風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/6 その一

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「♪ ~~♪」
「今日はご機嫌ね、千春ちゃん」
「良いことがありましたので」

 今日もおばさまと一緒に朝食とお弁当を用意している。
 お弁当箱は重箱やなくて、藤堂はんの要望でいつも使っている弁当箱でおかずを添えていく……んやけど、足りるの?
 昨日、重箱のおかずとおにぎりを半分以上も食べて、晩ご飯もどんぶりでご飯食べておかわりしているほど食べているのに、このお弁当箱では少ないと思える。
 藤堂はんには沢山ウチの料理を食べて、笑顔で満足して欲しい。
 そして……。

「美味しかったよ、千春。これからも……毎日俺の弁当を作ってくれ」

 っとか言われたら!
 きゃあああああああああああああああああああああああああああ!
 えええわぁあああああああああああああああああああああああああああ!

 人によってはこの台詞、家事は女がするの? 古い価値観。命令口調。
 といった感想を抱く人がいるけど、ウチは別にええ。
 料理できへん人が無理に台所に立っても、台所が汚れるし、最悪、片付けはウチがする最悪のパターンになるかも。
 それなら、最初からウチがやった方がええと思ってる。

 まあ、藤堂はんは料理できるし、ご飯を食べた後はいつも後片付けを買って出てくれますけど!
 でも、やっぱ、報われるってええわ~。
 容姿を褒めてくれたり、美味しいって言ってくれると、やる気がわいてくる。もっと、もっと褒められたいって思って、頑張れる!
 だから、もっと美しく、美味しくなるよう磨きをかける!

 けど……藤堂はん、大丈夫やろか? さっき、膝をついていたし。
 原因は朝の特訓にあるんやけど、あれは特訓の副作用みたいなモン。
 これからの特訓は相手を短時間で無力化するための攻撃の型と基礎体力にあてることにした。
 レッドアーミーの怖いところはナンバーズだけやなくて、数が多いこと。
 数でごり押しされたら、藤堂はんは負ける。

 その為の特訓やねんけど……ちょっとキツかったかも。
 でも、技の痛みを知ることは傷つける側も傷つけられる側もメリットがあるし、自制にもなる。
 本当は藤堂はんには危険な事はして欲しくないんや。
 ウチもやけど、咲も強はんも心配する。
 せやけど、ウチがいつも護衛につくわけにはいかんし、藤堂はんもそれを望んでいない。
 それどころか……。


「俺は家族を護りたい。そのなかに朝乃宮もいるんだ。忘れないでくれ」


「ウチを護る、か……」

 て、テレるわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!
 そんなこと言われるの、初めてやわ~~~~~!

 ピロ~ン!

『千春なら一人で生きていけるって言われそう(笑)』

 咲~! いらんLINE、いいから!
 でも、言われそうでヘコむわ……藤堂はんに言われたらショックで寝込むわ……。
 ウチ、別に好きで強くなったわけやないのに……生きるために強くなっただけ……。
 はぁ……。

「大丈夫よ、千春ちゃん」
「……何が大丈夫なんです?」
「正道さんは千春ちゃんの味方ですから」

 ウチの味方ね……。
 そうあってほしいわ……。



「「「いただきます!」」」

 朝ご飯を作り終え、家族皆で朝食をとる。

「……」
「桜花ちゃん?」

 桜花ちゃんがジッとオムライスを見つめてる。
 今日はオムライスとおにぎりと野菜スープ。
 勿論、量は桜花ちゃんに合わせて少なめ。それに一工夫している……のに、また、昨日のように食べてくれへんの……ええぇ~~ヘコむわ……。
 藤堂はんも眉をひそめ、桜花ちゃんに何か言おうとしたけど……。

「ママ」
「な~に、桜花ちゃん」
「シナモン……」

 そう、オムライスにはケチャップで桜花ちゃんの大好きなシナモンの顔を描いてる。
 これなら、喜んで食べてもらえると思っ……。

「ママ、すごい!」
「そ、そう?」
「うん! ママ、すごい!」

 ふふん!
 初めてケチャップアートに挑んだけど、手応えはあったと自画自賛してるほどのデキ!
 桜花ちゃんは目をキラキラしながら、スプーンを握って食べ始めた。
 藤堂はんも嬉しそうな顔をして食事に戻った。

「CMの後は星占いのコーナーです」

 藤堂はんは黙々と食べてる。食事中におしゃべりはせず、味を堪能するタイプ。テレビの音がリビングにBGMのように聞こえてくる。
 ウチもそうやから、別に会話がなくてええんやけど、気になるんわ……。

「もきゅもきゅ」

 桜花ちゃんの食べ方。
 箸の使い方は勿論、スポーンもフォークもなってない。
 オムライスはこぶすし、こぼしたものを手づかみで食べるし、そのせいでテーブルもパジャマも汚れてる。
 これは注意するべきやろうか?
 でも……。

「もきゅもきゅ」

 一生懸命ご飯を食べてくれてる桜花ちゃん、可愛えわぁああああ~~~~~!
 それに美味しそうに食べてくれるんわ、料理冥利につきる。
 それに水を差すのも野暮やし、おばさまも何も言わへんし……どないしよ?

「桜花」

 おっ、いくか、藤堂はん!

「な~に、パパ?」
「口が汚れてるぞ」
「ありがとうございます」

 口を拭くだけね……。
 まあ、ええんやけど……ウチらは仮の親やし。
 あまり踏み込むべきやない。別れが辛くなるだけ。
 そう思っとった。

「今日の双子座のラッキーアイテムは『ロケットペンダント』。大切な人の写真を入れると、結ばれるかも!」
「……」



「ママ! ひとりできがえられた!」
「ほんまや~、えらいで、桜花ちゃん。パパもえらいえらいするで~」
「エヘヘ!」

 可愛えええええええええ!
 得意げにピースしてくる桜花ちゃんにウチは抱きしめようとして……自重することにした。
 昨日の今日やし、また怒られたくない。
 やれば出来る子でよかったわ。

「パパにみせてくる!」

 桜花ちゃんはタタタタタッと走って行った。
 ウチは肩をすくめ、桜花ちゃんの鞄を取りに行く。

「おばさま、桜花ちゃんの鞄は?」
「ここに用意しています」

 おばさまから桜花ちゃんの青い鞄を受け取る。
 黄色を想像してたんやけど、ここが青島のせいか、鞄も青い。
 そういえば……。

「通園バックって何が入ってるんやろ?」

 ウチは気になって、バックの中身を見た。
 帽子やハンカチ、袋にエプロン……それに……。

「連絡帳?」

 ウチは連絡帳を開いてみた。
 へぇ、事細かに書かれてるわ。
 家庭の蘭と園の蘭があって、検温、睡眠、何をいつ食べたのか? 等ぎょうさん書かれてる。
 藤堂家で預かってからはおばさまが連絡帳を書いてくれてる。

 ほんま、頭が下がるわ。それに持ち物も全て名前を書いてくれてるし。
 ウチと藤堂はんで桜花ちゃんの面倒を見ていたって気がしてたけど、おばさまのフォローあってのものって痛感するわ。
 ここらへんが経験者との差やね。
 何が必要でウチらに必要なことをさりげなくフォローしてくれているおばさまに改めて感謝した。

 連絡帳の中に○○の様子と書かれた蘭があって、○○は家庭と園が入る。
 両方から情報を得て、幼児を見守っているんやね。
 それに親の不安を保母さんが解決方法と励ましを書いてくれてるから、親も保母さんもすごいわ。

 特に保母さん。
 何十人も預かっていて、一人一人しっかりと見てくれてる。
 大変な仕事やと、その片鱗だけ見た気がしたわ。
 どれどれ、どんなことが書かれてるんやろ……。


『桜花ちゃんは今日も綺麗にご飯を食べました』


「……」

 あれ? 保母さん、書き間違い? ウチの子の事やないわ。
 弘法も筆の誤り。何十人も相手してるんやから、誤りがあってもしゃあないか。


『今日は運動会の練習をしました。桜花ちゃんは転ばずに一生懸命走りました』


「……」

 違う、ウチの子やない。桜花ちゃんやない。
 あ、あれ? 連絡帳、他の子と間違えてる? 桜花ちゃんが転ばず走れるわけがない!
 ウチは連絡帳の表紙を見ると……。


『なまえ うさみ おうか』


 ええええええええええええええ~~~~~~~~~~~!
 ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!
 桜花ちゃんちゃうし!
 あっ、そういうこと……。

 これは桜花ちゃんを良い子のように書いて、保護者を安心させるアレ?
 家ではダメな子やけど、外に出るとやれる子とか?
 そうに決まってる。

 ウチの子は……ちょっとヌケてるけど、可愛え子!
 こんなデキる子やない!
 ウチは連絡帳をパタンと閉じた。



「けどな、桜花。本当に偉いのは、それを持続させることだ」
「……じぞう?」
「持続、続けることが出来ることだ。一回出来ただけで満足せず、これからも一人で出来れば……」

 ウチがリビングに戻ると、藤堂はんは桜花ちゃんにお説教していた。
 桜花ちゃんは口を開けて呆けている。
 分かるで、桜花ちゃん、その気持ち。
 藤堂はんは息をするように説教するし。

 藤堂はんは他人に頼らず、自分でなんとかしようとするタイプやから、いつも切磋琢磨してるの、知ってる。
 現状に甘えず、向上心が高い。
 けど、それを他人に求めるのは悪い癖。

「藤堂はん、せっかく一人でお着替え出来たんやから、お説教はあきませんえ」

 藤堂はんは言い返そうとするけど、桜花ちゃんの困った顔を見て、

「べ、別に説教じゃない。要望だ。俺は桜花には立派に育って欲しいから言っているんだ。それにきっと、保育園でも桜花は立派にやってるさ」

 すぐに桜花ちゃんを抱っこし、ご機嫌をとろうとする。

「立派……ねえ」

 ウチも最初はそう思うってた。あの連絡帳を見るまでは……。
 今は……。

「きっと、現実と理想のギャップでツッコミたくなりますから」

 そう、他人から桜花ちゃんの評価が高い事を聞くと、なんや違和感だらけで、背中がかゆくなる。
 桜花ちゃんは今のままの桜花ちゃんでええんや。
 高望みはするもんやない。

「正道さん、そろそろ……」
「楓さん、ありがとうございます。桜花、そろそろ行くか」
「はい!」

 保育園の時間が近いので、おばさまが藤堂はんに教える。
 藤堂はんは慌てて桜花ちゃんと一緒に出ようとする。

「藤堂はん、忘れ物」
「おう、サンキュ」

 ウチは藤堂はんに通園バックを渡し、玄関に向かう。

「いってらっしゃい、桜花ちゃん」
「気つけてな、桜花ちゃん、藤堂はん」

 ウチは笑顔で藤堂はんと桜花ちゃんを見送る。

「いってきます!」
「……いってくる」

 桜花ちゃんは元気よく手を振って、藤堂はんはぶっきらぼうに返事をする。
 あっ、テレてる?
 最近、藤堂はんの事がわかってきた気がする。
 あれは絶対にテレてる。

 なんやろ、心の中がぽかぽかする。
 それに……。
 なんか、新婚さんみたいやわぁああああああああああああああああああああああああ!
 テレるわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!

「千春ちゃん」
「な、なんです?」
「正道さん、鞄忘れたみたい」

 あっ、藤堂はん、自分の鞄忘れてるわ。
 桜花ちゃんの事ばかり考えてるから、忘れるんや。藤堂はんも少しぬけてる。
 ちょっと、笑ってしまった。

「ウチが届けてきます」
「お願いね」

 な、なんなんやろ……おばさまの笑顔を見てると子供扱いされているというか、孫を見る慈しみの目で見られている気がする。
 は、恥ずかしい気分になるのはなぜ? でも、悪い気はせえへん。
 まるで本物の祖母のような気がして……。
 ウチはそそくさと玄関を出た。胸の奥に突き刺さった小さな痛みを押し殺しながら……。
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