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第1話 魔王の娘、フリージア・ドゥ・ディアボロ
しおりを挟む私は魔王の娘、フリージア・ドゥ・ディアボロ。
この魔国で誰よりも美しく、もっとも高貴な女。
私は魔王の娘、フリージア・ドゥ・ディアボロ。
薔薇のごとき気高さを持った、この魔国の王女。
それがこの私、フリージア・ドゥ・ディアボロ!
よし!
強く暗示をかけて、むんと気合を入れる。
この重厚な大扉は社交界に繋がっている。
そう、政界に蔓延る魑魅魍魎と、威圧感がハンパない荘厳な会場が私を待っているのだ。
王女である私とエスコートをしてくださる魔王陛下の入場は一番最後。
間も無く順番が回ってくると考えただけで身体が震えそうです。
「よいかフリージア?」
「はい、お父様」
いよいよね。
お父様の隣に立ってその腕に手を添えると、時を同じくして大扉が開いていく。
「魔国第百十代魔王プロテア13世、並びに第一王女フリージア・ドゥ・ディアボロ様のご来場にございます!」
私たちの名が高らかに告げられ、扉を潜ると世界が一変した。
煌びやかなシャンデリアに照らされた会場内はその全てが輝いて見える。
綺麗に飾られた場内にテーブルを埋め尽くす贅沢な料理の数々。
洗練された正装に身を包む男性も、豪奢な宝石やドレスで身を飾った女性も別世界の住人のよう。
ゴクリ……
みなの視線と豪華絢爛な会場の雰囲気に気圧されて、思わず生唾を飲み込む。
隣をちらりと見れば魔王陛下にはまったく動じた気配がありません。
さすがです。
いけない、いけない……
感心している場合ではありません。
魔王の娘はこの程度で動揺したりしないのです。
この夜会の主役はこの私、フリージア・ドゥ・ディアボロよ!
感情を隠す微笑みを顔に貼り付け、私を気遣いゆっくりと足を運ぶ魔王陛下と並んで進む。
「さすがの威容ですな」
「本当に魔王陛下はいつ見ても凛々しいですわ」
「何とも頼もしい我らの王だ」
「ああ、相変わらずなんて素敵なのかしら」
魔王陛下の堂々たる美丈夫っぷりに貴族たちは感嘆し、令嬢たちは熱く潤んだ瞳しを向けている。
確かに三児の父とは思えぬ若々しく美しい姿よね。
「王女殿下もお美しい」
「さすが魔王の娘」
「魔王の娘に相応しき所作」
「お召し物もとっても素晴らしいですわ」
「とても綺麗……」
私向けられる賞賛の声
だけど……
――みんな本当の私を知らない。
誰も彼もが今の私を魔王の娘としか認識していない。
誰もこの私をフリージアという娘として見ていない。
実の父である国王陛下も本当の私を知らないのだと思う。
誰も私を……私の本当の姿を見ていない。
「私は仕事の話がある」
魔王陛下が宰相たちを見つけ、私に耳打ちしてきた。
「私はお邪魔ですわね」
「すまないな」
「問題ありませんわ。私はもう子供ではないのですから」
そう強がると魔王陛下は優しい目を私に向けて笑われた。
「そうだったな。フリージアはもう立派なレディだ」
魔王陛下の娘に向ける慈愛の瞳に私の良心が少し痛む。
「夜会を楽しんでくるといい」
「はい……お父様、それでは行って参ります」
スカートの裾を軽く摘み膝を折ってカーテシーをして魔王陛下から離れた……
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