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第6章 その第一王子、本当に必要ですか?
第72話 王妃の失敗
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「私の最大の失敗はオーウェンの婚約者選びね」
オルメリアはため息を吐いたが、エレオノーラは不思議そうに小首を傾げた。その仕草には、とても三十路を越えているとは思えぬ愛らしさがある。
「イーリヤさんはとても優秀で良い子だと思いますよ?」
「そうね、彼女は才気煥発で人格にも問題の無い素晴らしい令嬢だわ」
――イーリヤ・ニルゲ
公爵家の血筋と品位、恤民と義心の溢れる人格。
加えて独立した商会を切り盛りする才覚もある。
能力、人格ともに将来の王妃として不足無しとオルメリアも判断したからこそ、オーウェンの婚約者にイーリヤを選んだ。
「だけど、イーリヤは真っ直ぐ過ぎたのよ」
「それはいけない事かしら?」
納得のいかないエレオノーラに首をゆっくりと振るオルメリア。
「本来ならいけなくはないわ。問題なのはオーウェンとの相性よ」
「そうですね。彼女は正直に自分の有り様を示してしまいました」
オルメリアの言いたい事を理解したジャンヌは頷いた。
「ええ、それが自尊心の強いオーウェンには耐えられなかったのね」
だから媚態にしか思えない男爵令嬢の甘言に踊らされてしまった。
「正直は美徳ですが、イーリヤさんはもう少し自分を隠す術を知るべきでした」
「まだ10代半ばの彼女に己の才能を隠すなんてできっこないわ」
ジャンヌの指摘にオルメリアは苦笑いを浮かべた。
「ウェルシェが異常過ぎるのよ」
才気あふれる若者が自らの能力を周囲に誇示するのは当然の事である。本来、韜晦する術は歳と共に覚えるものだ。
「あの若さで人心を掴み才能を使う術に長けていながら、それを周囲に悟らせないなんて……」
感心するオルメリアの横顔にジャンヌは哀愁のようなものを見てとった。
「王妃殿下はウェルシェさんをオーウェン殿下の婚約者にしたかったのですか?」
「えっ!?」
ジャンヌの疑問にエレオノーラがギョッとする。
「ダメよ、ウェルシェさんはエーリックの婚約者です!」
愛する息子がどれだけウェルシェに惚れているか知っているエレオノーラは慌てた。愛する婚約者を奪われればエーリックがどれだけ落胆するか。
「継承権を破棄させてでもエーリックをウェルシェさんのお婿さんにさせますから!」
ウェルシェのお淑やか演技にすっかり骨抜きにされたエーリックは彼女に首ったけ、ゾッコン、メロメロ、べた惚れ状態なのである。
彼にとって王位なんぞはウェルシェに比べればごみ屑同然。
エレオノーラは母として息子の恋を応援してあげたいのだ。
「落ち着きなさいエレン」
「景品ではないのですから婚約者をおいそれと交換などできませんよ」
オルメリアとジャンヌは息子の愛に溢れるエレオノーラに思わず笑みが溢れた。
「ただ、オーウェンの婚約者選びの時にウェルシェを見誤ったのを悔いているの」
「ウェルシェさんも候補だったの?」
オーウェンの婚約者候補としてイーリヤ・ニルゲ以外にウェルシェの名も上がっていた。
今でこそイーリヤの商会で大きな蓄財を築いているが、当時はグロラッハ侯爵家の財力はニルゲ公爵家を凌駕していた。それだけに国内における貴族達への影響力も無視できなかったのだ。
「だから、イーリヤもウェルシェも、どちらも有力な候補だったのよ」
オルメリアはため息を吐いたが、エレオノーラは不思議そうに小首を傾げた。その仕草には、とても三十路を越えているとは思えぬ愛らしさがある。
「イーリヤさんはとても優秀で良い子だと思いますよ?」
「そうね、彼女は才気煥発で人格にも問題の無い素晴らしい令嬢だわ」
――イーリヤ・ニルゲ
公爵家の血筋と品位、恤民と義心の溢れる人格。
加えて独立した商会を切り盛りする才覚もある。
能力、人格ともに将来の王妃として不足無しとオルメリアも判断したからこそ、オーウェンの婚約者にイーリヤを選んだ。
「だけど、イーリヤは真っ直ぐ過ぎたのよ」
「それはいけない事かしら?」
納得のいかないエレオノーラに首をゆっくりと振るオルメリア。
「本来ならいけなくはないわ。問題なのはオーウェンとの相性よ」
「そうですね。彼女は正直に自分の有り様を示してしまいました」
オルメリアの言いたい事を理解したジャンヌは頷いた。
「ええ、それが自尊心の強いオーウェンには耐えられなかったのね」
だから媚態にしか思えない男爵令嬢の甘言に踊らされてしまった。
「正直は美徳ですが、イーリヤさんはもう少し自分を隠す術を知るべきでした」
「まだ10代半ばの彼女に己の才能を隠すなんてできっこないわ」
ジャンヌの指摘にオルメリアは苦笑いを浮かべた。
「ウェルシェが異常過ぎるのよ」
才気あふれる若者が自らの能力を周囲に誇示するのは当然の事である。本来、韜晦する術は歳と共に覚えるものだ。
「あの若さで人心を掴み才能を使う術に長けていながら、それを周囲に悟らせないなんて……」
感心するオルメリアの横顔にジャンヌは哀愁のようなものを見てとった。
「王妃殿下はウェルシェさんをオーウェン殿下の婚約者にしたかったのですか?」
「えっ!?」
ジャンヌの疑問にエレオノーラがギョッとする。
「ダメよ、ウェルシェさんはエーリックの婚約者です!」
愛する息子がどれだけウェルシェに惚れているか知っているエレオノーラは慌てた。愛する婚約者を奪われればエーリックがどれだけ落胆するか。
「継承権を破棄させてでもエーリックをウェルシェさんのお婿さんにさせますから!」
ウェルシェのお淑やか演技にすっかり骨抜きにされたエーリックは彼女に首ったけ、ゾッコン、メロメロ、べた惚れ状態なのである。
彼にとって王位なんぞはウェルシェに比べればごみ屑同然。
エレオノーラは母として息子の恋を応援してあげたいのだ。
「落ち着きなさいエレン」
「景品ではないのですから婚約者をおいそれと交換などできませんよ」
オルメリアとジャンヌは息子の愛に溢れるエレオノーラに思わず笑みが溢れた。
「ただ、オーウェンの婚約者選びの時にウェルシェを見誤ったのを悔いているの」
「ウェルシェさんも候補だったの?」
オーウェンの婚約者候補としてイーリヤ・ニルゲ以外にウェルシェの名も上がっていた。
今でこそイーリヤの商会で大きな蓄財を築いているが、当時はグロラッハ侯爵家の財力はニルゲ公爵家を凌駕していた。それだけに国内における貴族達への影響力も無視できなかったのだ。
「だから、イーリヤもウェルシェも、どちらも有力な候補だったのよ」
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