風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/6 その二

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「……」
「ちーちゃん、どうかしたんですか? 難しい顔して?」
「咲……ウチな……今、もの凄く悩んでるんねん」
「悩み? それってもしかして……桜花ちゃんのことで何か……」
「ウチ……」
「ごくり……」
「藤堂はんの写真が欲しいねん」
「ずこぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 なんやの、咲。今時昭和のコケとか。
 今日は藤堂はんが自転車で桜花ちゃんの保育所へお届けすることになって、ウチは咲と登校していた。
 冬の寒さは更に増して歩くだけでも苦になる。
 去年咲からもらった手袋がほんま、手放せない。
 この身も凍る寒さに匹敵、いや、それ以上の問題をウチは抱えていた。
 それは……いかにして藤堂はん自ら写真を提供させるか? それもウチが欲しがっているとは勘づかれずに。

「えっ? えっ? そんなくだらないことで悩んでるんですか!」
「だって、好きな人の写真、欲しいんやもん」
「乙女か! それに今更じゃないですか!」

 今更? そんなこと……。

「ウチな、昨日、幼稚園児に彼氏の写真見せられてな……」
「ま、まさか……」
「それが羨ましいねん」
「幼稚園児に嫉妬するとか!」

 幼稚園児に嫉妬?
 しゃあないやん! ほんま、羨ましいねんから!
 ウチかて、スマホに藤堂はんの写真欲しいし!

「そんなわけで咲、よろしゅうな」
「何がですか?」
「藤堂はんの写真、手に入れてな」
「なんで私が!」

 何でって? そんなん……。

「ウチから欲しいなんてみっともなくて言えへんやん」
「どこかの面倒くさいお嬢様なんですか、アンタは! 本当に面倒くさい!」

 そ、そこまで言わんでも……。

「だ、だって……」
「だって?」
「ウチには咲しか相談できる人おらへんもん……」

 ついでに友達もおらへんし……。

「はぁ……青島高校の憧れのキミはどこへいったのやら……仕方ありませんね。私がなんとかしましょう!」
「咲、大好き!」
「ぐぉ! く、首しまってる! これ、ヤバいヤツ……」

 これで問題解決や!
 ああぁ、はよ、欲しいわ~! 藤堂はんの写真! なるべくならツーショットも!
 楽しみでスキップしたくなるわ~。

「げほぉ! げほぉ! ちーちゃん」
「何ですの? 何かいい案、思い浮かびました?」

 流石は咲。仕事が早い。

「いえ……もし、成功したらご褒美が欲しいんですけど……」
「何でも言って! ウチが叶えたる! 何が欲しい? 車? 家? 株券?」
「それじゃあ、動画のアップ、再開しよっか」
「!」

 はぁあああああああああああああああああああああああああ!
 無理無理無理無理! ぜったぁあああああああああああああああいに無理!

「再婚の問題とかいろいろありましたけど、落ち着きましたし、そろそろろ動画を……」
「咲! はよう学校いかんと遅刻しますえ!」
「ち、ちーちゃん!」

 あかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかん!
 絶対無理!
 もし、藤堂はんに知られたら……ウチ、絶対に死ぬ! 恥ずかしくて死ねる!
 なんとかせな……もう……聖天幸女は封印するべきなんや……。



「悪いね、呼び出して」
「相変わらずいやらしいお人ですな。藤堂はんの名前を出して呼び出すなんて」

 休み時間、ウチは橘はんに風紀委員室に呼び出されていた。
 橘はんの呼び出しやなんて無視するに限るけど、藤堂はんの名前を出されると無視するわけにはいかへん。

「いや、驚いたよ。僕の呼び出しなんていつも無視するのに、正道の名前を出した途端、来てくれるんだから。ねえ……本気なの?」
「橘はん、ウチはいつでも『橘』と戦争を起こしてもええんですけど、今のお言葉は宣戦布告と受け取ってよろしいです?」

 ウチと橘はんはにらみ合う。
 きっと、橘はんはもうウチを切る気でいる。仲間にしておくよりも、敵対した方がええと本気で思ってる。
 ウチはそもそも橘はんを仲間ともなんとも思ってへんけど、咲の為に風紀委員で大人しゅうしていただけ。
 ウチもすでに根回しや力を蓄えてるし、橘の力は不要、逆に足かせになりつつある。
 橘はんがいなければ、もうレッドアーミーを壊滅させて枕を高くして寝むれてたのに。

「念のためにもう一度、警告しておくよ。レッドアーミーには絶対に手を出さないで。手を出したら、きっと後悔する。正道はキミを絶対に許さないから」
「意味が分かりません。レッドアーミーは藤堂はんを目の敵にしてます。安全の為にレッドアーミーを壊滅する事に何の後悔があると?」

 ウチの最優先は藤堂はんや咲を護ること。その為の障害は消し去るべき。
 それがたとえ小石程度の障害であったとしても、全力で排除、蹂躙する。

「だから、言ってるでしょ? この問題はかなり複雑で繊細な問題なの。調整が難しいんだ。それを邪魔されたくないんだけど、今はそのことを言いたいんじゃない。正道の危機を伝えておきたいんだ」
「藤堂はんの危機? さっさと本題に入り」

 遠回しに言ってくるお人ってほんま、性格悪いわ。
 さっさと本題を言ってくれた方が時間の無駄がなくなるのに。

「その様子だととぼけているわけじゃないみたいだね」
「本題を」
「今日の放課後、生徒会長がね、正道の暴力沙汰について僕に尋問したいって言ってきてるの」

 はぁ……氷室はんにも困ったモノや。
 氷室朝人。
 現生徒会長でイケメン且つ文武両道。剣道部のエース。
 女子生徒には人気があるけど、男子生徒からは嫉妬され、煙たがられている。
 ウチにあからさまに好意を寄せてくるけど、あれは偽物。

 ウチの事なんて、ただのステータス。ブランド扱いか、箔がつくだけとしか思ってない。
 ウチは朝乃宮家に取り入ろうとしている、利用しようとする他人の視線や態度に晒され続けてきたから分かる。
 氷室はんの行動がまさにそれ。
 けど、生徒会長やし、一応愛想ようしとるだけやけど……。

「分かりました。ウチも参加します」
「助かるよ。いざってときはよろしく」

 何がよろしくやねん……もう、手は打っているくせに……。
 さて、ウチはどう動くべき?
 別にウチがいなくても、橘はんなら問題なくやりすごせたはず。
 なら目的は? ウチに恩を売っておきたいとか?
 それとも、何か氷室はんには藤堂はんを陥れる為の秘策がある?
 両方の可能性を考えて、ウチが取るべき最善の結果は?

 ウチは咲と藤堂はんと一緒にいたい。他はどうでもええ……んやけど、まあ、強はんもついでに。強はんは藤堂はんのお気に入りで咲の弟。
 それなら、ウチにとって内側の人間や。それ以外は外側の人間。
 基本、敵か利用出来るか否か。相手もウチを利用しようとするし、お互い様。
 それと、おばさまやおじさま、信吾はんと澪はんは大人やし、除外。内側でも外側でもない。
 困っていたらお互い助け合う。それだけ。あっ、澪はんは要注意になるかも。
 姑は味方にするべき。

 考えがそれてしもうた。
 ウチの最善は……。

「せや……いいこと、思いついた」

 今後、氷室はんの藤堂はんへのちょっかいもなくなって、橘とも距離をおける方法。
 それがウチの最善やし、それを叶える一石二鳥の案を考えついた。
 少し策を考える必要あり。
 けど……。

「放課後ね……はぁ……」

 最悪、桜花ちゃんのお出迎えにウチだけ間に合わない可能性が出てきた。
 藤堂はんと一緒に帰れる唯一の時間がなくなってしまうかもしれないのが、最大のデメリット。
 桜花ちゃん、ウチがいなくて、寂しくて泣かへんやろうか?
 泣かへんときもそれはそれで、寂しいというか……って、まだ出会って一週間もたってないのに、そんなこと考えるとか……重傷かも。
 桜花ちゃんはウチにとって、内側の人間やろうか? それとも、外側……。
 あかん、あかん。考えへんようにしよ……愛着がわくと、別れが辛くなる。
 でも、桜花ちゃんとはなるべく一緒にいたいねんな……時間がわずかやけど。
 それなのに……。

「……ほんま、氷室はんは余計な事を……」

 昼休みにでもしてほしい……って、昼休みはあかんわ。写真の件があるし。昼休みは桜花ちゃんの一件が済むまで大人しゅしていてほしいわ、ほんま。
 ウチはため息をつきながら、教室に戻った。
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