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番外編
合同挙式に向かって
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私、丸山 柚花 30歳。
この年齢までに、どうにか結婚をしたいという願望を持っていた。
そして、その願望をギリギリのところで、叶える事が出来て、正直ホッとしていたり……。
そう、私は西崎 柚花になったんだ……。
柚花は、玄関でビジネスバックを抱えて幸せを噛みしめている。
「……ちゃん、柚ちゃん、ボーっとしてどうしたの?会社に行きたいんですけど、そのカバン、カバンを渡してくれないかな?」
現在、ガーデンプロデュース社の内勤になっている智也はビジネススーツ姿だ。
「あっ!ごめんね。はい、どうぞ!行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そう言って智也は、会社へと行った。
私は、智くんを送り出すこの瞬間が好きなんだ。
妻の実感と、自分の時間がやってくるから……。
などと思っている場合じゃないわ!
「あ、茶碗を洗わなくっちゃ!
洗濯物を干さないと!さっと部屋を片付けて!あー、自分の支度もしないと!もう忙しい、忙しい!」
柚花の朝は、いつも慌ただしいのだった。
……………………
ここは、カレンダホテルのブライダルサロン。
それは、柚花がお客様との打ち合わせを終え、通路でお見送りをしたあとの事だ。
「あのぉ、すみません……。丸山さんですよね?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには、二十代半ばの男女の姿があった。
実際は、西崎 柚花だが旧姓の丸山でも全然構わない。
「はい……」
女性の方と どこかで会ったことがある気がするけど……どこだっけ?いつ?
式が終わると頭の中をリセットしてしまうから、フルスピードで思い出し中だ。
「えーと……あ、お客様は もしかして、昨年秋の合同挙式に申し込んで頂いた、谷川様の……」
「はい、娘です!覚えてくださっていて嬉しいです!その節は、ありがとうございました。
今日は、私達の結婚式の事で相談に来たのですが、いきなりでも大丈夫でしょうか」
……………………
谷川ご夫妻の娘さんである杏奈さんとの出会いは、初心婚式の広告がきっかけだ。
訳あって式を挙げられなかった ご夫婦に、格安で合同挙式をしてもらい、尚且つ豪華客船の旅を楽しんでもらおうという企画だった。
その広告を持って杏奈さんが一人でホテルを訪れ、私が説明をしたんだったわ。
花嫁衣装を着たことがない母親に、花嫁姿になってもらいたい、という息子さんと娘さんからのご依頼を受けて感動したのを覚えている。
それから、私と杏奈さん兄妹で、ご両親を合同挙式に参加してくれるように説得し、なんとか承諾をしてもらったけど、かなり手強かったよな……。
柚花は、杏奈達が帰ったあと、当時を思い出していた。
当時と言っても、昨年の10月のことで1年にも満たないけれど。
谷川様は、ご主人が超照れ屋で50歳過ぎて、そんな恥ずかしい事は出来ないと頑なだったし、そんなご主人の様子に同調して、奥様も拒否をしていたもの。
それでも、何とか衣装合わせまで漕ぎ着けたんだけど、これも大変だった……。
…………………
「奥様、こちらのドレスはいかがでしょう?」
衣装担当者がAラインドレスを持ってきた。
「これを着るの?襟ぐりが開きすぎて、首のシワが目立つでしょ?」
「えー!大丈夫ですよ、そんなに目立ちませんよ。どうぞご試着してみて下さい」
3着目のドレスを持ってきた衣装担当者が必死に言った。
渋々、試着した谷川奥様は「こんなに肌が露出しているのは、恥ずかしいわね。
一番最初に着たドレスをまた着てもいいですか?」と言った。
すると、一緒に来ていた娘の杏奈さんがすかさず言う。
「お母さん、そんなことないよ。とても似合っているってば!お父さん、こっちに来て見てよ。お母さん、素敵だよ」
「見なくても別にいい。さっさっと済ませろ」
杏奈は父親の釣れない返事にカチンときたが、人前なので怒りを飲み込み、母親の望みを叶えることにする。
「母がわがままを言ってすみません。最初のドレスを持ってきていただけますか?」
「かしこまりました。せっかくの日ですから、お気に召すまで、じっくりと選んで下さいませ。では、ドレスをお持ちしますから、ご試着室の方へお戻りになっていて下さい」
奥様が試着室に入った途端、ご主人が近くに来て、コソッと言う。
「おい、まだなのか?早く決めろ!ここにいるのも場違いみたいで、恥ずかしいじゃないか!何を着たって同じだろう?」
それを聞いた奥様は、萎縮し合同挙式の参加を辞めると言い出すし、ふり出しに戻ってしまって、さあ、大変!
「ちょっとお父さん、あっちに行こう!」
杏奈さんの怒りが頂点に達したようで、凄みのある声で父親を連れ出したのだ。
杏奈さんが何を父親に言ったかは知らないが、戻って来たご主人は別人のように優しく変身していたのだった。
「……あのな、香澄、せっかく拓人と杏奈が式を挙げてくれるから、気に入ったドレスを着ろよ。ゆっくり選べ」
後で衣装担当者から聞いた話だが、その言葉を聞いた奥様は、感激して涙を流していたそうだ。
その後に試着室から出てきた奥様は、恥ずかしそうにしながらも、表情は和らぎ素直に嬉しそうにしていた。
「本当はね、ずっとずっと着てみたいと思っていたんだよ……。今更、あり得ないって、この歳で無理って、花嫁衣装なんて夢のまた夢って、思ってた……ありがとう……」
そう言って、奥様は涙したのだった。
私ももらい泣きをしてしまったが、その場にいる皆んなが涙していた。
花嫁衣装を着なくていい!って言っていても、心のどこかに憧れがある人は多いはずだもの。
奥様だって我慢をして、とうに諦めていたのだろう。
そんな事を思ったら泣けてきてしまったのだった。
「もう、お母さん、今日は本番と違うでしょ!泣くには早いって!そのドレス、似合うよ。それに決めたら?」
「うん、そうする。杏奈、ありがとう」
そんなお客様の姿を見て、素敵な合同挙式にしなければと身を引き締めた私だったのだ。
そういえば、あの時、杏奈さんはお父さんに何と言ったのかしら?
気になるな……。
打ち合わせの時に聞いてみようかな。
などと、ふと考えた柚花なのだった。
この年齢までに、どうにか結婚をしたいという願望を持っていた。
そして、その願望をギリギリのところで、叶える事が出来て、正直ホッとしていたり……。
そう、私は西崎 柚花になったんだ……。
柚花は、玄関でビジネスバックを抱えて幸せを噛みしめている。
「……ちゃん、柚ちゃん、ボーっとしてどうしたの?会社に行きたいんですけど、そのカバン、カバンを渡してくれないかな?」
現在、ガーデンプロデュース社の内勤になっている智也はビジネススーツ姿だ。
「あっ!ごめんね。はい、どうぞ!行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そう言って智也は、会社へと行った。
私は、智くんを送り出すこの瞬間が好きなんだ。
妻の実感と、自分の時間がやってくるから……。
などと思っている場合じゃないわ!
「あ、茶碗を洗わなくっちゃ!
洗濯物を干さないと!さっと部屋を片付けて!あー、自分の支度もしないと!もう忙しい、忙しい!」
柚花の朝は、いつも慌ただしいのだった。
……………………
ここは、カレンダホテルのブライダルサロン。
それは、柚花がお客様との打ち合わせを終え、通路でお見送りをしたあとの事だ。
「あのぉ、すみません……。丸山さんですよね?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには、二十代半ばの男女の姿があった。
実際は、西崎 柚花だが旧姓の丸山でも全然構わない。
「はい……」
女性の方と どこかで会ったことがある気がするけど……どこだっけ?いつ?
式が終わると頭の中をリセットしてしまうから、フルスピードで思い出し中だ。
「えーと……あ、お客様は もしかして、昨年秋の合同挙式に申し込んで頂いた、谷川様の……」
「はい、娘です!覚えてくださっていて嬉しいです!その節は、ありがとうございました。
今日は、私達の結婚式の事で相談に来たのですが、いきなりでも大丈夫でしょうか」
……………………
谷川ご夫妻の娘さんである杏奈さんとの出会いは、初心婚式の広告がきっかけだ。
訳あって式を挙げられなかった ご夫婦に、格安で合同挙式をしてもらい、尚且つ豪華客船の旅を楽しんでもらおうという企画だった。
その広告を持って杏奈さんが一人でホテルを訪れ、私が説明をしたんだったわ。
花嫁衣装を着たことがない母親に、花嫁姿になってもらいたい、という息子さんと娘さんからのご依頼を受けて感動したのを覚えている。
それから、私と杏奈さん兄妹で、ご両親を合同挙式に参加してくれるように説得し、なんとか承諾をしてもらったけど、かなり手強かったよな……。
柚花は、杏奈達が帰ったあと、当時を思い出していた。
当時と言っても、昨年の10月のことで1年にも満たないけれど。
谷川様は、ご主人が超照れ屋で50歳過ぎて、そんな恥ずかしい事は出来ないと頑なだったし、そんなご主人の様子に同調して、奥様も拒否をしていたもの。
それでも、何とか衣装合わせまで漕ぎ着けたんだけど、これも大変だった……。
…………………
「奥様、こちらのドレスはいかがでしょう?」
衣装担当者がAラインドレスを持ってきた。
「これを着るの?襟ぐりが開きすぎて、首のシワが目立つでしょ?」
「えー!大丈夫ですよ、そんなに目立ちませんよ。どうぞご試着してみて下さい」
3着目のドレスを持ってきた衣装担当者が必死に言った。
渋々、試着した谷川奥様は「こんなに肌が露出しているのは、恥ずかしいわね。
一番最初に着たドレスをまた着てもいいですか?」と言った。
すると、一緒に来ていた娘の杏奈さんがすかさず言う。
「お母さん、そんなことないよ。とても似合っているってば!お父さん、こっちに来て見てよ。お母さん、素敵だよ」
「見なくても別にいい。さっさっと済ませろ」
杏奈は父親の釣れない返事にカチンときたが、人前なので怒りを飲み込み、母親の望みを叶えることにする。
「母がわがままを言ってすみません。最初のドレスを持ってきていただけますか?」
「かしこまりました。せっかくの日ですから、お気に召すまで、じっくりと選んで下さいませ。では、ドレスをお持ちしますから、ご試着室の方へお戻りになっていて下さい」
奥様が試着室に入った途端、ご主人が近くに来て、コソッと言う。
「おい、まだなのか?早く決めろ!ここにいるのも場違いみたいで、恥ずかしいじゃないか!何を着たって同じだろう?」
それを聞いた奥様は、萎縮し合同挙式の参加を辞めると言い出すし、ふり出しに戻ってしまって、さあ、大変!
「ちょっとお父さん、あっちに行こう!」
杏奈さんの怒りが頂点に達したようで、凄みのある声で父親を連れ出したのだ。
杏奈さんが何を父親に言ったかは知らないが、戻って来たご主人は別人のように優しく変身していたのだった。
「……あのな、香澄、せっかく拓人と杏奈が式を挙げてくれるから、気に入ったドレスを着ろよ。ゆっくり選べ」
後で衣装担当者から聞いた話だが、その言葉を聞いた奥様は、感激して涙を流していたそうだ。
その後に試着室から出てきた奥様は、恥ずかしそうにしながらも、表情は和らぎ素直に嬉しそうにしていた。
「本当はね、ずっとずっと着てみたいと思っていたんだよ……。今更、あり得ないって、この歳で無理って、花嫁衣装なんて夢のまた夢って、思ってた……ありがとう……」
そう言って、奥様は涙したのだった。
私ももらい泣きをしてしまったが、その場にいる皆んなが涙していた。
花嫁衣装を着なくていい!って言っていても、心のどこかに憧れがある人は多いはずだもの。
奥様だって我慢をして、とうに諦めていたのだろう。
そんな事を思ったら泣けてきてしまったのだった。
「もう、お母さん、今日は本番と違うでしょ!泣くには早いって!そのドレス、似合うよ。それに決めたら?」
「うん、そうする。杏奈、ありがとう」
そんなお客様の姿を見て、素敵な合同挙式にしなければと身を引き締めた私だったのだ。
そういえば、あの時、杏奈さんはお父さんに何と言ったのかしら?
気になるな……。
打ち合わせの時に聞いてみようかな。
などと、ふと考えた柚花なのだった。
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