ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編 3

披露宴の始まり

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 ブライズルームのドアを開けようとしていた柚花が、呼び止められた。


振り向くと、留袖を着た軽米の母親が立っていたのだ。


「お嬢様にお会いになられますか?」


「いえ、スタッフの方にお願いがございまして、探しておりました。
いらして下さって丁度良かったです」


「はい、どの様な御用件でしょ…」


「実は、あれを忘れて来てしまいまして」


 食い気味に言ってきた軽米の母親に対して、柚花はキョトンとする。


えっ、あれって?


そういえば、さっき外崎さんが言ってたけど……。


えっ、まさか?


 軽米の母親は、続けて話す。


「今、家政婦さんが、こちらへと届けに向かってくれていますが……。

なに分ここまで遠いので、まだ到着しないのです。

それで申し訳ないのですが、念のため、ご用意をして頂けないでしょうか?」


「えっ、あっ、はい。
かしこまりました」


「ああ、承知して頂けて良かったわ。

先日、娘に渡す約束をしていた時にも、忘れてしまいまして。

本日は、車の中に入れてもらっていたのですが、別の車で来てしまったので……。

ご迷惑をお掛けして、ごめんなさい。

あと、この事は前沢家には内密にお願いします」


 それはごもっともです。


できれば、私の胸だけに収めておきたいくらいだもの。


 柚花は、ブライズルームに背を向け、階段を駆け降りながら連絡をする。


「倉田チーフ、今だけ新郎新婦をよろしくお願いします!」


早口で説明し、柚花が向かったのはバックヤードにある給湯室だ。


 ええと、この引き出しにビニール袋とビニール手袋があったはず。


あった!


あと、シャベルはあそこかぁ。


うーん、取りに行っている暇は無いわ。


 柚花は、チャペルへと続く新郎新婦専用通路へと急いだ。


通路の脇には、今は咲いていないツルバラがある。


 ここので、いいわよね?


周囲に人がいない事を確認し、柚花は地面の表面を、ビニール手袋をして掘り出した。


 意外とふかふかな地面だ。


あれ、肥料が混じっている?


もう時間が無いから、見なかったことにする。


 ポタッ。


柚花の額から、汗が落ちた。


ここまで、小走りでやって来たせいでもある。


それから、一握りの土をビニール袋に入れ立ち上がった。


 さあ、次の用意をしないとね。

…………………

「と、と、外崎さん、はい、これ……」


 息を切らし、柚花は頼まれた物が入った紙袋を渡した。


「ああ、ですね。
ありがとうございます。

えっ、西崎さん、どうしたんですか?

披露宴は、これからなのに、もう汗だくじゃないですか!」


「あはは、ひと仕事してきたのよ。
事情は、後で。
時間が無いから、プライズルームに戻ります」


 外崎が紙袋の中を確認すると、ビニール袋に入った土と、ラベルが取られたペットボトルが入っていた。


「うん?このペットボトル、随分と冷えているなあ……えっ?」


(あっ、あっ、もしかして。
これ、西崎さんが用意した?
そういう事?マジかあ。
おっと、ゲストの入場時刻だ。
早く準備をしないと!) 


 外崎は、ペットボトルの中身を、ハートマークがついたガラスのピッチャーに移し、土をハートマークがついたガラスの小さなバケツに移した。


(これで準備は整った。
でも、なんだか心が痛むなぁ)

…………………

 披露宴が始まると、軽米はシャキッとクールビューティーの顔つきになった。


意地を通して、引き振袖にしたからだろう。


 軽米さん、とっても綺麗だわ。


前撮りの着物も素敵だったけど、見た目にも涼しげな白地に、濃淡ピンクや紫色の華やかな花柄が可愛いね。


それに、ゆるく編み込んでまとめた髪の後ろに付けた白い大輪の花飾りが、とても似合っている。


 柚花がそんな事を思えるくらい、軽米は祝辞や新郎新婦の紹介も笑顔で乗り切り、いい感じにうたげは進行しているのだった。


 そんな中、インカムから倉田チーフの声が聞こえてきた。


「西崎さん、スタンバイして。
新婦の様子はどうですか?」


「はい、なんとか……」


「わかりました。
あっ、それから……」


 会話の途中で、倉田チーフが呼ばれたらしく、話しは終了した。


 柚花は、軽米と和希の間の後方に、身を隠して話す。


「そろそろ、ケーキカットの代わりの、鯛の塩釜開きのお時間です。

軽米さん、身体は大丈夫?」


「はい……がんばりますぅ、ぐびっ」


柚花のささやき声に、軽米が精一杯返した。


 やっぱり、大丈夫じゃないみたいね。


 それからすぐ、ステージに移動した2人の前に、大きな大きな蓋がされた鯛の塩釜焼きが台ごと運ばれて来た。


すると、司会の女性が甲高い声でアナウンスする。


「さあ、皆様。
これより、夫婦初めての共同作業、鯛の塩釜開きを行います。

どうぞこちらへいらして、写真をお撮り下さい。
また、前にあるモニターでも、ご覧になれます」


 この会場には、巨大なモニターが設置されているのだ。


 ゲスト席付近に立つ緑川も、各テーブルの間を通りながら、ゲストに案内して回る。


 ゲスト達が集まると、大きな蓋が取り去られ会場は歓声に包まれたが、軽米の頬はリスの様に膨らんできた。


 軽米さん、気持ちが悪いのを堪えているのね……。


柚花は、出来る事を考える。


野村が和希に小槌こづちを渡した時、柚花は軽米の帯から扇子を抜き取った。


 そして、和希が小槌を両手で持つようにし、軽米には右手を軽く添えるように持たせ、それから左腕を後ろに引き左手を隠すようにして、開いた扇子を握らせた。


柚花は、扇子と一緒にハンカチも握らせたのだ。


 いざという時は、これで隠してね。


「会場の皆様と息を合わせ、ヨイショ、ヨイショの掛け声と共に、鯛を包んでいる塩の塊を割って頂きます。

さあ、皆様、準備は、宜しいですか?

さあ、参りましょう。
そーれ……」


「ヨイショ、ヨイショ!」


 和希は、セレモニーを早く終わらせようと、渾身の力を込めて叩いた。


「おー、力強いですねえ。
塩がかなり飛んだようですが、さて、割れましたか?
ああ、見えてきましたね。

もう一度、そーれ、ヨイショ、ヨイショ、もひとつヨイショ、ヨイショ!」


 ゲスト席を回る緑川も、掛け声を一緒にして盛り上げた。


「はーい、ご覧下さい。
立派な鯛が出てきましたね。

こちらの鯛は、後ほど鯛茶漬けとして皆様にご賞味頂きます」


 会場が拍手喝采の中、軽米は扇子で口元を隠すようにして、席へと戻って行く。


「おっきな鯛、とっても美味しそうだった。うっぷ」


「そうだね、アヤ……。

えっ、そんな状態でも食べたいの?」


 和希に聞かれた軽米は、何度も頷く。


「吐き気があっても、お腹は空くし。

でもね、目の前に置かれているお料理を食べたら、大変な事になっちゃうでしょ?だから、我慢!」


「それもそうだね。

あー、前菜の鴨とフォアグラが、めっちゃ美味しかったのに、食べられないのは可哀想だな。

落ち着いたら、美味しい物を食べに来よう」


「本当?ディナービュッフェがいい。
約束しましたからねっ!

そうだ、西崎さん、さっきは扇子をありがとうございました。
助かりました……うっぷ」


「どういたしまして、少しキツそうだったから。
顔が隠せればと思って。

さあ、次はようやくお色直しです。
少しだけ休んで下さい」

…………………

 お色直しの衣装に着替えた2人は、プライズルームの鏡で、全身のチェックをしている。


「和希さん、白のタキシードが良く似合っているね。
それに白いタイもいい、ベストも白にして良かった、いい感じ!」


「ありがとう。 

アヤの着物姿も良かったけど、その白いドレスもいい、似合うよ!

なんか、こう、肩がちょっと出て、色っぽいというか、俺が照れちゃうな……」


「えっ、胸、開き過ぎかしら?」


 心配になった軽米が松本を見た。


「そんなことは、ありません。
オフショルダーだし、それくらい普通ですよ。
もう、軽米さんも沢山の花嫁さんを見てきたじゃないですか。
ねえ、大丈夫よね吉田さん?」


「ええ大丈夫です。

フリル付きオフショルダーだから、とても可愛いですよ。
それに、さっきより顔色も良くなったみたい。

身体を締め付ける物を、着用していないから楽でしょ?」


「はい、解き放たれた!って感じです」


 そんな軽米を見て、柚花は少しホッとする。


「楽になったなら、良かったわ。

そのドレスはご存知の通り、一応、スレンダーラインドレスなんだけど、ちょっとマーメイドライン寄りで、大人っぽいのよね」


 軽米は、逆三角形のフォルムをしたブーケを両手で持ち、合わせてチェックする。


「このブーケは、白いコスモスが多めで、ピンクと薄ピンク色のコスモスがちょこちょこ入っていて可愛い。うっぷ」


「軽米さん、各テーブルを回る予定があるけど大丈夫?

この様子だと、二次会は諦めた方がいいわよ」


「二次会ですか、私は参加しません。
和希さんの関係だけでしてもらうことにしました」


「そう、俺関係だけで。
ここのレストランを借りて、チャチャっと、やらせてもらうことにしたんだ。
始まりを早くしたから、智也も早く帰ると思うよ」


「そういえば、そんな事を言っていたかも。前沢さん、了解です」


 宿泊をする所で、二次会ができれば楽だし、身重の軽米さんも安心だね。


「さて軽米さん、ブーケを持って、少し歩いてみましょう。

靴が見えるくらい短いのは前だけだから、気をつけて歩いて下さい。

ゆっくりとぉ、はい、OKです」


 会場の高砂席に着いた2人に、柚花は囁く。


「あの、次はお餅つきだけど、ちょっと変更があって、実はサプライズで……」


「皆様、只今、中継が入りました!
前のモニターをご覧下さい」


柚花の言葉をかき消すように、司会者がアナウンスした。
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