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第四十九話

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「はっ…口ほどにもない。勇者。お前の力はその程度か」

アレルに膝をつかせたデュークが小馬鹿にしたように笑う。

「ぐ…このぉ…!」

アレルが安い挑発に乗り、悔しげに顔を真っ赤にする。

「な、何が起こっているんだ…?」

「勇者様が膝をつかされたぞ…?」

「どうなっている…?」

「あのクレア王女の護衛騎士が強いのか…?」

「いや、あの護衛騎士は確かデュークと言って、昔は強かったようだが、今は左目を失い、実力を半減させているはずだ……あの左目は義眼で視界は狭い…本来勇者様に敵うはずが…」

圧勝するどころか、負けそうになっている勇者に人々がざわつく。

勇者の戦いを間近で見られるとワクワクしていたものたちが、次第に疑念の目でアレルを見始める。

まずいぞアレル…立つんだ。

ここで負けたら取り返しがつかなくなる……

「どうした…勇者アレルよ。お前の実力はその程度なのか…?まさか手加減をしているのか…?私をガッカリさせるな」

デュークに吹き飛ばされたアレルに、ロウリア王がそんなことを言う。

「お、お待ちを…王よ。すぐにこの男を倒しますから。今のは少し油断しただけです」

アレルがそう言って立ち上がった。

「冷静にだ…冷静にだぞ…アレル…」

俺はデュークに一撃をもらい、アレルが一度我に帰って冷静さを取り戻してくれることを願った。

…だが。

「お前は倒す…!今すぐにだ…!うぉおおおおおおおおお!!!」

「あの馬鹿っ!!」

再び何も考えずに突っ込んでいくアレル。

俺は思わずアレルを叱咤してしまう。

「ん?」

「え?」

周りの人が一斉にこちらを見る。

「あ、いや…なんでもないっす…」

俺は慌てて誤魔化し笑いを浮かべた。

ガギギギギギギギギ!!!!

王の間に響き渡る剣戟音。

アレルは怒りに任せて剣を降り、勇者の力を使ってとにかくデュークをゴリ押している。

「くっ…なかなかに重い攻撃…」

ポテンシャルで言えばアレルはデュークを圧倒的に上回っている。

だが、デュークにはアレルにはない蓄積された経験がある。

「ふんっ」

「なっ!?」

「隙あり…!」

自分より力の強い者による攻撃を受け流す方法を、どうやら十分に心得ていたようだ。

デュークが、アレルの勢い任せの剣の力をそのまま手先の剣捌きで後方に受け流す。

力を入れすぎたせいで、肩透かしをくらい、バランスを崩したアレル。

その腹部に、デュークの蹴りが入る。

「ふんっ!!」

「ごほっ!?」

先ほどと似たようなパターン。 

「ま、また一撃を…」

「勇者様は何を考えているんだ…?」

「手加減をしているのか…?」

「それにしては随分必死に見えるが…」

「まさか本気を出してあの程度なのか…?」

全く学ばない戦いを見せるアレルに、観衆たちは驚き、中には呆れ果てるものまでいる。

「くそぉおおお!!」

再び膝をつかされたアレルは、唇を噛み締め、意地で立ち上がる。

「俺が…!勇者の俺が負けるはずないんだぁああああああ!!!うおおおおお!!!」

またしても力任せによる連続攻撃。

「ぐ…ここまでか…」

だが、今度は流石にポテンシャルの差が出たらしい。

アレルの攻撃を受けきれなくなったデュークがガックリと膝をついた。

「こ、降参だ…私の負けだ…勇者よ…」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

肩で息をしているアレルが、デュークの降参を聞いて歓喜する。

「か、勝った!!勝ったぞぉおおおおおおおおおおお!!!」

両腕を上げて歓喜するが…

「うむ…」

「うぅううん…」

「なんか思ってたのと違うような…」

「そんなに力の差はなかったように見えた…」

「勇者といえど人間……所詮この程度なの
か…」

「いや、あのデュークという騎士が強かったということなのか…?これは…」

「あ、あれ…?みんな…?」

おそらくアレルは自分の勝利に観衆が湧き立つと思っていたのだろう。

だが、彼らが求めていたのは勇者による圧倒劇。

義眼の護衛騎士と予想外にもいい勝負をしてしまったアレルに、一部の監修は明らかに失望していた。

「お、王よ…俺は勝ちました…こ、これで……クレア王女を貰えるのですよね…?」

困ったアレルがロウリア王に詰め寄る。

「むぅ…そ、そうだな…」

自分で言い出したことなので、否定はできないのか、ロウリア王が微妙な反応をする。

「すみません…姫様。お守りすることが出来ませんでした…」

デュークがクレア王女に申しわけなさそうに謝った。

「いえ…デューク。あなたはよくやってくれました。十分です。感謝しますよ」

「…姫様」

そんなデュークをクレア王女が労う。

アレルはデュークに勝利し、一応なんとか勇者という立場を守った。

だが、人々が見たかった圧倒的な勇者の力、
を見せられなかったことにより、場は微妙な雰囲気に包まれてしまうのだった。



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