ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編 3

特別な日

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「うっ、ぐえっ」


「えっ、ちょっと、軽米さん大丈夫?」


 軽米は、選び直した衣装の試着をしているが、只今、絶賛悪阻つわり中。
 

「すみません、松本さん、すこし、きもちが……うっぷ」


「うーん、困ったわね。
長襦袢ながじゅばんの上にしたを着て、帯を巻いただけなのに……。
これから、白打ち掛けを羽織るんだけど、うーん」


 長襦袢とは、簡単に言うと着物の下着のような物で、掛け下とは打ち掛けの下に着る着物で、帯を締めなければならないのだ。


「倉田チーフ、西崎さん、そもそも悪阻の時には……」
 

 着付けをしている松本が、帯をほどきながら言うから、倉田チーフは困り顔でうなずいた。


「ええ、お式を延期するのが妥当ですよね。
ですが、お客様のご希望ですから……」

 
「松本さん、わがままを言って申し訳ありません。   
それに倉田チーフも、西崎さんも、すみません。

仰りたい事は、重々承知しております。
でも、沢山の方に影響するドタキャンだけは、避けたいです。
私、耐えますから。どうか御協力下さい」


 松本は、軽米の懇願に承諾したが、オーダー表を見て渋い顔つきになる。


「挙式時の白無垢しろむく綿帽子わたぼうし
お色直しは、引き振袖と丈が短めのAラインドレス。

ドレスは、いいとして。

この白打ち掛けは、他よりは軽い物ですけど、それでも身体に負担がかかると思います。

引き振袖は、掛け下が無い分は楽で、妊娠安定期の時なら、体型カバーになるから、歓迎されていますが……。

でもね、妊娠初期ですからね。
少しの締め付けと重み、それに暑さもあるし、辛いと思いますよ」

 
 ヘアメイクと着付けを担当している松本の言葉は正当だが、柚花はひるんでいられない。


「あ、前沢家の花嫁さんは代々、白無垢で綿帽子を被る伝統があるそうなんです。
それで、軽米さんと夏物打ち掛けを選びました。
あと、洋髪にしたら、少しは楽かと思ったのですが」


「伝統、ですか……。耐えられるかしら?
じゃあ、もう一度帯を締めてみますよ。

……どう、大丈夫ですか?」


「は……い、うっぷ」


「それでは、両手を口の高さまで上げ下げをしてみて下さい。
袖が重いでしょう?」


「これくらい、だ、大丈夫です。うっぷ」



(……軽米さん、本当に大丈夫なの?
ああ、もう困ったー!どうしよう!)


 柚花は、途方にくれていた。

……………  

 そして、いよいよ婚礼式当日となった。


白無垢姿の軽米は、黒紋付羽織袴くろもんつきはおりはかま姿の和希と親族と共に、カレンダホテルの神殿にいる。


もちろん柚花も、軽米が立つ近くに控えている。


 厳かに式は始まり、今は祝詞奏上のりとそうじょうだ。


これは、式の進行を行う斎主さいしゅが、神前に向かって、お祝いの言葉を読み上げて、2人の結婚を神様に報告をする儀式なのだ。


だが、柚花の視線の先は花嫁のみである。


 いいわよ、軽米さん。


ここまで、よく耐えている。


次は、三々九度よ。


頑張れ、軽米さん!


「これより、三献さんこんの儀を行います」


これは、いわゆる三々九度と言われているさかずきを交わす儀式だ。


 斎主の言葉で、巫女が小杯を新郎へ渡し御神酒おみきを注ぎ、新郎がこれを飲み新婦へ杯を渡し、また御神酒を注いでもらい飲み、その杯をまた新郎へと渡すと御神酒が注がれて飲む。 


次は、中杯になり新婦から飲み、新郎へと渡し、また新婦へ渡され御神酒が注がれ飲む。


最後は、大杯になり新郎から飲み新婦へ、新婦から新郎へと杯が渡され御神酒を飲むのだ。

 
 悪阻中だし、飲まなくても御神酒の匂いがキツく感じるかも、って倉田チーフが言っていたな。


飲むだけなら私が代わってあげたいけど、そうもいかないしね。


 柚花は、食い入る様に花嫁を見る。


和希から軽米へ小杯が渡され、御神酒が注がれた。


「うっ、うぐ」


軽米は、とても小さくえずきながら、我慢をして杯を1.2.3と口へと運び、飲むフリをした。


柚花は、緊張の面持ちでエチケット袋を隠し持つ。


 軽米さん、我慢よ、何とか我慢してね。


よし、いよいよ大きい杯だわ、あと少し。


さあ、ここを乗り切って……。  


軽米は、口に杯を当てた。


「うっ、おえっ……」


わっ、ヤバい!お願い間に合って!


 柚花は、前に飛び出し、隠していたエチケット袋を、軽米の顎の下に差し出す。


「 ! 」


しかし、軽米は吐かなかった。


 あれ?まずい、私やってしまった?


「フッ、フォン」


 固まる柚花は、お爺さんの咳払いで我に返った。


 うわっ、すみませーん。


柚花は、神聖な空気をぶち壊し、会釈をして真顔のまま、出した袋をサッと引っ込め、身を隠し石となる。


 その後、儀式は淡々と進み、30分ほどの挙式を無事に終え、軽米と和希はブライズルームに入った。


「じゃあ、私は披露宴会場の様子を見て来るわね。
松本さん、吉田さん、よろしくお願いします」


 そう言って柚花が出て行ったあと、軽米は全身の力が抜けたようになり、和希の腕につかまった。


「松本さん、吉田さん、私、頑張りましたよぉ」


「はい、お疲れ様でした。
さあ、こちらへ。

吉田さん、そこお願いします」


 待ち構えていたヘアメイクの2人が、手早く打ち掛けと綿帽子を取り去り、帯を解き、掛け下も脱がした。


「ふぅ、開放感……」


「お疲れ様でした。長襦袢のままで、少し座って休んで下さい。

……軽米さん、本当に引き振袖でいいですか?
松本さんとも話してたんだけど、おはしょりを作って、普通に振袖にした方が歩く時、楽だと思いますが。
転んだら大変だし、そうしませんか?」

 
「えっ?おはしょりを作る?って、何ですか?」


 何を言っているのか、全く分からない和希が聞いた。


「あ、簡単にご説明をしますと」 


そのまま、吉田が話す。


「お着物は長いので、腰の辺りで折り畳んで紐で結ぶのです。
この折り畳んで着付けをすることを、おはしょりを作ると言うのです。
そうすると、成人式で着るようなお着物となって、歩きやすくなります。

でも、新婦様がご希望されているのは、
そう、ドラマに出てくる、身分の高い大奥の人みたいな、着物の裾を引きずって歩くタイプの着付けです」


「あー、なるほど、あれか。
ご説明、ありがとうございました。
そうですね、転んだら危ないし……」


 すると、座っていた軽米は、立ち上がる。


「えっ、それは困ります。
本当は、色打ち掛けの予定だったのを、妥協して引き振袖にしたんです。
なので、大奥みたいに着付けて下さい。 
それに、西崎さんが介添えをしてくれるので大丈夫です」


「アヤ、俺ん家が白無垢と色打ち掛けを着て、って言ったから、大奥にこだわっているんだね。

さっきも悪阻でキツそうだったし、無理をさせてごめん。

もう、いっそ、着物はやめてドレスだけにしたら?
俺から親に言っておくから、気にしなくてもいいよ」


(は?今頃言うの?
もう、遅すぎます!
せめて、衣装の決め直しの時に言いなさいってば!)


 軽米は、そう言いたいのをぐっと堪えた。


「ううん、大丈夫だから。
色々と段取りがあるので、予定通りでいいです。

和希さん、心配してくれてありがとう。
吉田さん、松本さんもありがとうございます。
ヘアと着付けをお願いします」

………………

 その頃柚花は、披露宴会場に準備状況を確認しに来ていた。


「倉田チーフ、順調に進んでいますか」


席札をチェックしていた倉田チーフは、振り返り眉間にしわを寄せた。


「えっ?倉田チーフ何ですか?」


「野村さんから、聞きましたよ。
三献の儀の時……」


「あっ、もう知っているんですか?
大変、失礼しました。
でも、無事に終えられました。ふぅ」


「あらら、開き直っているわね。
こんな事なら、私が介添え人になれば良かったかも。なーんてね。

さあ、これからが大変よ。
両家にとって、良い時間になるように頑張りましょう」


「はい、頑張ります。
では、ブライズルームに戻ります」


 柚花が、会場から出ようとしていると、 外崎とのさきが呼び止めた。


「さっき前沢家から、これを預かりましたけど、軽米家の物は預かっていますか?」


「いいえ、受け取ってないけど?
今からブライズルームに戻るから、軽米さんに聞いてみます。
じゃあ、万事よろしくお願いします」


 さっ、倉田チーフが言うように、これからが大変なんだ。


軽米さんと前沢さんにとって、大切な記念日になれるように、頑張らなくっちゃね!

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