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番外編 零章
零話 藤堂正道の憂鬱 その一
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「おかえり、正道。お勤めご苦労さん」
「……出所帰りじゃないんだ。そんなふうに言われる筋合いはない」
全く、俺は犯罪者か何かか?
風紀委員長、橘左近の出迎えについ眉をひそめてしまう。
押水一郎のハーレム騒動が終わって一ヶ月が過ぎていた。俺は押水にハーレム発言をそそのかした主犯として、一ヶ月の奉仕活動の罰が与えられた。
ようやく片が付き、こうして風紀委員に復帰したというわけだ。
夏の暑さもやっと落ち着き、この部屋の窓から入ってくる風が涼しくて心地いい。一ヶ月ぶりに入った風紀委員の部屋は当たり前だが、何も変わっていない。
長机に風紀委員の生徒のカバンが置かれ、壁に並んでいるロッカーは女子部員が使用している。備品が部屋の片隅に置かれ、窓際に風紀委員長の机と椅子がある。
その机で左近は書類整理をしている。いつもの光景だ……と思ったら、一つ気になるものを発見した。
『問題』という文字が目に入り、その書類を手にしようとしたとき、左近はその書類を裏返した。まるで、見られたくないものを見られたような態度だ。
何かトラブルが発生しているのだろうか? そう思いつつ、尋ねようとしたら、先に左近が説明してきた。
「この書類は見ない方がいいよ。正道のご想像通りのものだから」
やはりトラブル関係か。だが、左近が隠そうとするのは珍しい。そういったトラブルは俺に回ってくることが多いのに。
俺の中で、その書類の興味が高まる。不謹慎な考えだが、リハビリにもってこいだと思ったからだ。
奉仕活動をしていたので、荒事からは身を引いていた。そのカンを取り戻しておきたい。
この青島高等学校は様々なトラブルが日々発生している。その大半が不良達の起こす問題事だ。
この青島は海に囲まれたリゾート地なのだが、自然が多い為、娯楽施設がない。それに、南区の広い湾岸と複雑なコーナーが入り乱れる峠の道は暴走族の格好の走り場として有名になっている。
すべての不良が悪いというわけではないが、トラブルが発生しているのも事実。不良達が喧嘩や抗争をするのは勝手だが、そのせいで理不尽な目にあう生徒がいるのは見逃せない。納得いかないからだ。
「そのトラブル、俺ではダメか?」
「やめたほうがいいよ。とんでもなく厄介なトラブルだ。正道の手に負えない可能性が高い」
「それは挑発か? とにかく見せてくれ」
左近が止めるのを振り切って、裏返った紙を手にした。
書かれていた内容は……。
『同棲問題について』
俺はそっと紙をもとの場所に置いた。ちゃんと裏返してだ。
「すまない、左近。俺には荷が重すぎる」
「でしょ? 正道には他にお願いしたいことがあるの。正道向きのね」
「そうだな。それで頼む」
この紙は見なかったことにして、左近の依頼した厄介ごとを片付けよう。もう、恋愛のトラブルはこりごりだ。そう思いつつ、席に着く。
「正道にお願いしたいのは、不良グループの亜羅死についてなんだけど……」
「こら! 現実逃避しないでくださいよ! 私の出番がなくなるじゃないですか!」
「い、伊藤?」
突然現れた伊藤に、俺は驚きを隠せなかった。
伊藤ほのか。
ハーレム騒動で知り合った女子で、左近が騒動を収拾をさせる為に特別に呼び寄せた臨時の風紀委員……なのだが……。
「お久しぶりです、先輩!」
ニコニコと挨拶してくる後輩に、俺は心の中でため息をついた。
明るめの脱色された茶髪のエアリーショートにカート丈は膝上、ブラウスのボタンが三つ開けられ、そこから見える胸元にハートのネックレス。風紀委員を挑発するような格好の女子だ。
ハーレム騒動は解決できたので、役目を終えた伊藤はもう風紀委員と関わり合いがないはず。なのに、なぜここにいる? しかも、風紀委員の腕章もつけて。
「ははっ、ごめんごめん。同棲問題なんて他の子でも大丈夫でしょ? だったら、正道には他の件で動いてもらいたいの」
「それはないですよ、橘風紀委員長~。約束したじゃないですか~」
約束? 何のことだ。伊藤に同棲問題……嫌な予感しかしない。それに、左近は伊藤が風紀委員であることに何の疑問も抱いていない。ということは……。
「伊藤……お前、風紀委員に入ったのか?」
「はい! 一年B組、伊藤ほのか。昨日から風紀委員としてこちらにお世話になっております! 先輩、改めてよろしくお願いします!」
びしっと敬礼する伊藤に、呆れていいのか喜ぶべきなのか悩んでしまう。伊藤の性格からして、風紀委員は窮屈で退屈なものだと思っていたのだが。
伊藤は秩序よりも自由を求めるタイプだ。秩序を重んじる風紀委員を選ぶなんて、何か理由があるのか?
満面の笑みを浮かべている伊藤が何を考えているのか、理解できなかった。
それよりも、今は気になったことを確認してみるべきか。
「左近、約束とは何だ? まさか、また伊藤と組んでトラブルに対応させようとするのか? 俺は反対だ」
「まあまあ、落ち着きなよ正道。伊藤さん、泣きそうだよ」
左近の冗談だと思って伊藤を見ると……なんだ? なぜ、伊藤は目に涙を浮かべて、頬を膨らませて俺を睨む?
もしかして、俺は伊藤をキズつけたのか? 泣くほどひどいことを言ったのか? いや、それはないだろ?
そう思いつつも、俺は慌てて弁解する。
「いや、誤解しないでくれ、伊藤。別に伊藤が邪魔だとかイヤとかでなくてだな。俺は不良を専門に対応している。そんな俺と一緒に居たら危ないだろ? 分かってくれるよな?」
「……相棒だっていいました。私の事」
確かに言った。
だが、それはハーレム騒動の間だけの期間限定の相棒だと言ったつもりだ。まさか、そのことを今も覚えていてくれたなんて。
伊藤がそう思ってくれていたことは純粋にうれしい。だが、不良を専門に相手をしている以上、伊藤を巻き込みたくない。
もし、伊藤が不良に目をつけられ、一人の時に襲われたら伊藤は自衛なんて出来ないだろうし、俺だっていつも、伊藤を助けることが出来るとは限らない。
伊藤に何かあっては遅いのだ。
そう思って、俺は伊藤に何度も説明したが、伊藤は全く聞き入れてくれない。伊藤はこんなにも頑固だっただろうか?
今までに見たことのない伊藤の態度に困惑してしまう。
「まあまあ、正道。伊藤さんはね、正道と一緒に組んだことが気に入っているんだ。受け入れてあげなよ」
「一緒に組む? ハーレム騒動の事か? 伊藤、言っておくが、あの騒動がお前にとって楽しかったからといって、俺と組んでも楽しいことは起きないぞ。それどころか、恨みを買いやすい。ただでさえ、風紀委員の仕事は地味でみんなに嫌われやすい委員なんだ。遊び半分で俺と組むのならやめておけ」
俺は睨みを利かせ、伊藤の考えを改めようとしたが。
「違います! 私、あの騒動を楽しいとか、おかしかったとか、そんなこと考えてません! いろんな女の子が失恋したんですよ? そう思われるのは心外です! それに私、先輩の事、恨んでますから! ハーレム騒動の一件は、私にだって責任がありました! なのに一人で背負うなんて……ひどいですよ」
「す、すまない」
押水にハーレム発言をさせたのは俺一人の力ではない。共犯者の伊藤と左近がいたからこそ成功したんだ。だが、押水と押水を慕う女子達に多大な迷惑をかけた。だから、俺一人が罪をかぶって騒動を鎮静化したかった。女子達の恨みを俺が引き受けておきたかった。
だが、それは俺の我儘で、伊藤にも迷惑をかけていたようだ。何も言い返す言葉がないな、俺には。
「私、決めたんです。二度とあんな結末にならないよう、頑張るって。その第一歩として、風紀委員に入りました。こんな理由ではダメ……ですか?」
伊藤の上目遣いに、どきっとさせられる。流石は過去に三人の男から告白されたことだけはある。
伊藤のプロポーションは同世代の女の子より発育が良く、少し前かがみになるだけで、豊満な胸が強調される。シャツのボタンを三つもとっているから、胸の谷間はもちろん、下着まで見えそうになるのだ。
正直、勘弁してほしい。目のやり場に困る。この格好で風紀がどうだとか言えないだろうが。
俺は目をそらしつつも、ため息をつく。
「ダメじゃない。だが、俺とコンビを組む理由にはならないだろ?」
「そんなこと言わないでくださいよ~。私と先輩が組めば怖いものなしです。現にハーレム騒動を解決できたじゃないですか」
伊藤の言いたいことはわかる。だが、肝心なことを忘れている。それは……。
「……左近の力も借りたぞ」
「なら三人で仲良くいきましょう! ねえ、橘先輩?」
「ははっ、いいね。みんな仲良く。アットホームな感じがしていいんじゃない?」
う、胡散臭い……。
左近が言うと、ハンパない違和感を覚える。
アットホームだと? この委員のどこにそんなものがある。殺伐としかしていない。
「正道、顔に出過ぎ。ここは伊藤さんに免じて仲良くやっていこうよ。それも悪くないでしょ?」
「百歩譲って、伊藤と組むのはよしとする。だからといって、なぜ俺達が同棲問題を対処しなければならない」
「もう、先輩! 空気読んで! 百歩譲ったんですから、もう百歩譲ってくださいよ~」
なぜ、俺が譲らなければならない。どうでもいいのだが、五十歩百歩って結構差があると思うのは俺だけだろうか? 本当にどうでもいいことを考えてしまった。
左近はムカつくくらいいい笑みを浮かべているし、伊藤は頬を膨らませ、俺が認めるまで抗議し続けるのだろう。
面倒くさい。風紀委員はいつから仲良し委員になったのだろうか?
「……はあ、分かった。俺と伊藤が組んで、同棲問題を解決すればいいんだな?」
「話が早いね。さっそく説明させてくれる?」
やれやれと肩をすくめてみせる。
俺と伊藤を組ませるのは、左近に何か考えがあってのことだろう。左近の思惑にのるのは癪だが、隣の席に座った伊藤の上機嫌な笑顔の前ではどうでもよくなってきた。
まあ、俺と組むことに喜んでくれる物好きは伊藤くらいだろう。悪い気はしない。ただ、これから起こるであろう厄介ごとに少しだけ憂鬱になった。
「……出所帰りじゃないんだ。そんなふうに言われる筋合いはない」
全く、俺は犯罪者か何かか?
風紀委員長、橘左近の出迎えについ眉をひそめてしまう。
押水一郎のハーレム騒動が終わって一ヶ月が過ぎていた。俺は押水にハーレム発言をそそのかした主犯として、一ヶ月の奉仕活動の罰が与えられた。
ようやく片が付き、こうして風紀委員に復帰したというわけだ。
夏の暑さもやっと落ち着き、この部屋の窓から入ってくる風が涼しくて心地いい。一ヶ月ぶりに入った風紀委員の部屋は当たり前だが、何も変わっていない。
長机に風紀委員の生徒のカバンが置かれ、壁に並んでいるロッカーは女子部員が使用している。備品が部屋の片隅に置かれ、窓際に風紀委員長の机と椅子がある。
その机で左近は書類整理をしている。いつもの光景だ……と思ったら、一つ気になるものを発見した。
『問題』という文字が目に入り、その書類を手にしようとしたとき、左近はその書類を裏返した。まるで、見られたくないものを見られたような態度だ。
何かトラブルが発生しているのだろうか? そう思いつつ、尋ねようとしたら、先に左近が説明してきた。
「この書類は見ない方がいいよ。正道のご想像通りのものだから」
やはりトラブル関係か。だが、左近が隠そうとするのは珍しい。そういったトラブルは俺に回ってくることが多いのに。
俺の中で、その書類の興味が高まる。不謹慎な考えだが、リハビリにもってこいだと思ったからだ。
奉仕活動をしていたので、荒事からは身を引いていた。そのカンを取り戻しておきたい。
この青島高等学校は様々なトラブルが日々発生している。その大半が不良達の起こす問題事だ。
この青島は海に囲まれたリゾート地なのだが、自然が多い為、娯楽施設がない。それに、南区の広い湾岸と複雑なコーナーが入り乱れる峠の道は暴走族の格好の走り場として有名になっている。
すべての不良が悪いというわけではないが、トラブルが発生しているのも事実。不良達が喧嘩や抗争をするのは勝手だが、そのせいで理不尽な目にあう生徒がいるのは見逃せない。納得いかないからだ。
「そのトラブル、俺ではダメか?」
「やめたほうがいいよ。とんでもなく厄介なトラブルだ。正道の手に負えない可能性が高い」
「それは挑発か? とにかく見せてくれ」
左近が止めるのを振り切って、裏返った紙を手にした。
書かれていた内容は……。
『同棲問題について』
俺はそっと紙をもとの場所に置いた。ちゃんと裏返してだ。
「すまない、左近。俺には荷が重すぎる」
「でしょ? 正道には他にお願いしたいことがあるの。正道向きのね」
「そうだな。それで頼む」
この紙は見なかったことにして、左近の依頼した厄介ごとを片付けよう。もう、恋愛のトラブルはこりごりだ。そう思いつつ、席に着く。
「正道にお願いしたいのは、不良グループの亜羅死についてなんだけど……」
「こら! 現実逃避しないでくださいよ! 私の出番がなくなるじゃないですか!」
「い、伊藤?」
突然現れた伊藤に、俺は驚きを隠せなかった。
伊藤ほのか。
ハーレム騒動で知り合った女子で、左近が騒動を収拾をさせる為に特別に呼び寄せた臨時の風紀委員……なのだが……。
「お久しぶりです、先輩!」
ニコニコと挨拶してくる後輩に、俺は心の中でため息をついた。
明るめの脱色された茶髪のエアリーショートにカート丈は膝上、ブラウスのボタンが三つ開けられ、そこから見える胸元にハートのネックレス。風紀委員を挑発するような格好の女子だ。
ハーレム騒動は解決できたので、役目を終えた伊藤はもう風紀委員と関わり合いがないはず。なのに、なぜここにいる? しかも、風紀委員の腕章もつけて。
「ははっ、ごめんごめん。同棲問題なんて他の子でも大丈夫でしょ? だったら、正道には他の件で動いてもらいたいの」
「それはないですよ、橘風紀委員長~。約束したじゃないですか~」
約束? 何のことだ。伊藤に同棲問題……嫌な予感しかしない。それに、左近は伊藤が風紀委員であることに何の疑問も抱いていない。ということは……。
「伊藤……お前、風紀委員に入ったのか?」
「はい! 一年B組、伊藤ほのか。昨日から風紀委員としてこちらにお世話になっております! 先輩、改めてよろしくお願いします!」
びしっと敬礼する伊藤に、呆れていいのか喜ぶべきなのか悩んでしまう。伊藤の性格からして、風紀委員は窮屈で退屈なものだと思っていたのだが。
伊藤は秩序よりも自由を求めるタイプだ。秩序を重んじる風紀委員を選ぶなんて、何か理由があるのか?
満面の笑みを浮かべている伊藤が何を考えているのか、理解できなかった。
それよりも、今は気になったことを確認してみるべきか。
「左近、約束とは何だ? まさか、また伊藤と組んでトラブルに対応させようとするのか? 俺は反対だ」
「まあまあ、落ち着きなよ正道。伊藤さん、泣きそうだよ」
左近の冗談だと思って伊藤を見ると……なんだ? なぜ、伊藤は目に涙を浮かべて、頬を膨らませて俺を睨む?
もしかして、俺は伊藤をキズつけたのか? 泣くほどひどいことを言ったのか? いや、それはないだろ?
そう思いつつも、俺は慌てて弁解する。
「いや、誤解しないでくれ、伊藤。別に伊藤が邪魔だとかイヤとかでなくてだな。俺は不良を専門に対応している。そんな俺と一緒に居たら危ないだろ? 分かってくれるよな?」
「……相棒だっていいました。私の事」
確かに言った。
だが、それはハーレム騒動の間だけの期間限定の相棒だと言ったつもりだ。まさか、そのことを今も覚えていてくれたなんて。
伊藤がそう思ってくれていたことは純粋にうれしい。だが、不良を専門に相手をしている以上、伊藤を巻き込みたくない。
もし、伊藤が不良に目をつけられ、一人の時に襲われたら伊藤は自衛なんて出来ないだろうし、俺だっていつも、伊藤を助けることが出来るとは限らない。
伊藤に何かあっては遅いのだ。
そう思って、俺は伊藤に何度も説明したが、伊藤は全く聞き入れてくれない。伊藤はこんなにも頑固だっただろうか?
今までに見たことのない伊藤の態度に困惑してしまう。
「まあまあ、正道。伊藤さんはね、正道と一緒に組んだことが気に入っているんだ。受け入れてあげなよ」
「一緒に組む? ハーレム騒動の事か? 伊藤、言っておくが、あの騒動がお前にとって楽しかったからといって、俺と組んでも楽しいことは起きないぞ。それどころか、恨みを買いやすい。ただでさえ、風紀委員の仕事は地味でみんなに嫌われやすい委員なんだ。遊び半分で俺と組むのならやめておけ」
俺は睨みを利かせ、伊藤の考えを改めようとしたが。
「違います! 私、あの騒動を楽しいとか、おかしかったとか、そんなこと考えてません! いろんな女の子が失恋したんですよ? そう思われるのは心外です! それに私、先輩の事、恨んでますから! ハーレム騒動の一件は、私にだって責任がありました! なのに一人で背負うなんて……ひどいですよ」
「す、すまない」
押水にハーレム発言をさせたのは俺一人の力ではない。共犯者の伊藤と左近がいたからこそ成功したんだ。だが、押水と押水を慕う女子達に多大な迷惑をかけた。だから、俺一人が罪をかぶって騒動を鎮静化したかった。女子達の恨みを俺が引き受けておきたかった。
だが、それは俺の我儘で、伊藤にも迷惑をかけていたようだ。何も言い返す言葉がないな、俺には。
「私、決めたんです。二度とあんな結末にならないよう、頑張るって。その第一歩として、風紀委員に入りました。こんな理由ではダメ……ですか?」
伊藤の上目遣いに、どきっとさせられる。流石は過去に三人の男から告白されたことだけはある。
伊藤のプロポーションは同世代の女の子より発育が良く、少し前かがみになるだけで、豊満な胸が強調される。シャツのボタンを三つもとっているから、胸の谷間はもちろん、下着まで見えそうになるのだ。
正直、勘弁してほしい。目のやり場に困る。この格好で風紀がどうだとか言えないだろうが。
俺は目をそらしつつも、ため息をつく。
「ダメじゃない。だが、俺とコンビを組む理由にはならないだろ?」
「そんなこと言わないでくださいよ~。私と先輩が組めば怖いものなしです。現にハーレム騒動を解決できたじゃないですか」
伊藤の言いたいことはわかる。だが、肝心なことを忘れている。それは……。
「……左近の力も借りたぞ」
「なら三人で仲良くいきましょう! ねえ、橘先輩?」
「ははっ、いいね。みんな仲良く。アットホームな感じがしていいんじゃない?」
う、胡散臭い……。
左近が言うと、ハンパない違和感を覚える。
アットホームだと? この委員のどこにそんなものがある。殺伐としかしていない。
「正道、顔に出過ぎ。ここは伊藤さんに免じて仲良くやっていこうよ。それも悪くないでしょ?」
「百歩譲って、伊藤と組むのはよしとする。だからといって、なぜ俺達が同棲問題を対処しなければならない」
「もう、先輩! 空気読んで! 百歩譲ったんですから、もう百歩譲ってくださいよ~」
なぜ、俺が譲らなければならない。どうでもいいのだが、五十歩百歩って結構差があると思うのは俺だけだろうか? 本当にどうでもいいことを考えてしまった。
左近はムカつくくらいいい笑みを浮かべているし、伊藤は頬を膨らませ、俺が認めるまで抗議し続けるのだろう。
面倒くさい。風紀委員はいつから仲良し委員になったのだろうか?
「……はあ、分かった。俺と伊藤が組んで、同棲問題を解決すればいいんだな?」
「話が早いね。さっそく説明させてくれる?」
やれやれと肩をすくめてみせる。
俺と伊藤を組ませるのは、左近に何か考えがあってのことだろう。左近の思惑にのるのは癪だが、隣の席に座った伊藤の上機嫌な笑顔の前ではどうでもよくなってきた。
まあ、俺と組むことに喜んでくれる物好きは伊藤くらいだろう。悪い気はしない。ただ、これから起こるであろう厄介ごとに少しだけ憂鬱になった。
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