ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編2

心を込めて

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 ブライズルームには、メイクの吉田さんと、ヘアの松本さんが待機していた。


「吉田さん、すみません、泣いてしまいました!」


「やだ、謝らなくたっていいですよ。
ふふふ、感動的でいいお式だったんですね。良かった」


(私は、面白かったです)


と、軽米は心の中で付け足した。


「お2人共、衣装はそのままですが、それぞれ支度部屋へと入って下さい。

西崎さんは、吉田さんに髪をサッとかしてもらったら、ソファでおくつろぎ下さいね。

丸山さんは、ヘアスタイルを少し変えて、ヘッドドレスをつけましょう」


 吉田はベールを外し、柚花の髪をゆるく編んでから、低い位置でシニヨンにし、ヘッドドレスと呼んでいた、小枝のアクセサリーをその上につけた。


 この小枝アクセサリーは、小さなシルバーのフラワーモチーフとパールとラインストーンが散りばめられた、枝状の髪飾りだ。


それを左サイドからバックを経由して、右サイドへと渡して付けたから、横も後ろも華やかになった。


 それから、メイクを念入りにしてもらい、2人と軽米は会場の扉の前に立つ。


「はあぁ、凄く緊張してきちゃった……。智也さん、私、大丈夫かしら?」


「柚花なら、きっと大丈夫だよ。
結婚式慣れしているし、いざとなったら肝が据わるだろう。
せっかくだし、楽しもう」


「うん……」


結婚式慣れ……って、慣れてなんかいませんから!


 でも、そっか、たっ君の花嫁役の方が緊張感半端なかったな……。


「丸山さん、いよいよ始まりますね。
頑張って下さい!」


 会場の扉を開けるために、やって来た野村が声を掛けた。


「えっえ、頑張るわね……」


 柚花は、少々、声が上擦りながら返事をしたのだった。


「はい、スタンバイOKです」


 その時、軽米がスタッフに返事をした。


 そして、野村がゆっくりと扉を開けると、聴き慣れたウェディングマーチが聞こえてきた。


 2人は、深呼吸をする。


智也は、右手に持つ白いグローブをぎゅっと握り、柚花は、智也の曲げた左腕を掴んだ。


「俺たちの披露宴が始まるよ。
柚花、行こう!」


「はい!」

……………………

 私、丸山 柚花 29歳。


幼い頃から憧れていた花嫁さんに、本日なっています!


 私たちが主役となって、スポットライトを浴びている……。


 女性司会者が、私たちのことを紹介してくれているけど、舞い上がる私には、聞こえてこない……。


「何か、ゆ、夢みたい……。嘘みたいだわ」


「嘘じゃないよ!
ほら、こんなに沢山の拍手!」


「うん……感動するね」


「丸山さん、泣くのは、まだですよ!
ダメですから」


「もう軽米さん、心得てますから」


 拍手の中、そんな事を話しながら、高砂たかさご席に向かっていた。

……………………

 私たちの披露宴のこだわりは、来賓の挨拶等を必要最低限に抑え、ゲストに負担をかける余興よきょうを無くした事だ。


今日という日を、ゲストにも楽しんでもらいたいと、心から願っている。


 で、その代わりと言って、倉田チーフから提案された事がある。


「さて、皆様、これより恒例のウェディングケーキ入刀を行いますが……。

聞くところによりますと、少し変わった感じにするとか……。

どういうことでしょう?

あっ!皆様、こちらのスクリーンをご覧下さい!」


 ゲスト達は、映し出された映像を見て、驚きを隠せないでいる。


「何が始まる?」


「えっ?なんで?」


そんな声に顔を上げた2人は、カメラ撮影をされている事に気づき、固まった。


「佐野カメラマン!もう撮影開始していたんですか?えー!」


 ウェディングドレスの上から、白い袖のついたエプロン、いわゆる割烹着かっぽうぎを、こそこそ着ているところを、生中継をされていたからだ。


智也もタキシードの上から、白い割烹着を着ている。


「えー!智也まで割烹着を着てる」


 ゲラゲラと笑いが起こる中、佐野カメラマンは、黙ってVサインをした。


 司会者は言う。


「これから、お2人でお揃いの割烹着を着て、ケーキ入刀をするのでしょうか?

あっ、そう言っている間に、ウェディングケーキが、ワゴンで運ばれてきました!

あら?ふたがされていますね……。

さあ、ゲストの皆様、スクリーンにご注目。前にいらしても構いませんよ」


 ゲスト達は、ワクワクしながら集まって来た。


 わっ、たっ君と前沢さんが来てる。


あわわ、ソフィア汽船社の原口さんもいる!


「倉田チーフ、どうしよう、手が震えてきました!」


 ビニール手袋をする柚花は、ドキドキが止まらない。


「大丈夫よ!貴女には度胸があるから、心配無いわ!どーんといきなさい」


また、倉田チーフの適当ぶしが炸裂しているわ。


でも、いつも乗せられちゃうのよね。


「そうだよ、柚花なら大丈夫。
俺も側にいるからね」


 智也もビニール手袋をして、準備完了だ。


「皆様、どんなケーキか、気になりますね。
では、蓋をオープンして下さい」


 司会者の言葉で、倉田チーフが蓋を取り去った。


「えっ!」「は?」


 会場に驚きの声が響く。


 そこには、大きな四角い薄いスポンジケーキが、ただ1枚あるだけだった。

…………………

 そこで司会者が、会場のどよめきを打ち消すように言う。


「皆様、これより新婦 柚花さんと新郎 智也さんとで、ケーキを完成させるそうです。

どうぞ見守っていて下さいませ。

では柚花さん、お願いします」


 覚悟を決めた柚花は、後から運ばれてきた、ケーキ材料の中から、ホイップをされた生クリームを取った。


 ボールの中の生クリームを、ヘラみたいなスケッパーという道具で、すくうようにして、クリームをスポンジケーキの上にボトッとのせた。


 ええと、のせたクリームを薄く伸ばして、均等に、しかも素早くやること!って言われたよね。


あと、注意点は何だっけ?


何か言われた気がするけど、もういい、次に進もう!


 佐野カメラマンが、私の手元を映すから、余計にあがっちゃうよ。


えーと、次は何だっけ?


そうだ!巻き始めだ!


 震える両手でスポンジケーキの手前側を小さく折ってゆく。


それを見守る智也と、仲間と親族、ゲスト達。


(そうよ、丸山さん、慎重にね。
そう、それから下に敷いてある紙を持って、一緒に向こう側へクルン!ってやって!)


 倉田チーフが成功を祈る。


 ……クルン!びゅっびゅう。


(わっ、丸山さん!出た、クリームがドバッと出たわよっ!)


ケーキを巻いた途端、盛大に両端と巻き目から、のせた生クリームが溢れ出た。


「はっ!しっぱいした……」


匠海と和希も、気づいて、おおっ!という顔をした。


 だが、それ以外のゲスト達は、そんな事を気にも留めず、拍手をして盛り上がる。


「ゆ、柚花、いいよ、いいよ、うまく巻けたよ」


「智也さん……」


「このクリームは、このヘラで、こうして、こうして落として、巻き目は、下にしちゃえば、ほら、綺麗だよ!次、いって!」


 さりげなく柚花をフォローした智也は、いちごを半分にカットする。


 そんな智也の姿を見た匠海は、一瞬、目を伏せた後、安心した様に微笑んだ。


 柚花の方は、まとまった直線模様ができる絞り口金が付いた袋で、生クリームを飾る。


袋の上部から順に絞り、直線をイメージして動かしていく。


 ヨタヨタヨタ……。


あーあ、曲がる曲がる、ふにゃふにゃな線だけど、私はプロじゃないし!


これでいい!


「柚花さん、ロールケーキが完成したようですね。

お次は、智也さんがいちごを飾ります。
どうぞ!」


 司会者に促され、ロールケーキの中央部を空けて、端に沿ってぐるりと貼り付ける様に いちごを置いた。


「はい、智也さんが、可愛く飾ってくれましたね。

次は、いよいよ仕上げです。
柚花さん、お願いします」


 私は、チョコペンを握る。


ありがとう!という文字を心を込めて、書いた。


 ふぅ、震えた字だけど、何とか読めるわ。


「皆様、ウェディングケーキが完成致しました。

柚花さん、智也さん、お疲れ様でございました」


 盛大な拍手を受けた後、2人は割烹着を脱ぐ。


 その間、調理スタッフが高さのあるプレートに、フラワーやブルーベリーを飾り、ロールケーキを移していた。

…………………

 倉田チーフが司会者に、左手で"どうぞ!“の合図をする。


「皆様、お待たせ致しました。
これより、ウェディングケーキ入刀を行います」


 2人は、無事にケーキカットを済ませ、互いに食べさせ合う、ファーストバイトをし、続いて両家両親を呼んだ。


 これから、サンクスバイト及びラストバイトのセレモニーを行うためだ。


 先に、西崎家が楽しそうにセレモニーを済ませ、丸山家の番になった。


「お父さん、大切に育ててくれて、ありがとうございました」


 柚花は、父親の口に、スプーンでケーキを運ぶ。


 これは、サンクスバイトだ。


 そのお返しに、父親もスプーンでケーキをすくって、柚花の口に運んだ。


 これがラストバイトで「親から子への食べ納め、養い納め」の意味がある。


「ケーキ……美味かった。

これで、本当に子育て終了なんだな。

幸せになれ!」


「はい」


 今生の別れではないけれど、私の中に、少しの寂しさがある。


でも、明るく感謝を伝えよう。


「お母さんの美味しいご飯で、大きくなれました。ありがとうございました」


 母親にもケーキを食べさせた。


「うん、柚の作ったケーキ、美味しいよ。
はい、あーんして!

どんな時でも、明るく元気でいれば、道は開けるからね……」


 母は、涙を堪えて、それだけをやっと言った。

 
 両家の親へ感謝を伝えたくて、ロールケーキに、ありがとうって書いたんだ。


美味しいって言ってくれて、嬉しいよ。

…………………
 
 高砂席に戻った柚花は、ホッとし、若干の疲れを感じていた。


「お2人共、お疲れ様でした。
何か飲みますか?」


 座る2人の後ろに身を隠すようにして、軽米が聞いてきた。


「あ、私は乾杯の時のビールを飲むから、大丈夫だよ」


 智也が返事をすると、柚花は烏龍茶が欲しいと言った。


「ふぅ、ロールケーキ作りが終わった!
もう、緊張したわあ。
さっきは、助けてくれてありがとう。

パティシエ見習いの典竹のりたけさんに無理言って、特訓してもらったのに、頭が真っ白になっちゃった」


「ははは、上手く出来ていたと思うよ!
まあ、飲んで……」


 智也は、柚花にも乾杯時のビールを勧めた。


「え?いいの?凄く喉が渇いているから、飲みたいけど……」


(はっ、しまった!柚花にアルコールは、危険だった)


「丸山さん!これはダメです」


 軽米に、持ち上げたコップを奪われ、代わりに烏龍茶を持たされた。


 そんな時、軽米のインカムに連絡が入る。


「えっ?あ……はい」


あれ?表情が曇った。


「軽米さん、どうかした?」


「いえ、何でもありません。
そろそろお色直しのお時間ですよ」
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