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第11章 そのお祭り、本当に必要ですか?

第126話 決断力

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「それでも決断しなければならないのは辛いですね」

 上に立つ者の苦悩の一端を考えレーキは唸った。

 国や領地、組織がある以上は誰かがトップに立って進むべき道を示さねばならない。その道は一歩先さえ真っ暗闇で誰も見通す事がかなわない道なき道だ。

 しかも、道を誤まれば下から突き上げがくる。言われた通りに道を進む者は指示した者の責任にすればいいだけ気が楽だなとレーキは思った。

「だから、為政者は安易に前例主義に走ったり、現場への丸投げをしてしまう傾向があるのよ」
「それはきっと麻薬に手を出すのと同じような手段なのですね」
「ふふふ、上手いこと言うわね」

 上が常に責任を持つのは身を切るように辛いものだ。それに対し前例主義や丸投げは責任の所在をうやむやにできる。それらは管理者にとって痛みを伴わない魔法のような手段なのだ。

「麻薬は優れた薬だけど、それだけでは意味がないものね」

 鎮痛剤として強力ではあるが、けっきょくはその場しのぎでしかない。麻薬を摂取して痛みを忘れても病巣を放置すれば待っているのは死だけなのである。

「だから、組織を統べる者には勇気が必要なの」

 ウェルシェの語る為政者の姿はレーキにも理解ができる。

「自分が間違ってるかもしれないと思っても進める勇気。それが決断力よ」

 だが、それならとも思う。

「エーリック殿下に決断力があるとは思えないのですが?」

 レーキにはエーリックが優れたリーダーとは思われない。

「エーリック様はいいのよ」

 あけすけなレーキの物言いに、ウェルシェはちょっとだけ胸がモヤっとした。

「私がちゃんと自分で決断したように仕向けるから」

 他の者には察する事ができなかっただろうがレーキは気がついた。レーキがエーリックを貶した直後のウェルシェの口調に僅かながら苛立いらだちが混じっているのに。

 少し微笑ましいものを感じながらも、これ以上ウェルシェを刺激するのは得策ではないとレーキは判断した。

(それに、エーリックの腹心セルランが俺達に協力を申し出てきたのはエーリック殿下の指示だろう)

 それは、エーリックがウェルシェの思惑から外れたところで決断をしているのではないかとレーキは考えている。

(エーリック殿下は一歩一歩成長なさっておいでなのだ)

 これもウェルシェの導きによるものなのではないかとレーキは見ていた。
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