しみいただけます。
二、魔物の追加
地下二五階以降に、デミ・ドラゴンが歩き回るようになりました。
数はそう多くありませんが、その代わり強力な個体となっており、是非一度、挑戦していただければ幸いです。なお、治療代は自己負担という点は変更されません。ご理解のほど、よろしくお願いします。
三、魔物を使った意図的な他者への妨害行為について
他の場所ではどのようになっているか興味もありませんが、このダンジョンにおいては、標題にあるようなつまらない行為をした者には、今後面白い罠が発動するようになりました。自分の力量を見極めた上で、ダンジョンの攻略をお楽しみください。
先日も一件発生し、その間抜けな姿っぷりに姉妹一同で大爆笑させていただきました。記録も取ってありますので、見てみたいという方はぜひ一階のカフェにいる店員にお申し出ください。
以上
ダンジョンマスターより』
──いや、本当になんなんだこれは。
ここダンジョンですよね? これじゃMMO運営からのインフォメーションみたいじゃないですか。いや、ダンジョンマスターはダンジョンの運営がお仕事なのだから、これはこれでそう間違ってはいないのか? ダンジョンをどう扱うのかはダンジョンマスター次第なんだし、こちらがあれこれ言う事ではないか……
「お読みいただけましたか? そこにあるように、数日前から多少ダンジョンの内容が変わっておりますので、お気をつけください」
読み終わったダンジョンマスターからのお知らせを、店員さんにお返ししておく。追加された罠は、昨日店員さんに渡した【魔物寄せ袋】を媒体として新しく生み出したんだろうな。
手に入った未知の物品をダンジョンの罠に取り入れる、というやり方は、別におかしくない。もし自分がダンジョンマスターとして活動していたら、同じ事をやるだろう。
時間が流れている以上、どんな場所であっても常に同じ姿のままであり続ける事はまずない。特に侵入者を退けるために用いられる罠なんてものは、常に新しくしていかないといけない部類だし。
ま、今日のところは、昨日のMPKのせいで中断させられた地下一四階の攻略を再開しよう。罠は相変わらず大盛りなので、進行速度が全く上がらないのが困りどころだが……地下一三階辺りから罠がコンボを組み始めているので、遅くても仕方がない。
今のところで確認できた罠コンボの内容は、足止め系罠と突き飛ばし罠の組み合わせぐらいだが、たまにそこに天井落としが加わった即死系コンボが混ざるので、引っ掛かるわけにはいかない。ほんと性格悪い。
(えー、罠のコンボで相手を一瞬で戦闘不能にするのって楽しくないかしら?)
幻聴が聞こえたような気がする。だがあえて無視する。
それにやるほうは楽しいだろうが、やられる側としてはたまったもんじゃないんです。「ワンモア」には痛みもきちんとあるんだから、なおさら食らいたくないよ。もちろん即死級のダメージは痛覚カットされるけど、HP半減ダメージとかはむしろ痛さがきっついんだよなぁ。こんな世界でタンカーをやってるレイジとか、素直にすごいと思うよ。
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