元婚約者が浮気してできた子どもを手に君との子どもだよと淀んだ瞳で迫ってくる。あなたと浮気相手との子どもです私は無関係ですのでお帰りください

リーシャ

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07泥棒?泥棒に言われても響きません

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 お互い照れてまたの機会に、と共に降りる時、いろんな者たちが先触れで集まっていたが一際目立つほどボロボロな女が、ヨタヨタとおぼつかない足でこちらへ来る。

「私の赤子を返しなさいよッ」

 その女はジルベール様にではなく、イレーヌへと殺意にも似た目で進む。きょとんとなる。

「泥棒!ジルを取られたからって、私の赤ん坊をっ。ジルも、あなたのせいで変になったのよ!」

 今の言葉で、胸の中にじわりと湧くなにか。

(ああ。この人がマリシアなのね)

 産後まだ、間もないはず……というか、よく王太子ではない血筋を産んでおいてその発言をまだ言えるとは。流石は王命で結んだ婚約をめちゃくちゃにしただけは、ある。何も言う気になれなくて無視。

「黙れ」

 でも、イレーヌよりも声を上げてくれたのは隣にいた愛しい人。嬉しくて胸に手を当てる。

「よくもそんなことが言えたな。イレーヌ様が穏便に身を引いたから貴様は生きているのだ。それを、命の恩人に向かって。いうことかいて、泥棒?変化の原因?全て貴様がやったことが今になって芽吹いただけだろう」

 今や、王宮の玄関口は野次馬のような高位のものや働く者たちで多い。瞳が自分たちに集中しているのをひしひしと感じた。正念場だ。

「ジルベール王太子殿下は貴様という存在を愛していた。貴様はどうやら違ったようだ。国賊。国家の反逆罪にも匹敵する罪を生まれたばかりの我が子に背負わせた意識もない者が!イレーヌ様を責める資格があるというのか?」

 ハッとなる中で子供はまだすやすや寝ていて、ちゃんと確認をしてないのでまだ王太子のお子という身分が適応されると思い、二人の馬車に乗せている。
 従者や下働きの者たちにはあまりにも重すぎる存在なだけに。でもこの子は生まれた瞬間、許されない身になっていた。王家の隠したい秘密。

 ジルベール様はもしや、それに耐えきれなくてイレーヌの子供として共に育てようと子を殺すことを回避しようと?
 考えている間にもドミニクの正論は続く。なんて強い人なのだろう。胸が熱くなる。

「泥棒だと?貴様はなにを聞いていたのだ?泥棒ならば返すことはしない。返しにきたのは殿下が赤子を見せにきてくださったので、共に婚約者と出産の祝いを伝えにきただけだ。はやとちりにも程がある。それに、隣国にもすでにそのことを伝え、早くも隣国の王家の方が祝いのカードを送ってくださるとのこと」

(ドミニク、様)

 ドミニクの言葉を聞いた瞬間、イレーヌはこの人の優しさに目頭が熱くなった。これでこの子は理不尽に死ななくて済む。
 見なかったらなんとも思わなかったが、わざわざ王太子が実在の赤子を目の前に見せにきた。その赤子が亡くなればいくら無関係とはいえ、あのときの赤子がと、永遠に心の傷になる。

「なんですって!」

「なんだと!?」

 叫ぶのは赤ん坊を隠したがっていた面々だろうから、隣国の王に赤子の存在を知られてはおいそれと処分もできまいと、そんな想いを感じ取る。イレーヌは涙をちょっとだけこぼし、残りは帰ってからだと気合を入れた。ドミニク様はイレーヌを婚約者と言い、庇ってくれたのだ。

 こんな王太子やら赤子やら、なにかと騒動に巻き込まれる女をこんなことがあってなお、背中を見せてくれる。打算でも構わないと思った。やってくれたことだけで恩ができたのだ。

 王宮に赤子と王太子を返還し終わり、少し待って欲しいと両陛下から引き止められたけれど。別に断ることなどできたが、ドミニクは頷いたので付き合うことに。この茶番を終わらせねば。イレーヌらにとってこの一連の騒動は全て王家由来なので、さてさて、どんな言い訳をしてくるのか。

「イレーヌ嬢、ドミニク子息、来てくださって感謝します」

 相変わらず言葉だけは丁寧だ、言葉だけは。なにを言うか、言われるのか。

「それはどうも。では、今後のことですが。王家たる殿下が我が家に来た回数と時間をまとめたので、慰謝料の支払いをお願いします」

 スッと、紙を出す。

「な、ま、待ってくれ」

 王が慌てて止めようとする。減額は受け付けないけど?

「そ、そうよ、イレーヌ」

「イレーヌ?」

 王妃に向かって威圧感のある笑みを向けたのは、なんという上から目線という蔑む瞳を向ける。まだ、イレーヌを呼び捨てにするつもりか?と。

「イレーヌ・ド・ヴァロワですわ。王妃様」

「そ、そうでした。忘れてませんわよ?い、イレーヌ様」

 お互い王家と公爵家とはいえ、家格は同じ系譜、どちらかが逆の立場でもおかしくないし王太子とは、嫌だが従姉妹なのである。何代かは親戚のときもあったとかで。王妃の呼び方を修正させたのはもう義理の母親でもなんでもないから、嫁と姑の関係ではないのに馴れ馴れしくしないでほしい。

 おまけに、この二人の息子に不貞されて婚約解消した未来の妻だった女に、よくそこまで接せられたものだと呆れる。普通、息子の親ならば肩身を狭く感じざるをえないはずなのに全然そんな感じがしない。面が厚い、さすがは親子である。

「王妃様、王様、私達になんのご用ですか?」

「その、今回のこと誠に申し訳なかった」
「今回のこと、ですか」

「ええ。反省してますのよ」

「反省ですか?許すと言わなければ、家に帰してもらえないということですか?」

 聞いてみると、二人はギョッとした顔になる。え?
 なんなのでしょう、普通のことですが。謝ったから許すという次元ではない、特に今回は、いや、前回もだが。呼び出したことさえも許せない。もう国民ではなくなるというのに。

「いや、いや。許せなどと」

「違うわよ」

 違うらしい。嘘っぽいわ。

「では、わかりました。これでいいですか?」

 許すと言わないイレーヌに二人は顔色を悪くする。

「そ、そうだ。そちらの子息と婚約したと聞いたが」

 王が言いかけた時、王妃が言葉を遮り言いたいことだけを告げてくる。

「聞き間違いではないのかしら。ほらジルベールはまだあなたのことが好きなのよ。だから、ほら」

「王妃!」

 王が焦るが、王妃は「あなた、ここで引いたらジルベールが可哀想でしょ」と小声で囁く。聞こえているのですが、忘れたのかと呆れる。イレーヌは王家の教育を受けて、聞き耳もマスターしているのだけれどとことん、こちらを下に見ている。

「両陛下」

 ぴしゃりとした声に二人は囁きあっていた声音を止める。

「なんだ」

「どうしたの、イレーヌ、様」

「私の婚約者をまだ、ご紹介しておりませんでしたね。彼は隣国のドミニク・ラオン・ライナー。ライナー伯爵家三男なのです。縁あって現在。同じ屋敷に暮らしておりますのよ」

「初めまして。自己紹介が遅くなり申し訳ございません。ドミニク・ラオン・ライナーと申します。彼女とは正式に婚約をしております。イレーヌ様のお父上からも、しっかり許可を得ていますのでご心配ありません」

 イレーヌは内心、笑う。

「そ、うか。公爵が」

「それは、おめでとう」

 公爵が許可をしていると言った時の彼らの顔。

「ふふ。ありがとうございます。そちらの王太子殿下とマリシア様も元気なお子が生まれ、さぞ、この王宮も今後華やかになるでしょう。隣国から祖国の栄華を見守っております」

 にっこりと、決別の言葉を送る。

「はは、ありがたい」

「ほほほ、そう、ね?」

 栄華などどこにもない、だって赤子は王太子の子ではないのだから。

「では、私達はこれで」

「あ、あの待って、もう少しだけ」

「やめぬか」

 王が王妃を止めている間に外へ出た。もう二度と呼ばないでほしいものだ。
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