ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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落ち着ける場所

ようこそ試写会へ ★

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 まだ来ない……。

 智也さんも出演しているのに。

 
「丸山さん、そろそろ中に入ってちょうだい。始まるわよ」


「はい、倉田チーフ」


 柚花は、中に入る前にもう一度 振り返って見てみる。


 すると、人が歩いて来たのだ!


「あっ!」と声が出たところで、飲み込んだ。


 何だ、あなたか。


「うん?丸ちゃん、もしかして 待っていてくれた?お待たせー!」


 いえ、別に待っていませんでしたけど。


「野口さん、もうすぐ始まりますから、中へどうぞ」


 柚花は、野口を中へと促した。


 はぁ、ああ、もう時間だ。
 

 来ないのか……。

…………………

  上映開始。

 軽米のナレーションがCMの幕開けだ。

 この声が全てのシーンを網羅する。


  軽米さん、なかなか上手だわ。
 私がしなくて、良かったかもね。


 スクリーンでは、カレンダホテル噴水広場で恋人を待つ人たちが映されている。


「あ、俺、いた。あそこに映っているぞ」

「本当だ。私は後ろ姿だぁ。残念」

 エキストラで出演した人は、自分を見つけ盛り上がっている。


 映像は、流れてゆく。


 外崎、野村以外の婚礼スタッフ達は、それぞれ変装して出演していた。

 ここでの主役の外崎が野村にプロポーズ。

 プロポーズ成功という事で、ブライダルサロンでの場面になる。


 外崎と野村からの相談にのる緑川の姿。
ここでの緑川は、キリッとカッコ良く決めていた。


 そして、場面はチャペルへ。
 
 倉田チーフと柚花のベールダウンシーンから支配人とバージンロードを歩くシーンへと移っていく。

 
 チャペルで柚花を待つ智也。
 

 チャペル内にいるゲストが映し出されている。


 わっ、たっ君!横顔が映ってる!凄い真剣な顔してるわ!


 前沢さんも横顔がバッチリ映ってる!
やっぱりイケメンですよね。


 スクリーンは、父親が娘を新郎に託す場面となっている。


 娘を頼んだぞという表情の支配人に応えるように、必ず幸せにすると誓う智也の表情。
 2人を見て、涙する倉田チーフがそれぞれアップで映っていた。


 祭壇にいる変装神父の怪しい緑川が映ってから、智也が花嫁のベールを上げて柚花の横顔でシーンは次へ。


 お客様のご希望に合う結婚式のプランを立てます!ということで、野口シェフと軽米の写真、倉田チーフと支配人の写真がさらっと映し出された。


 なかなかいい感じですね。


 そのあとに、プロポーズが成功した外崎と野村の写真がアップで映し出されてから、カレンダホテル婚礼スタッフ一同が映った。


 ホテル正面玄関に制服を着たスタッフが揃って、「お待ちしておりまーす」と言ってから、映像が変わる。


 最後に出てきたのは、着ぐるみ緑川天使と外崎キューピットだ。

 
 キューピットは、妙に愛らしく会場から「キューピット、可愛い!」と声が上がったから、外崎は満足の顔をしたのだった。


 一方、緑川は ちょっとぶすくれた。


 チャペル前に2人が立ち 最後の場面の手を振るシーンとなる。

 その時に緑川天使が1人でポスターを持ち、2人で手を振り、カレンダホテルの建物が映し出されて終わりとなった。


 CMが終了し、会場に拍手が起こった。


  倉田チーフが挨拶をする。


「はい、短いCMの為にお越し下さいまして、ありがとうございました。

 これより見逃した方の為に数回続けて流します。

 仕事に戻られる方は、ご自由に帰られて構いません。お疲れ様でした」

…………………


 試写会が終わり柚花と軽米は、匠海と和希の元へと行った。

 
「本日は ありがとうございました。

 お疲れ様でした」


 柚花が言うと、匠海が返す。
 

「面白いCMだったね。

 丸山さん、噴水広場のシーンの時、ポニーテールで眼鏡をかけていたでしょう?

 皆さん、変装していたけど、丸山さんは直ぐにわかった!なあ、和希?」


「え?アヤなら直ぐに分かったけど、茶髪のカツラ被っていたでしょう?

 すっごいうけた!」


「そうそう、和希さん、当たり!
 見つけてくれて、ありがとう。

折原さんも当たりです!
丸山さんは、真面目系眼鏡女子でした。
結構、違和感がある気がしましたけど」


 軽米が嬉しそうに言った。


「えー、軽米さんには言われたくないわ。あのウィッグも違和感だったわよ。

まっ、知らない人が見て変装がバレなければいいのよね」

 柚花が言った。


「そうです!じっくり見なければ分からないから、大丈夫!」


「たっ君、ありがとう」

 匠海の言葉に柚花が礼を言ったのだった。

……………………


「軽米さん、前沢さんが帰ってしまったけど、今晩 会うの?」


 椅子を片付けながら、柚花が聞いた。


「はい、もちろん。

 あ、丸山さんは、どうするんですか?」


「この後、お客様との打ち合わせがあるし、多分、真っ直ぐ家に帰ると思う」


「そうですか、残業にならないといいですね。

 丸山さん、今日はねぇ。
 
 夕食を和希さんが作って、待っていてくれるんですよ。ふふふ」

 これまた、軽米は嬉しそうに言った。


「あー、もう、ご馳走さまぁ。
お腹いっぱいだわ!」

 軽米さんが幸せそうで何よりです。

…………………

「ふぅ、結局 打ち合わせが長引いて残業になっちゃった。さっ、帰ろ!」


 柚花がスタッフルームに戻ったら、まだ倉田チーフが残っていた。


「あ、倉田チーフ、まだ帰らなかったんですか?」


「ええ、書類を書いていたら遅くなってしまったの。今、帰るところ。

 子どもは自分でご飯の支度をして、食べるようになったから、焦って帰らなくても大丈夫になったのよ。

 小さな頃は大変と思ったこともあったけれど、あの子がいてくれたから、私は頑張ってこれたのよね。

 近頃は、頼もしくなって私が相談をしたりして……。

 うーん、あっという間に、親離れしてしまうかもしれないわ。

 ……それじゃあ、先に帰るわね。

 丸山さん、お疲れ様でした」


「お疲れ様でした!」

 親離れされると、寂しさもあるのかな?

 今度の休みにでも、また実家に帰ってみるか……。

…………………

 柚花はアパートの駐車場に車を止めて、階段を上がっていたら電話が鳴った。


「はい、丸山です」

 
 電話を切ってから、急いで部屋に入り鏡を見て全身チェックする。

 髪をかし、軽米から貰った口紅をつけた。

 それから、部屋を出て階段を駆け下りる。


「あっ、もう来てる」


 柚花は、車から降りて待つ彼の元へと急いだのだった。


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