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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE
2/5 その六
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「……そこまであやまってくれるのなら、ゆるしてあげるけど……」
「本当にごめんなさい。森友さん」
ウチは謝り倒してなんとか許してもろうた。
しかも、関西弁が通じないから標準語で話せ、ちゃん付け禁止という細かい注文のおまけ付きで。
「それで? なんでまだのこってるの? かえらないの?」
「ぐすぅ……ママのハンカチがないの……」
「はあ? はんかちなくしたの? あいかわらずぬけてるわね」
「ぬけてないもん! ぬけてないもん!」
はぁ……また泣いてもうた……。
桜花ちゃんも適当に流せばいいのに……。
「しょうがないわね。いっしょにさがしてあげるわよ」
えっ?
「……いいのぉ?」
「しょうがないでしょ。わたしはねんちょうくみで、おうかはねんしょうくみだから、めんどうみてあげる!」
ほんま、御堂はんと似てるわ。面倒見のいいお人好しのところが。
森友はんが桜花ちゃんの友達なら安心できるわ。
「ありがと、しぃーちゃん!」
「だから、なまえでよぶな!」
「ひぃ!」
これ、一種の芸なん?
「どこでおとしたのか、わかる?」
「わからない」
「それなら、あれしかないわね」
あれ?
何か秘策でもあるん?
「あんしんしなさい、おうか! わたしにはせいてんこうじょさまがついているんだから!」
「ひぃいい!」
「「……」」
ウチはつい、悲鳴を上げてしまう。
聖天幸女様って……めちゃ鬼門やん!
なんでこの子がよりにもよって、聖天幸女の名を……。
「ママ、どうしたの?」
「……なんでもありません」
桜花ちゃん、そんな顔でウチを見んといて……。
冷や汗が止まらへん……。
「かおがまっさおよ」
「そ、それよりここは地道に足を使ってハンカチを探しません? う、占いに頼るのは不確実やと思いますし」
「てがかりがまったくないのに? それなら、うらないでさがしてもおなじじゃない?」
くっ! 森友はんに正論で論破されてもうた……。
こうなったら、ウチが聖天幸女と関わりがないよう、バレずにやりすごすしかない。
「そうですね……お願いできます?」
「まかせてよ!」
ほんま、ええ顔で了承してくれるわ。まるで天使の笑顔や。
聖天幸女の事がなければウチも素直にこの可愛い笑顔を愛でることができたのに……。
「とりあえず、どうぐをよういするわ! こっちにきて!」
森友はんはウチのスカートの裾を引っ張り、教室に入る。
藤堂はん達がいた教室とは違う、別の教室。
ただ、誰もいない。
森友はんはせっせと鞄から道具を取り出す。
まずは濃い灰色のざらついた布を引く。
布の色も用途によって決まっていて、聖天幸女は捜し物を占う場合は灰色を使用している。
模様は星型多角形、複合正多角形、複合星型正多角形が使用されていて、それも用途によって五芒星、六芒星、七芒星と変わる。
今回は八芒星を使用している。探し物を八方向で調べるつもりみたい。
布の色が濃いのはカードを見やすくするため。
他にもいろいろとあるけど、布や模様については以下省略。
次に。
チーン!
音叉を鳴らす。
音叉から発する周波数と音で音で部屋を浄化し。
アロマで空間を日常から特別な空間に意識させる。
聖天幸女はこの他にも占う場所や方角、時間、星の位置等、細かい条件がつくけど、森友はんは簡易版で占おうとしてる。
それでも、本格的な準備にウチは舌を巻いた。
そして、森友はんが取り出したタロットカードは……。
「サンオリキャラタロット?」
これはまた、可愛らしいカードや。
サンオリキャラとは株式会社サンオリが著作権および商標を保有するキャラクターであり、幅広い年齢層に人気が高い。
女の子なら一度はキャラもんのグッズを買ったことがあるメジャーな存在。
「……しかたないでしょ。ママにたのんでもこれしかかってくれなかったし」
頬を膨らませ、拗ねている森友はんに、ウチはそっと頭を撫でる。
「森友はん。タロットカードで大切なことは、絵柄ではなく、使った年季や愛着、想いが蓄積されて霊的な力を宿す。そう思いません?」
「……うん」
森友はんは耳まで真っ赤になって頷く。
ほんま、可愛ええ子や。ウチ、好きやわ~。
「それってせいてんこうじょさまのことばだよね? おばちゃんもしってるの?」
よう知ってます。聖天幸女様の正体が咲であること。
そして……そして……。
あかん! これは絶対に墓まで持って行く! 絶対に藤堂はんには知られたくない!
もし、知られたら……知られたら……。
「おばちゃん?」
「……偶然知ってただけです。それとお姉さんと呼んでほしいんですけど」
「きがむいたらね」
生意気な子。
でも、好きやで。そういうところも可愛げがあるし。
絶対にお姉さんって言わせたる!
「それじゃあ、はじめるわよ!」
「ごくり!」
桜花ちゃんはタロットに目が釘付けになっている。
森友はんは占いを開始しようとしたとき。
「しぃーちゃん。ちょっと来てくれる~。ママについて話があるの」
「ママのこと! ごめん! いくね!」
ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
えっ? ここまで引き延ばしておいてやめるん? ありえへんわぁあああああああああ!
ウチの心の叫びなど聞こえるわけがなく、森友はんは保母さんに呼ばれてとテケテケと走り去った。
取り残されたウチと桜花ちゃんは呆然とする。
しばらくすると……。
「ママ……ハンカチは?」
「……もう少し探そうか」
また、あてのない捜索を開始した。
けど、手がかりもなく、どんなハンカチかも分からないので、困難を極めた。
そして……。
「もう、やぁあ!」
ああぁ……桜花ちゃんが座り込んでしもうた。
疲れて駄々っ子モードに入ってまう!
「マァマ……マァマアァアアアアア!」
泣いてもうた……ママ、ここにいるやん……。
思い出したのならママのところへ帰りぃな。
はぁ……また根気よく泣き止むまで抱っこせな……。
疲れる……。
「泣いているのか?」
「……」
イラァ!
ほんま……遅いわ……。
ウチは思いっきり藤堂はんを睨みつける。
「パァパァアアアアア!」
桜花ちゃんが藤堂はんに抱きつく。藤堂はんは桜花ちゃんを抱き上げ、あやしてる。
「どうかしたのか?」
「ハンカチぃ! マァマのハンカチィ!」
「ハンカチ?」
また、探さなあかんのかな……。
新しいハンカチ……はダメやろうな……。
でも、見当たらんし……。
「ハンカチってこれか?」
えっ?
「マァマのハンカチぃ!」
うそ……。
「よしよし。家に帰ろうか」
「はい!」
……ウチの苦労って……。
「それとな、桜花。話しつけてきたから」
「話し? それって何です?」
「桜花はみんなから泣き虫って呼ばれていたからな。もう、そう呼ばないよう話をつけてきたんだ、『ドゥエルハンターズ』でな」
『ドゥエルハンターズ』? さっき遊んでいたカードゲーム?
なるほど……あれはただ遊んでいたわけじゃないってこと……。
そう……そういうこと……。
青島の不良にはある掟がある。
敗者は勝者に従う。
この青島で発言したければ勝者が必然となる。よくも悪くもやけど。
幼児でも、しっかりと青島の流儀がたたき込まれてるみたい。
「なあ、朝乃宮。俺だってやるだろ?」
「……信じてました」
ほんま、食えんお人。ウチも大概やけど。笑顔で嘘つくし。
けど、これでやっと家に帰れるわ。
ウチと桜花ちゃんと……藤堂はんの家に……。
す、少し照れくさくなってきた。別にウチら、家族でもないし、夫婦でもないのに……。
「ママ!」
「帰ろうぜ、朝乃宮」
「……はい」
なんやろ……胸が苦しい……。
「ママ……」
ええええ~~~! なんでまた泣きそうな顔しているの、桜花ちゃん!
トラブルはもうこりごりやのに!
「なんでママはないてるの?」
「えっ?」
う、ウチ? ウチが泣いて……って、あれ?
「朝乃宮?」
な、なんで? なんでウチ、泣いてるの?
桜花ちゃんに指摘されて気づいた。
ウチ……涙が流れてた……。
ウチは涙を少し乱暴にぬぐう。
ほんの数滴の涙やけど、なんで?
涙なんてここ数年……いや、藤堂はんと喧嘩したとき、涙が出たけど、状況が違う……。
別に藤堂はんと喧嘩してないのに……問題も解決して家に帰るだけやのに……。
ウチが泣いてる理由は……きっと……。
「ママ……なかないで……なかないで……うえぇええええええええええええええええええん!」
いや! 桜花ちゃんが泣かんとって!
ウチは慌てて桜花ちゃんを抱きしめて、あやそうとしたとき。
「えっ?」
ふ、藤堂はん!
い、いきなり、藤堂はんが抱きしめてきたんやけど!
ちょ! なにこれ! いきなりすぎて心の動揺が……。
「大丈夫だ」
「……」
「大丈夫だ」
ふふっ……。
ウチは肩の力が抜けていくのを感じていた。
藤堂はんの手が震えてるから……。
ぎこちない抱擁。そこから伝わってくる熱と想い。
藤堂はんはウチを傷つけないよう、護るように抱きしめてくれてる。
でも、力加減が分からず、戸惑いが伝わってくる。
ほんま、不器用な人……。
大胆な行動をするかと思えば、不安でいっぱいな態度を隠せずにいる。
それでも、ウチの事を護ろうとしてくれてる。ぬくもりをくれる。
ああっ……ウチ……間違ってなかった……。
藤堂はんの事、好きになって、ほんまよかった……。
「……藤堂はん、おおきに。もう大丈夫ですから」
「だが……」
「目にゴミが入っただけです。大丈夫ですから」
バァ!
藤堂はんは勢いよくウチから離れる。
そ、そんな急いで離れんでも……って、顔真っ赤やし。
堪忍な、藤堂はん。嘘ついて。
けど、ウチも恥ずかしいんよ。好きな男の子に抱きしめられるのは。
だから、許してな。
「桜花ちゃん。もう大丈夫やから、帰ろっか」
「……ぐすぅ……ほんとうに?」
「本当です。桜花ちゃんがウチに元気をくれたから大丈夫です」
「ま、ママ~」
ウチはギュッと桜花ちゃんを抱きしめ、頬ずりする。桜花ちゃんは困った顔をしながらも、抵抗せずにいてくれた。
そんなウチらを藤堂はんは悲しげな目で見つめてる。
ああっ、藤堂はんにはバレてるみたいやね……ウチの涙の訳を……。
でも、心配せんどって、藤堂はん。
ウチのことで胸を痛めないで。そっちの方がウチも悲しいし。
だから……。
「今度こそ、帰りましょうか、桜花ちゃん、藤堂はん」
「はい!」
「……そうだな」
ウチはいつも通りの日常を演じることにした。
藤堂はんが笑顔でいられるように……。
「本当にごめんなさい。森友さん」
ウチは謝り倒してなんとか許してもろうた。
しかも、関西弁が通じないから標準語で話せ、ちゃん付け禁止という細かい注文のおまけ付きで。
「それで? なんでまだのこってるの? かえらないの?」
「ぐすぅ……ママのハンカチがないの……」
「はあ? はんかちなくしたの? あいかわらずぬけてるわね」
「ぬけてないもん! ぬけてないもん!」
はぁ……また泣いてもうた……。
桜花ちゃんも適当に流せばいいのに……。
「しょうがないわね。いっしょにさがしてあげるわよ」
えっ?
「……いいのぉ?」
「しょうがないでしょ。わたしはねんちょうくみで、おうかはねんしょうくみだから、めんどうみてあげる!」
ほんま、御堂はんと似てるわ。面倒見のいいお人好しのところが。
森友はんが桜花ちゃんの友達なら安心できるわ。
「ありがと、しぃーちゃん!」
「だから、なまえでよぶな!」
「ひぃ!」
これ、一種の芸なん?
「どこでおとしたのか、わかる?」
「わからない」
「それなら、あれしかないわね」
あれ?
何か秘策でもあるん?
「あんしんしなさい、おうか! わたしにはせいてんこうじょさまがついているんだから!」
「ひぃいい!」
「「……」」
ウチはつい、悲鳴を上げてしまう。
聖天幸女様って……めちゃ鬼門やん!
なんでこの子がよりにもよって、聖天幸女の名を……。
「ママ、どうしたの?」
「……なんでもありません」
桜花ちゃん、そんな顔でウチを見んといて……。
冷や汗が止まらへん……。
「かおがまっさおよ」
「そ、それよりここは地道に足を使ってハンカチを探しません? う、占いに頼るのは不確実やと思いますし」
「てがかりがまったくないのに? それなら、うらないでさがしてもおなじじゃない?」
くっ! 森友はんに正論で論破されてもうた……。
こうなったら、ウチが聖天幸女と関わりがないよう、バレずにやりすごすしかない。
「そうですね……お願いできます?」
「まかせてよ!」
ほんま、ええ顔で了承してくれるわ。まるで天使の笑顔や。
聖天幸女の事がなければウチも素直にこの可愛い笑顔を愛でることができたのに……。
「とりあえず、どうぐをよういするわ! こっちにきて!」
森友はんはウチのスカートの裾を引っ張り、教室に入る。
藤堂はん達がいた教室とは違う、別の教室。
ただ、誰もいない。
森友はんはせっせと鞄から道具を取り出す。
まずは濃い灰色のざらついた布を引く。
布の色も用途によって決まっていて、聖天幸女は捜し物を占う場合は灰色を使用している。
模様は星型多角形、複合正多角形、複合星型正多角形が使用されていて、それも用途によって五芒星、六芒星、七芒星と変わる。
今回は八芒星を使用している。探し物を八方向で調べるつもりみたい。
布の色が濃いのはカードを見やすくするため。
他にもいろいろとあるけど、布や模様については以下省略。
次に。
チーン!
音叉を鳴らす。
音叉から発する周波数と音で音で部屋を浄化し。
アロマで空間を日常から特別な空間に意識させる。
聖天幸女はこの他にも占う場所や方角、時間、星の位置等、細かい条件がつくけど、森友はんは簡易版で占おうとしてる。
それでも、本格的な準備にウチは舌を巻いた。
そして、森友はんが取り出したタロットカードは……。
「サンオリキャラタロット?」
これはまた、可愛らしいカードや。
サンオリキャラとは株式会社サンオリが著作権および商標を保有するキャラクターであり、幅広い年齢層に人気が高い。
女の子なら一度はキャラもんのグッズを買ったことがあるメジャーな存在。
「……しかたないでしょ。ママにたのんでもこれしかかってくれなかったし」
頬を膨らませ、拗ねている森友はんに、ウチはそっと頭を撫でる。
「森友はん。タロットカードで大切なことは、絵柄ではなく、使った年季や愛着、想いが蓄積されて霊的な力を宿す。そう思いません?」
「……うん」
森友はんは耳まで真っ赤になって頷く。
ほんま、可愛ええ子や。ウチ、好きやわ~。
「それってせいてんこうじょさまのことばだよね? おばちゃんもしってるの?」
よう知ってます。聖天幸女様の正体が咲であること。
そして……そして……。
あかん! これは絶対に墓まで持って行く! 絶対に藤堂はんには知られたくない!
もし、知られたら……知られたら……。
「おばちゃん?」
「……偶然知ってただけです。それとお姉さんと呼んでほしいんですけど」
「きがむいたらね」
生意気な子。
でも、好きやで。そういうところも可愛げがあるし。
絶対にお姉さんって言わせたる!
「それじゃあ、はじめるわよ!」
「ごくり!」
桜花ちゃんはタロットに目が釘付けになっている。
森友はんは占いを開始しようとしたとき。
「しぃーちゃん。ちょっと来てくれる~。ママについて話があるの」
「ママのこと! ごめん! いくね!」
ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
えっ? ここまで引き延ばしておいてやめるん? ありえへんわぁあああああああああ!
ウチの心の叫びなど聞こえるわけがなく、森友はんは保母さんに呼ばれてとテケテケと走り去った。
取り残されたウチと桜花ちゃんは呆然とする。
しばらくすると……。
「ママ……ハンカチは?」
「……もう少し探そうか」
また、あてのない捜索を開始した。
けど、手がかりもなく、どんなハンカチかも分からないので、困難を極めた。
そして……。
「もう、やぁあ!」
ああぁ……桜花ちゃんが座り込んでしもうた。
疲れて駄々っ子モードに入ってまう!
「マァマ……マァマアァアアアアア!」
泣いてもうた……ママ、ここにいるやん……。
思い出したのならママのところへ帰りぃな。
はぁ……また根気よく泣き止むまで抱っこせな……。
疲れる……。
「泣いているのか?」
「……」
イラァ!
ほんま……遅いわ……。
ウチは思いっきり藤堂はんを睨みつける。
「パァパァアアアアア!」
桜花ちゃんが藤堂はんに抱きつく。藤堂はんは桜花ちゃんを抱き上げ、あやしてる。
「どうかしたのか?」
「ハンカチぃ! マァマのハンカチィ!」
「ハンカチ?」
また、探さなあかんのかな……。
新しいハンカチ……はダメやろうな……。
でも、見当たらんし……。
「ハンカチってこれか?」
えっ?
「マァマのハンカチぃ!」
うそ……。
「よしよし。家に帰ろうか」
「はい!」
……ウチの苦労って……。
「それとな、桜花。話しつけてきたから」
「話し? それって何です?」
「桜花はみんなから泣き虫って呼ばれていたからな。もう、そう呼ばないよう話をつけてきたんだ、『ドゥエルハンターズ』でな」
『ドゥエルハンターズ』? さっき遊んでいたカードゲーム?
なるほど……あれはただ遊んでいたわけじゃないってこと……。
そう……そういうこと……。
青島の不良にはある掟がある。
敗者は勝者に従う。
この青島で発言したければ勝者が必然となる。よくも悪くもやけど。
幼児でも、しっかりと青島の流儀がたたき込まれてるみたい。
「なあ、朝乃宮。俺だってやるだろ?」
「……信じてました」
ほんま、食えんお人。ウチも大概やけど。笑顔で嘘つくし。
けど、これでやっと家に帰れるわ。
ウチと桜花ちゃんと……藤堂はんの家に……。
す、少し照れくさくなってきた。別にウチら、家族でもないし、夫婦でもないのに……。
「ママ!」
「帰ろうぜ、朝乃宮」
「……はい」
なんやろ……胸が苦しい……。
「ママ……」
ええええ~~~! なんでまた泣きそうな顔しているの、桜花ちゃん!
トラブルはもうこりごりやのに!
「なんでママはないてるの?」
「えっ?」
う、ウチ? ウチが泣いて……って、あれ?
「朝乃宮?」
な、なんで? なんでウチ、泣いてるの?
桜花ちゃんに指摘されて気づいた。
ウチ……涙が流れてた……。
ウチは涙を少し乱暴にぬぐう。
ほんの数滴の涙やけど、なんで?
涙なんてここ数年……いや、藤堂はんと喧嘩したとき、涙が出たけど、状況が違う……。
別に藤堂はんと喧嘩してないのに……問題も解決して家に帰るだけやのに……。
ウチが泣いてる理由は……きっと……。
「ママ……なかないで……なかないで……うえぇええええええええええええええええええん!」
いや! 桜花ちゃんが泣かんとって!
ウチは慌てて桜花ちゃんを抱きしめて、あやそうとしたとき。
「えっ?」
ふ、藤堂はん!
い、いきなり、藤堂はんが抱きしめてきたんやけど!
ちょ! なにこれ! いきなりすぎて心の動揺が……。
「大丈夫だ」
「……」
「大丈夫だ」
ふふっ……。
ウチは肩の力が抜けていくのを感じていた。
藤堂はんの手が震えてるから……。
ぎこちない抱擁。そこから伝わってくる熱と想い。
藤堂はんはウチを傷つけないよう、護るように抱きしめてくれてる。
でも、力加減が分からず、戸惑いが伝わってくる。
ほんま、不器用な人……。
大胆な行動をするかと思えば、不安でいっぱいな態度を隠せずにいる。
それでも、ウチの事を護ろうとしてくれてる。ぬくもりをくれる。
ああっ……ウチ……間違ってなかった……。
藤堂はんの事、好きになって、ほんまよかった……。
「……藤堂はん、おおきに。もう大丈夫ですから」
「だが……」
「目にゴミが入っただけです。大丈夫ですから」
バァ!
藤堂はんは勢いよくウチから離れる。
そ、そんな急いで離れんでも……って、顔真っ赤やし。
堪忍な、藤堂はん。嘘ついて。
けど、ウチも恥ずかしいんよ。好きな男の子に抱きしめられるのは。
だから、許してな。
「桜花ちゃん。もう大丈夫やから、帰ろっか」
「……ぐすぅ……ほんとうに?」
「本当です。桜花ちゃんがウチに元気をくれたから大丈夫です」
「ま、ママ~」
ウチはギュッと桜花ちゃんを抱きしめ、頬ずりする。桜花ちゃんは困った顔をしながらも、抵抗せずにいてくれた。
そんなウチらを藤堂はんは悲しげな目で見つめてる。
ああっ、藤堂はんにはバレてるみたいやね……ウチの涙の訳を……。
でも、心配せんどって、藤堂はん。
ウチのことで胸を痛めないで。そっちの方がウチも悲しいし。
だから……。
「今度こそ、帰りましょうか、桜花ちゃん、藤堂はん」
「はい!」
「……そうだな」
ウチはいつも通りの日常を演じることにした。
藤堂はんが笑顔でいられるように……。
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