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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE
2/4 後編
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藤堂はんとおばさま、桜花ちゃんをウチのマンションに招いた後、簡潔に部屋の紹介をした。
「なあ、朝乃宮」
「なんです?」
「……今日の晩ご飯、どうする?」
せやった。
いきなり家族会議で藤堂家を追い出されたので、冷蔵庫に食材がない。
藤堂家にお世話になる予定やったからな……どないしよ。
「それなら問題ないわ。お弁当、作ってきましたので」
流石はおばさま。
きっとおばさまは信吾はん、もしくはおじさまから前もって相談されてた。だから、準備できた。
ウチに相談してくれてたら、ウチが弁当を作れたのに……デキる女アピールできたのに……。
ほんま、気が利かんわ、信吾はんは……少し教育……話し合いが必要かも。
「ありがとうございます、楓さん。本当に頼りになります」
「これくらい、任させてください」
この台詞、ウチが言いたかった……。
まあ、挽回する機会はこれから先あるし、焦る必要はない。
『朝乃宮家に無能と役立たずはいらない』
そう……役立たずはいらない……。
「ママ~、おなかすきました」
桜花ちゃんもテレビを見終えたことやし、ご飯しよ。
その前に。
「桜花ちゃん、チンしよな」
「はい!」
元気のええ挨拶や。
いつの間にか桜花ちゃんの鼻水が出ていたので、ウチはティッシュで桜花ちゃんの鼻水をふく。
そういえば、朝も鼻水だしてた。
アレルギー? 空気清浄機、準備しておいた方がええかも。
「お茶入れます」
「俺も手伝おうか? 食器ぐらいなら……」
「藤堂はんは桜花ちゃんと一緒にいてください」
おばさまがお弁当を用意したのなら、ウチが他をやらんと。
けど、テーブルで藤堂はんと桜花ちゃんが待っていて、ウチが食事の用意をしてる姿……ふ、夫婦みたいやない?
て、テレる……。
「ママ~はやく~」
「はいはい」
ウチは微笑みながらご飯の準備をした。
「「「いただきます」」」
か、可愛え……。
桜花ちゃんのお弁当はサンリオキャラのキャラ弁。
クオリティ、高い!
それに食器も可愛ええ!
スプーンもフォークも端っコぐらしのキャラやし!
量は少ないように見えるけど、これでええんやろか?
ウチが四歳児のとき、何を食べてたやろ? 全然思い出せない。
覚えてるのは、広い部屋でたった一人で食事をしている姿。
誰もいないから会話もない。そもそもおしゃべりしていたらお仕置きされてまう。
食事の時間は作法の時間。
いかに綺麗に美しく食べられるか。
その特訓の時間。
ほんま、味気なかった。きっと、一流のシェフが作ってくれたんやろうけど、全然おいしくなかった。
寂しかった……。
「桜花、おいしいか?」
「はい!」
「よかったわ、桜花ちゃんの口に合って」
「くちにあう?」
「おいしく食べてもらえたってことです」
「おいしいです!」
今は……。
「朝乃宮? 食べないのか?」
「たべないの、ママ?」
「いただきます」
ウチはそっと箸を掴み、おばさまが作ってくれたご飯を口にする。
「美味しい……」
「だな。そういえば、朝乃宮の好きなおかずって何だ?」
「リクエストしたら作ってくれます?」
「気が向いたらな」
食事が美味しく思える。
誰かと……好きな人と食事する時間はあたたかくて、優しい空間になる。
あの無色で冷たい朝乃宮家の食卓とは大違い。
「パパ、たべさせて~」
「……ほら、あ~ん」
「ぱくぅ! おいしいです!」
ああっ! ずるい!
ウチも! ウチも!
「パパ~」
「……ママにたべさせてもらいなさい」
「ぶぅ~。ママ~」
「はいはい」
やった! ウチも藤堂はんにあ~んして欲しかったけど、それはそれ。
可愛く口を開けてる桜花ちゃんにウチはミートボールを……。
「ぱくぅ!」
「……」
ウチが食べた。
桜花ちゃんは口を開けたまま、動かない。
「堪忍な~桜花ちゃん。今度はちゃんと食べさせるから……」
「……ぐすぅ」
「えっ?」
「うえぇええええええええええええええええええええええええんんんんんんんん!」
な、泣いてもうた! なんで! なんで!
「ママのいじわるぅうううううう~~~! い~じ~わ~るぅうううううううう!」
「朝乃宮……」
「千春ちゃん……」
うっ! やってもうたぁあああああああ!
藤堂はんのとがめる視線が痛い! おばさまの困った顔が罪悪感ハンパない!
ウチの株、下落してる~~~。優良株やのに~~~~~!
ま、まずい! どこかで挽回せんとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
「ねえ~桜花ちゃん~ママとお風呂はいろ~」
「やぁ! いじわるなママ、きらい!」
ううっ! 完全にへそ曲げられた!
けど、ここで引き分けにはいかへん!
食器の片付け、お風呂の掃除は藤堂はんがやってくれた。藤堂はんが気を遣って、ウチと桜花ちゃんを二人っきりにしてくれた。
ウチは何度も何度もお願いして、おばさまの協力を得ながら頼み込んで十分後、ようやくお許し出た。
そして……。
「ふひぃ~」
「ぷっ!」
可愛ええええええええ~~~~~!
ウチの膝に座って、目を細めて頭にタオルを乗せて湯船につかっている桜花ちゃん。ほんま、可愛ええ!
ほっぺたぷにぷにやし。
けど、アヒルのオモチャを湯船に浮かべるなんて初めて見たわ。
桜花ちゃんの荷物ってほんま、オモチャだらけ。少し羨ましい……。
朝乃宮家では……もう以下省略。やめやめ。
お風呂の時に嫌な思い、しとうないし、あんな家系のこと思い出したくもない。お風呂はのんびり疲れを癒やす為の時間。
ウチもマッサージしながらのんびりするわ。
桜花ちゃんの為、湯の温度はぬるめ。物足りへんけど、しゃあない。
早めにお風呂をでよ。
「桜花ちゃん、しっかりと暖まろうな~」
「ふひぃ~」
「せや、桜花ちゃん。いくつまで数えられる?」
「ふひぃ……」
「ウチと数えっこしよっか?」
「……」
「桜花ちゃん?」
「ぶくぶくぶく……」
「桜花ちゃん!」
えええええええ! 桜花ちゃんの顔が赤い! しかも、湯船に沈んでるし!
これって、のぼせたってこと!
はやくない!
「おばさま! おばさま!」
ウチは急いで桜花ちゃんを湯船からだして、おばさまの名前を呼ぶ。
こういうとき、どう対処したらええのか、わからへん。
おばさまの足音と、大きな足音が聞こえる。
「ちょっ!」
まさか、藤堂はんまで呼んでもうた? いやいやいや!
ウチ、おばさましか呼んでない! なんで藤堂はんが来るん!
ウチ、まだバスタオルも巻いてない! 藤堂はんに裸、見られる!
ガチャ!
「千春ちゃん、桜花ちゃんは?」
「……のぼせてたみたいです」
「はやく桜花ちゃんの体を拭いてあげないと。千春ちゃんも」
「……はい」
せやな……藤堂はんが入ってくるわけないわな~。
あの真面目が服を着た男が女性のお風呂場に入ってくるわけがない。きっと、タオルを濡らしておばさまから言われてる対策をしてる頃やろ。
長尾はんが読んでる青年誌のような、絶対にそれ狙ってるやろ的な主人公のセクハラ犯罪行為を藤堂はんがするはずがない。
なんやろ……焦って損した……疲れた……。
ウチ、何してるんやろ……。
「桜花ちゃん……堪忍な……」
「……」
桜花ちゃんは体を拭いて、パジャマに着替えて横になっている。額にハンドタオルを乗せ、冷やしてる。
ウチ……そんなつもりなかった……桜花ちゃんと楽しくお風呂に入りたくて……ママらしいことをしようとした。
けど、全部から回り。打算的やったから失敗したんや……。
家族の愛を知らないウチには母親らしいことなんて……。
『朝乃宮家に無能と役立たずはいらない。千春、お前はどちらだ? 私の期待に応えられなければ……分かっているな?』
ウチは無能じゃない……役立たずじゃない……期待に応える……でないと……でないと……居場所が……。
「気にするな、朝乃宮」
「藤堂はん?」
「きっと、俺もミスしていた。今回はただ、朝乃宮の番だったってことだ。それに朝乃宮が失敗したからこそ、次に失敗しないよう対策することができる。きっと、世の中の母親もそうやって子供を育ててるんだと思う。それに俺だってフォローするから、その……落ち込むな」
「……おおきに」
藤堂はんの優しさが嬉しかった。
少し不器用やけど、だからこそ、嬉しかった。
あの人とは違う……ここは朝乃宮家ではない……。
せや、ウチ一人では無理でも、藤堂はんとなら……出来る気がする。
家族の愛を知らないのなら……これから知ればいい。
「けどな、意地悪はダメだ。上春も嘆いていたぞ。いくら桜花が気に入ったと言っても、親しき仲にも礼儀ありだ。
朝乃宮は……」
……ほんま、プラスマイナスをゼロにする達人ちゃう、この人。流れるように説教始めたわ。
ふいにおばさまがウチの手を握ってくれた。
ウチは黙って頭を下げた。
桜花ちゃん、今日は堪忍な。
でも、明日は……桜花ちゃんの笑顔が見れるよう、頑張るから。
桜花ちゃんだけでなく、おばさまや藤堂はんの笑顔も……せやから……。
「信吾はん。メール見てくれました?」
「見たけど……おせちでも作る気? それに空気清浄機と電動……」
「その材料と依頼したブツを一時間後にウチのマンションに届けてください」
「一時間以内!」
ウチは自分の部屋からベランダに出て、信吾はんに電話していた。
藤堂はんやおばさまには絶対に聞かれたくないから。
今、桜花ちゃんはウチが用意した部屋で寝てる。藤堂はんが付き添ってくれてる。
ウチがいても何も出来そうにないし、それなら、今までのミスを帳消しにして役に立つところをアピールする為に動くべき。
その策も考えてる。
「い、今八時だよ? 僕、もうお風呂に入ったから外出したくないんだけど……」
「殺意のわくつまらん冗談をほざくのはやめてください。不愉快です。それに拒否権は認めないんで、さっさと無駄話はやめて買いに行ってください。今すぐ至急に!」
「ええええ~~~! い、いくら本家だからって、何でもかんでも命令するのは……」
「婚約指輪と結婚指輪買ってマンション追い出されたとき、誰が世話したと?」
「そ、それは……」
「あんさんがいきなり桜花ちゃんをウチのマンションに押しつけたせいで、ウチは今日、恥をかきました。ウチの相談もなく決めたせいです」
「それは多分、自業自得じゃあ……」
ぶちっ!
「あんさんと澪はんの結婚、本家総掛かりで握りつぶしますけど、それでもええというのなら、電話を切ってください」
「僕たちの結婚がかかってるの、このおつかい!」
「それではお願いします」
「ちょっと、千春……」
ぴっ!
これでよし。さっさと準備にかかろ。
もうこれ以上、醜態をさらすことは許されへん。
必ず挽回する! 明日を楽しみにしててな、桜花ちゃん! 藤堂はん!
2/5へ続く
「なあ、朝乃宮」
「なんです?」
「……今日の晩ご飯、どうする?」
せやった。
いきなり家族会議で藤堂家を追い出されたので、冷蔵庫に食材がない。
藤堂家にお世話になる予定やったからな……どないしよ。
「それなら問題ないわ。お弁当、作ってきましたので」
流石はおばさま。
きっとおばさまは信吾はん、もしくはおじさまから前もって相談されてた。だから、準備できた。
ウチに相談してくれてたら、ウチが弁当を作れたのに……デキる女アピールできたのに……。
ほんま、気が利かんわ、信吾はんは……少し教育……話し合いが必要かも。
「ありがとうございます、楓さん。本当に頼りになります」
「これくらい、任させてください」
この台詞、ウチが言いたかった……。
まあ、挽回する機会はこれから先あるし、焦る必要はない。
『朝乃宮家に無能と役立たずはいらない』
そう……役立たずはいらない……。
「ママ~、おなかすきました」
桜花ちゃんもテレビを見終えたことやし、ご飯しよ。
その前に。
「桜花ちゃん、チンしよな」
「はい!」
元気のええ挨拶や。
いつの間にか桜花ちゃんの鼻水が出ていたので、ウチはティッシュで桜花ちゃんの鼻水をふく。
そういえば、朝も鼻水だしてた。
アレルギー? 空気清浄機、準備しておいた方がええかも。
「お茶入れます」
「俺も手伝おうか? 食器ぐらいなら……」
「藤堂はんは桜花ちゃんと一緒にいてください」
おばさまがお弁当を用意したのなら、ウチが他をやらんと。
けど、テーブルで藤堂はんと桜花ちゃんが待っていて、ウチが食事の用意をしてる姿……ふ、夫婦みたいやない?
て、テレる……。
「ママ~はやく~」
「はいはい」
ウチは微笑みながらご飯の準備をした。
「「「いただきます」」」
か、可愛え……。
桜花ちゃんのお弁当はサンリオキャラのキャラ弁。
クオリティ、高い!
それに食器も可愛ええ!
スプーンもフォークも端っコぐらしのキャラやし!
量は少ないように見えるけど、これでええんやろか?
ウチが四歳児のとき、何を食べてたやろ? 全然思い出せない。
覚えてるのは、広い部屋でたった一人で食事をしている姿。
誰もいないから会話もない。そもそもおしゃべりしていたらお仕置きされてまう。
食事の時間は作法の時間。
いかに綺麗に美しく食べられるか。
その特訓の時間。
ほんま、味気なかった。きっと、一流のシェフが作ってくれたんやろうけど、全然おいしくなかった。
寂しかった……。
「桜花、おいしいか?」
「はい!」
「よかったわ、桜花ちゃんの口に合って」
「くちにあう?」
「おいしく食べてもらえたってことです」
「おいしいです!」
今は……。
「朝乃宮? 食べないのか?」
「たべないの、ママ?」
「いただきます」
ウチはそっと箸を掴み、おばさまが作ってくれたご飯を口にする。
「美味しい……」
「だな。そういえば、朝乃宮の好きなおかずって何だ?」
「リクエストしたら作ってくれます?」
「気が向いたらな」
食事が美味しく思える。
誰かと……好きな人と食事する時間はあたたかくて、優しい空間になる。
あの無色で冷たい朝乃宮家の食卓とは大違い。
「パパ、たべさせて~」
「……ほら、あ~ん」
「ぱくぅ! おいしいです!」
ああっ! ずるい!
ウチも! ウチも!
「パパ~」
「……ママにたべさせてもらいなさい」
「ぶぅ~。ママ~」
「はいはい」
やった! ウチも藤堂はんにあ~んして欲しかったけど、それはそれ。
可愛く口を開けてる桜花ちゃんにウチはミートボールを……。
「ぱくぅ!」
「……」
ウチが食べた。
桜花ちゃんは口を開けたまま、動かない。
「堪忍な~桜花ちゃん。今度はちゃんと食べさせるから……」
「……ぐすぅ」
「えっ?」
「うえぇええええええええええええええええええええええええんんんんんんんん!」
な、泣いてもうた! なんで! なんで!
「ママのいじわるぅうううううう~~~! い~じ~わ~るぅうううううううう!」
「朝乃宮……」
「千春ちゃん……」
うっ! やってもうたぁあああああああ!
藤堂はんのとがめる視線が痛い! おばさまの困った顔が罪悪感ハンパない!
ウチの株、下落してる~~~。優良株やのに~~~~~!
ま、まずい! どこかで挽回せんとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
「ねえ~桜花ちゃん~ママとお風呂はいろ~」
「やぁ! いじわるなママ、きらい!」
ううっ! 完全にへそ曲げられた!
けど、ここで引き分けにはいかへん!
食器の片付け、お風呂の掃除は藤堂はんがやってくれた。藤堂はんが気を遣って、ウチと桜花ちゃんを二人っきりにしてくれた。
ウチは何度も何度もお願いして、おばさまの協力を得ながら頼み込んで十分後、ようやくお許し出た。
そして……。
「ふひぃ~」
「ぷっ!」
可愛ええええええええ~~~~~!
ウチの膝に座って、目を細めて頭にタオルを乗せて湯船につかっている桜花ちゃん。ほんま、可愛ええ!
ほっぺたぷにぷにやし。
けど、アヒルのオモチャを湯船に浮かべるなんて初めて見たわ。
桜花ちゃんの荷物ってほんま、オモチャだらけ。少し羨ましい……。
朝乃宮家では……もう以下省略。やめやめ。
お風呂の時に嫌な思い、しとうないし、あんな家系のこと思い出したくもない。お風呂はのんびり疲れを癒やす為の時間。
ウチもマッサージしながらのんびりするわ。
桜花ちゃんの為、湯の温度はぬるめ。物足りへんけど、しゃあない。
早めにお風呂をでよ。
「桜花ちゃん、しっかりと暖まろうな~」
「ふひぃ~」
「せや、桜花ちゃん。いくつまで数えられる?」
「ふひぃ……」
「ウチと数えっこしよっか?」
「……」
「桜花ちゃん?」
「ぶくぶくぶく……」
「桜花ちゃん!」
えええええええ! 桜花ちゃんの顔が赤い! しかも、湯船に沈んでるし!
これって、のぼせたってこと!
はやくない!
「おばさま! おばさま!」
ウチは急いで桜花ちゃんを湯船からだして、おばさまの名前を呼ぶ。
こういうとき、どう対処したらええのか、わからへん。
おばさまの足音と、大きな足音が聞こえる。
「ちょっ!」
まさか、藤堂はんまで呼んでもうた? いやいやいや!
ウチ、おばさましか呼んでない! なんで藤堂はんが来るん!
ウチ、まだバスタオルも巻いてない! 藤堂はんに裸、見られる!
ガチャ!
「千春ちゃん、桜花ちゃんは?」
「……のぼせてたみたいです」
「はやく桜花ちゃんの体を拭いてあげないと。千春ちゃんも」
「……はい」
せやな……藤堂はんが入ってくるわけないわな~。
あの真面目が服を着た男が女性のお風呂場に入ってくるわけがない。きっと、タオルを濡らしておばさまから言われてる対策をしてる頃やろ。
長尾はんが読んでる青年誌のような、絶対にそれ狙ってるやろ的な主人公のセクハラ犯罪行為を藤堂はんがするはずがない。
なんやろ……焦って損した……疲れた……。
ウチ、何してるんやろ……。
「桜花ちゃん……堪忍な……」
「……」
桜花ちゃんは体を拭いて、パジャマに着替えて横になっている。額にハンドタオルを乗せ、冷やしてる。
ウチ……そんなつもりなかった……桜花ちゃんと楽しくお風呂に入りたくて……ママらしいことをしようとした。
けど、全部から回り。打算的やったから失敗したんや……。
家族の愛を知らないウチには母親らしいことなんて……。
『朝乃宮家に無能と役立たずはいらない。千春、お前はどちらだ? 私の期待に応えられなければ……分かっているな?』
ウチは無能じゃない……役立たずじゃない……期待に応える……でないと……でないと……居場所が……。
「気にするな、朝乃宮」
「藤堂はん?」
「きっと、俺もミスしていた。今回はただ、朝乃宮の番だったってことだ。それに朝乃宮が失敗したからこそ、次に失敗しないよう対策することができる。きっと、世の中の母親もそうやって子供を育ててるんだと思う。それに俺だってフォローするから、その……落ち込むな」
「……おおきに」
藤堂はんの優しさが嬉しかった。
少し不器用やけど、だからこそ、嬉しかった。
あの人とは違う……ここは朝乃宮家ではない……。
せや、ウチ一人では無理でも、藤堂はんとなら……出来る気がする。
家族の愛を知らないのなら……これから知ればいい。
「けどな、意地悪はダメだ。上春も嘆いていたぞ。いくら桜花が気に入ったと言っても、親しき仲にも礼儀ありだ。
朝乃宮は……」
……ほんま、プラスマイナスをゼロにする達人ちゃう、この人。流れるように説教始めたわ。
ふいにおばさまがウチの手を握ってくれた。
ウチは黙って頭を下げた。
桜花ちゃん、今日は堪忍な。
でも、明日は……桜花ちゃんの笑顔が見れるよう、頑張るから。
桜花ちゃんだけでなく、おばさまや藤堂はんの笑顔も……せやから……。
「信吾はん。メール見てくれました?」
「見たけど……おせちでも作る気? それに空気清浄機と電動……」
「その材料と依頼したブツを一時間後にウチのマンションに届けてください」
「一時間以内!」
ウチは自分の部屋からベランダに出て、信吾はんに電話していた。
藤堂はんやおばさまには絶対に聞かれたくないから。
今、桜花ちゃんはウチが用意した部屋で寝てる。藤堂はんが付き添ってくれてる。
ウチがいても何も出来そうにないし、それなら、今までのミスを帳消しにして役に立つところをアピールする為に動くべき。
その策も考えてる。
「い、今八時だよ? 僕、もうお風呂に入ったから外出したくないんだけど……」
「殺意のわくつまらん冗談をほざくのはやめてください。不愉快です。それに拒否権は認めないんで、さっさと無駄話はやめて買いに行ってください。今すぐ至急に!」
「ええええ~~~! い、いくら本家だからって、何でもかんでも命令するのは……」
「婚約指輪と結婚指輪買ってマンション追い出されたとき、誰が世話したと?」
「そ、それは……」
「あんさんがいきなり桜花ちゃんをウチのマンションに押しつけたせいで、ウチは今日、恥をかきました。ウチの相談もなく決めたせいです」
「それは多分、自業自得じゃあ……」
ぶちっ!
「あんさんと澪はんの結婚、本家総掛かりで握りつぶしますけど、それでもええというのなら、電話を切ってください」
「僕たちの結婚がかかってるの、このおつかい!」
「それではお願いします」
「ちょっと、千春……」
ぴっ!
これでよし。さっさと準備にかかろ。
もうこれ以上、醜態をさらすことは許されへん。
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