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第2章 その入学、本当に必要ですか?

第22話 このモヤモヤは何?

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「まあ冗談抜きにしてもウェルシェがあんな男に落とされるのは嫌だからね」
「もう! 絶対に無いって言ってますのに!」

 だが、擬態のぽやぽやウェルシェしか知らないキャロルとしては心配でならない。

「ケヴィン先輩はすごく強引だから、優しくおっとりしたウェルシェが押し切られないか心配なのよ」
「だからあり得ませんわ。エーリック様との婚約は我がグロラッハ侯爵家の栄達がかかっております。セギュル家との縁に同等の価値があるとはとても思えません」

 そして、ウェルシェにとって最大にあり得ない理由はこれだ。

 同じ侯爵家でも譜代のグロラッハ家と新興のセギュル家では家格に大きな隔たりがある。現在の勢力図から見ても利と理においてケヴィンに魅力を感じないのである。

 どこまで行ってもウェルシェはやはりウェルシェであった。

「夢見る少女のようなウェルシェが利己的な事を言うとは思わなかったわ」

 キャロルは意外そうに目を大きく見開いた。

「何を仰いますの。私達は貴族令嬢。政略結婚は義務ですし、その結婚には領民達の生活と未来がかかっているのですわ」
「それじゃあウェルシェにとってエーリック殿下との婚約は政略的な意味しかないの?」
「えっ、それは……」

 珍しくウェルシェは言い淀んだ。

 いつもなら「もちろんお慕いしていますわ」と即答していたはずである。だが、エーリックの優しい笑顔が脳裏に浮かんだ瞬間、偽りの言葉を口にするのが躊躇ためらわれたのだ。

「ふーん……そっか」
「な、何ですの?」

 きっぱりと断言できなかったウェルシェは、エーリックへの擬態がキャロルにバレたのかとドキリとした。

「ちょっと安心した。私が思っていたよりもウェルシェにとってエーリック殿下は重い存在だったんだなって」

 だが、キャロルが漏らした感想はウェルシェが思いもしないものだった。

「ウェルシェにとって軽々しく言葉にできない存在なんでしょ?」

(私にとってエーリック様は……)

 ウェルシェはエーリックを政略結婚の相手としか考えていない。今もそれは変わらないはずだった。

 だが、キャロルの指摘に何かモヤモヤした割り切れないものが自分の胸の中で渦巻いた。

 その想いの正体が分からずどのように扱ったらよいのか戸惑うウェルシェであった……
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