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六章
六話 結成 その一
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平村が学校に登校したのは、掃除ロッカーの事件から二日後だった。
俺は左近と播磨先生にお願いして、平村と話す機会をもらった。どうしても、平村の話を聞きたかったからだ。
井波戸と白部の話は聞けたが、もう一人の当事者である平村の話も聞いておきたい。
そこから新たな事実を聞けるかもしれない。平村と白部の諍いを解消できるヒントを得ることが出来るかもしれない。
わずかな可能性を信じて、俺は平村に託すしかなかった。
風紀委員室でじっと俺は平村を待ち続けていた。
時間は八時ちょうど。風紀委員室には誰もいない。窓の外からは生徒の朝練に精を出している声が聞こえてくる。
しばらくして。
コンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
風紀委員室に一人の女子生徒が入ってきた。彼女こそが俺が待っていた女子、平村真子だ。
ふんわりとしたボリュームのある三つ編みにぱっちりとした大きな瞳、身長は伊藤と同じくらいの百六十そこそこだと思うが、線の細さから見た目より高く感じる。
少し猫背で気弱な雰囲気を感じる女子で、白部とは真逆のタイプのように思えた。
強気でクールな白部。もろくて儚いイメージの平村。
風紀委員に適しているのは白部だな。そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は平村に椅子に座るようすすめる。
平村は俺が進めるがまま、席に着いた。
俺は立ったまま、平村に話しかける。
「すまないな、いきなり呼びつけるような真似をして。体の方は大丈夫か?」
「はい。あの……助けていただきましてありがとうございました」
平村は椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
平村は感謝してくれているようだが、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
なぜなら……。
「こちらこそ、申し訳ない。もっと早く平村さんのSOSに気づいていれば……」
俺は不審な音に警戒しすぎて慎重になってしまい、平村のSOSに気づくのが遅れてしまった。
もっと早く平村のSOSに気づいていたら、そう思わずにはいられなかった。
早く気づいたとしても、時間的にはそう変わらなかったのかもしれない。だが、平村はあの狭くて暗い場所から一秒でも早く助けて欲しかったはずだ。
もう終わったことだが、それでも、悔やまずにはいられなかった。
「いえ、誰もいない教室から不審な音がしたら、フツウ不気味に思って逃げ出しますよ。でも、藤堂先輩は逃げ出さなかった。すごく感謝しています」
平村の笑顔に、俺は救われた気がした。
いつも後悔ばかりしてきたが、そんな俺でも誰かの助けになっているのなら嬉しいものだな。
助けたい。二人の仲を修復できるのなら、やってみたい、今ならそう思える。
「そう言ってくれると助かる」
「藤堂先輩、助けられたのは私です。逆にお礼を言われるなんておかしいですよ」
それもそうか。
少し居心地の悪さを感じるが、平村の表情が明るいことに少しほっとした。あれだけ酷い目にあったのに、今は持ち直してくれたようだ。
なのに、これから俺が話す内容の事を思うと気が引けるが、事件解決のためには避けては通れない道だ。
一つ息をついた後、俺は平村に問いかける。
「平村さん、今回は平村さんのSOSに気づけたが、今後もキャッチできる保証はない。つまり、このままだと平村さんは白部さんにイジメられてしまう可能性が高い」
「……」
平村はうつむき、震える体を自分で抱えている。俺はそんな平村を怖がらせないよう、ゆっくりと話す。
「俺は平村さんがイジメに遭っていることを知った以上、やめさせたい。だから、力を貸してくれないか?」
「力を貸してくれって……どういうことですか? まさか奏水ちゃんに酷いことを……」
驚きだった。先ほどの弱々しい態度とは打って変わって、平村は俺を睨みつけてきた。人を睨んだことがあまりないのだろう。大人しい性格なのだろう。
睨んでいるのに、不安で不安で仕方ないって顔をしてやがる。拳をぎゅっと握って、不安に耐えている。
人と争うのが苦手なのだろう。見ていて分かる。
なぜ、平村が俺を睨みつけてきたのか? 理由を聞く方が野暮だよな。
「白部さんに平村さんをイジメないよう説得するのを手伝って欲しいって意味だったのだがな。これのどこが酷いことなんだ?」
「えっ? そ、その……藤堂先輩って風紀委員で武力派だって聞いていたから、つい……」
つい、なんなんだ?
今度は俺が平村を睨むと、平村は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 謝りますから、ぶたないで! 私! 美味しくありませんから!」
「人聞きの悪い事言ってるんじゃねえぞ!」
コイツ、俺のことをなんだと思ってやがるんだ!
俺はつい、脱力してしまった。
平村は何というか、思い込みが激しいというか……悪いヤツではないんだろうな。
俺はもう一度、平村に頼み込む。
「……頼む。俺に力を貸してくれ。俺はもう白部さんに平村さんをイジメてほしくないし、平村さんがこれ以上傷ついて欲しくないんだ」
意外な提案だったのか、平村は目を丸くしている。介入されるとは思ってもいなかったのだろう。
俺の提案は平村にとって、渡りに船のはず。デメリットよりもメリットの方が大きいはずだ。
頼む、平村。俺の提案をのんでくれ。
助ける側の俺の方が祈る気持ちで平村の返事を待っている。
平村の答えは……。
「どうしてですか? どうして、藤堂先輩は私達のことを助けてくれるんですか?」
「イジメが許せないんだ」
俺はかつてイジメにあっていたこと、イジメのせいで親友を失ったことを平村に正直に話した。
少年Aについては割愛させてもらったが、その体験からイジメは許せない事を伝える。
「俺と健司はダメになったが、平村さん達はまだやり直せるチャンスはある。過去の事件で、二人に諍いがある事も知っている。だが、平村さんが少しでも白部さんとやり直したいと思っているのなら、これを機に仲直りしてくれないか? 頼む」
俺は頭を下げて平村に頼み込んだ。
赤の他人が人様の付き合いに口出しする権利なんてない事は重々承知の上だ。それでも、仲直りすることでイジメがなくなるのであれば、俺は頼むことしか出来ない。
俺の願いに平村は首を横に振る。
「……無理ですよ。奏水ちゃんは私のことが嫌いだし……」
親友である白部を想い、悲しげに目を伏せる平村に、俺は尋ねてみた。
「平村さんはどうなんだ?」
「えっ?」
言い訳は聞きたくない。俺は平村の本心を聞きたいんだ。
だから、俺は平村に問いかける。
「白部さんの気持ちなんて今はどうでもいい。平村さんの気持ちが知りたいんだ。白部さんと仲直りしたいとは思わないのか? どうなんだ? 白部さんに対して、憎しみしかないのか? 嫌いになってしまったのか?」
「私の気持ちなんて……どうでもいいじゃないですか……」
怒りを押し殺したような声でつぶやく平村に、俺は重ねて問いかける。
「どうでもよくない。一番大切なことだ。どうして、自分の願いを押し殺す? このままだと、何も解決しないし、一歩も前に進めないんだぞ。取り戻したいとは思わないのか? 幸せだった時間を。それとも一生、イジメを我慢する生活を送りたいのか? 白部さんをイヤなヤツにさせておくのか?」
「……るさい」
小さい声が聞こえてきた。それは聞き取れないほどの声だったが、そこには強い何かを感じる。
だから、俺は平村を煽ってみる。
「? 何か言ったか?」
「うるさいうるさいうるさい! 分かってる、そんなこと! でも……でも! 仕方ないじゃない! 奏水ちゃんは……私のことを裏切ったの! それが許せないの! 私だけが悪くないの!」
平村は目に涙を溜め、俺を睨んできた。
ようやく、平村の本心を引き出すことが出来た。
裏切ったことが許せない。裏を返せば、仲がよくなければそこまで怒ることはないということだ。
その怒りが本物なら、まだやり直すチャンスはあるはず。
平村に辛い思いをさせてしまっていることに胸が痛むが、ここは平村がため込んだ思いを吐き出させる必要がある。
だから、俺は心を鬼にして尋ねる。
「それは平村さんの誤解ではないのか? 白部さんは否定したのだろう? 腕時計を平村さんの鞄に入れていないと」
「けど! けど……その後は全然、否定してくれなかった……私だって……私だって信じたくなかった……見間違えだって思いたかった……だけど……だけど! 私の鞄から腕時計が出てきたのは間違いないの! 美花里ちゃんだって何度も何度も調査してくれたけど、犯人は奏水ちゃんしかいないって立証しちゃったのよ! これでどうやって奏水ちゃんの事を信じられるの! 奏水ちゃんは謝るどころか、私を裏切り者扱いしてきた! 奏水ちゃんじゃない! 裏切ったのは! どうして……どうしてなの……」
平村の問いに誰も答える者はいない。
俺もその答えを知りたい。だから……。
「俺達で突き止めないか?」
俺は左近と播磨先生にお願いして、平村と話す機会をもらった。どうしても、平村の話を聞きたかったからだ。
井波戸と白部の話は聞けたが、もう一人の当事者である平村の話も聞いておきたい。
そこから新たな事実を聞けるかもしれない。平村と白部の諍いを解消できるヒントを得ることが出来るかもしれない。
わずかな可能性を信じて、俺は平村に託すしかなかった。
風紀委員室でじっと俺は平村を待ち続けていた。
時間は八時ちょうど。風紀委員室には誰もいない。窓の外からは生徒の朝練に精を出している声が聞こえてくる。
しばらくして。
コンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
風紀委員室に一人の女子生徒が入ってきた。彼女こそが俺が待っていた女子、平村真子だ。
ふんわりとしたボリュームのある三つ編みにぱっちりとした大きな瞳、身長は伊藤と同じくらいの百六十そこそこだと思うが、線の細さから見た目より高く感じる。
少し猫背で気弱な雰囲気を感じる女子で、白部とは真逆のタイプのように思えた。
強気でクールな白部。もろくて儚いイメージの平村。
風紀委員に適しているのは白部だな。そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は平村に椅子に座るようすすめる。
平村は俺が進めるがまま、席に着いた。
俺は立ったまま、平村に話しかける。
「すまないな、いきなり呼びつけるような真似をして。体の方は大丈夫か?」
「はい。あの……助けていただきましてありがとうございました」
平村は椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
平村は感謝してくれているようだが、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
なぜなら……。
「こちらこそ、申し訳ない。もっと早く平村さんのSOSに気づいていれば……」
俺は不審な音に警戒しすぎて慎重になってしまい、平村のSOSに気づくのが遅れてしまった。
もっと早く平村のSOSに気づいていたら、そう思わずにはいられなかった。
早く気づいたとしても、時間的にはそう変わらなかったのかもしれない。だが、平村はあの狭くて暗い場所から一秒でも早く助けて欲しかったはずだ。
もう終わったことだが、それでも、悔やまずにはいられなかった。
「いえ、誰もいない教室から不審な音がしたら、フツウ不気味に思って逃げ出しますよ。でも、藤堂先輩は逃げ出さなかった。すごく感謝しています」
平村の笑顔に、俺は救われた気がした。
いつも後悔ばかりしてきたが、そんな俺でも誰かの助けになっているのなら嬉しいものだな。
助けたい。二人の仲を修復できるのなら、やってみたい、今ならそう思える。
「そう言ってくれると助かる」
「藤堂先輩、助けられたのは私です。逆にお礼を言われるなんておかしいですよ」
それもそうか。
少し居心地の悪さを感じるが、平村の表情が明るいことに少しほっとした。あれだけ酷い目にあったのに、今は持ち直してくれたようだ。
なのに、これから俺が話す内容の事を思うと気が引けるが、事件解決のためには避けては通れない道だ。
一つ息をついた後、俺は平村に問いかける。
「平村さん、今回は平村さんのSOSに気づけたが、今後もキャッチできる保証はない。つまり、このままだと平村さんは白部さんにイジメられてしまう可能性が高い」
「……」
平村はうつむき、震える体を自分で抱えている。俺はそんな平村を怖がらせないよう、ゆっくりと話す。
「俺は平村さんがイジメに遭っていることを知った以上、やめさせたい。だから、力を貸してくれないか?」
「力を貸してくれって……どういうことですか? まさか奏水ちゃんに酷いことを……」
驚きだった。先ほどの弱々しい態度とは打って変わって、平村は俺を睨みつけてきた。人を睨んだことがあまりないのだろう。大人しい性格なのだろう。
睨んでいるのに、不安で不安で仕方ないって顔をしてやがる。拳をぎゅっと握って、不安に耐えている。
人と争うのが苦手なのだろう。見ていて分かる。
なぜ、平村が俺を睨みつけてきたのか? 理由を聞く方が野暮だよな。
「白部さんに平村さんをイジメないよう説得するのを手伝って欲しいって意味だったのだがな。これのどこが酷いことなんだ?」
「えっ? そ、その……藤堂先輩って風紀委員で武力派だって聞いていたから、つい……」
つい、なんなんだ?
今度は俺が平村を睨むと、平村は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 謝りますから、ぶたないで! 私! 美味しくありませんから!」
「人聞きの悪い事言ってるんじゃねえぞ!」
コイツ、俺のことをなんだと思ってやがるんだ!
俺はつい、脱力してしまった。
平村は何というか、思い込みが激しいというか……悪いヤツではないんだろうな。
俺はもう一度、平村に頼み込む。
「……頼む。俺に力を貸してくれ。俺はもう白部さんに平村さんをイジメてほしくないし、平村さんがこれ以上傷ついて欲しくないんだ」
意外な提案だったのか、平村は目を丸くしている。介入されるとは思ってもいなかったのだろう。
俺の提案は平村にとって、渡りに船のはず。デメリットよりもメリットの方が大きいはずだ。
頼む、平村。俺の提案をのんでくれ。
助ける側の俺の方が祈る気持ちで平村の返事を待っている。
平村の答えは……。
「どうしてですか? どうして、藤堂先輩は私達のことを助けてくれるんですか?」
「イジメが許せないんだ」
俺はかつてイジメにあっていたこと、イジメのせいで親友を失ったことを平村に正直に話した。
少年Aについては割愛させてもらったが、その体験からイジメは許せない事を伝える。
「俺と健司はダメになったが、平村さん達はまだやり直せるチャンスはある。過去の事件で、二人に諍いがある事も知っている。だが、平村さんが少しでも白部さんとやり直したいと思っているのなら、これを機に仲直りしてくれないか? 頼む」
俺は頭を下げて平村に頼み込んだ。
赤の他人が人様の付き合いに口出しする権利なんてない事は重々承知の上だ。それでも、仲直りすることでイジメがなくなるのであれば、俺は頼むことしか出来ない。
俺の願いに平村は首を横に振る。
「……無理ですよ。奏水ちゃんは私のことが嫌いだし……」
親友である白部を想い、悲しげに目を伏せる平村に、俺は尋ねてみた。
「平村さんはどうなんだ?」
「えっ?」
言い訳は聞きたくない。俺は平村の本心を聞きたいんだ。
だから、俺は平村に問いかける。
「白部さんの気持ちなんて今はどうでもいい。平村さんの気持ちが知りたいんだ。白部さんと仲直りしたいとは思わないのか? どうなんだ? 白部さんに対して、憎しみしかないのか? 嫌いになってしまったのか?」
「私の気持ちなんて……どうでもいいじゃないですか……」
怒りを押し殺したような声でつぶやく平村に、俺は重ねて問いかける。
「どうでもよくない。一番大切なことだ。どうして、自分の願いを押し殺す? このままだと、何も解決しないし、一歩も前に進めないんだぞ。取り戻したいとは思わないのか? 幸せだった時間を。それとも一生、イジメを我慢する生活を送りたいのか? 白部さんをイヤなヤツにさせておくのか?」
「……るさい」
小さい声が聞こえてきた。それは聞き取れないほどの声だったが、そこには強い何かを感じる。
だから、俺は平村を煽ってみる。
「? 何か言ったか?」
「うるさいうるさいうるさい! 分かってる、そんなこと! でも……でも! 仕方ないじゃない! 奏水ちゃんは……私のことを裏切ったの! それが許せないの! 私だけが悪くないの!」
平村は目に涙を溜め、俺を睨んできた。
ようやく、平村の本心を引き出すことが出来た。
裏切ったことが許せない。裏を返せば、仲がよくなければそこまで怒ることはないということだ。
その怒りが本物なら、まだやり直すチャンスはあるはず。
平村に辛い思いをさせてしまっていることに胸が痛むが、ここは平村がため込んだ思いを吐き出させる必要がある。
だから、俺は心を鬼にして尋ねる。
「それは平村さんの誤解ではないのか? 白部さんは否定したのだろう? 腕時計を平村さんの鞄に入れていないと」
「けど! けど……その後は全然、否定してくれなかった……私だって……私だって信じたくなかった……見間違えだって思いたかった……だけど……だけど! 私の鞄から腕時計が出てきたのは間違いないの! 美花里ちゃんだって何度も何度も調査してくれたけど、犯人は奏水ちゃんしかいないって立証しちゃったのよ! これでどうやって奏水ちゃんの事を信じられるの! 奏水ちゃんは謝るどころか、私を裏切り者扱いしてきた! 奏水ちゃんじゃない! 裏切ったのは! どうして……どうしてなの……」
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俺もその答えを知りたい。だから……。
「俺達で突き止めないか?」
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