風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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六章

六話 結成 その二

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「えっ?」
「事実を突き止めないかと言ったんだ。泣いたところで現実は何も変わらないし、真相はいつまでたても分からないぞ。何が真実なのか、俺達で突き止めればいい」

 待っていても誰かが教えてくれるわけがない。助けを求めても、誰かが助けてくれるわけがない。
 だったら、こっちから探しにいけばいい。自分の手で掴んだ事実こそ、信じられる。
 井波戸も親友のために行動したと聞いている。きっと、井波戸の信じる事実を手にするため、行動したのだ。
 なら、俺達も行動するべきだ。

「……でも、どうしたらいいんですか? どこを探せばいいの……」
「始まりの場所だ」
「始まりの場所?」

 そう、二人の仲が壊れたあの事件。
 腕時計盗難事件。
 ここに全ての答えがあるはずだ。
 この事件の真相を明かすには平村の協力が不可欠になる。

「平村さん。今週の日曜日、俺と一緒に平村さんの中学に行ってみないか? 事件の検証をしてみたい」
「……事件の検証は美花里ちゃんが何度も何度もしてくれたけど……」
「諦めるのか? 平村さんは白部さんと仲直りしたいんだろう?」
「えっ?」

 平村は目を丸くして、呆然としている。
 今までの会話で確信した。平村は今でも白部と仲直りしたいと願っていることを。伊藤の推理通りだ。
 では、平村が白部と仲直りしたいと思っている根拠を告げてみよう。

「腕時計盗難は中学の時に起きた事件だ。その後にキミは白部さんからイジメられていたわけだが、イジメから逃げることは出来たよな? 進学する学校を白部と違う学校を受験すればいいわけだ。それに白部さんと同じ学校に進学しても、進学コースのF組を選択しなければ、顔を合わせる機会は少なくなってイジメにあう回数も減ったはずだ。なのに、平村さんは白部さんと学校に進学して同じF組を選んだって事は、仲直りしたかったって事だろ?」
「……」

 平村は何も言わず、うつむいている。
 違ったか?
 ここまで俺と伊藤の推理は当たっていたと思ったのだが、平村は別の理由があって、白部と同じ学校に進学したのか?
 不安はあるが、俺はこの考えは間違っていないとは思えない。でなければ、自分をイジメてきた相手と一緒の学校、一緒のクラスを選択する理由が分からない。
 ふっかけてみるか。

「平村さんにとって、白部さんはもう親友ではないのか? それとも、もともと親友でもなかったのか? だから、仲直りするつもりはないのか? 薄っぺらい友情だな」
「ち、違います! 私と奏水ちゃんは幼稚園の時からずっと一緒だったんです! 誰よりも仲良しなんです!」

 先ほどまで黙り込んでいた平村が、俺を押し倒さんとする勢いでくってかかってきた。
 俺は内心、にやっと唇を緩めたかったが、あえて突き放した言葉を平村に投げつける。

「だったら、自分で証明してみろ。口だけなら誰だって言えるぞ」

 平村は悔しそうに俺を睨んでいる。
 ああっ、やっぱり俺達の考えは間違っていなかったようだ。平村は今でも白部を想っている。
 今度こそ、俺は見ることが出来るのだろうか? 人の絆の強さを。押水の事件では見ることが叶わなかったモノを目にすることが……。
 俺は目をつぶり、自分の考えを心の底に押し込める。今は二人の仲の修復が最優先事項だ。

「どうして、意地悪ばかり言うんですか? 藤堂先輩は私達に何の恨みがあるんですか?」
「すまない。だが、分かって欲しい。俺は二人の仲を修復してほしいと願っている。だから、二人の想いがどれほどのものか、見たかったんだ。俺は二人を見て、確信した。この盗難事件は二人を陥れるための事件だ。あの事件の犯人は白部さんではない。他にいる」
「そ、そんな……」

 平村は信じられないといった顔をしている。今まで信じてきたものが否定されたのだ。無理もない。
 だが、俺は言葉通り確信している。腕時計を盗んだ犯人は別にいる。二人の仲をもてあそんだ、本当に憎むべき相手がいるはずなんだ。
 その相手を必ずあぶり出してやる。確固たる証拠を掴んで叩きつけてやる。

「それで、どうする? 俺と一緒に真相を探さないか? 平村さんが拒否しても、俺は一人でもやり遂げるぞ。自分が信じたものを証明するために、どんな手を使ってでも真実を明らかにしてみせる」

 俺は平村に断言してみせた。もちろん、確証なんてない。出来るかどうかなんて、やってみなければ分からないのだ。
 だが、俺は今まで多くの困難に立ち向かってきた。そのどれもが解決できる確証はなかった。失敗だってしたが、解決したこともある。
 もちろん、左近やみんなのバックアップがあったからこそ、解決できた。だが、これだけは断言できる。
 自分で行動しなければ、立ち向かわなければ事態は何も変化しないということだ。

 俺はそっと手を差しのばす。これがファイナルアンサー。
 平村は俺の手を不安げに、何か期待するかのような目でじっと見つめている。
 俺の手を握り、困難に立ち向かうのか決めかねているんだろう。
 折れた心は、そう簡単に持ち直すことは出来ない。かなりの勇気と確固たる決断が必要となる。

 俺はじっと平村の決断を待った。
 二人の間に沈黙と時間が過ぎていく。
 平村は俺の手を……。

「よ、よろしくお願いします」

 弱々しい震えた手で、それでも、平村は俺の手を握ってくれた。
 平村は立ち向かうことを決断してくれたんだ。胸の奥に何か熱いモノが湧き上がる。
 俺の案に乗ったからといって、真実が分かる保証なんてない。白部が平村の鞄に腕時計を入れた事を改めて思い知らされるかも知れない。
 だが、平村は事実と向き合うことを決めた。俺は平村の覚悟を賞賛した。

「平村さんの勇気ある決断を、俺は尊敬する」

 平村の決断に、俺は尊敬の念を込めて握り返す。
 小さくて華奢きゃしゃな手だ。強く握れば壊れてしまいそうなもろさを感じる。
 護らなければ……そんな想いがあふれてくる。
 さて、平村の言質をとることができた。やるべきことをやらないとな。
 テレくさそうに俺の手を握っている平村に、俺はある事を告げる。

「早速で悪いが、平村さんに謝らなければならない。すまない、平村さん」
「ど、どういうことですか? なぜ、謝るんですか?」

 先ほどとは打って変わって、平村は不安げに俺を見つめている。
 協力すると言った相手が、すぐに謝ってきたんだ。警戒するのは当たり前だろう。
 俺は何に対して平村に謝ったのか、それを理解してもらうため、俺は平村の手を離し、部屋の奥にある掃除ロッカーに近づく。
 平村は俺の振る舞いにおびえていた。掃除ロッカーは平村にとって、恐怖でしかないからだ。
 もしかして、また閉じ込められるのでは、そう思っているのかもしれない。

「安心してくれ。平村さんが協力者になった以上、俺は絶対に危害を与えるようなことはしない。これは信頼の証だと思ってくれ。隠し事は……なしだ」

 俺は勢いよく掃除ロッカーのドアを開ける。
 そこには……。

「か、奏水ちゃん?」
「真子……」

 掃除ロッカーの中には、平村の親友であり、イジメの主犯である白部がいた。平村は顔を真っ青にしながら、俺と白部を交互に見つめている。
 なぜ、ここに白部がいるのか?
 それは二日前の放課後までさかのぼる。
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