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第九章
≪Ⅳ≫魔力とは【1】
しおりを挟むこの町に来てから二日が経ちました。
その間の私達は買い物をしたり、ユースピアの町を見て回ったりしていたのです。常時視界に騎士の姿が入るものの、私は基本的にヴォルと一緒なので必要以上にあちらから近付いては来ませんでした。
「空き家が多いですね。特に、裏通りには殆ど人がいません」
ベンダーツさんが呟きます。
私も目にしましたが、大通りこそ様々な商店が軒を連ねていますけど、一本内側に入ると何処のお店でも大きな木戸で入り口が塞がれていました。それらを見るととても寂しいものを感じます。
この町の大きさからいって、物凄い人が住んでいたのは想像出来ました。でも今は、町を装う最低限の住人しかいないように見えます。
「まだ人員が揃わないのだろ。だからこその入出港の規制か」
「その様ですね。ヨルグト騎士団長様の話では、元通りに揃えられるまであと二月程は掛かるようでしたし」
ベンダーツさんがいつの間に調べてきたのか、ヴォルの推測を裏打ちするかのような報告をしました。
あの騎士団の方々のお屋敷に出向いた午後、ヨルグト騎士団長さん直々に私達が滞在している宿まで来てくれたのです。そして前日の謝罪と、簡単な私達の訪問目的などを聞いて帰っていったのでした。
けれども宿内に入ってきたのは団長さんだけで、他の騎士の方々は入り口前に並んでいただけです。ヴォルに不快と思われないようにとの配慮かもと推測されました。
「しかしながら、まさか例の物を見せていただけるとは思いませんでしたが」
「知っていると促したからな。失態続きで拒否も出来なかったのだろ」
ニヤリと笑みを見せるベンダーツさんに、ヴォルは事も無げに答えます。
「それも見込んで仰られていたのではないですか?」
「さぁな」
ヴォルとベンダーツさんは、楽しそうに話していました。
その内容は楽しいものではなさそうでしたが、実はあの後に魔法石化した人々を見せてもらったのです。──結果としてはケストニアの町と同じでした。
人々は痛みや苦しみといった感情ではなく、普通の顔をしていたのを思い出します。中には笑っていたりしている表情もあって、知らなければとても精巧な彫刻のようでもありました。
「やはり、魔法省の行う魔法石化とは違う力のようですね。人々の表情に苦痛が見当たりませんでした。悪感情を持つ暇などなく、一瞬で魔法石化されたとしか思えません」
それを思い出しながらか、ベンダーツさんが僅かに表情を歪めます。
その人達が苦しまずに逝けたのならと、それだけを安堵するしかありませんでした。
「……魔力とは何なのだろうな」
「そうですね……。本来は人には過ぎた力なのかも知れません。大地から溢れた光。女神の祝福。悪魔の悪戯。古来から様々な呼ばれ方をされてきていますが、実際のところ魔力所持者は生まれつき。人工的に魔力を得る事は出来ません。過去に幾度となく魔法石を人体に埋め込むような人体実験も行われて来たようですが、成功例は一例もなく。魔法石を埋め込まれた人間は魔力に取り込まれて魔法石化するか、正気を失って発狂死するかと言う散々な結果だったようです」
呟いたヴォルに、ベンダーツさんの歴史を紐解いたような知識が伝えられました。
そんな凄まじい内容の話なのですが、何故その様な事をベンダーツさんは知っているのか不思議です。そもそもこの話自体、人影があまりないとは言えども、町中でする内容ではありませんでした。
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