風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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一章

一話 こんなの家族じゃねぇ! その四

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「藤堂先輩ってビビりですよね? それに、女の子に手を出すつもりですか? 本当、最低ですね」

 るりかは一歩俺に近づくが、もう一人いた明日香は一歩下がった。

「……ちょっと、明日香。なんでアンタが下がるのよ?」
「だって、藤堂先輩に殴られたくないし」

 明日香の素の答えに、るりかは呆れていた。

「本気で言ってるの? 殴るわけないでしょ。男の子だよ? フツウ、女の子を殴る? ありえないでしょ」
「いやいや、藤堂先輩は殴るし。ほのかが強姦未遂にあったとき、首謀者の一人、滝沢さんにボディブロー叩きつけたし。リバーしたって聞いてるし」
「……」

 るりかが俺から一気に離れる姿を見て、呆れてしまった。分かりやすいヤツだな。
 コイツら、出会ったときから思っていたのだが、もっとシリアスになれないのか? 先ほどまでの殺気に満ちた雰囲気はどこにいったのやら。

 俺がこの二人と知り合ったのは、押水のバイト先に偵察に行った時だ。伊藤に無理やりついてきて、結局、パフェを食べただけだった。 
 全く、コイツらは変わらないな……きっと、初めて出会った入学式のときから成長していないのだろう……ん?

 俺は自分の無意識の言葉に引っ掛かりを覚えた。俺が二人と初めて会ったのは、カフェではなかったのか? なぜ、入学式だと思ったんだ?
 カフェで出会ったときは、押水の監視に集中していたので気づかなかったが、今、こうしてみてみるとこの二人、どこかで出会ったような……いや、違う。
 出会ったのではなく、見かけたのでは……入学式のいつだ? どこでだ?

「? なんすか? 女の子の顔、ジロジロと見て。キモっ!」
「……お前たち、どこかで……」
「マジありえないし。ほのかの事をふっておいて、ナンパしてくるとか、ありえないし。キモっ!」

 文句を言われているが、俺は二人のことを思い出そうとした。
 どこだ? どこで見かけたんだ?

「そうだ……入学式のとき、確か……お前達は誰かと……」
「「!」」

 なぜ、面識のない二人の事をうろ覚えしていたのか? 理由があるはずだ。
 別に二人が珍しいというわけでもなく、不良に見えたわけでもない。二人がある人物と会っていたことが不思議だったんだ。
 二人が出会っていた人物とは……もう少しで思い出せそうだ。喉元まできている。そう、その人物は……。

「ああっ~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「!」

 な、なんだなんだ? るりかがいきなり叫んだぞ。
 るりかが叫んだことで、周りの生徒全員が何事かとるりかを見ている。その視線を受け、るりかは顔を真っ赤にして、俺を睨みつけた。

「お、覚えてなさいよ! いや、忘れなさい!」

 どっちなんだ?
 そう問おうとしたが、るりかは脱兎のごとく、この場から逃げ出していた。明日香の姿はここにはなく、いつの間にか去っていったようだ。
 なんだったんだ、あの二人は?
 しかも、今の不審な行動のせいで、思い出しかけていた事が思い出せなくなった。
 二人が入学式に出会っていた人物を結局思い出すことができず、俺はその場を後にした。


 
「正道、お昼休みにやらかしたんだって」
「……」

 放課後、風紀委員室で見回りの準備をしていると、左近に呼び止められた。
 やらかした? 何をだ? 思い当たる節がない。
 思い返していたら、左近が説明してきた。

「二人の女子生徒と口論になったでしょ?」
「……ああ、あのことか」

 口論というよりも、ただ因縁をつけられただけだが。
 あれだけの事で呼び止められるなんて、珍しいな。大きな問題がなければ、そのままスルーするのに、今日はストップをかけられた。
 左近にとって何か確認しておきたいことがあるのか?
 俺は二人のやりとりを簡単に説明した。説明が終わっても、左近は何か探るような目で俺を見ている。

 なんだ? 何を気にしているんだ?
 俺自身、何か問題視するような事は思い当たらないのだが。
 左近は俺の様子を見て、首を横に振る。

「いや、いいんだ。僕の思い過ごしだったみたい」
「思い過ごし?」
「こっちのこと。それより悪かったね。お昼休みに仕事してもらって」

 左近の言い方に少し気になることがあったが、それよりも知っておきたいことがある。
 あの二人と別れてからしばらくして、目的の人物と接触できた。少し抵抗されたが、無事風紀委員室へと連行した。無事というのは俺が、という意味だが。
 喧嘩の強さはそこそこ、抵抗されたが特に問題児には思えなかった。どこかのチームに所属していたようにもみえなかった。
 何が問題なのか、さっぱり分からない。

「それはかまわないが、アイツは何かしたのか?」
「ううん。何かしたってわけじゃない。これから、何かするかもしれなかっただけ」
「?」

 つまり、未然に何か事件を防いだというわけか。だとしたら、アイツは何を企んでいたのか……。

「ごめん、正道。まだ、話せる段階じゃないんだ。もう少しだけ、時間をくれない?」
「分かった」

 気にはなったが、左近がそういうのであれば仕方ない。何か問題があれば、すぐに話してくれるだろう。
 風紀委員の仕事に関しては、信頼できるヤツだ。だから、俺はこの話題を切り上げた。
 話は終わったはずだが、左近は少し困った顔をしている。まだ、何かあるのか?

「正道、伊藤さんと仲直りできない? 彼女、あれからずっと、風紀委員室に来ないんだよね。僕が何を言っても戻ってきてくれないし、正道ならどうにかできるでしょ?」
「……すまない、左近。俺には無理だ」

 ああっ、またこの話題か。俺は心の中でため息をつく。
 俺だって、伊藤に帰ってきてほしいと願っている。可能なら、俺ともう一度、相棒としてコンビを組んでほしいと思っている。でも、無理だ。
 俺の仲良くしたいと、伊藤の仲良くしたいには大きな違いがある。
 俺は先輩後輩として、伊藤は彼氏彼女として仲良くなりたいと考えているからだ。

 俺は親に捨てられたことがトラウマになって、誰かと深く関わるのを避けてきた。
 仲良くなってしまうとつい依存してしまう。そのときにまた捨てられたら、俺はもう痛みに耐えられない。傷つきたくないんだ。
 それならば、仲良くなる前に離れてしまえばいい。適度な距離がお互い傷つけずにすむのだ。

 それに、ハーレム騒動で学んだ。付き合う気がないのであれば、余計な期待をさせてはいけない。
 俺の事を好きになってくれるなんて、涙が出るくらいありがたいことだが、それに報いることはできない。
 本当に情けない。御堂との約束だって果たせていない。俺に出来るのは、ただ誰かを傷つけないよう、距離をとるだけだ。

 左近には申し訳ないが、期待に応えられそうにない。
 それにしても、不思議だった。左近が伊藤の事をここまで買っていたことについてだ。
 左近は身内には甘いが、裏切りに対してはかなり厳しい。苛烈と言ってもいいくらいだ。なのに、左近の方針に逆らった伊藤の事をまた呼び戻そうとしている。

 伊藤を連れてきたのは左近だ。問題を抱えていた伊藤を左近が助け、その見返りに風紀委員の仕事を手伝うよう要求した。
 しかし、よくよく考えると、腑に落ちない話なのだ。

 いくら俺がハーレムの事を知らないからといって、伊藤を俺のサポートにつける必要はなかったと思う。左近がいつものようにサポートしてくれたら、それで問題なかったはずだ。
 左近が風紀委員長を解任されたとき、一度理由を尋ねてみた。すると、左近は伊藤の悩みを解決する為に、俺と組ませていると言った。
 つまり、左近は伊藤の根本的な問題に気づき、俺を通して解決させようとしていたことになる。
 正直、過保護すぎやしないかと思う。

 左近と伊藤の間に何かあるのか?
 もし、左近が伊藤の事を好きだとしたら……俺と伊藤を組ませようとする理由が分からない。矛盾している。
 好きなら、左近のアシスタントとして伊藤をそばに置けばいい。風紀委員長なのだから、それくらい簡単に出来たはずだ。なのに、実行しなかった。
 分からない……どうして、左近は伊藤をここまで気に掛けるのか……。
 お互い黙ったまま、時間だけが過ぎていく。沈黙を破ったのは左近だった。

「無理にとは言わないけど、気が変わったらお願いね」
「……」

 俺は何も言わずに風紀委員室を出た。余計な期待や希望は与えるべきではない。口だけの約束なんて、優しさでも何でもない。
 左近の呆れたような笑いが聞こえたような気がしたが、振り返ることはなかった。
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