ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編 3

Happy

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 カラン カラン。


ドアを押して入るとベルが鳴った。


「えっ!ここって本当に定食屋さんなんですか?カフェみたい」


「そうよ、さあ入って。

こんにちは、パパさん、ママさん!
随分と、ご無沙汰しちゃってすみません」


「あらぁ、柚ちゃん!
いらっしゃい、ホント久しぶりね。
さっ、奥の席へどうぞ」


 出迎えてくれたのは、店主の妻であるママさんだ。


ゆったりとした心地良い曲が流れる店内は、やはり喫茶店を思わせる。 


だが、ランチ真っ只中のこの匂いは、定食屋そのものだ。


「はい、レバニラ定食上がったよ!

おっ、柚ちゃん。
いらっしゃい、よく来てくれたね」


調理場のあるカウンター内から、店主のパパさんも声をかけてくれて、柚花は嬉しくなった。


「結婚したら、慌ただしい毎日になっちゃって。
もうね、パパさんの作るご飯が、すごーく恋しかったです」


「おっ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
今日は、美人のお連れさんと、いっぱい食べていってよ」


 柚花の後ろにいる軽米は、謙遜けんそんをしながら頷いた。
 

これは、食べる気満々なのだろう。 


「遅くなったけど、入籍お祝いをしましょう。

軽米さん、入籍おめでとう。
あっ、職場じゃないから前沢さんて呼ばないといけない?」


「ありがとうございます。
えっ、いいです、軽米で構いません。
うーん、その方がしっくりくるというか……」

   
「そうでしょう。
私も苗字が変わったばかりの時は、違和感しかなくて。
実は、旧姓が好きだったのか!って気づいたりしたわ」


 その通り、今、まさにそうだ!と言うように、軽米は大きく頷いた。


「さっ、軽米さん、今日は私のおごりだからね。好きな物を頼んで!」


「え、いいんですか?では、遠慮はしませんよ?」
 

 軽米さん、目を輝かせちゃって。


食べる事がホントに好きなのね。


そっか、まだ節約生活をしているから、普段は豪快に食べられないのかも。


いいよ、いいよ、ここは安くてボリューム満点だし、沢山食べて下さい。


もっと早く、この場所を教えてあげれば良かったかな。


「柚花さん、この生姜焼き定食凄いボリュームですねっ!
キャベツの量も半端無いですよ。  
我が家の3日分はあります。

小鉢の煮物も美味しそうだし、ワカメとお揚げのお味噌汁もいいですね。

それにしても、柚花さんのチキンカツ、めちゃめちゃ大きくて、びっくり!
……食べきれます?」


 そんな事を言った軽米さんは、私のお裾分けのカツと、たっぷりクリームのパンケーキまで完食し、サービスのアイスコーヒーを飲み干していた。


これは、さすがに食べ過ぎたのではないかと心配になる。


でも、彼女は全然太らない。


世の中、ホント不公平だ。

……………
 
 そして、翌日の朝。


柚花が仕事着に着替えていると、軽米もやって来た。


因みに、最近の軽米は、職場とプライベートで、柚花の呼び方を分けているらしい。


「西崎さん、昨日はご馳走様でした。
とっても美味しかったです。

あの後もずっとお腹がいっぱいで、夕飯は少しだけにしたんですけど。
ああ、まだ胃がムカムカします……」


「大丈夫?お腹がいっぱいなら、夕飯は抜けばよかったのに」


軽米は、溜息をつき胸をさすっている。


「おはようございます」


そんなところへ、倉田チーフも着替えに入って来た。


「軽米さん、どうしたの気持ちが悪い?」


「昨日、食べ過ぎてしまって……。
少し胃もたれをしているみたいです。
ちょっと胃薬をもらってきます」


「あ、軽米さん待って!」


倉田チーフが呼び止めた。


「軽米さん、西崎さんもだけど、妊娠の可能性がある人は、薬を飲む時は気をつけなさい。

特に、痛み止め、解熱剤とかは注意をするのよ。
勝手な考えで、飲み続けたりはダメよ。
まあ、市販の胃薬くらいは、大丈夫かもしれないけど、気をつけるのよ」


「えっ、妊娠の可能性がある人?
えー!私がですか?
いいえ、いいえ、まさか。
私、食べ過ぎただけですから」


「あ、それもそうね。
婚礼式を前に、それは無いわね。
あらあら、ごめんなさい。
おほほほ……」


 だが、軽米は入ろうとした医務室の手前で引き返し、体調不良を理由に早退したのだった。


軽米さん、大丈夫かしら?


明日は、前沢さんと一緒の最終打ち合わせ日なんだけどな。


お祝いがあだになってしまったみたい。


軽米さん、ごめんねー。

……………
 
 そして翌日になり、柚花は、ブライダルサロン前の廊下に出て、軽米達を待っていた。


昨夜、軽米に連絡をしたところ、未だに返事が無く心配をしているのだ。


「西崎さん、まだ軽米さんは来ないの?」


 昨日のことが気になったのか、倉田チーフもブライダルサロンへやって来て、廊下にいた柚花に声をかけた。


「はい、もう来るはずなんですけど。
あっ倉田チーフ、来ました。良かった」


 和希の後を歩く軽米の様子を、真っ先に見た柚花と倉田チーフは、黙って会釈をするだけに留めた。


なぜなら、胸をさすりながら歩いて来る軽米には、笑みが無かったからだ。

  
 席についても、笑みは無く顔色が良くないようにも見える。


対照的に和希の方は、ニコニコとしているから、それだけが救いだった。


「軽米さん……まだ具合が悪いの?
私が食事に誘ったりしたから、本当にごめんなさい」


 柚花が謝ると、軽米が突然立ち上がり、和希もあとに続くように立った。


「倉田チーフ、西崎さん!」 
 

 テーブルの近くにいた倉田チーフと、軽米の前に座る柚花は、立ち上がって呼ばれたことに、キョトンとする。


「私、妊娠してしまいました。
今、妊娠初期です。

婚礼式まで、もう日にちが無いのに。

何かとご迷惑をお掛けすることになり、本当に申し訳ございません」


「えっ!」


 柚花は驚き過ぎて、そのあとの言葉がなかなか出てこないでいた。


 倉田チーフは、驚いたものの平静を保ち、祝辞を忘れない。


「前沢さん、おめでとうございます。
軽米さん、おめでたい事なんですから、謝らないで下さい。

あ、前沢さん、失礼とは存じますが、いつも通りに軽米さんと呼ばせて頂きます。すみません」


 倉田チーフにそう言われて、和希は、軽米が前沢姓になったことを、改めて実感し嬉しく思った。


 倉田チーフは、そのまま話す。


「軽米さんは、今、悪阻つわりになっているのですね?

この場合、私どもが御提案致しますのは、軽米さんも承知の通り、安定期を待つ、又は出産後までの延期案です。

日取りを変更なさいますか?」


「倉田チーフ、婚礼式まで、あと10日しかありません。
私はまだお腹も出ていないし、幸い、悪阻も軽い方みたいですから、私達は、そのまま続行を希望しています」

  
「……さようでございますか。

ならば、出来る限りのフォローを致しましょう。

西崎さん、プランの見直しをお願いします」


「あ、はい、かしこまりました」


 返事をして、柚花も立ち上がった。


「お、お2人とも、おめでとうございます。
ちょっと驚き過ぎて、失礼致しました。

じゃあ、では座って、落ち着いて、お話しをしましょう……。
ええと……まず……何だっけ?」


 あれ?何を変更するんだっけ?


やだ頭の中が、真っ白になっているわ。


 あからさまに動揺している柚花を見て、見かねた倉田チーフが隣に座って話し始めた。


「では、いくつかの確認事項をさせて頂きます」


 柚花には、そんな倉田チーフの声も遠く感じられる程、軽米の妊娠に少しだけショックを受けていた。


 口には出していないが、自分は、なかなか妊娠をしない、と日頃から気にしていたのだ。


 軽米さんは、すんなりと子どもができて羨ましい。


いけない!こんな事思ったらダメでしょっ! 


一緒に喜んであげるべきだわ。  


 その間に倉田チーフは、テキパキと話を進めていく。


「安定期前ということですが、挙式と披露宴は、行うということで宜しいですね?
かしこまりました。  

新婦様のご負担をなるべく軽減させましょう。

挙式時のかつらを取りやめ、洋ヘアスタイルに変更。

お選びいただいている御衣装は、かなり重いかと思われますが……。

いかがなさいますか?」


「はい和装は、出来るだけ軽い物でお願いします。  

あのぉ倉田チーフ、私達には普通に接して下さい」


「はい、かしこまりました。

では、続けますね……」


「あっ倉田チーフ、私が……」
  

柚花が話しを遮った。


「そうよ。
担当は、貴女なのよね。
じゃあ、自分の仕事に戻ります。

軽米さん、なるべく無理の無いようにしなさい。
では、前沢さん失礼致します」


 倉田チーフが去り、平常心に戻った柚花もテキパキと決めていく。


「前沢さん、これで打ち合わせは、終了となります。

軽米さんもお式までお休みだし。

どうか、お2人ともお健やかに過ごされて下さい」


 そして、軽米達が帰ろうとブライダルサロンを出た時、柚花が引き留めた。


「あのっ!
軽米さん、本当におめでとう!
生まれてくる日を楽しみにしているわ。

前沢さんも、良かったですね。

それでは、またのお越しをお待ちしております」


 この言葉に軽米は、今日初めて微笑み、そして涙ぐむ。


「柚花さん、柚花さんに、そう言ってもらって本当に嬉しいです。
ありがとうございます」


軽米の目から、大粒の涙が溢れ出てくる。


「やだ、何、どうしたの?」
 

軽米に駆け寄り、肩に手を当てた。


「だって、私が先に……。

それなのに、おめでとう!って、言ってもらえて、嬉しくて。
柚花さん、ありがとうございますぅ」


「ちょっと、何変な事を言っているの?

軽米さんの幸せは、私の幸せでもあるんだからね。

もし、もしも私に子どもが出来なかったら、その子を一緒に育てさせてもらうし。
だから、気にすることは無いわよ。
ねっ?」


「はい」


軽米は、泣きながら頷いた。


「えっ?いや、はい!じゃないだろう。
俺も一緒に育てるから!

もう、柚花さーん、何言ってんの?

でも、まあ、もし。

もしも、そうなったら、智也も入れて、4人で、育てよう!」 


「はいっ、かしこまりました!」


 柚花は、笑いながら返事をしたのだった。
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