ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

文字の大きさ
上 下
55 / 129
想いはどこへ

そっか……

しおりを挟む
 柚花の車は、駐車場内を徐行している。

 方面別の別れ道に差しかかり聞く。

「えっと、右、左どっちに行けばいいかしら?」


 柚花の問い掛けに右と智也は返し、逆に聞く。


「藤森地区って所、知っている?」


「えっ、知ってますよ!
だって、私のアパートは藤森下にあるから。もしかして、藤森に住んでいるの?」


「そう、そうだよ!柚花は藤森下なのか。

じゃあ、近所も同然だね」


 智也が嬉しそうに言っていたが、柚花は頷いて、それきり黙って車を走らせていた。


 大通りの交差点を曲がる。

 
 ラジオからアイドルの曲が流れてくるが、車内では沈黙が続いている。


(今日の君は、どこか変だ。

 絶対、機嫌が悪い!さっき、元に戻った気がしたのに、また、不機嫌だ。

 俺はどうすればいいのか?


  そういえば、俺は無口とかって言われることがあるよな……異性に対しては、自分から話さないことが確かに多い。


 だから、相手から話し掛けてくれる。

 それが当たり前のようになっていた。

 相手からのアプローチを待っていればいいだけの環境が当たり前だった。

 
 相手が自分をどう思っていたかなんて、今、初めて考えている……。


 沈黙されていると、こんなに不安になるものなのか……。


 これまでの女性の皆さん、申し訳ありませんでした。


 深く反省をします!)


「柚花……ちゃん、まだ怒っているの?
そろそろ、藤森下地区に入るけど、機嫌を直してくれないかなぁ?」


 信号が赤になる。

 柚花は、助手席に座る智也に驚いた顔を向けた。
 

「えっ?はっ、ごめんなさい。考えごとをしてました!
  
ああ、もう、ダメだぁ。気になって、気になって!

どうしようもなくて……」


「何?どうしたの?」

 突然、柚花が訳のわからない事を言い出し、智也は 困惑している。


「私、今、大混乱中なの……」


 (俺も柚花の言葉が、意味不明で混乱中だ)


「あっ、柚花、取り敢えず青になったよ。

それで、どうしたの?

 俺が相談にのるから、あそこのコンビニに寄って行こうよ」


「あっ、あのコンビニ……あ、うん」


 ここって、うちの近くのコンビニ。


 たっ君と会っていた場所なんだよね……。


 車を駐車場に止める。


 はぁ。


 柚花は、小さく溜息をついた。


 さっき、ショッピングモールに行って、智也さんに今日のお花の御礼を言ったら、たっ君とあの子の姿を思い出してしまった。


 今頃、2人は ディナーをしているのかな?とか考えると、少しイライラしてきちゃった……。


「で、どうしたの?ほら、言ってごらん」


 えー、こんなモヤモヤな気持ちを智也さんに言えないよ。


「えっと、飲み物を買ってきましょうか」


  柚花が言うと、智也も一緒にコンビニに入り、柚花の分も飲み物を買ったのだった。


 車の中に戻ってから、再度 尋ねる。


「柚花、、何が気になるの?」


「……」


 私は、自分の気持ちが分からなくて、どうしたらいいのか途方に暮れている。

 でも、心配をしてくれているから、ありのままを正直に言った方がいいのよね?


 ふーーー。


 柚花は、深く息を吐いた。


「披露宴が終わってから、折原さんが女性と待ち合わせをしていたの……。

 ただ、それだけの事なのに、何故か、気になっちゃって。

 私とは何も関係の無い人なのに……ね。

 変でしょう?

 少しイライラしちゃったりして、ごめんなさい。

 だから、怒っているわけじゃないから、どうか気にしないでね」



「……」


 智也は、ショックを受け言葉を失った。


(匠海が好きってことなのか……)


「あははっ!

君は、匠海のことが好きってことなんだね?

なんだ、そっかぁ。そっか……」


(言葉に出して言うと、虚しい……悲しい。

ちきしょう!匠海めっ!)



「えっ、まさか!好きとか、あり得ないから!

突然、花嫁になっただけの関係だし!

違うよ、違う、身内意識みたいな情?があるのかもしれない?

好きじゃないから!本当に!」


 柚花はムキになって、自分にも言い聞かせるように話したのだった。



「もういいよ。自分でも薄々、気づいているんでしょ?

匠海が好きだって、認めてもいいと思うよ。

うん?今日、他の女性と会っているって?

気になるなら、俺が電話して確かめてあげようか?」



(あーー、俺って、なんてバカなんだ。

お人好しだよなぁ。はぁ、俺が失恋決定かぁ)


「えっ?電話で確かめるの?

今、どうしているかを聞くの?

 やぁ、どうしよう。怖いな。

 でも、気になるし……」


 柚花は、覚悟を決めて智也をじっと見つめた。


(うわっ、見つめるなよ!変な勘違いをしてしまうだろう!上目遣いは、やめてくれ!

その唇に吸い寄せられそうだ!

理性だ!落ち着け、自分!)


「じゃあ、じゃあ、電話をするから。いいね?」


 凄く複雑な気持ちで、携帯電話を握る智也なのだった。


「あっ、もしもし、匠海?

 今、どこにいるんだ?」
しおりを挟む

処理中です...