ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編 3

余裕がありません!

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 原口さんが、向かおうとしているその先に。


見覚えのある顔が見えた。


嘘でしょ?


私は、立ち上がって確認する。


チラリと見えたその顔は……。


ああああぁ?


声を押し殺したけれど、口は開いたままになった。


えー!こんな事ってある?


まさか、こんな所にいるなんて!


「何で?何でここに?」


 思わず呟いた口を押さえ、座り直して頭を低くする。


はっ、原口さん、そっちに行ったらダメ!


会っちゃうわ!


どうしよう。


別に悪い事をしている訳では無いから、堂々としていればいいけれど、誤解をされて噂になっても嫌だし、何より気まづい……。


ああ、原口さんは、見つかっちゃう?


 私は、恐る恐る顔を上げて、料理のある方を見た。


あれ?原口さんがいない!


原口さんも、あの人に気がついて隠れたのかしら?


頭を低くしながら、目線だけを動かしてみる。


いた!


階段を上がって行くわ。


きっと、気づいて回避したのね。


良かった。


 それにしても、折原さん!


何故、貴方がここにいるの?


しかも船って、嫌な思い出でしかないはずだろうに……。

…………………

 焦る倉田チーフの一方で、こちらでは。


「意外と、料理があるね……」


はっ!


 匠海は、息を飲んだ。


「美味しそう!どれにしようか、迷っちゃいます。
……えっ、どうかしました?」


 連れの女性は、上体をかがめる匠海を不思議に思った。


(あの人、絶対に原口さんだ!

何で?何で?何でこの船にいるんだ?)


「えっ?いや、何でも……。

向こうの方には、何があるのかな?」


 匠海は、近くに来た原口に気づき、内心 焦っていたが、原口が急に方向転換してくれたので、ホッとした。


 だが頭の中は、もう食事どころではなくなっていた。


(わざわざ原口さんの船会社じゃない船を選んだのに!

遠くの港に来ているのに。
何でこうなる?

あれから、ほんの数年で女連れ、しかも他所よその船に乗っているところなんて。

あんなにお世話になった人に、見せられるわけない!

もしも出くわしたら、どんな顔をしたらいい?
ヤバい、これはヤバいぞ!)


「折原さん、ここは、サラダバーですね。

折原さんって、何サラダが好きですか?

ドレッシング派ですか?
それとも、マヨネーズ派かな?

私、貴方について知らない事が多くて……。
やだ、私、何言っているんだろう。
あははは」


「……何でもいいです」


 匠海の返事に、連れの女性の表情が曇る。


「折原さん、大丈夫ですか?

他県に住んでる私を、わざわざ迎えに来てくれて、こっちに戻って来たから。

とても疲れていますよね?

私のわがままに付き合ってもらって、すみません」


「……」


「……折原さん?

階段の方が気になりますか?」


「あ、ああ吉本さん、すみません。

うん、実はね、結婚式をした時の船会社の人が……。
僕が、とてもお世話になった方がここにいたんです。

驚き過ぎて、動揺していて……」


「えっ、例の船上結婚式の?
この船とは違う会社だと確認をしたのに、その会社の方がここに?

ああ、ごめんなさい。

私がディナークルーズを体験したいと言い出して。

ついでに折原さんの、船トラウマ克服!などと言って誘って本当にごめんなさい。
余計な事を言って、すみませんでした」


「そんな。
余計な事なんて無いから。
僕のことを考えてくれて、嬉しかったです。

……もう船は動いているし、海の上で逃げも出来ないし。

会ったら会ったでいいです。

開き直るしかないですね。
気にせず、食事をしましょう」


(波乱の結婚式から月日は流れているんだし、僕だって幸せが欲しい。

皆んなに迷惑を掛けてしまったけれど、どうか、こんな僕を許してください!)

…………………

 どうやら折原さんは、原口さんに気づかず、自席に戻ったみたい。


ふぅ、良かったわ。


今のうちに、原口さんの所に行ってみよう。


 甲板デッキへと向かう為、素早く階段を上がる。


 私は、外へと一歩出たところで、を止めた。


さっき、カップル達が沢山いた柵の辺りに、原口さんと1人の女性の後ろ姿が見えた。


ここには、2人きりだ。


その人は、誰?


女性は、暗い色のスカートスーツで、客ではない感じに見える。


 そして、少し離れているから、よくは分からないけれど、言い争うような声が微かに聞こえた気がした。


もしかして原口さんが、この船にクレームをつけているの?


いや、いや、まさかね、大らかな人だし、それは無いでしょう。


「とにかく、俺は反対だから!」


 そんな言葉が聞こえたかと思ったら、原口さんが、こちらに向かって歩き始めた。


わっ、ヤバいわ!


私は、身を階段出口に引っ込めて、素早く階段を駆け降りる。 


あわわわ、大変、早く席に戻らないと!


……タッ、タッ、タッ、ダン!


 私は、階段の1番下の段を踏み外した。


右足裏に衝撃を受け、体勢を崩し片膝ついて着地した。


「痛たた……」


「大丈夫ですか?」


 男性から声をかけられ、顔を上げたら、そこに折原さんがいた。


「げっ、折原さんっ!あ、わ、ええ、あ、だ、大丈夫です」


私は、慌てて起き上がり平気を装う。


原口さんには、多分、見られていないみたいでセーフだけど。


何で、何で、何で、今、この人に会っちゃうかなー!


「く、倉田さんっ?
わっ、どうしてここに?」


 匠海も驚きを隠せないでいる。


「あれ?もしかして折原さん?

こんばんは、お久しぶりです。
こんな所で会うなんて、すっごい偶然ですね」


「あー、原口さん。
ご無沙汰しております……」


(やっぱり会ってしまった。
しかも、倉田さんまでいる……。
どうして2人?
まさか、デート?えっ?デートぉ?)


「あー!折原さん、変な誤解をしていますね?
私達は、仕事で来ているんですよ。
大きい声では言えませんが、偵察です。
これは、内緒でお願いします!」


「ああ、偵察ですか。ああ、なるほど」


「ところで、折原さんはデートですか?」


 原口が匠海の後ろにいた女性を見て聞いた。


すると、女性は拓海の隣に来て、ぺこりと会釈をした。


「デート?あ、はい……そうです。

皆さんを散々振り回したのに、恋愛なんて、申し訳ないのですが……。  

僕としては、彼女を大切にしたいと思っています」


 女性は、口に手を当て目を潤ませた。


「それじゃあ、僕達は、テーブルに行きますね」


そう言って、2人は去って行った。


 残された私は、非常に気まづい。


上にいた女性と原口さんとの関係も気になるけど、足首が痛い。


ちゃんとに歩けるか不安だ。


「折原さんがいるなんて、本当に驚きましたね。
さて、私達もどんどん食べましょう」


「あ、はいっ!」


 原口さんは、料理を取りに行こうと足早に歩き出した。


上から降りて来た原口さんとしては、どこに行っていたのかを、詮索されたくなかったのだろう。


 歩こうとした私の足首に、ズキンとした痛みが走る。


「あ、痛っ!」


「お客様、どうかなさいましたか?」


 上から降りて来た女性に、声を掛けられ、振り向いた私は、驚き過ぎて声も出ない。


「あら?カレンダホテルの倉田さん!」


「と、常夏リゾートの田中さん……」


わあ、また知り合いに会ってしまったわ! 


「まあ倉田さん、ご乗船ありがとうございます。
先日は、カレンダホテルにお邪魔をさせて頂きまして、ありがとうございました。
お陰様で、良い企画になりそうです。

……ところで、何処か痛みますか?」


「お恥ずかしいのですが、ちょっと転びまして、少し足が痛いだけで……。

すぐに治ると思いますから、ご心配無く、すみません大丈夫です」 
 

「そうですか?
では、下船までお楽しみ下さいませ。
失礼いたします」


 彼女が、すんなりと引いてくれてホッとした。


大ごとにされたら、私が甲板デッキにいた原口さんを、のぞき見していた事がバレちゃうかもしれない。


 いや待てよ……。


田中さんは、今、上から降りてきたわよね?


「倉田さん、どうしたんですか?」


 いつまでも動かない私を心配して、原口さんがやって来た。


「ああ、すみません、ちょっと落とし物をして拾っていました。

私、一旦、席に戻って残りを食べていますね。原口さんは、どうぞ行って下さい」


 幸い、歩く事ができて自席に普通に戻れた。


 それにしても、あの田中さんと原口さんの関係って?


温厚な原口さんが、怒ることができる相手って……。


兄妹とか?奥さんとか?


あ、離婚している。


そっか、元奥さんね!


きっとそうだわ。


あー、すっごい美形。綺麗な人……。


 私、凄い勘違いをしていたみたい。


あんな綺麗な人を相手にしていた原口さんが、私を相手にするわけがないじゃない。 


万が一に備え、明日も休みを取っていた私は、とても滑稽こっけいだ。


独り身でいると、さり気ない優しさに弱くて困るわ。


でも、想われているかも?なんて勘違いも、刺激になって若々しくいられる!と思う。


 原口さんがテーブルに戻ってきても、あれは誰?なんて聞かないつもり。


だって、今、一緒に過ごしているのは私だから。


このひと時は仕事だけれど、この際、楽しまないと、時間が勿体ない。


 この先だって、何が起こるか分からないから、勘違いと深入りには注意しよう。


できれば、老いるまで疑似恋体験をしていたいしね。


「デザートを取ってきましたよ、ほら。
倉田さんも一緒に食べましょう!」


「はい、ありがとうございます。
あの、原口さん……」


「はい?」


「あっ、何でもありません。

わあ、小さいケーキですね。
これベリーソースかしら?
どうせなら、イチゴをのせてくれたらいいのに」


 危ない、思わず聞いちゃいそうになった。


常夏リゾートの田中さんとは、どんな関係ですか?って。


こんな踏み込んだ質問は、してはいけない。


今、自分を律したばかりなのに。


さあ、楽しく過ごしましょう!
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