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02元婚約者が許してないのに家に来る
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庭で採れたバラを使ったほんのり甘い香りの化粧水、ラベンダーのやすらぎを与える効果を活かしたクリーム、鮮やかなマリーゴールドの色を抽出した、リップグロスなど。
出来上がった化粧品をまずは自分の親しい友人に試してもらうことに。すると、皆は優しい使い心地と自然な香りをとても気に入ってくれた。好意的な様子に手応えがある。
「イレーヌ様、こんな素敵なものが作れるなんて、本当に才能があるのね!」
と、口々に褒めてくれる。友人たちの言葉に勇気づけられたイレーヌはこれなら、もしかしたら商売になるかもしれないと考え始めドミニク様に相談してみると、彼は目を輝かせて賛成してくれた。
「イレーヌ様の美しい感性と努力があれば、きっと素晴らしい化粧品ができるでしょう。こちらも、できる限りの助けさせていただきます」
ドミニク様の温かい支えを得て、イレーヌは本格的に化粧品ビジネスを始めることを決意。
「ドミニク様。こういうアトリエを作ろうと思いますの」
図面を見せる。わかりやすくて説明もしやすい。彼は笑みを浮かべる。
「いいですね。出資しますよ」
快く言ってくれるが首を振る。自分のやり方でやり遂げたいのだ。
「まぁ。ありがとうございます。けれど大丈夫ですわ」
まずは別邸の一室を研究室兼アトリエ作業場に改装、必要な器具や材料を揃えブランド名を考えることに。
「庭園の花々から生まれた、自然な美しさ」
コンセプトに庭を意味するジャルダン、自身の名前「イレーヌ」を組み合わせたジャルダン・ディレーヌという素敵な名前を思いつく。
パッケージデザインにもこだわり、花柄を基調とした上品で可愛らしいものを選び一つ一つの製品に、心を込めて手書きのメッセージを添えることにした。企画は楽しく、いよいよ最初の製品を販売する日がやってきた。
親しい友人やドミニク様の知人などに声をかけ、小さな展示会を開く。お試しになる会場にはイレーヌ様が丁寧に作った、色とりどりの化粧品が並べられた。
バラの香りの化粧水、ラベンダーのやすらぎを与えるクリームマリーゴールドの鮮やかなリップグロスを前に訪れた人たちは美しい見た目と優しい香りに、すぐに魅了される。目を伏せた。
「まあ、なんて素敵なの!」
「使い心地もとても良いわ!」
友人たちの評判は上々で、用意した製品はあっという間に売り切れてしまうイレーヌの心は、喜びと達成感で満たされた。
「私にも、人を笑顔にできることがあるんだ……!」
商品を次回も買いたいと注文が殺到して、益々富が増えていけば元婚約者がアポイントなしでやってきた。不躾を通り越して気持ち悪い。
平民同士の家じゃないのだから、気軽に来られても迷惑としか思えないのだが?
「はぁ。何用ですか」
「助けてくれ!」
「主語もないのに、わかるわけないじゃないですか。頭が悪くなられましたのね」
「なんだその、口の聞き方はっ」
怒鳴りつける男は己が不法侵入寸前の肩書をぶら下げていることをとんと理解せず、しかも開口一番に突然顔が厚いことを言い出す。なんとなく何を言うのか大体わかるけども。
「すでに縁が切れた関係なのです。口の聞き方も何もありません。あなたは私からしたら他人になったのですよ?おまけに私からしたからあなたは加害者、なのですが?わかってないからここまで来られたのでしょうね」
ため息を吐く。
「だから、その口の聞き方はっ」
バシッ!
扇子を大袈裟に開くとびくりと相手は肩を揺らす。
「王太子殿下。あなたは私にあの時、なんと言いました?愛した人ができたから婚約を無かったことにしてほしいと、確かに聞きましたわ。なにか間違えているかしら?」
イレーヌは一言一句覚えている。
イレーヌ、君には本当に申し訳ないと思っている、だが僕の心はマリシアにあるんだ、どうか僕たちの婚約を解消か破棄してほしい。
「殿下はおっしゃいました。間違いありません。書記の方にも確認しましたもの」
「そっ、それはっ。その……マリシアはわがままで下品で、マナーもめちゃくちゃで。話し方もまだ庶民臭くて。食べる時くちゃくちゃするし魚料理をフォークで崩して、見ただけで吐き気がして」
え?
これいつまで続くのかしら?といわゆる、愚痴を言い出す男に辟易した。
「殿下。耳うるそうございます。おやめになって」
「笑う時口を大きく開けるし。トイレに行った時に洗ってないと聞いた時は耳を疑った。母上に楯突いて空気を悪くするし。母上にあんな女を選ぶなんてとずっと文句を言われ、父上にはお前のせいで王家の金が減ったと怒られるし」
この人、止めてと言ったのにそもそも、聞いていないらしいと呆れてものも言えないわと、額に手をやる。
もしかして、ここへ来たのは王家に身の置き場がないから逃避しに来たとか?
我が家をおひとり様の極上のお城を避暑地にしないでもらいたいし、この家はもう人でいっぱいだからジルベール様が入る余地はないのだ。
「マリシア様がここへ来たと知ったら、私は彼女に恨まれますわ?もうお帰りになって?」
犬を払うように告げる。
「な、そんなことを言わないでくれ。ここにしか居場所がなくて。それに、マリシアは君に敵わないはずだ。マリシアは平民だから貴族の君に手出しはできない」
いや、そういうことを言いたいのではなく単に、女の嫉妬心について話している。そこに爵位はあまり関係ないしそもそも、爵位を気にするのならとっくに王太子と離れたりしている。
「私はそういう意味で言ったのではありません。婚約者ではない貴族子女の家に王家の紋章を付けた馬車に乗って、やってこられては迷惑だと言っているのです」
図々しく婚約者を奪っていったりしない。あの、マリシアという女性が貴族ならば家族達がやめなさいとでもいい、止めていただろう。
「大丈夫だ。私と君の仲ではないか。今更冷たくしないでくれ。確かに婚約者ではなくなったが、幼なじみではないか」
王太子とその婚約者との間に迂闊に入り、婚約を壊したとなればお家断絶の憂き目も視野に入ってくる。ではなぜ、マリシア様の時はお家断絶に至っていないのかというと。
「幼馴染の縁も切ったつもりだから、ご迷惑だと言っているのです。私があなたのことを嫌いだから言っているのです。いい加減に理解してくださいませんか」
王太子がどうやらそのとき、すでに関係を結んでいたとかいないとか、二人は結ばれるために嘘をついて互いに口裏を合わせた可能性もある。
「な、なにを。私はそんなもの認めてないぞ!?」
ことは、王家しかわからない。多分、今でもジルベール様に王家の影が張り付いているだろうし。
「認めるも何も最初に私と殿下の関係を切ったのはそちらではないですか。なんです?好きな人ができたから、婚約をなかったことにしてくれとは。私を馬鹿にしていますよね?王家の王妃教育をなんだと思っているのですか。どれだけの時間を犠牲にして、どれだけの時間を王家のために使ったと思っているのですか」
恐らく、屋敷の外からでも見張っている……と、思う。いるかいないかも、イレーヌには結局知らされることはなかったので憶測になるが。
「なんだ。その言い草は。貴族と言うものは、王家を支えるためにいるのだぞ?今更そんなことを言って、もっと早くに嫌だと言えばよかっただろう?私に八つ当たりをしないでくれないか」
男の言葉に手がぶるりと震える。
「八つ、当たり?」
怒りの震えだった。
「八つ当たりと言うのは何の関係もない、何の関与もない人が言える言葉です。殿下は当事者ではないですか。好きな人ができたからといって私を切り捨てましたわ。いとも簡単に。普通ならばもっと反論して、婚約を継続させようと足掻く利がこちらにありました。抗議しなかったのは、慰謝料を貰うことが決まっていたからです。そうでもなければ、あんなに綺麗に婚約を解消できることはなかったはずです」
切々と冷静になって、あの時のその後の可能性を説明してあげた。
出来上がった化粧品をまずは自分の親しい友人に試してもらうことに。すると、皆は優しい使い心地と自然な香りをとても気に入ってくれた。好意的な様子に手応えがある。
「イレーヌ様、こんな素敵なものが作れるなんて、本当に才能があるのね!」
と、口々に褒めてくれる。友人たちの言葉に勇気づけられたイレーヌはこれなら、もしかしたら商売になるかもしれないと考え始めドミニク様に相談してみると、彼は目を輝かせて賛成してくれた。
「イレーヌ様の美しい感性と努力があれば、きっと素晴らしい化粧品ができるでしょう。こちらも、できる限りの助けさせていただきます」
ドミニク様の温かい支えを得て、イレーヌは本格的に化粧品ビジネスを始めることを決意。
「ドミニク様。こういうアトリエを作ろうと思いますの」
図面を見せる。わかりやすくて説明もしやすい。彼は笑みを浮かべる。
「いいですね。出資しますよ」
快く言ってくれるが首を振る。自分のやり方でやり遂げたいのだ。
「まぁ。ありがとうございます。けれど大丈夫ですわ」
まずは別邸の一室を研究室兼アトリエ作業場に改装、必要な器具や材料を揃えブランド名を考えることに。
「庭園の花々から生まれた、自然な美しさ」
コンセプトに庭を意味するジャルダン、自身の名前「イレーヌ」を組み合わせたジャルダン・ディレーヌという素敵な名前を思いつく。
パッケージデザインにもこだわり、花柄を基調とした上品で可愛らしいものを選び一つ一つの製品に、心を込めて手書きのメッセージを添えることにした。企画は楽しく、いよいよ最初の製品を販売する日がやってきた。
親しい友人やドミニク様の知人などに声をかけ、小さな展示会を開く。お試しになる会場にはイレーヌ様が丁寧に作った、色とりどりの化粧品が並べられた。
バラの香りの化粧水、ラベンダーのやすらぎを与えるクリームマリーゴールドの鮮やかなリップグロスを前に訪れた人たちは美しい見た目と優しい香りに、すぐに魅了される。目を伏せた。
「まあ、なんて素敵なの!」
「使い心地もとても良いわ!」
友人たちの評判は上々で、用意した製品はあっという間に売り切れてしまうイレーヌの心は、喜びと達成感で満たされた。
「私にも、人を笑顔にできることがあるんだ……!」
商品を次回も買いたいと注文が殺到して、益々富が増えていけば元婚約者がアポイントなしでやってきた。不躾を通り越して気持ち悪い。
平民同士の家じゃないのだから、気軽に来られても迷惑としか思えないのだが?
「はぁ。何用ですか」
「助けてくれ!」
「主語もないのに、わかるわけないじゃないですか。頭が悪くなられましたのね」
「なんだその、口の聞き方はっ」
怒鳴りつける男は己が不法侵入寸前の肩書をぶら下げていることをとんと理解せず、しかも開口一番に突然顔が厚いことを言い出す。なんとなく何を言うのか大体わかるけども。
「すでに縁が切れた関係なのです。口の聞き方も何もありません。あなたは私からしたら他人になったのですよ?おまけに私からしたからあなたは加害者、なのですが?わかってないからここまで来られたのでしょうね」
ため息を吐く。
「だから、その口の聞き方はっ」
バシッ!
扇子を大袈裟に開くとびくりと相手は肩を揺らす。
「王太子殿下。あなたは私にあの時、なんと言いました?愛した人ができたから婚約を無かったことにしてほしいと、確かに聞きましたわ。なにか間違えているかしら?」
イレーヌは一言一句覚えている。
イレーヌ、君には本当に申し訳ないと思っている、だが僕の心はマリシアにあるんだ、どうか僕たちの婚約を解消か破棄してほしい。
「殿下はおっしゃいました。間違いありません。書記の方にも確認しましたもの」
「そっ、それはっ。その……マリシアはわがままで下品で、マナーもめちゃくちゃで。話し方もまだ庶民臭くて。食べる時くちゃくちゃするし魚料理をフォークで崩して、見ただけで吐き気がして」
え?
これいつまで続くのかしら?といわゆる、愚痴を言い出す男に辟易した。
「殿下。耳うるそうございます。おやめになって」
「笑う時口を大きく開けるし。トイレに行った時に洗ってないと聞いた時は耳を疑った。母上に楯突いて空気を悪くするし。母上にあんな女を選ぶなんてとずっと文句を言われ、父上にはお前のせいで王家の金が減ったと怒られるし」
この人、止めてと言ったのにそもそも、聞いていないらしいと呆れてものも言えないわと、額に手をやる。
もしかして、ここへ来たのは王家に身の置き場がないから逃避しに来たとか?
我が家をおひとり様の極上のお城を避暑地にしないでもらいたいし、この家はもう人でいっぱいだからジルベール様が入る余地はないのだ。
「マリシア様がここへ来たと知ったら、私は彼女に恨まれますわ?もうお帰りになって?」
犬を払うように告げる。
「な、そんなことを言わないでくれ。ここにしか居場所がなくて。それに、マリシアは君に敵わないはずだ。マリシアは平民だから貴族の君に手出しはできない」
いや、そういうことを言いたいのではなく単に、女の嫉妬心について話している。そこに爵位はあまり関係ないしそもそも、爵位を気にするのならとっくに王太子と離れたりしている。
「私はそういう意味で言ったのではありません。婚約者ではない貴族子女の家に王家の紋章を付けた馬車に乗って、やってこられては迷惑だと言っているのです」
図々しく婚約者を奪っていったりしない。あの、マリシアという女性が貴族ならば家族達がやめなさいとでもいい、止めていただろう。
「大丈夫だ。私と君の仲ではないか。今更冷たくしないでくれ。確かに婚約者ではなくなったが、幼なじみではないか」
王太子とその婚約者との間に迂闊に入り、婚約を壊したとなればお家断絶の憂き目も視野に入ってくる。ではなぜ、マリシア様の時はお家断絶に至っていないのかというと。
「幼馴染の縁も切ったつもりだから、ご迷惑だと言っているのです。私があなたのことを嫌いだから言っているのです。いい加減に理解してくださいませんか」
王太子がどうやらそのとき、すでに関係を結んでいたとかいないとか、二人は結ばれるために嘘をついて互いに口裏を合わせた可能性もある。
「な、なにを。私はそんなもの認めてないぞ!?」
ことは、王家しかわからない。多分、今でもジルベール様に王家の影が張り付いているだろうし。
「認めるも何も最初に私と殿下の関係を切ったのはそちらではないですか。なんです?好きな人ができたから、婚約をなかったことにしてくれとは。私を馬鹿にしていますよね?王家の王妃教育をなんだと思っているのですか。どれだけの時間を犠牲にして、どれだけの時間を王家のために使ったと思っているのですか」
恐らく、屋敷の外からでも見張っている……と、思う。いるかいないかも、イレーヌには結局知らされることはなかったので憶測になるが。
「なんだ。その言い草は。貴族と言うものは、王家を支えるためにいるのだぞ?今更そんなことを言って、もっと早くに嫌だと言えばよかっただろう?私に八つ当たりをしないでくれないか」
男の言葉に手がぶるりと震える。
「八つ、当たり?」
怒りの震えだった。
「八つ当たりと言うのは何の関係もない、何の関与もない人が言える言葉です。殿下は当事者ではないですか。好きな人ができたからといって私を切り捨てましたわ。いとも簡単に。普通ならばもっと反論して、婚約を継続させようと足掻く利がこちらにありました。抗議しなかったのは、慰謝料を貰うことが決まっていたからです。そうでもなければ、あんなに綺麗に婚約を解消できることはなかったはずです」
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