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二十一夜
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1月末、そういえば去年の今頃護と別れて薫に連絡をしたなあ。もうあれから1年。この一年の間に色んなことがあったなあなんてしみじみ思いながら、少しだけスキルがあがった料理の腕前で得意料理の一つである親子丼を作っていると
「梓…、どうしよう。」
国会が始まったのに今日は随分早いなあなんて感想すらも言えない雰囲気の薫が帰ってきた。
「どうしたの?」
パタパタと薫に駆け寄り、落ち込んだ顔を覗き込むように見ると
「…転勤が決まった。」
話を聞くと国家公務員なので転勤があるらしく、課長として仙台の方に移動することが決定したようだった。私はこっちで働いているため、遠距離になるということでもあった。
「…なんで結婚した途端転勤にしてくんだよ。本当最悪だ。」
親子丼をよそい、薫の前に差し出す。薫はずももももとどす黒いオーラを出しながら、不貞腐れたように親子丼を口に運んでいた。
「…そっか。結婚してるんなら私も会社に掛け合ってみようかな。」
うちの会社は、社内結婚であれば転勤の時に一緒について行くことも出来た。薫とは同じ会社ではないが、そういうことが出来ないのか掛け合ってみることくらいは許して貰えるだろう。
「えっ!?そんなことできるの!?」
「うん。一応ね。ほら、私の会社本社が大阪だから。それで大阪東京間で社内結婚した者同士が一緒に人事異動とかよくあるからさ。だから、聞くだけ聞いてみるよ。」
すると、薫のオーラがわかりやすくパァっと明るくなる。私も落ち込んでいる薫は見たくない。
「でもさ、結婚式の打ち合わせとか大変になるよね。」
私たちは式を6月に挙げることで計画を進めていた。しかも会場は白金台のホテル。次の薫の職場は仙台にあるため、打ち合わせのために何回も東京に行くことは大変だ。
「いや、それがここのイベントプランナー会社全国に展開しているから、今度行った時に仙台の店舗で打ち合わせすることも出来るか聞いてみよう。多分大丈夫なはず。」
だからまずは梓の職場問題だね。と、私の目を見て薫が言う。私は良い結果になるように尽力してきます!と薫に意気込んだ。
次の日、人事の人に旦那が転勤で仙台に行くことになり、着いていきたいのですが仙台営業所の方に事務の空きはありますか?と聞きに行った。
「へぇ。美男子くん仙台に行くんだ。なかなかの出世コース歩んでんのね。」
私が朝早くに来て人事に駆け込んだのを藤村さんは見ていたようで、詳しく聞かれたので応えたらこんなことを言われた。
「でも、それに合わせて私も仙台に行くとかわがままですよね…。とりあえず言うだけ言ってみますけど叶わなければ遠距離をする覚悟です。」
それからズシンと肩を落とすと、藤村さんは私の肩を叩く。
「別にわがままじゃないでしょ。私たちだって会社で働く以外にも一人の人間として人生歩んでんのよ。あんたが旦那について行きたいって気持ち、人事の人だって分かってくれるわよ。」
藤村さんにありがとうございますと抱きついたら、やめろ離れろと言われた。それでも、この人のストレートな優しさがあるから私はこの仕事を楽しく続けることが出来ているのだ。
仕事終わり、帰ろうと支度をしていると人事の人に呼ばれる。
「三森さん。仙台を希望しているという件なのですが、いくつか条件を飲んでもらうことになるのですがよろしいでしょうか。」
私は、そのまま約30分程人事が提示する条件を聞き、旦那と相談してみますとその日は会社を後にした。
「薫。ちょっと相談があるんだけどいい?」
薫は私のその言葉を聞き、深刻な顔をした。
人事から出された条件は、仙台の事務は基本的に現地の人をパート採用しているため、私が教育係として配属するというものだった。しかし、地方手当てというものが東京に比べ地方は安くなり、結婚での移動ということから、住居手当も安くなるため給料は少し減る形になるということだった。
「で、給料が減ることが条件なんだけどそれでもいいかって聞かれて、私の方ではこのまま2人でばらばらに暮らしている方が減った給料よりはコスパが悪いと思ったから、別に構わないんだけど薫の意見も一応聞いておこうと思ってまだ返事は先延ばしにしてる。」
それから私は薫の方をちらっと見る。薫は喜ぶかな?と思っていたのだが、表情を見る限り何も読み取れない。
「薫?」
「ん?ああ。俺の意見は梓と一緒にいたいってところだけど、これを決めるのは俺じゃなくて梓だよ。梓が今の職場から離れたくないって思っても俺は絶対週末に帰るようにする。…ってかっこいいこと言いたいんだけどやっぱり梓と離れるのは寂しい。」
それから私の体をぎゅうっと強く抱きしめる。
「ダメだなあ。俺、自分の都合に梓を振り回してしまって申し訳ないって思ってるのに、梓が俺に合わせて動いてくれることを嬉しいとも思ってる。複雑だなあ。」
私は薫を抱き締め返す。それから
「今まで私が薫を振り回していた分、これから薫が振り回してくれていいんだよ?それに、せっかく条件を飲めば仙台に行っても大丈夫って人事の人が言ってくれてるんだもん。もうその言葉に甘えちゃお?」
薫は私に小さく、ありがとうとお礼を言った。
私たちは、来年から仙台に行く。東京を離れたことがない私たちにとって初めてほかの県で生活するということが始まる。
でも、不思議なことに薫と一緒だと、色々なことが起きても乗り切れるような気がしてくるから不思議だ。
「梓…、どうしよう。」
国会が始まったのに今日は随分早いなあなんて感想すらも言えない雰囲気の薫が帰ってきた。
「どうしたの?」
パタパタと薫に駆け寄り、落ち込んだ顔を覗き込むように見ると
「…転勤が決まった。」
話を聞くと国家公務員なので転勤があるらしく、課長として仙台の方に移動することが決定したようだった。私はこっちで働いているため、遠距離になるということでもあった。
「…なんで結婚した途端転勤にしてくんだよ。本当最悪だ。」
親子丼をよそい、薫の前に差し出す。薫はずももももとどす黒いオーラを出しながら、不貞腐れたように親子丼を口に運んでいた。
「…そっか。結婚してるんなら私も会社に掛け合ってみようかな。」
うちの会社は、社内結婚であれば転勤の時に一緒について行くことも出来た。薫とは同じ会社ではないが、そういうことが出来ないのか掛け合ってみることくらいは許して貰えるだろう。
「えっ!?そんなことできるの!?」
「うん。一応ね。ほら、私の会社本社が大阪だから。それで大阪東京間で社内結婚した者同士が一緒に人事異動とかよくあるからさ。だから、聞くだけ聞いてみるよ。」
すると、薫のオーラがわかりやすくパァっと明るくなる。私も落ち込んでいる薫は見たくない。
「でもさ、結婚式の打ち合わせとか大変になるよね。」
私たちは式を6月に挙げることで計画を進めていた。しかも会場は白金台のホテル。次の薫の職場は仙台にあるため、打ち合わせのために何回も東京に行くことは大変だ。
「いや、それがここのイベントプランナー会社全国に展開しているから、今度行った時に仙台の店舗で打ち合わせすることも出来るか聞いてみよう。多分大丈夫なはず。」
だからまずは梓の職場問題だね。と、私の目を見て薫が言う。私は良い結果になるように尽力してきます!と薫に意気込んだ。
次の日、人事の人に旦那が転勤で仙台に行くことになり、着いていきたいのですが仙台営業所の方に事務の空きはありますか?と聞きに行った。
「へぇ。美男子くん仙台に行くんだ。なかなかの出世コース歩んでんのね。」
私が朝早くに来て人事に駆け込んだのを藤村さんは見ていたようで、詳しく聞かれたので応えたらこんなことを言われた。
「でも、それに合わせて私も仙台に行くとかわがままですよね…。とりあえず言うだけ言ってみますけど叶わなければ遠距離をする覚悟です。」
それからズシンと肩を落とすと、藤村さんは私の肩を叩く。
「別にわがままじゃないでしょ。私たちだって会社で働く以外にも一人の人間として人生歩んでんのよ。あんたが旦那について行きたいって気持ち、人事の人だって分かってくれるわよ。」
藤村さんにありがとうございますと抱きついたら、やめろ離れろと言われた。それでも、この人のストレートな優しさがあるから私はこの仕事を楽しく続けることが出来ているのだ。
仕事終わり、帰ろうと支度をしていると人事の人に呼ばれる。
「三森さん。仙台を希望しているという件なのですが、いくつか条件を飲んでもらうことになるのですがよろしいでしょうか。」
私は、そのまま約30分程人事が提示する条件を聞き、旦那と相談してみますとその日は会社を後にした。
「薫。ちょっと相談があるんだけどいい?」
薫は私のその言葉を聞き、深刻な顔をした。
人事から出された条件は、仙台の事務は基本的に現地の人をパート採用しているため、私が教育係として配属するというものだった。しかし、地方手当てというものが東京に比べ地方は安くなり、結婚での移動ということから、住居手当も安くなるため給料は少し減る形になるということだった。
「で、給料が減ることが条件なんだけどそれでもいいかって聞かれて、私の方ではこのまま2人でばらばらに暮らしている方が減った給料よりはコスパが悪いと思ったから、別に構わないんだけど薫の意見も一応聞いておこうと思ってまだ返事は先延ばしにしてる。」
それから私は薫の方をちらっと見る。薫は喜ぶかな?と思っていたのだが、表情を見る限り何も読み取れない。
「薫?」
「ん?ああ。俺の意見は梓と一緒にいたいってところだけど、これを決めるのは俺じゃなくて梓だよ。梓が今の職場から離れたくないって思っても俺は絶対週末に帰るようにする。…ってかっこいいこと言いたいんだけどやっぱり梓と離れるのは寂しい。」
それから私の体をぎゅうっと強く抱きしめる。
「ダメだなあ。俺、自分の都合に梓を振り回してしまって申し訳ないって思ってるのに、梓が俺に合わせて動いてくれることを嬉しいとも思ってる。複雑だなあ。」
私は薫を抱き締め返す。それから
「今まで私が薫を振り回していた分、これから薫が振り回してくれていいんだよ?それに、せっかく条件を飲めば仙台に行っても大丈夫って人事の人が言ってくれてるんだもん。もうその言葉に甘えちゃお?」
薫は私に小さく、ありがとうとお礼を言った。
私たちは、来年から仙台に行く。東京を離れたことがない私たちにとって初めてほかの県で生活するということが始まる。
でも、不思議なことに薫と一緒だと、色々なことが起きても乗り切れるような気がしてくるから不思議だ。
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