風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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六章

六話 伊藤ほのかの再戦 勝率0パーセントのリベンジ編 その二

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「こんにちは」
「おっ、処女の伊藤氏、きたよ」

 ピシッ!
 長尾先輩の言葉に、体が石のように硬直した。

「こんにちは、伊藤さん。お昼、やらかしたんだって。あまり問題起こさないでよ」

 橘先輩が苦笑している。
 終わった……。
 私のキラキラな学園生活は音を立てて崩れ去った。

「せ、先輩はこのことを……」
「知らないよ。まだ登校してないからね」

 それだけが救いだった。
 でも、時間の問題だ。誰を口止めしたらいいのか分からないよ。
 こうなれば、この学園自体を燃やして……。

「変なこと、考えてない?」
「いえ、全く」

 私は何の感情もみせずに否定する。

「そう。正道の容態ようたいはどうだった?」
「知りません」

 きっぱりと言い切った。

「いやいや、そこは答えようよ」
「セクハラですよ?」
「どこが!」

 これ以上、傷口を広げたくない。
 そっとしておいてほしい。

「分かったよ。何があったのかは聞かない。話は変わるけど、獅子王先輩の事だけどね」

 獅子王先輩の名前が出ると、体が緊張で硬直してしまう。

「当分は手を出さないことになったから」
「手を出さない?」
「そう。獅子王先輩の問題行動だけど、風紀委員が余計なことをするから被害が大きくなるって言われちゃって。だから、自重じちょうすることになったわけ」

 余計なことをしなくても問題起こしてそうだけどね、あの人は。頼まれても近寄りたくない。

「そうですか」
「だから、当面は見回りと美化活動になるから」

 橘先輩の方針にほっとして、力が抜ける。
 私はまだ、獅子王先輩が怖い。先輩もいないし、不安だよ。早く来てくれないかな、先輩。
 私は窓の外を見ながら、先輩の事を思い浮かべていた。



 先輩が登校してきたのは三日後だった。
 元気になってよかったけど。

「無視された?」

 お昼休み。明日香とるりかに相談に乗ってもらっていた。
 もちろん、先輩のことだ。

「無視じゃないもん。ただ、余所余所よそよそしいというか、なんというか」

 廊下ですれ違った時、先輩は私に挨拶はしてくれたけど、それだけだった。私も気まずかったから助かったけど、ちょっとさびしい。
 気まずくならないよういろいろ考えたことが無駄になった。キスのこと、気にしてるのかな?

「まあ、無理やりキスしたし」
「嫌われたかもね……ってうそうそ! そんなに睨まないで!」
「よかったわ~……もうちょっとでるりかをがけドンするところだったよ」
「笑顔で言わないでよ、ほのほの。それってただの殺人じゃん」

 ふん、縁起えんぎでもないこと言うからだよ。
 先輩に嫌われているなんて……嫌われてるなんて……。

「よしよし、泣かないの」
「……泣いてないもん」
「マジレスなんだけど、やっぱ気まずいっしょ。獅子王先輩にガチで挑んで負けて、年下に慰められてキスされたら、どんな顔すればいいし?」
「……ううっ」

 先輩、私とキスしたこと、嫌だったのかな?
 し、死にたい……。

「あ、明日香! 言い過ぎだよ!」
「いや、現実見るし? 誤魔化してる場合じゃないし。で、どすんの?」

 やっぱり、キスしたこと、謝るべきだよね。それしか、ないよね?

「……謝るべきかな」
「何に対して謝るし? 何か謝ることしたし?」
「でも……」

 先輩に嫌われたくない。そんなのイヤ……。
 うつむいている私に、明日香は優しい声ではげましてくれる。

「とにかく藤堂先輩と話してみるし。それから謝るかどうか判断するし」
「ほのほの、悪い結果ばっかり考えてると辛いだけだよ。大丈夫、大丈夫だから」

 るりかにも励ましてもらい、私は少し元気が出てきた。

「本当?」
「ホント」
「責任とってくれる」
「自己責任って知ってる? フォローしてあげるから。愚痴ぐち、聞いてあげるから」

 るりかが私の肩に優しく手をおいてくれる。友達の優しさが身に染みる。
 渡る世間に鬼はなし。(例外あり)

「……ありがとう」

 私は心の底から感謝の気持ちを伝えた。

「そのかわり、うまくいったら『BLUE PEARL』のこだわりいちごパフェ、おごりなさいよ」
「サンドイッチにして」

 こだわりいちごパフェ、マジ高いから勘弁して。

「ケチ」

 私達は笑いあった。
 不思議なんだけど、嬉しいんだ。今までに経験したことがないくらい辛い想いをして悩んでいるのに、先輩と仲直りできそうだと思った瞬間、嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
 やっぱり、恋するって楽しい。



 なんだかんだで放課後になっちゃった。
 いきづらいな、風紀委員室。近づくたびに弱気になってる。
 い、いきたくない。帰ろかな、帰るのよそうかな。

「何をなさっているのですか? あなたは」
「ひぃ! 黒井さんか。驚かさないでよ!」
「勝手に驚かれても困りますわ。何かやましいことでもありますの?」

 黒井さんの毒舌は相変わらずで困る。ただでさえ、気落ちしているのに。
 この扉の先は未知のゾーン。開けたくないよ~。

「藤堂先輩ならいませんわよ。校舎裏で特訓してますわ」
「特訓?」
「対獅子王先輩ですわ。お姉さまと長尾先輩が……って、人の話を」

 黒井さんの話を最後まで聞かずに私は校舎裏に向かった。
 校舎裏に、先輩は……いた!

「おい、藤堂! 病み上がりで弱ってるのか? それとも、弱くなったのか! もっと、気合入れろ!」

 先輩は御堂先輩と特訓しているみたいだ。御堂先輩の攻撃をさばき続けている。先輩は防御にてっしているみたい。
 少し離れて様子を見ていた長尾先輩が私に声をかけてきた。

「おっ、伊藤氏、ちわっす。どったの? 怖い顔して?」
「なんで病み上がりの先輩がこんなことしてるんですか! 獅子王先輩の件は保留でしょ!」

 病み上がりなのに無茶して! もっと自分の身体、大事にするべきでしょ!
 それで、獅子王先輩に負けたのに、なんでそんなことも分からないの!
 怒りが抑えきれない。

「な、なんで伊藤氏が怒るの?」
「先輩が無茶してるからでしょ! また風邪をひいちゃいますよ!」

 信じられない!
 バカなの? 学習しないの? 昔のテレビみたいに叩いたら治るの? 私の必殺パンチ、火中天津○栗拳をお見舞いして差し上げましょうか?

「リベンジでしょ、普通に考えて」
「勝てるわけないじゃないですか! 相手はボクシングで三連覇した人ですよ! ちょっとやそっとの努力で勝てませんよ!」
「ま、そうなんだけど」

 かっーちーん!

 頭にきた! ここは否定するところでしょ!

「え、何でですか? まだ戦ってもいないじゃないですか? 勝負は終わるまで分かりませんよ? あきらめたら試合終了でしょ? 先輩、あきらめてませんよ?」
「伊藤氏、どっちなん? 戦ってほしいの? ほしくないの?」
「戦ってほしくないですよ。でも、負けて欲しくないです」

 傷ついた先輩を、倒れている先輩を思い出すだけでも、膝が震える。なんで、殴りあいでしか解決できないんだろう。
 話し合いで解決すればいいじゃない。意味分かんない。

「男は時に拳と拳でしか分かりあえない生き物なんだよ。そこに男の美学があるわけ。女の子の伊藤氏には分からないと思うけど」
「分かりますよ、私にだって男の美学は」
「ほぅ? では教えてもらいましょうか? 男の美学を」

 私は胸を張って答えてあげたの。男の美学、それは……。

「BLですよね?」
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