風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

文字の大きさ
503 / 544
女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/5 その五

しおりを挟む
 緊急事態? 桜花ちゃんの身に何か?
 
「何かあったんですか?」
「トイレに来てくれ」
「……了解」

 緊急事態って……。
 まあ、女子トイレに藤堂はんが入れるわけないし、ウチがついていかなあかんわな。
 けど、桜花ちゃんって一人でおトイレできへんの?
 昨日はできてたんやけど……少し不安になってきた。もっと詳しく聞いておけば……って、トイレのことを詳しく聞くのも変やし……。

「何かあったの?」
「ええっ。桜花ちゃんがトイレにいますので、場所だけ教えてもらっていいですか?」
「それなら……」

 トイレの場所を教えてもらい、そこに向かうことにしたとき。

「一つ警告しておくわ。桜花ちゃん達には深く関わりにならない事ね。でないと、巻き込まれるわよ」
「巻き込まれる?」
「いかなくていいの?」
「……」

 やはり、この女……油断できへん。
 けど、今は桜花ちゃんや。

「藤堂はん」

 女子トイレ前に藤堂はんがいた。
 藤堂はんは困った顔をしている。

「すまん、朝乃宮。助けてくれ」
「助けてって……」

 どういう……。

「パパ! パパ! パパ!」
「……」

 なるほどね……。
 桜花ちゃんがずっと藤堂はんを呼んでる。
 声で泣きそうになっていることが分かる。

「頼めるか?」
「分かりました」

 トイレに入ると桜花ちゃんがその場で立ち止まっていた。

「桜花ちゃん、何かあったの?」
「……ない」
「?」
「ママのハンカチ……ママのハンカチがないの……」

 ママ? ウチのこと?
 それとも、本当のママ?
 あっ、桜花ちゃんの目に大粒の涙が……。

「うぇええええええええええええ~~~~~んんん!」

 泣いてもうた!
 ウチは桜花ちゃんを優しく抱きあげる。

「よしよし。ハンカチ、一緒に探そうな~」
「うぇええええええええええええ~~~~~んんん!」

 桜花ちゃんが泣き止むまで抱っこし、落ち着かせることにした。



「桜花ちゃん、一緒に探そうな」
「……うん」

 ほっ……。
 やっと泣き止んでくれた……けど、いつまた泣き出すか分からへん。
 とにかく、ハンカチを探さんと……。
 桜花ちゃんの手を握り、ウチが先導する。

「ハンカチ、どこに落としたか覚えてる?」

 詳しい状況を聞いて、いつからなくなったのか? なくなった直後の行動を追っていけば見つけやすいんやけど、

「わかんない……」

 思い出そうともしない。不安で思考が停止している。
 こうなったら、全部心当たりを回るしかない。
 桜花ちゃんにとって広い園内でも、高校生のウチにとって、さほど広くない。
 そう時間はかからない……そう思ってたんやけど……。

「見つからへん……」

 どこにも見当たらない。
 真っ先に職員室で落とし物がないか確認したけど、届いていない。トイレ、保育室、庭園も確認したけど、影も形もなし。
 桜花ちゃんが不安でまた泣きそうな顔してる。

「ママ……」

 マズイ……今はまだウチのことを信じて涙を堪えてるけど、いつ泣き出すか分からへん。
 こういうとき、藤堂はんにも手伝って欲しいんやけど……。

「「ドゥエル!」」
「……」

 男の子達と遊んでるし……しかも、真剣に……。
 正直、ガッカリや……。
 これって、嫁がずっと子供のおもりしてるのに、旦那様は外で遊んでいるパターン……って、誰が旦那様やねん!

「まちなさい!」

 ん?
 一人の女の子が仁王立ちになってウチらを呼び止めた。
 誰?

「あっ! しぃーちゃん!」
「わたしのなまえをよぶな!」
「ひぃ!」
「ああ~よしよし」

 また、個性的な子が現れた。怒鳴られて、桜花ちゃんはウチに抱きついてくる。
 ツインテールで猫目の女の子。
 年長組……やと思うんけど、桜花ちゃんの友達……ではなさそう?
 ちょっと、二人の関係が分からへん。
 桜花ちゃんがわんわん泣いてるから聞かれへんし。

「やっとみつけたわよ! おばさん!」

 ……いきなりパンチの効いた挨拶してくる子やね。
 ウチはしゃがみ込み、女の子と目線を合わせる。

「お姉さんって言ってくれます。それで、ウチに何か用ですか?」
「このあおしまほいくしょにせめこんできたあくじょってアナタのことでしょ!」

 ……まさか五歳児? に指をさされる日が来るとは……。
 しかも、ビシって諮問が見えそうなくらい突きつけてくるし。
 けど、こういう生意気で元気な子。ウチは好きやわ~。

「ウチは悪女ではありません。桜花ちゃんの保護者代わりです」

 ツインテールの女の子は首をかしげ……。

「ほごしゃって……パパやママってこと? うそつき!」
「嘘じゃあないです」
「だって! おうかのパパとママは!」
「ママだもん!」

 桜花ちゃん?
 桜花ちゃんがいきなり、泣きながらツインテールの子に意見する。
 けど……。

「ああん!」
「ひぃ!」

 また、しがみついてきて泣き出した。桜花ちゃん、弱虫すぎ。
 ウチはよしよしと桜花ちゃんをなだめる。

「アナタのお名前、聞かせてくれる?」
「なまえをきくときはじぶんからなのりなさい!」

 は、初めて言われたわ、そんな台詞。

「ウチは朝乃宮千春といいます」
「あっそ。せんせーがしらないひとになまえをいっちゃだめっていわれてるから」

 そう来るんや……。
 なかなか手強い子やね。

「しぃーちゃんはね、ママ! もりとも……」
「だからわたしのなまえをいうな!」
「ひぃ!」

 ほんま、個性的な子やね。
 名前を呼ばれるのが嫌いなんやろうか?
 ちょっと気になる。

「それより、おうか! そのおばちゃんはだれなの!」
「ママだもん!」
「ママって……」
「ママだもん!」

 ツインテールの子は知っとるんやろうか?
 桜花ちゃんの本当の両親を。

「おうかはそのおばちゃんのことがすきなの?」
「だいすき!」

 ……な、なんかテレるわ。
 迷いもなく言い切るんやから。

「ウチも桜花ちゃんのこと、大好きや!」

 ウチが桜花ちゃんを優しく抱きしめると、涙は止まってニコニコと笑っている。
 ほんま、コロコロ感情が変わる子や。見てて飽きひん。

「……ふうん。わるいひとじゃないみたいね。でも、どうしておうかといっしょにいるの?」
「ウチが預かることになりまして」
「あずかる? そう……」

 ツインテールの子はうつむき、何か考えている。

「わかったわ。これいじょうはきかないであげる。きっとふかいわけがあるみたいだし」

 五歳児(決めつけ)って難しい言葉知っとるな。感心するわ。
 けど、警戒は解けたみたい。
 この子と仲良うなっとくのは、これから先、桜花ちゃんの秘密を知るチャンスがうまれる。
 それなら……。

「そんなわけでよろしゅうな~」
「……いや」
「えっ?」
「おばちゃんからはいやなかんじがする。うそのにおいがする」

 ……ふうん。
 この子、感覚が鋭いというか……御堂はんと同じ野生の勘を持っているというか……。
 それなら……。

「そう……なら、分かりますよね? ウチのこと、怒らすとどうなるのか?」
「!」

 嘘を見抜けるから……本質を理解できるから分かる恐怖……。
 本能に逆らえないからこそのシンプルで効果のある一手。

「……ううっ……うぇええええええええええええ~~~~~んんん!」

 やってもうた!
 この子、御堂はんに似てるからつい、意地悪してもうた!
 これはマズイ。
 だって……。

「うぇええええええええええええ~~~~~んんん!」

 ほら! 桜花ちゃんがもらい泣きした!
 幼児を泣かせる高校生……最悪やん!
 こんな姿、絶対に藤堂はんに見られたくない! 藤堂はんでも小学生相手に本気になっても、幼児相手に本気になることはない。

 はぁ……ウチの制服、桜花ちゃんの涙と鼻水と唾ででベトベトや……。
 これは根気よく付き合っていくしかない。
 ウチは五歳児……いや、森友はんを慰めることにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

私の妹…ではなく弟がいいんですか?!

しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。 長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

処理中です...