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悪役令嬢と悪役令嬢候補の争い

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オリビア嬢はスパスパという口調で俺の無実と、エリアーナ嬢が虐めの主犯だという事実を告げていく。
それを聞いた筋肉侯爵は侯爵令嬢へと向き直り、先程、俺を弾劾した時と同じ表情で侯爵令嬢を怒鳴る。
雷の様な声を出されては、彼女も怯むしかなかったのだろう。
その後は何も言わずに、スゴスゴと退散していく。それから、筋肉侯爵は俺の方に向かうと、気まずそうに頭をかくと、非礼を詫び、同じ様に退散していく。
同時に、食堂内に始業のベルが鳴り、食堂に居た我々はすぐにその場から去り、教場へと向かう。
授業はいつも通り、みんながみんな、先程の事などすっかりと忘れてしまっていたかの様に、授業に取り組んでいた。
クロエすらもそうだ。彼女はあの嫌がらせなど忘れてしまったかの様に、黒板とノートとを相互に映し、熱心に先生の言う事を書き留めていた。
俺は思わず感心した。彼女の態度に、彼女の健気さに。
だからこそ、今、こうして、放課後にパンを貰ったのだ。学園のシェフから余った細長くてふわふわとしたパンを。
団長との訓練に行く前に、彼女を探していると、遠くからか泣く声が聞こえた。
何処からか聞こえる小さなすすり泣きの声をヒントに、その声の主を探す。
どうやら、中央の道路の脇に広がる学園の庭の端に置かれている木製の長椅子からだったらしい。
俺が声のする方向を見ると、そこにはベンチの上で突っ伏して泣くクロエの姿。
やはり、昼間の出来事はショックだったのだろう。
掛ける言葉も見つからない。あの有名時代劇スターが主演した暗い作風が有名な、今でも人気の捕物帳の目明かしのお兄さんも事件を解決した後の被害者にはこんな気分だったのだろうか。
いいや、俺が生前好きだった時代劇に思いを馳せている場合ではない。
俺は彼女が泣き終わるのを待って、彼女に話かけた。
突然、話かけられたクロエは一瞬、肩を強張らせたが、すぐに涙を自分の指で拭うと、今朝と同じ様な笑顔を浮かべて、
「グレース様ではありませんか?どうして、この様な時間にあなた様が?とっくの昔にお帰りになられたとばかり思っていたのですが……」
「私、いつも野暮用で遅くまで残っておりましてね。それをしようとする前に、あなたの泣く声を聞き付けたんですのよ。あ、そんな事よりもーー」
俺は彼女にパンを渡す。一瞬、目を丸くしたが、彼女はパンを両手で握り、胸に当てると、最初は上品に、次に夢中になって齧り付いていく。
それから、俺に輝かんばかりの眩しい笑顔でお礼を述べた。
あんな顔で言われれば、俺も取ってきた甲斐があったというものだ。
俺はつとめて、優しい笑顔を浮かべ、手を振って彼女の元を去っていく。
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