あなたのお嫁さんになりたいです！～そのザマァ、本当に必要ですか？～

第７章 その裁定、本当に必要ですか？

第８１話 兄弟喧嘩

「僕とウェルシェの関係をよく知りもしないで勝手な事ばかり！」

　強く握り締めて白くなったエーリックの拳がわなわな震えている。いつもおっとりしているエーリックが怒りを露わにした。それほど彼は怒っていたのだ。

「だいたいケヴィン先輩がウェルシェと出会ったのは入学後ではないですか。僕と彼女が婚約したのは、それよりずっと前ですよ！」

　その怒りは口調を取り繕つくろうのも忘れさせるほどだ。

「横恋慕しているのはケヴィン先輩の方です！」

　無理もない。

　エーリックにとってウェルシェが全て。
　彼女との婚約は何にも勝る優先事項だ。

　それは彼にとって王位継承権よりも遥かに重要な案件なのである。

　ゆえに温厚なエーリックも最愛のウェルシェとの婚約に難癖をつけられて怒らないはずがないわけで、彼は絶賛激おこ中なのだ。

「ウェルシェだってケヴィン先輩に付き纏われて迷惑していると言っているんです！」
「黙れ！　このうつけがッ！」
「――ッ！？」

　だが、オーウェンの迫力に圧されて、怒り心頭のエーリックもぐっと息を飲んだ。

　努力家のエーリックであるが、どうにも王族としては威厳に欠けるところがある。ぽやっとした彼は男爵や子爵の息子と紹介された方がしっくりくるくらいなのだ。

　そういった意思薄弱な印象がエーリックにはあるし、実際に彼は温厚なだけに脆弱なところがある。そのせいで貴族子弟に舐められる。

　逆にオーウェンは王族としての王厳オーラだけは王家の血を色濃く受け継いでいた。彼がに対しては誰もが頭を垂れてしまうくらい威厳がある。

「ぼ、僕はただウェルシェとの婚約に茶々を入れているのはケヴィン先輩の方だと……」
「貴様はケヴィンが嘘を言っていると言うのか！」

　オーウェンの威風堂々とした一喝に場にビリッとした空気が漂う。
　もともと気弱なエーリックは完全に彼の威に気圧けおされてしまった。

　エーリックだけではない。場内の者達は委縮して口を閉じて誰も発言をしようとしない。エーリックの背後には威嚇しながらも尻尾を丸める子犬のオーラが漂っていた。

　だが、この場にはオーウェンと同じく王威を纏い、オーウェンよりもずっと経験を積んだ者達がいる。

「黙るのはオーウェン、お前の方だ」

　オーウェンの威圧を簡単に打ち破る声。

「ち、父上！？」

　それは彼らの父、現国王ワイゼンであった……