ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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新たな展開

酷い男。

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 私、丸山 柚花 28歳、独身。

 3ヶ月前から彼氏無し。

 別れた瞬間、貯金をしようと決めた。

 もしかしたら、私は独りで生きて行くことになるかも!って、本気で思っている……。


……って、私の事より今は、仕事、仕事!

 
 挙式直前にゲストが1名追加されたので、その対応をしている最中なのだ。


 名簿に名前が載っていないゲストの方は、婚礼招待状の 返信欄にある“出席”にまるをして、ポストに投函したつもりだったのだ。


 でも、実は欠席の方にまる をしていた。


 その人は、自分が間違えたと知ると、当然、帰ると言ったのだが、緑川が引き止め、電話を使い、新郎と直接、会話をしてもらい、出席をしてもらうこととなったのだった。


カレンダホテル ブライダル担当の、今月の目標は『真心のおもてなし』なのだ。

 
 倉田チーフは、婚礼チームスタッフ達の査定をしているが、目標に沿った緑川の行動は評価され、後の昇給に反映されたそうだ。

………………
 
 厨房を出た柚花は、上着に入っている携帯電話を取り出し、連絡をする。


外崎とのさきさん、ゲスト1名増えたけど、そちらの進行具合いは、どうですか?」


「はい、席次表は新婦手書きで、2枚ほど多く作って頂いていました。

 なので、今、自分が新婦の字に似せて、追加の氏名を書いています。

 ゲストの人数が多くなくて良かったです。
 何とかなりそうです」


「それなら、良かった。

 引き続き、よろしくお願いします」


 そして、挙式、披露宴とも無事に終わらせる事ができたのだった。

………………

 ふぅ。今日の仕事は、何とか終わった。


「丸ちゃん、お疲れ様!」

 仕事を終えて着替えた柚花が警備室手前まで来た時に、反対方向から来た野口に声を掛けられた。
 

 うわっ!野口だぁ!


「ああ、お疲れ様でした」


 私の心の中とは、真逆に落ち着いて挨拶をした。
 大人ですから。


 柚花と野口は、警備員に身分証を見せて、ホテルを出て、従業員駐車場まで歩いていた。


 別に一緒に歩いているつもりじゃないけど、急いで歩く私のペースに合わせて、野口も歩いているからこうなった。


「丸ちゃんと こうやって一緒に歩くのも、3ヶ月ぶりかな?

 なんかさ、最近、色っぽくなったみたいだね。もしかして、彼氏が出来たとか?」


 と、野口が聞いてきた。


 はあ?色っぽい?だって?口からデマカセを言うな!

彼氏が出来た?だとぉ、なんて酷い事を言うのっ!

 そんなにホイホイと直ぐに、彼氏ができる訳が無いじゃない!

 モテモテのお前とは、違うんだから!


 彼氏なんて、できる訳が無いって思って言っているでしょう?
 
 あー!腹立つ!腹が立つ!


 柚花は、心の声をぐっと抑えて、顔はにこやかに……がんばる……。


「えっ?彼氏?

 うーん、いるような?いないような?

 秘密だよ。うふ」


 彼氏?もちろん、いるわよ!的な態度をとった……。

 ふん!これくらいなら、言ってもバチは当たらないでしょ!



「あー!その顔は、いるんだね。

 良かったよ!俺がふったみたいな感じがしてさ、気になっていたんだ。

 ほら、あの日、丸ちゃんが結婚とか言い出したからさ……。

 いや、だって、俺たち、ちゃんとに付き合っているって認識なかったじゃん?

 あー、君に彼氏が出来て、本当良かったよ」

 野口がホッとしたように言った。


「…………そうね、私たち、友達だったものね……。

 じゃあ、私の車、あっちだから。

 ……お疲れ様でした」


 柚花は、精一杯の笑顔で震える声を誤魔化し、急いで歩き出す。

 忘れようとしていた失恋に追い打ちをかけられ、腹が立つやら、落ち込むやら、涙が出かかっている……。


 そんな柚花に大きな声で、野口が言う。
 
「丸ちゃん、今度、彼氏と丸ちゃんを宿泊招待するよ!俺がディナーをご馳走するから!

 この若きシェフが心を込めて、作るからさ。

 いつにしようか?

 そうだ、来月はどう?」


 この男、何を言い出すんだ!

 はあ?宿泊招待?馬鹿な事を言うな!

 誰と宿泊しろと言うの?
 勝手に決めないでよっ!


 柚花がさっと目をこすってから、野口の側へと行って、諭すように言う。

 
「いやいや、それは無理だから。

 だって、ねぇ、私たちの関係が知れたら、やっぱ、気まずくなるし、ねえ?

 野口さんに紹介するのは、無理だから!」


 この男!ばっかじゃないのぉ?

 仮に本当に彼氏がいたとしても、関係のあった男に会わせる女性は、いないでしょっ!


「そんな事、大丈夫だよ。俺たちは、ただの友達なんだから!気にしない!

 うーん、じゃあ宿泊は無理だけど、クリスマスの時期に、大広間でディナービュッフェをやるから、予約を入れておくよ。

 後で、日にちを連絡するから。

 彼氏と来てね!

 じゃあね。お疲れ」

 
 そう言って、野口は軽やかに走って行った。


「ただの友達って、改めて言われた……ショックだわ……酷いわ……」

 残された柚花は、呆然ぼうぜんとしている。

「……えっ……えっ?」


 我に返った柚花は、焦った。

 クリスマス……その前までに、彼氏を作らないといけない!


 そんなっ!

 どうして、こんな事になったの?


 あんな男になびいてしまった自分を呪う。


 そんな、短期間で彼氏ができるわけないよ!


 柚花は、携帯電話を取り出し、婚活サイトを検索したのだった……。


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