風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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四章

四話 藤堂正道の宣戦布告 届かぬ想いの先にあるもの その七

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「ちょっといいか?」

 学園に戻り、廊下を歩いていた押水を呼び止めた。押水のそばには幼馴染の桜井と大島、生徒会長である押水姉がいる。

「だ、誰ですか、あなたは?」
「風紀委員の藤堂だ。前にも何度か会っているんだが」
「す、すみません。人の顔を覚えるのが苦手で」
「……よく言いますよね、名指しで姉に泣きついたくせに」

 押水のとぼけた態度に、伊藤がぼそっとつぶやく。
 別段気を悪くすることもなく、俺は話を続ける。

「話がある。時間をくれるか?」
「藤堂君、弟君に話があるなら私を通してってあれほど……」

 生徒会長が話を中断させようとする。だが、ここで終わらせるわけにはいかない。

「だから、生徒会長がいる前で話をしています」
「それは屁理屈へりくつです」
「あ、あの……バイトがあるんで」

 押水は笑顔だが、明らかに迷惑そうな態度をとっている。それでもかまわず、きたいことを問いただす。

「すぐに済む。風紀委員として尋ねたい。キミはいろんな女性に好かれているが、誰と付き合うのか決めているのか?」

 直球の質問に、押水は言葉を詰まらせる。押水のそばにいる三人は黙って押水を見つめていた。

「そ、それはその……あなたには関係ないじゃないですか」
「関係ある。キミのはっきりしない態度で多くの生徒から苦情がきている」

 この問いに押水はお決まりの返事をする。

「ええっと、僕は好かれているだけで、恋愛とはまた別だと思うんですけど。僕、モテたことないですし」
「ならはっきり言おう。秋庭あきば先輩と本庄先輩は真剣にキミのことを愛している」

 二人の姿を思い浮かべ、俺は真っ直ぐに押水に彼女達の想いを告げる。それでも押水は態度を崩さない。

「か、勘違いです。本気じゃないですよ」
「そうか……俺は先ほど、二人に会って確認したんだがな。これでもまだ、シラを切るのか?」

 押水はどんな反応を見せるかと思っていたら、逆ギレしてきた。

「ちょっと! いい加減にしろよ! どこまで邪魔したら気が済むんだよ!」
「邪魔していたことを知っていたのか? 俺のことは覚えていないと先程言わなかったか?」
「くっ! ハ、ハル姉からも言ってやってよ!」

 押水は不利になったことを感じたのか、押水姉に助けを求める。押水姉は俺が普段の様子と違うこと、じかに会いに来たことを警戒し、押水の前に立つ。

「藤堂君。これ以上はプライバシーの侵害よ。風紀委員にそんな権限はないわ」
「生徒会長はそれでいいのですか? あなたの弟は想いを寄せている女性や親友をあざむいているんですよ? あなたも手を貸しているから分かっているはずだ」
「言いがかりです。これ以上、強引な対応に出るなら、考えがあります」
「どうぞご随意に。ですが、いいのですか? もし、私を黙らせたら、生徒会長も知らない彼の秘密が闇に葬られますよ」
「もったいぶった言い方ね。それは何かしら?」

 押水姉は全く動揺していないな。手強い。それなら、押水を攻めるべきか。

「おい、押水。俺は絶対にお前のやったことを許さない。人として最低の行為だ」
「いい加減なことを言うなよ! 僕がいつそんなことをした! 本当、いい加減にして……」
「ラブレターはどこにいった?」

 押水の抗議をさえぎるように質問を重ねる。

「ラブレター? なんのこと?」

 一瞬、何を言われたのか分からない押水は、怒るのを忘れて聞き返す。
 俺はゆっくりと押水に問い返す。

「佐藤友也君がキミに預けただろ? 裏は取ってある。もう一度言う。ラブレターはどこにやった?」

 押水の顔が一瞬にして真っ青になる。まさか、俺に知られているとは思ってもみなかったのだろう。

「ラブレター? 弟君、どういうこと?」

 予想外の事で生徒会長は混乱している。やはり、生徒会長はラブレターの件は知らないようだ。

「へえ、友也がラブレターなんて意外ね。もしかして、あんたたち、おホモだち?」

 大島は押水を茶化している。
 生徒会長の問いかけ、大島の茶化しに押水は慌てて返事する。

「ええっと、それは……そう! 友也にさ、頼まれてたんだ! ほら、僕って女の子の友達が多いから、友也の好きな女の子とたまたま知り合いなんだ。だから、代わりに渡してくれって。あいつさ、普段は女の子のことばかり話すくせに、いざって時にはチキンでさ。でも、友也がちゃんとその子に渡したほうがいいと思って、僕は女の子にラブレターを渡さなかったんだ。僕もラブレターの相手のことよく知らないし。ただ、それだけだよ」
「そうなの。それで相手は誰? 私の知っている子?」

 大島の問いに押水は一瞬、言葉を失う。

「だ、誰ってそんなの言えないよ! 男同士の約束だし! それによく知らないし!」
「それがキミの答えか?」

 俺の問いに押水は逆ギレする。

「そうだよ! もうなんなの、あんた! いい加減にしろよ! 何がしたいんだよ! 嫉妬してるの? なら僕を恨むのはお門違かどちがいだろ!」
「そうか。時間をとらせて悪かったな」

 時間をとらせたことに、俺は頭を下げる。押水は俺を無視して大股で横を通り過ぎようとした。

「一つ言っておくぞ、押水一郎」

 押水の足音が止まる。押水を見ることもなく、背中越しに宣言する。

「俺は受けた仕打しうちは必ず返す。覚えておけ」
「な、なんだよ、僕が何をしたんだよ! いい加減、僕の邪魔するのはやめろよ! お前が何をしたって、無駄だし。僕達の絆は強いんだよ!」
「絆……だと?」

 押水のこの一言に、俺は強い嫌悪感が湧き出てた。
 お前のハーレムのせいでどれだけの人が傷ついていると思っているんだ? 親友を騙して、心が痛まないのか?
 押水を殴りたい衝動しょうどうを必死でこらえる。強く握った拳が痛い。爪が肉に食い込み、血が出ても力を抑えることができない。

「そうさ! お前みたいに人の幸せをねたんで嫌がらせをしてくるヤツなんかに僕達の仲を、絆を壊せるわけがない!」

 怒りで理性が吹き飛びそうになる。
 お前が絆を語るのか? お前は親友を、お前の事を愛している女性も裏切り続けているヤツが。
 奥歯をみしめ、罵倒ばとうしてやりたい言葉を必死に飲み込む。そこまで言うのなら、もう言葉は必要ない。行動で証明するべきだ。

「……そうか、なら見せてもらうぞ。お前の絆とやらをな」

 お互い、これ以上言葉も視線も合わせずにその場を去る。
 もう、何も言うことはない。打ち解けることも、妥協だきょうもなしだ。
 徹底抗戦だ。

「桜井さん、体の方は大丈夫なのか?」

 通り過ぎようとする桜井を呼び止めた。この一言で、桜井は俺に何を言われるのか分かってしまったのだろう。真っ青な顔をしている。
 これではっきりとした。左近の調査内容は正しかった。

「本当にこれでいいのか?」
「はい。お願いですからあのことは……」
「分かっている。絶対に押水には話さないから安心してくれ」

 桜井は頭を下げ、そのまま押水を追いかけていった。



「宣戦布告しちゃいましたね」

 伊藤は嬉しそうな顔をしている。俺もつられて笑ってしまう。
 廊下にはもう誰もいない。俺と伊藤だけだ。

「止めなくてよかったのか?」
「止める必要ありました? 私、カチンときました。迷ってた私が馬鹿でした! こうなったらどこまでも付き合いますよ、先輩。彼をやっつけちゃいましょう!」

 伊藤は拳を突き出す。その勇ましい姿にふっと微笑むと、伊藤の拳に自分の拳を軽く当てた。
 やるべきことは分かった。宣戦布告もした。
 勝つために何をするべきか、何をなすべきか。今はわからないが、それでも必ず見つけてみせる。押水を倒す方法を。
 今までの鬱憤うっぷんを晴らせてもらうぞ、押水一郎!
 さあ、反撃開始だ!
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