風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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十五章

十五話 エンゼルランプ -あなたを守りたい- その十二

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 不良達が私達を取り囲んでいく。古見君が何人か不良を倒してくれたのに、どこにいたのってカンジで不良がわんさかわいてきた。
 獅子王先輩はまだ回復しきっていないし、逃げられそうにない。

「獅子王、こんなチャンス滅多にねえからな。今までの恨み、はらさせてもらうぜ」
「おいそこの二人、さっさと出ていけ。俺達は獅子王に用があるんだ。さっさと消えろ」

 二人ってことは私と古見君だよね。昔ならここで立ち去っていたけど、今は逃げるわけにはいかない。だって、私は風紀委員だもん。
 私は震える手で鉄パイプをかまえる。そんな私を見て、獅子王先輩が呆れたように笑っている。

「なんだ、お前。付き合ってくれるのか?」
「はい、最後まで付き合いますよ。ねえ、古見君? 古見無双みせてくださいね!」

 期待してますからね、本当。
 古見君は少しテレたように笑っている。

「はい! 僕にもお手伝いさせてください! それに、伊藤さんは僕が守ります」

 もう、かっこいいこと言わないでよ。私が目立たないじゃない。あっちのほうが圧倒的に有利なんだけど、全然怖くなかった。
 だって、私達、笑いあえている。きっと、うまくいく。

「ちっ! 獅子王に味方するなら、お前らもやっちまうぞ!」

 不良達が凶器を振り上げて、襲い掛かってきた。
 ……やっぱり、怖い! こ、こないでこないでこないで!
 私は鉄パイプをでたらめに振り回す。

「危なっ!」
「い、伊藤さん! 僕達は味方です!」
「ご、ごめんなさい」

 私、何やってるの! 味方に攻撃するなんて恥ずかしい。そ、それより相手は……。
 あ、あれ? なんだろう、不良達が立ち止っている。何かもめているみたいだけど、内輪うちわもめ?

「な、なんだ、てめえは?」
「いや、待て! こ、このお方は!」

 有無を言わさずにどんどん不良達が倒れていく。
 あ、あれは!

「伊藤さん、お怪我はありませんこと?」
「く、黒井さん……」
「もう大丈夫です、ほのかさん」
「サッキー……」

 私は泣きそうになった。
 黒井さんとサッキーが来てくれた!
 二人は私達を庇うように前に立ってくれる。
 不良達のところで暴れているのは、御堂先輩、長尾先輩、朝乃宮先輩と沢山の風紀委員。
 風紀委員のみんなが不良達をどんどん制圧していく。

 た、助かったの?
 私は安心して腰が抜けそうになる。
 ハハッ……今になって足が震えているよ。

「伊藤さん」

 後ろからドスの利いた声に呼び掛けられる。滝沢さんだ。滝沢さんの手には、ナイフが握られていた。

「あなたのせいよ。あなたさえいなけれ……あなたさえいなければ……死ねぇえええええ!」

 う、ウソでしょ!
 滝沢さんが私目掛けてナイフを突き出してくる。黒井さんもサッキーも止めようとするけど、間に合わない。

 し、死んじゃうの、私?
 私のお腹にナイフが刺さろうとしたとき、滝沢さんに向かって何かが飛んできて、彼女の目の前を通り過ぎていった。
 滝沢さんの足が止まり、何かを投げてきた人物を見る。

「そこまでだ」

 涙があふれてきた。声を聞いただけで分かる。

 一番そばにいてほしい人の声だ。
 一番待ち望んできた人の声だ。

 私は涙を流しながら、その愛しい人に声をかける。

「先輩……遅いですよ」
「すまない。だが、ここから先は俺達に任せてくれ。もう、伊藤を傷つけさせはしない」

 先輩は滝沢さんの腕を捕まえる。滝沢さんは必死に抵抗する。

「離して! その女を殺せないでしょ! 私が、私がひなたを護るんだから! これからも、ずっと!」

 滝沢さん……私達、分かりあうことはできなかったのかな?
 私も滝沢さんも古見君の幸せを願っていたのに……お互い、ちゃんとした恋愛をして頑張っていきたかったのに……もう、私の声は届かないのかな。
 古見君を必死で護ろうとする滝沢さんに、私は目をそらしてしまった。

「そうか。なら、俺は伊藤を護るだけだ」

 あっ!
 先輩の渾身のボディーブローが滝沢さんのお腹に突き刺さった! 滝沢さんが九の字になって倒れ、悶え苦しんでいる。
 リ、リバースしてますよ、先輩!

「少しは暴力の痛みを理解できたか?」

 せ、先輩、マジぱねぇっす。女の子相手に暴力とかありえない。
 でも、先輩は私の為に滝沢さんを殴ってくれたんだよね? エヘヘッ、顔がほころぶのを止められない。喜ぶ場面ではないのに。
 私は先輩に、女の子に手をあげたらメッっと注意することにした。

「先輩。女の子に手を上げちゃダメですよ」
「正当防衛だ」
「ど、どこに正当な理由が……」

 私は戦慄せんりつしながらも、先輩に注意を続ける。いつもの私達のやりとりをして、この非日常から解放されたかった。
 少しでも早く日常に戻りたい。やっぱり、私には喧嘩はむいてない。
 遠くからサイレンが聞こえる。警察だ。

 周りの不良達は御堂先輩達によって無力化されている。
 これでようやくお終い……じゃなかった。
 忘れてた。獅子王先輩が大怪我してるんだ。
 黒井さんが獅子王先輩を手当てしていた。サッキーが病院に連絡してくれている。

「獅子王先輩、大丈夫ですか?」
「……だい……じょうな……わけ……ねえ……だろ」

 獅子王先輩は顔をしかめながらも、笑っている。大丈夫そうだよね。これにりて、獅子王先輩も人を殴るのはやめてほしい。

「古見君はいいの?」
「僕は大丈夫。ありがとうね、伊藤さん」
「ううん、私こそ、ごめんね」

 私は古見君の家で迷惑をかけたことを謝った。それ以外にも迷惑をかけてしまったことを謝った。
 古見君は泣きそうになりながら、謝り返してくれる。

「僕こそ! 本当にごめんなさい!」
「それなら、仲直りだよね」
「はい!」

 よかったよ~。説得は今は無理だけど、仲直りできたことは本当によかった。
 喜んでいると、視線を感じた。獅子王先輩だ。不機嫌そうな顔をしているけど、どうかしたのかな?

「……」
「どうしたんですか、獅子王先輩?」
「……なんでも……ねえ」

 獅子王先輩が不機嫌なのはいつものことだし、いいよね。獅子王先輩の不機嫌な感情が先輩にもうつったのか、難しい顔をしている。

「伊藤、お前……」
「なんですか、先輩? 何か気になることがありました?」
「殴られたのか?」

 ああっ……殴られたんだっけ、私。えっ? もしかして……。

「あ、あの……目立ちます?」

 ううぅ……顔、腫れているのかな? だったら、イヤだな……私、今すごく不細工な顔になってる?

「伊藤さん、そこなの? 気にするところは」
「だって! 腫れ上がったら可愛くないし、目立つじゃん!」

 女の子にとってはすごく大事な事でしょ!

「……誰に殴られた?」
「えっ?」
「どこのどいつに殴られた?」

 こ、怖い……。
 先輩の顔、すごく怖い……怒ってるよね。
 私は怖くて先輩から距離を取ってしまう。
 先輩は更に私に近づいて……。

「おい、やめろ。コイツ、怖がってるだろうが」

 し、獅子王先輩?
 獅子王先輩が止めてくれたおかげで、先輩の足は止まったけど、顔は怖いまま……。

「あ、あの……先輩。大丈夫ですから……」

 私は先輩の袖をちょこんと摘まむ。だから、もう怖い顔しないでください。
 先輩にそんな顔をして欲しくない。

 先輩はポケットからハンカチとペットボトルを取り出して、ハンカチをペットボトルの水で濡らした。

「……これを顔に当てておけ」
「……ありがとうございます」

 私は素直にハンカチを受け取る。ううっ……怖い。

「……まさか、こんなことになるとは……俺の責任だ。これ以上はもう……」

 先輩は私の声が聞こえていないように何かをつぶやいている。先輩の思い詰めた顔に、私は不安になって、その場に立ち尽くしてしまう。
 先輩は私の視線に気づき……。

「……伊藤が無事でよかった。本当にすまなかった」

 先輩が私を気遣うように優しく肩に手を置いてくれる。怖い顔から少しだけ怖い顔になった。でも、いつもの先輩の顔。
 考えすぎたみたい。

 先輩が私の事を心配してくれた。そのことが嬉しくて、私は先輩の胸に頭を置いた。
 助けに来てくれて……心配してくれて……ありがとうございます、先輩。
 心の中でお礼をつぶやいた。



 □□□


「ちくしょう……ちくしょう!」

 ボロボロの体を引きずり、なんとか廃工場を脱出できた。ここまで来れば大丈夫だろう。
 遠くからサイレンが聞こえてくる。ちっ! 早く逃げねえと。
 こんなところで警察にパクられてたまるかってんだ。
 俺は体中の痛みに顔をしかめながら、どうしてこんなことになったのか思い返していた。

 ほのかだ! アイツのせいだ!
 ほのかめ! 絶対に、絶対に許さないぞ。今は見逃してやるが、必ず復讐してやる!
 覚えておけよ、ほのか! 一生お前に付きまとってやる! 必ず俺のモノにしてみせる! 最後に笑うのは俺だ!

「クックックッ……」

 とりかく、家に帰って休まないと。立て直したらすぐに行動だ。
 壁に手をついて歩いていると。

「!」

 突然、視界がぶれた。足に激痛が走り、いつの間にか地面に倒れていた。
 ……すねを蹴られたのか、俺は。
 顔を上げようとすると、別の手に頭を掴まれ、地面に押し付けられる。

 な、なんだ? コイツ等は!
 手の大きさから女か? 数からして二人に取り押さえられている。
 何が起きている?

「久しぶりだね、女鹿君。僕のこと、憶えてる?」
「橘……てめえか!」

 体を激しく揺らしても拘束こうそくは全くとけない。今すぐにでも殴りつけてやりたいのに、動けない。

 橘風紀委員長。俺からほのかを取り上げた張本人。
 全てが終わったら復讐してやろうと思っていたにくい敵。

「僕の方が一応先輩なんだからさ、敬語使ってね」
「これで終わったと思うなよ! いつの日か絶対に復讐して……」

 パキッ!

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」

 指に激痛を感じ、俺はあまりの痛みに叫んでいた。俺を取り押さえていた女が……俺の指を折りやがった!
 一本だけじゃない。二本、三本……折っていきやがる。
 痛い痛い痛い! マジ、シャレになってねえ! やめろ!

「や、やめてくれ……頼む……やめてくれ……」
「敬語」
「やめてください、お願いします」

 指を折る手が止まる。コイツ、人間か? 女のくせに容赦がない。まるで機械のような女だ。
 俺の頭の上から、また憎っくき橘の声が聞こえてくる。

「威勢がいいのは最初だけだね、キミは。時間がないから単刀直入に言うね。僕、裏切られるのが一番嫌いなの。この意味分かるよね? 僕との約束を破ったんだ。もう手加減はしない。少年院にいっといで」
「なんで……なんでだよ! なんで俺の邪魔をする! お前には関係ないだろ! お前もほのかが目当てなのか?」
「そうだね。僕達にとって、伊藤さんは護るべき存在なんだ。もう、失うわけにはいかないんだ」

 失う? どういうことだ?
 疑問に思ったが、何か足音が聞こえてくる。しかも、複数の足音だ。まさか、警察か?
 俺は捕まるのか? こんなところで終わるのか。ちくしょう……ちくしょう……。
 俺は……俺はただ、ほのかが好きなだけなのに……本気で好きなのに……ちくしょう……ちくしょう……。


 □□□
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