風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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二章

二話 だからだろうが! その一

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菜乃花なのか、お義父さん達が帰ってきたのか?」
「正道君じゃない……って何をしているの? 玄関でうずくまって」
「に、兄さん! 大丈夫ですか!」

 こ、このクソアマ……人のすねを思いっきり羽子板で叩きやがって……。
 確かに本人の前で忘れてたと叫んだのはデリカシーにかけた行為だが、この仕打ち。去年の悪夢を否応なく思い出してしまう。

 忘れていたかった……それが本音だ。
 このガキのせいで、どれだけ酷い目に遭ったか……愚痴だけで三時間はかるく話せるほどいろいろなエピソードがある。
 今年も新たなトラウマがうまれそうで、頭痛がしてきた。

「さっきから気になっていたんだけど、正道。そこにいる女……誰?」

 顔は笑っているが、相当キてるな。目が笑っていない。しかも、年上の上春に向かって羽子板でさしている。
 俺は頭を抱えたかった。

 尾上おのうえ 菜乃花。
 藤堂家の次女であり、女の妹である古都音ことねさんの娘で義信さんと楓さんにとっては孫にあたる。
 俺も孫なのだが、俺と菜乃花では態度に雲泥うんでいの差がある。

 義信さんも楓さんも菜乃花を溺愛しているといってもいいレベルだ。俺も大事にされているはずだが、やはり青年よりも幼い子供の方が可愛いのだろう。
 俺にとってはそれだけでも目の上のたんこぶなのだが、菜乃花の性格は更に俺を苦しめる。

 菜乃花は可愛い。子役タレントのような容姿で、笑顔はまるで天使のようだ。(菜乃花の父、総次郎の個人的意見である。もちろん、個人差があるのでどこまで可愛いかは主観に任せる)
 だが、笑顔が可愛いからといって、性格が可愛いわけではない。
 どこの誰が相手だろうと、一歩も引かず、自分の意見を押し通す。常識も法も菜乃花の前では関係ないのだ。

 よく言えば、首尾一貫。
 悪く言えば、傍若無人。

 芯が強いのは藤堂家譲りだと思うが、我が儘は誰に似たのか。全く迷惑な話だ。
 喉が渇いたからジュースを買ってこい、四つん這いになって馬になれ、俺の作った飯が不味いから作り直せ、なんて要求はかわいいもので、クレーンゲームで欲しいぬいぐるみをとれと命令されたときはマジで泣きをみた。

 菜乃花が欲しいぬいぐるみは、ぬいぐるみの山の下にあり、一発では絶対にとれない代物だった。
 クレーンゲームなど小学校のとき、二、三回しかやったことがなかったので、俺は正月にもらったお年玉を全て費やして挑戦したが、結局とることが出来ず、役立たずだなんだと文句を言われた。

 あのとき、思わず手が出てしまった。小学生女子相手に殴ったなんて大人げないと言われるが、年玉全部だぞ? 人として当たり前のことをしたと思っている。

 だが、罪には罰が待っている。真の地獄が俺を待っていたのだ。
 菜乃花は事もあろうか、義信さんに泣きついたのだ。しかも、性的嫌がらせを受けたと、とんでもない嘘をつきやがった。
 もちろん、俺はそんなことをしていない。神に誓える。
 だが、義信さんは俺よりも菜乃花の戯言を信じ、三時間のお説教をされた。
 楓さんがとめてくれなかったら、もっとお説教をされていただろう。
 あのときの絶望感と怒りは今も覚えて……いや、自己防衛で思い出せないほど、封印されていた苦い記憶だった。

 俺は正月に癒えない傷とロリコンという名の十字架ギルティを背負わされた。
 また、あの悪夢が復活するのだろうか?
 い、嫌すぎる……。

「兄さん、兄さん。あの子誰なんですか? 私、怖いんですけど」

 上春は俺の袖をぎゅっと握り、思いっきりドン引きしていた。だよな~引くよな~。
 さて、この状況をどうするべきか? 上春と協力としてこの悪魔を埋めるか?
 いやいや、違う。そうじゃないだろうが。今は上春の事だ。

 上春と俺の関係を話すべきか?
 とにかく、玄関で立ち止まっていても仕方ない。上春の体が冷えるし、普段着慣れない着物で歩いて疲れただろう。
 だから……。

「とりあえず、リビングで話そう。上春、着替えてこい」
「……はい」

 俺は上春を部屋に行くよううながし、菜乃花達をリビングに連れて行く。その途中で菜乃花は容赦なく俺の尻をつねってきた。
 我慢だ……我慢しろ、俺……。


 
「お待たせ致しました」

 上春はすごすごとリビングに入ってきた。事情を知らない尾上家の面々と上春はバツの悪い顔をしている。
 総次郎さんと古都音さんは自分の実家に知らない女子が正月の朝からいることに戸惑っている。
 菜乃花に関しては人のテリトリーに見知らぬ女がいることに機嫌がすこぶる悪い。
 そして、俺の胃がどんどん痛くなる。どんな報復を受けるのか、憂鬱で仕方ない。

 とりあえず、コタツの中で、菜乃花は何度も俺の足を蹴ってきている。本当に勘弁して欲しい。
 上春は借りてきた猫のように大人しい。遠慮がちに俺の隣に座る。

「ほら」
「あ、ありがとうございます」

 俺はあらかじめ用意しておいたココアを渡す。上春は嬉しそうに受け取り、ゆっくりと一口つける。
 上春の顔がほんの少し和らぐ。

 かりかり……。

 上春とは対象に、菜乃花の機嫌が急激に悪くなる。音を立てながら机に爪を何度もこすりつけている。俺の足を蹴る力と間隔が増えていく。
 なぜ、俺がこんな目にあわなければならないのか。
 今年は厄年だと本気で信じ始めていた。

「正道。ミルクティ」

 菜乃花の機嫌がどれだけ悪いか一言で集約されているな。言葉が短ければ短いほど、フラストレーションがたまっているのだ。
 菜乃花にも飲み物を用意したのだが、上春と同じココアが気に入らないらしい。
 去年はココアが好きって言うから用意してやったのに……。

「菜乃花、我慢しなさい。話が進まないでしょ」

 この中で唯一、菜乃花を御することが出来る尾上家の最高権力者、古都音さんの一声で菜乃花は渋々黙り込む。
 父親を籠絡できても、母親にはかなわないようだ。
 俺は心の中でほっとしていた。足は蹴られ続けているが。
 古都音さんは興味深けな顔で俺と上春を見つめている。

「正道君。そろそろ、その子を紹介してくれない? 正道君の恋人じゃないわよね?」
「はぁ~! 恋人! ふざけてるんじゃないわよ!」
「菜乃花、黙っていなさい」
「でも!」
「黙りなさい」

 菜乃花が俺を射殺さんと睨んでくる。俺は何もしていないのにどうして、事態は悪化していくのか? 理不尽だろ。

「さっき、その子が着ていた着物、母さんのお気に入りの着物だったわ。それに今は洋服に着替えている。それって、その子の私服が家にあるって事よね? 正道君を兄さんって呼ぶその子、すごく興味があるわ」

 古都音さんは頬杖をつき、ニヤニヤしながら俺に問いかける。古都音さんの姿が女と重なり、居心地が悪い。姉妹だから似て当然だよな。
 それよりも、今は上春の事だ。
 俺と上春の関係。それは……。

「赤の他人です」
「兄さん、やめてもらえません? 冗談じゃ済みませんから」
「す、すまん」

 上春の目の据わった抗議に、俺は反射的に謝ってしまった。
 俺と上春の関係か……。
 よくよく考えると、よく分からないな。

 家族ではない。まだ、女と信吾さんは結婚したわけではないので、赤の他人でもあっているような気がする。
 同じ委員の先輩、後輩ではあるが、コンビを組んでいたわけではないし、接点も、家に押しかけてくるまでほとんどなかった。
 それに不良のいざこざに上春を巻き込みたくないので、逆に関わりがないようにしてきた。

 大体、俺が上春の兄でいる必要などあるのか?
 年上の兄姉なら朝乃宮がいるんだ、俺みたいな兄など不要だ。
 そう考えると……。

「兄さん、屁理屈はいいですから、さっさと説明してください。これ以上、変なことを言ったら、私、怒りますよ」
「……はい」

 すでに怒っているだろうが。別にふざけているわけではないんだぞ。逆に真剣なくらいだ。だが、俺の声は誰にも届かないんだろうな。
 俺は心の中でため息をついた。

 俺は上春家がここに居候することになった経緯を説明した。
 女がいきなり帰ってきて、再婚をする事になったこと。
 その際、俺を引き取りに来たこと。
 俺は猛反対していること。
 再婚相手である上春家が押しかけてきたこと。
 義信さんが話をまとめてくれて、現在、同居していることを話した。

 話をしてみると、自分の気持ちがぶれまくっていて、情けなくなるのを感じていた。
 再婚に反発していたと思えば、信吾さんと手を組み、さっきまでまた再婚に反対しようとした。

 いつもなら、ぶれることはなかった。
 自分の目で確かめ、行動し、自分の心に従ってきた。誰に何と言われようとも、自分の筋を通してきた。
 それなのに、家族の事となると心がざわつき、気持ちがブレてしまい、迷ってしまう。感情的になってしまい、後悔し続けている。

 何が正しい解なのだろうか?
 堂々巡りで答えが見つからず、気分が落ち込んでしまう。
 もう一つ気落ちさせられる理由がある。
 それは……。

「よかったじゃない。澪さん帰ってきたんでしょ? なんだかんだで、母親じゃないか。許してあげなよ、正道君」

 そう、これだ。総次郎さんのこの反応だ。
 大抵の人間は、女を擁護するような事を言う。俺が悪いみたいな言い方をされる。
 なぜ、女は許されなければならないんだ? 俺が許さないといけない空気になるんだ? 納得いくわけないだろうが。
 過去に縛られていることは分かっている。そのせいで前へ進めないことだって知っている。
 でも、それでも、俺は……。

「許せない……」
「菜乃花?」
「許せない! なんなの、その女! あまりにも身勝手でしょ! ありえない!」
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